そして「例湯」の登場。
今月は「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」。
「涼瓜/苦瓜」がいよいよ登場。
「涼瓜/苦瓜」、最近では日本でも沖縄産のものが(なんでだか)通年、入手が可能になりました。ですが、旬は夏場、これからの時期。沖縄産だけでなく南九州あたりから北のほうへと産地が移動し、登場し始めます。
しかし、日本産の「涼瓜/苦瓜」。風土、季候の差もあってか香港、広東地方のそれとは異なる印象。それは、たとえばクレソン、香菜、バジルなど南方系の香味野菜にも通じることなんですが、特有の苦味、えぐ味、風味が直接的強すぎる感じがするんですが、あれ何でなのか。香港や広東地方の「涼瓜/苦瓜」は確かに苦くて、青くて、えぐ味もありますが、どこか穏やかで、優しい感じ。青臭さも爽快だったりするように思えます。土地柄、風土の違い、なんでしょうか。
ともあれ、広東地方の夏場の料理には各種の瓜が欠かせない。体温を下げる冷の性質を持ってる、というのも頻繁に料理の素材になる理由なのはよく知られています。中でも苦瓜は、冬瓜、糸瓜などとともに、夏の料理に欠かせない。
そんな「涼瓜/苦瓜」。炒め物や鍋煮込みで登場かと思いきや、スープの素材として登場。それも、香港、広東地方では良くあることで、家庭料理の定番的なスープ料理の一品です。
じっくりと長時間に煮こんで素材の味を引き出す「煲湯」の場合には、共に煮込んでだしをとる豚肉の部位、赤身の「痩肉」でも、すね肉の「爭肉」でもなく、骨付きのスペアリブの「排骨」だったりするのが一般的。香港や広東地方では皮付きのばら肉を使います。皮と肉と脂身が五層になるので「五花腩」。それが、日本では皮付きの豚肉の処理が認可されているのは確か3ヶ所だけなので、皮と皮下脂肪をはがした「三枚肉」が一般的。
豚のばら肉、赤身の「痩肉」やすね肉の「爭肉」と違って、脂身がある分、だしの味、脂分の旨味、甘味が加味されて、こくがあって濃厚なものになる。それって「涼瓜/苦瓜」の苦味、えぐ味を相殺するには格好のもの。
ところがこの「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」、それだけではありません。料理名にある通り「梅菜」が使われてます。「梅菜」はからし菜/大芥菜を漬け込んで、日にさらしてから、再度、漬け込んだ「客家」独得の漬物。塩っ辛い、しょっぱいだけじゃなくて、特有の甘味があるのがその特徴。豚ばら肉と煮込んだ「梅菜扣肉」はその代表的な料理。
そんな「梅菜」の甘味、醗酵味、ひね味がスープの旨味、こくを増幅し、味わいを奥行き深いものにする。そこに「大豆」がたっぷり。大豆の甘味、それに干した豆特有のひね味がそこに加味される。
日頃の「赤坂璃宮」銀座店の袁さんの手になる「例湯」。すっきりとしていて、優しく、穏やかで、素朴で自然な味わい、風味が特徴です。が、今回の「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」に限っては、こっくりとした味わい。舌の上にのっかるどっしりの重みがある。ばら肉を素材にしているからなのは言うまでもないでしょう。さらに、苦瓜の苦味と梅菜が醸し出す酸味がもたらす爽快で鮮烈な「涼味」が印象的。しかも、最後には大豆の素朴でひねた味が浮かび上がるという寸法。
こっくり、濃厚気味な味なのに「涼味」がしっかり顔を覗かせるあたり、これぞ「夏」のスープ?
いや夏間近、夏はすぐそこ、梅雨を抜ければ夏が来るってことで、うっとおしくて、ぐだぐだ、へなへな気分になってしまう梅雨の季節やその後に夏を迎えるにあたって英気を養うスープなのだと、納得しました。