2008/10/24

広東地方の郷土料理シリーズ、遅ればせながらの2008年「夏の巻」の7

 「確かに、これは魚の唐揚げ。だけど、こんな魚の唐揚げ、食べたことがありませんよ!」と青木さん。
 「そうそう、ほら、ひれの部分とか、ばりばり食べられちゃうじゃない。けど、身のところは柔らかくって、しっとりした感じで。あの、この醬油味のたれも、いいね。なんだかすごく上品な唐揚げだ」と斉藤さん。

 そうなんです。ひれの部分が食べられるぐらいしっかり揚げてある。なのに、身の表はぱりさくの歯触り。身は歯がすっと入るしっとり加減で、緻密で繊細な身の肉は、滑らか。しゅわしゅわと舌の上でほぐれていく。

 「老虎魚」の身の緻密さが、良いかな。けど、極上の「老虎魚」の入手がむずかしい。「かさご」は、身が少し固くて、ほろっとはがれるような感じだし、「きじはた」、「あら」に「くえ」でもいいけど、やはり身が固い。身がしっとりと緻密、ってことなら「あいなめ?」。でも、蒸し魚の「清蒸魚」や煮込みの「紅炆」で゙食べたことがあるけど、唐揚げの「油浸」にはたして向いているかどうか。
 けど、案外、「あいなめ」のしっとり加減からすると、いい感じに仕上がるかも、なんて、あれこれ想像をめぐらせました。
 結果、「あいなめ」の入手が可能ってことで、GO!















 大成功でした。
 魚そのものの質、味わい、旨さ、風味ということなら「老虎魚」に軍配があがりそう。純な味わいで、しかも、濃密だったりしますから。凛とした羽織袴の出で立ちの武士の風情。

 それからすると「あいなめ」は、気取りがなくて、ざっくばらん。衿を抜いた着こなしの遊び人の風情がある。しっとり加減の身の緩さ、こそがその身上。なんて趣の「あいなめ」の持ち味が、「油浸」の調理で際立ってみえました。

 揚げた「あいなめ」に、醤油にだし、つまりは「上湯」を加味したたれが、味、風味を引き立てる。ひれまでばりばり食べられる揚げ方、調理の見事さもさることながら、たっぷりの油で揚げてるのにもかかわらず、くどさ、しつこさ、重さなど微塵も感じられません。

 唐揚げ、揚げ物というのは、一般には、どちらかといえばゲスな味、風味が魅力のはずです。ほら、肉屋の揚げたてのコロッケ。それにソースをだぷだぷの感じとか、塩味が利いていていてこその鳥の唐揚げとか、そうじゃないですか?

 ところが、この「油浸什斑」、あいなめの唐揚げは、ひれまでばりばりの揚げ方、なのに、ぱり、さくの衣、身はしっとり。それに、上品で洗練された味、風味。それもまた、大きな驚きでした。