2008/12/01

「香港的小菜」~11月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「金銀泡莧菜/ヒユ菜の塩玉子、皮蛋の上湯仕立て」。これは嬉しいメニューです。
 私の好物のひとつです。
















 青菜を使った料理、といえば誰しも思い浮かべる料理方法は「清炒」、じゃないでしょうか。青菜の炒めものです。それに近頃、東京や大阪の広東料理店では大蒜、唐辛子などとともに調味料の「蝦醬」で味付けした「蝦醬時菜」、あるいは「腐乳」を使った「蒜茸腐乳椒絲時菜」などが用意されるようになりました。

 ですが、これまで何度も繰り返し触れてきたように、日本の、東京の広東料理店でのその種の調味料を使った料理、どうも調味料の量が過ぎる感じ。なので、私の場合、調味料の加減、按配を尋ね「出来れば、控え目にね!」と注文します。

 それより私は「炒」じゃなくって、「上湯浸」、そうです、上湯で煮浸しにした青菜が好みです。油っこさ、しつこさから逃れられる、というのがその理由のひとつ。それに、「金銀蛋」、つまりは、塩漬けの家鴨の玉子の「鹹蛋」、それにおなじみ「皮蛋」をくみあわせたものなら、文句なし。

 ところが、うかつに「金銀蛋上湯浸」は頼めない。というのは、野菜、青菜の選択が難しい。青菜は季節に応じて旬の素材が変わっていくわけですが、この料理、調理法だと青菜ならなんでも、というわけにはいかない。どちらかといえばクセのある強い個性、持ち味の青菜がうってつけ。

 もうひとつは「鹹蛋」、それに「皮蛋」の良し悪しというのもポイントです。そういえば、中国本土、香港あたりからの食品規制の問題も関係したことなのか、なんでも「鹹蛋」、「皮蛋」の入荷が難しく、ことに「鹹蛋」は入手困難、という話を耳にします。そんなことから、日本では家鴨の玉子の入手が難しいことから、合鴨の玉子を使って「皮蛋」、「鹹蛋」を作る、なんてこともあるそうで。
 それに、なによりも肝心なのは「だし」の「上湯」の出来不出来、その質が問題ですから。

 さて、テーブルにこの「金銀泡莧菜/ヒユ菜の塩玉子、皮蛋の上湯仕立て」(あれ?大藤さん、中国料理名は「金銀蛋上湯浸莧菜」じゃないですか?)「火腿」の千切りがトッピング、というのが嬉しい。それに馥郁とした香りが食をそそります。思い出すのはあの「ヘイフンテラス」で食べた「金銀蛋上湯浸菠菜」。散々な思いをした「ヘイフンテラス」で、許せる料理のひとつだった記憶が甦る。
 
 目の前にした「金銀泡莧菜」は「ヘイフンテラス」のそれを凌ぎます。しかも、その味、穏やかで優しく、上品で洗練されてます。味付けはしっかり。なのに、すっきりしていて、その味の軽さが印象的。だし、「上湯」の旨さ、料理そのものの風味、香りが素晴らしい。

 肝心のひゆ菜の「莧菜」。最近になって「紅ひゆ菜」としてスーパーに並んでいるのを見かけました。その葉は、ほうれん草を丸くした感じ。それも、葉の周辺は緑ですが、葉の真ん中、茎のあたりは紫色で、茹でると赤紫の色が滲み出る。紫蘇の葉の赤紫ににてなくもない。

 そんなのともう一種、中央が赤紫じゃない青葉のまんまというのもあるようで、今回のはそれを使った様子。ひゆ菜はクセがない、というのが多くの人の感想ですが、やはり、独得のえぐみ、苦味がある。確かにその葉はほうれん草に似てますが、その味、風味はもっと緑の感じです。

 「ねね、このほくほくの玉子の黄身の感じ、とっても美味しい!」と、メンバーのIさん。「なんか、どっかで食べたことがあると思ったら、ほら、チーズの味、チーズのミモレットの味に似てない?」なんてコメントに、思わず「ドキ!」。

 そうです、まさにその通りだ! 思わず「鋭い!」と、そのコメントに感心しきり。
  「鹹蛋」のこくのある濃厚な美味を、そんな風に語った人は、これまではじめて。
 早速これから、私も使わせてもらうことにしました。