2009/07/02

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」。ひと口でたべられそうなミニサイズの帆立貝の貝柱。ですが、帆立貝は赤や緑で彩られています。

 緑系は3種。香菜、あさつき、漬物で、濃緑から浅い緑へと緑のグラデーションを形成。
 赤は唐辛子の赤ですが、どこか潤んだ真紅の色合い。料理名に「泡椒」なんてありましたから、もしかして四川の唐辛子の漬物の「泡辣椒?」なんて思ったら、その通り。どんぴしゃでした。

 唐辛子を塩漬けにした「泡辣椒」は四川特有の料理方法の「魚香」に欠かせない。最近では海鮮の魚介類との組み合わせが話題なんだそうで。陸の奥地、盆地に囲まれた四川で海鮮の魚介?って思われる向きもあるでしょうが、河南の沿岸地域や香港あたりは言うまでもなく、東南アジアの水揚げ港から航空便で四川に運びこまれてる、なんて話です。

 それにしても袁さんが四川の「泡辣椒」を使うとは思いもよりませんでした。「泡辣椒」のまろやかな辛味、酸味、ひね味に興味をそそられてのことでしょう。さらに、漬物の酸味、醗酵味、ひね味が加味されて、旨味、こくを増幅。すっきり、爽やかでいて、奥行き深い重層的な味わいを醸し出す。

 面白いのは漬物。「雪菜」のような素朴でひなびた感じ、なんだけど「雪菜」独得の「へたれ感」がない。それよりも日本の高菜の漬物のように、爪楊枝を刺してお茶請けに格好なぱりぽりの触感、噛み応えがあって、なんだか爽快。なんて思ってたら「野沢菜」を使ってるってことでした。その辺りの着眼、融通の利かせ方も、袁さんらしい。ってことは、高菜でもOK?

 ところが、それだけじゃないんです。醤油、だし、「泡辣椒」や青菜の漬物の味、風味にプラスして、磯の香のする醗酵味、ひね味がする。「もしかして潮州の「魚露」?」なんて思ったら、なんと、ベトナム産のヌクマムでした。

 清々しくてすっきりなのに、旨味、こくのあるこの「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」。どんな調味料の組み合わせなのか、アテンドの山下さんに尋ねてもらったところ、実はこの種の海鮮の蒸し物に使う赤坂璃宮特別ブレンドの「海鮮醤油」というのがあるそうで。それに「ヌクマム」が加えられてるってのが判明。醗酵味3種「泡辣椒」、「野沢菜」に「ヌクマム」が、旨味、ひね味、こく、味に深み、奥行きをもたらしていたわけであります。

 そして、帆立の貝の右上に覗く緑の長方形の野菜、冬瓜です。
 これからの季節、広東料理、中国料理に欠かせず、主役を果たすことがほとんどの冬瓜が、こんなところで脇役として登場。上湯で蒸し煮にされたに違いない冬瓜は、歯触りを含めて上品な美味。奥床しい美味でした。