「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
中国料理のたまご料理も紹介されています。
その1が「しみじみ「台湾式」たまご焼き」ってことで青山の「ふーみん」の斎風端さんの「菜脯蛋」。
「菜脯」は大根を干して塩漬けにし、さらに干したり二度付けしたりして寝かせて作られる漬物です。福建、広東省東部の潮州から広州あたり、その奥の客家系の人々なんかもつくります。中でも有名なのは潮仙のそれ。台湾には福建のものが伝わったんでしょう。
大根の漬物といえば沢庵。ですが沢庵は干した大根を糠と塩で漬けるだけ。糠漬けってことから黄色や褐色に変化。同時に甘味も増していくのがその特徴。もっとも、最近のはお手軽に着色料と化学調味料で味付けなのが一般的。しかも減塩ものが主流ですから、塩味しっかり、ひねた沢庵など今やなかなか入手が難しい貴重品。梅干と同じですね。
「菜脯」、大根丸ごと一本を干すってこともあるようですが、ほどほどの太さ、長さに切り分けたり、切干し大根同様に拍子切りに刻んだりすることもある。台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人が沢庵よりも切り干し大根を使って再現、なんて話を聞くことが多いのは、現地、さらには日本でゲット出来る「菜脯」の形態が似てるからのようです。
もっとも、切り干し大根はひなびた味、風塩漬けじゃありませんから、戻すと甘味が浮き立つ。塩漬けしたものに特徴的な醗酵のひね味、旨味はなし。むしろ塩漬けの沢庵、古干し、ひね味のものが「菜脯」の味をほぼ再現。今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」の「菜脯」の紹介のキャプションにも触れられてます。
要は塩味、塩漬けにして生まれる醗酵のひね味がポイントです。
ですが、今回の記事には「切り干し大根」のことは触れられず、というのはなんでだろ?
台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人の「切り干し大根」の活用頻度からすれば、その辺りのご意見伺いたかった。
切り干し大根じゃダメなのか、それとも「菜脯蛋」に使うにはひと手間の工夫が必要なのか、そんな指導があれば嬉しかったんですけど。
私と「菜脯蛋」の出会いは台湾ではなく香港でのこと。夜食を食べに出かけた潮州料理の店で「粥」のおかずとして登場。そんな「沢庵の玉子焼き/沢庵オムレツ」の話を旧知の料理研究家の山本麗子さんに話したら「あら、それ、私、子供頃、しょっちゅう食べてた。というか、食べさせられてたの!」。
聞けば麗子さんのお父上、台湾に頻繁に通っていたことから山本家でそれを再現。沢庵の玉子焼き、沢庵オムレツ、麗子さんに言わせれば「父ちゃん玉子」は、お弁当のおかずにも頻繁に登場。ですが、その頃の麗子さんにとってはクセのある味、香りになじめずにいたそうです。もっとも、今では懐かしい思い出の料理ってことで麗子さんの著作にも登場。
「ふーみん」はずっとご無沙汰続き。人に誘われたり会合があったり、たまたま近くに用ありなんかで足を運んだのは随分と前の話。その際、台湾の家庭風味の料理や日本でなじみの中国料理を食べました。「もつ」の料理、それに「葱ワンタン」ですか。
今回の「菜脯蛋」のレシピに「作るのには「ラード」で!」、なんてところにおそらくは斎さんの母、あるいは祖母からの伝来の味、生まれ育った故郷の味をそのままに伝えたい、という斎さんの気概が汲み取れて頼もしい。
もっとも、私、「ふーみん」とはここずっと縁がなし。足が遠ざかった理由もあります。というのは、斎さん一家の伝来の味、素朴で心温まるおふくろの味が看板の店。ですが、それだけに限界もある。
「ふーみん」独自の工夫を凝らした料理もありますが、創作料理というよりもおふくろの味、おばさんの料理、家庭料理の延長線上にあるもので、その範疇に止まるだけのもの。ですから料理人としての「技」、「味」、「風味」ってことに関してはなんだか物足りない。
具材たっぷり、野菜も豊富な炒めもの、麺類が評判です。鍋振りの勢い、油の使いようなど手馴れた印象ですが、素材の切り揃え、素材の組み合わせなど、「板」の仕事はざっくばらん。素材の組み合わせはともかく、その分量、按配など、もったいないから余すことなく使います、なんて風でちょいと加減多目。というあたり主婦、おふくろの料理ならではの按配がうかがえます。
けど、一皿、一碗の料理としての分量、なんてことからすると料理によっては具材の分量、バランスに欠けるところがあってはみ出し気味。味付けにメリハリはあっても、おかずってことならともかく、一品の料理ってことなら味わいの深みや風味に乏しい。
今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」が物語るとおり(台湾系)中国人家庭の「お袋」の味を楽しめる店、親しみやすさが魅力。それが人気、評判の秘密、理由のようですが、それ以上の物は求められない。「しみじみ」とした味わいって、滋味豊かとか味わい深いってことじゃなく、ジンと胸にくるおふくろの味、てことですよね。ということなら実に言い得て妙、であります。