たとえば四川飯店の陳健一さん。「dancyu」で「麻婆豆腐」の作り方を教わるという企画があって、当初は日本に一般化した陳建民式のそれ、という予定。それじゃありきたりだし「ねね、陳さん、本場風に牛肉使って、「花椒」の痺れ味がしっかり利いたのをやって、やって!」 とねだりました。
「メニューには乗っけてないんだけど、いいよ、やりましょ」ということで急遽、dancyuでは牛肉を素材に「花椒」の聞いた本場式の「麻婆豆腐」を紹介。同誌で本場風の「麻婆豆腐」が紹介されたのは、それが初めてのことでした。
実はそれまでに「吉華」でも「麻婆豆腐」については久田さんに同じようなことを頼み込んでいました。もっとも、肉は豚肉でしたが、「花椒」の痺れ味をしっかり利かせてもらっていたものです。たまたま同席してそれを食べた友人が「吉華」に出かけた際、「麻婆豆腐」を頼んだところ、同じものじゃなくって大いにがっかり。
そんな話を聞きつけ、「なら「花椒」の利いたやつ、本場風にと頼めばいいから」と、教えたもののいざとなると「花椒」が思い出せない。思わず「小倉さんのアレ!」と注文したところ、最初は首を傾げてた久田さん、ハタと膝を打って「花椒」たっぷりの「麻婆豆腐」を作ってくれたそうです。
四川飯店がそうだったように「吉華」でも本場式の「麻婆豆腐」はメニューはなし。しかし、言わば「裏メニュー」として評判を呼び、私以外にも同種の「麻婆豆腐」を求める客がいたようで、いつの間にやらたいての四川料理店の「裏メニー」となり、やがてはメニューに定着、なんてこともありました。
時を経て、当時、気鋭の料理人と語られた久田大吉、山本豊、河田吉功さんらは、今や大御所。もちろん、現在も第一線で活躍中です。
それより、ここ5~6年、一挙して若い料理人がオーナ=&シェフとして店を構え、メディアで評判に。
そんな中にかつて久田大吉、山本豊、河田吉功さんのもとで修行し、あるいは関わりのある料理人が少なくない、なんてことにも気付き、その3人に限らず、東京の中国料理人、店の系譜を探ってみるのも面白いかもと思い立ち、調査を開始しはじめていたのでありました。