続いて登場したのが「枝竹羊肉煲/国産羊肉の土鍋煮込み」。 「羊肉、ってラムじゃなくて?」と大藤さんに尋ねると 「ええ、ラムではありません。国産の羊肉です!」とニンマリ!
嬉しいじゃないですか!成育した羊なら、脂にクセのある香りがしっかりありますから。 目の前に現れた土鍋の中でふつふつと煮えたぎる羊肉。肉に白い部分くっついてる、ってことはアバラ肉のあたりですね!
羊肉といえば、日本では薬味をふんだんに使ったタレに漬け込んで特製の鍋で食べる「ジンギスカン鍋」がよく知られてま。ネットで検索すれば北海道及び岩手の遠野でそれが盛ん。しかも、日本独自のものだって知りました。けど、中国の北方にもその手の料理ありますよね。日本の「ジンギスカン鍋」は特製の鍋でお手軽に焼きますが、北京の「烤羊肉」の専門店では、焼くための鍋も調理方法はもっと大陸的でダイナミック。
そうそう、羊肉といえば日本の「しゃぶしゃぶ(鍋)」の元じゃないかと思える「涮羊肉」というのがあります。いつだったか中国出身の料理研究家ウーエンさんとNHKのラジオ番組で共演。その、ウーエンさん、北京の「涮羊肉」は「ラムです!羊は毛や皮を使うのが主な目的。羊(肉)は食べません」とキッパリ。けど、私、北京でラムじゃなくって羊肉、それも何種類かパーツ違いのを食べたことがあるんですが。
南方、広東地方や香港では、冬の訪れとともに滋養供給、体を温める料理として野味の料理を食べます。羊の肉は、その代表的なもの。一般的には羊、成育したマトンが使われますが、本格的には北方から届く「黒草羊」、「山羊」、それも「野羊」が珍重されてます。
今回の「枝竹羊肉煲/国産羊肉の土鍋煮込み」は、冬の香港の風物のひとつにならったもの。そういえば食事の後でであった譚さん「あれ、皮付きの羊肉だったら、よかったんだけど、入手が難しくってんね」なんて話に、さすが譚さん、目の付け所が鋭いと感心。でも皮なしでも、その美味、しっかり味わいました。
味付けの調味料のベースは「柱侯醤」。「柱侯醤」は以前、「7月の「赤坂璃宮」銀座店の4」で触れてきた通り、広東省の佛山で生まれた味噌、調味料の一種で、佛山の特産品として知られています。大豆を主体に、塩、砂糖、胡麻、醤油などで作ったものです。その目的は、羊肉、山羊肉に特徴的な匂い消し。というか、匂い、香りは脂にあり、のはずなんですが。ともあれ、この種の野味に「柱侯醤」を使うのは、日本でも豬、熊などの鍋に味噌を使うのと似ています。さらに、大蒜、生姜などが効果的に使われてます。
「実は、サトウキビの汁なども隠し味に」と、大藤さん。
「へぇ~、そんなもんも使うんだ!」と、話に感心。
一緒に炊き込まれていたのは「枝竹」、「腐竹」ともいいますが、干し湯葉。それにこれを食べるために、事前にテーブルに並べられたのが、レモンの葉の千切りをあしらいにした「腐乳」のタレ。「枝竹羊肉煲」を食べる時の必需品。ちょっぴり浸して食べると味が引き立ちます。
羊肉、干し湯葉、干し椎茸などを取り分けたあと、鍋に残った煮汁でレタスを煮込み、皿に添えます。
「あのう、ほんとは「唐生菜」なんですが、本日、ご用意できませんでしたので「サニー・レタス」ですが」と大藤さん。
「腐乳」のタレだけじゃなくって「生菜(レタス)」の用意まであり、なんて香港の料理店そのまま、じゃないですか。
その用意、心遣いに盛り上がります。
それより「羊肉」、そしてこの料理の味、「柱侯醤」のこくのある味、風味が利いていて、しっかりの味付け。なのに、口当たりは、食後感はすっきり、さっぱり。実に「軽い!」。軽くて、上品で、洗練された味わいです。そればかりか、香りが豊かです。それも、いろんあ香りが複雑に入り混じり、ひとつに合体。奥行き深い「一体味」ならぬ「一体香」を生み出している、というのがすごい!
上品で洗練された味わいの軽さ、香りに、メンバー一同、唸って、感嘆の声を上げたのでありました。まさしく、この日のハイライト!
見事な一品でした。香港の「冬」の味、香り、ここにあり!
事前に頼んでおけば、食べられるそうで。実は、早速、かみさんの中国語仲間の忘年会でリクエスト。「肉、肉、肉はお断り!」なんて言ってたかみさんも、香港ならではの冬の風物、しかも「柱侯醤」の味付けの料理には興味津々。奈々先生も「「干鮑」はダメですが「果子狸」はOK!」なんて、食には貪欲。もっとも、SARSの一件以来「果子狸」はご法度ですから。けど「羊肉」ならOKかも。そう思って用意したら、これが大ウケだったのであります