そして中国オリーブを乾燥させた「欖角」を使った一品は、豚のスペアリブを煮込んだ「欖角炆排骨」に決定。
中国オリーヴ、とはいっても地中海原産のモクセイ科のそれとは異なり、インドシナ、中国南方などで繁茂しているカンラン科の橄欖の実で、その実がオリーヴに似ていることから中国オリーヴと称され、また、本来のオリーヴ及びその実が橄欖と称されるようになった、という経緯があります。
橄欖の実の果肉を「欖角」と称し、その実はナッツのような独得の味、風味があることから「欖仁」として、炒め物などに使われる他、「月餅」の具などにも使われます。
「欖角」は、以前、ここで紹介してきたように、肉、魚を主素材にした料理のいわば調味料として使われ、微塵切りにして素材とあわせ、蒸したり、煮込んだりする。もっぱら蒸し物に使うのが一般的、というのは「その2」で触れてきた通り。料理のバリエーションは豊富です。それに、今回の料理の組み立てからすれば「蒸」の料理がなかったことから、蒸し物で、と考えていた次第。
他に「欖角」と併せ、客家独得の漬物の「梅菜」もあって、それを肉、魚とともに蒸しものにする、という考えもありました。「梅菜蒸排骨」や「梅菜蒸斑球」は、香港人、というより広東人好みの惣菜です。
もっとも、メンバーの数、それに、今回はしっかりした味、風味の料理を、ということから「欖角」を使うにしろ「梅菜」を使うにしろ、煮込みの「炆」では?というのは料理長からの提案。そんなことから「欖角炆排骨」となった次第。
これが、案外、予想以上にウケました。「この煮込み物の味付け、中国オリーヴの味、風味がいいですね。煮込みなのにスペアリブのくどさ、しつこさを感じないし。ご飯がほしくなるお惣菜みたい!」と、青木さん。
中国オリーヴの「欖角」とスペアリブの組み合わせ、というよりも「欖角」の独得の味、風味にすっかりとりこになってしまった様子です。独得のくせのある醗酵味、旨味のある調味素材、というか、香味素材の「咸魚」や「蝦醬」がお気に入りの青木さんは、「欖角」に魅せられた様子でした。ということなら、次回は「欖角」を使った、魚、肉の蒸し物の料理をコースに組み入れるのもいいかも。
それに続いて「鹽焗鶏」が登場。鶏を丸ごと一羽、塩で包み込み、蒸し焼きにした料理です。もともと客家地方の伝統的な料理で後に広東料理店のメニューにも加わるようになりました。
もっとも伝統的な「正宗鹽焗鶏」をそのまま再現するには手間隙がかかる。そんなことから、塩分過多を敬遠する人などもいて、調理、味付けを工夫した「鹽焗鶏」が生まれ、さらにはそれを簡素化したバリーエションも生まれ、調理方法もいろいろ変化。店ごとに工夫があったりします。中でも多いのは、蒸し焼きのプロセスを簡素化し、鶏を取り出し、最後に油をかけて仕上る、なんて方法もあります。
ですがやはり「正宗鹽焗鶏」の調理法で食べたいとリクエスト。すこしばかり火が入って皮の色合いは濃い目のダーク・ブラウン。しかし、皮の裏の脂がじりじりと皮や身を焼いた形跡はしっかりありました。
肉は歯がすっと入る柔らかさと噛み応えありで、塩味が染みこんだ肉が実に旨い。燻製した鶏肉、茹でた鶏肉、揚げた鶏肉とは明らかに異なる歯触り、質感、肉のしっとり具合や、肉を噛み締めた時のメリハリのある味わい、浮かび上がる風味に「鹽焗鶏」の旨さを堪能しました。