2010/04/13

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯。
 今回は「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」。
 土鍋仕立てということもあってかテーブルに運ばれた時の香り、風味の豊かさに驚きました。なんて言うと、鍋肌に垂らした醤油の焼け焦げの風味、あるいはねぎ、生姜、にんにくなどの香味野菜を炒めた香ばしさ、なんて思われるかも。そうじゃないんです。調味料や香味野菜の直接的な「匂い」じゃなく、旨味濃厚なしっかり味、なんてことが伝わってくる馥郁とした香りです。

 青味のニラ以外は、具材のすべて、米粒の大きさに併せて細かく刻まれてます。
 ひと口食べて、がつんとくる旨さに目をみはりました。しっかりの塩味。袁さんの料理にしては珍しいぐらいがつんとくるしっかり、濃厚な味わい。しかも、噛み締めれば塩味を利かせたというだけではない重層的な旨味、風味の構造が浮かび上がってくる。

 具はあさりの微塵切り。さくらえびと思しき柔らかい殻の噛み応えの干しえび。それに漬物の微塵。
 あさりの微塵は、口にしてそれと即座にわかる旨味、磯の香、風味がある。
 さくらえびは日干しの海産物独特の枯れた味、風味。
 そして漬物。なんだか「梅菜」のような甘味がある。ですが、塩味の加減、深み、ひねの深さからすると、違うなあ。
 
 「なんだろ、これ?この漬物!味、風味、覚えありなのに!」と頭の中で疑問符続出。
 過去の記憶を辿る迷宮の回路に紛れ込んで、しばし沈黙。
 「「芽菜」です!四川の「芽菜」!」と、袁さん。
 「そうか!「芽菜」ですか!」と聞いて、思わず納得。

 塩味しっかり。でも、ほのかな甘味がある。ひね味もある。ですが、深漬けのそれじゃなくって、すっきりとした爽快感がある。
 ちなみに「芽菜」、種類色々あります。その素材、「芽菜」という素材名そのまま「もやし」を素材にしたもの。 一般的には青菜の若芽、苗を漬けたもの。そして四川の「芽菜」は、「芥菜」つまりはからし菜の若芽、苗を漬け込んだもの。漬け込む際に塩だけでなく、砂糖などの甘味を加味、というのが独特の味、風味を醸し出す。

 実は「芽菜」、四川の「担々麺」を作る時の必需品。
 日本で担々麺といえば、豚肉のそぼろを具に、ラー油、花椒、芝麻醤をベースに酢や醤油で調味というのが一般的。近頃は「汁なし担々麺」というのも評判のようで。しかも、担々麺の味わい所は「麻辣」、つまりは花山椒の痺れ味、唐辛子の辛味の味付けにあり、という認識をもたれてます。

 現地ではさにあらず。「麻辣」の調味、味付けもさることながら、そこに、塩味、醗酵したひね味、甘味のある「芽菜」を加味して成り立つもの!なんて話、「趙楊」の趙楊さん、「チャイニーズレストラン直城」の山下君、今は亡き「芝蘭」の下風慎二さんから確証を得た事実。

 そんな「芽菜」のひね味、ほのかな甘味がこの「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」の旨味、風味を増す。 それにしても袁さん、広東人なのに四川の「芽菜」に目をつけ、実践、活用なんてところがおもしろい。これまでに四川の郫県の豆板醤も使うなど、好奇心旺盛で何でも試して実践するあたり、実に意欲的。頼もしい存在です。