
このふかひれの料理については、以前、紹介しました。上海系のふかひれ料理に「火腫魚翅」というのがあります。もともとは杭州料理なんてことでしたが、「金華火腿」の脛の部分とふかひれ、それもふかひれの形状を残した「排翅」をふんだんに入れ、「だし」を足して湯煎蒸しの「燉」で調理したもの。
かつて福臨門が出張料理を専門としていた時代、上海系の顧客からのリクエストに応じて同料理を再現。それをヒントに、もともとは宴会向けの多人数用の料理だったことからそのサイズを縮小し、少人数でも食べられるようにしたことや、より洗練された上品な味付けに仕上げたのが福臨門の「肘子燉生翅」、と言う話は、昔、福臨門の総料理長の羅安さんに取材した際、耳にしました。
「話には聞いて知ってますが、食べたことがないんですよ」という青木さんの話が頭にこびりついていました。それに、私、この料理、これまで福臨門でふかひれを素材にした料理、色々食べてきましたが(なんて、自慢話ですんません)、その中でもベストの一品のひとつ(ですから、他にもベストの一品があり、なんですが・・・というのも自慢話ですね)。
日頃、美味しい味、料理に出会えても、それはその時のもの、なんてことで追体験にはさほど執着はなく、むしろ常々未知の味、料理に関心のある私ですが、中には例外もあり! という料理のひとつが「肘子燉生翅」。何回食べても、食べ飽きることがない一品です。
福臨門の「上湯」は老鶏(ひね鶏)、豚赤身肉に、なんといっても「火腿」をたっぷり使ってありますから、旨味は濃厚。それに「火腿」特有の醗酵味が生み出す旨味、独得の、風味があります。このふかひれ料理は蓋付きの容器にふかひれ、「上湯」、さらに「火腿」の脛の部分を加え、2時間ほどかけて「燉」したもの。調理に時間がかかるため、事前に予約が必要な料理です。
旨味たっぷり、風味の豊かな「上湯」に「火腿」をさらに加えてあるだけに、旨味、風味は一層増してより濃厚に。それに「火腿」自体、塩蔵の醗酵品ですから、その分、塩味が滲み出て、塩味しっかりの重い味になる。塩味の濃い重い料理は苦手な私ですが、この料理に関しては文句なし、問題なし。しっかり利いた塩味、濃厚な風味こそが味わいところ、ですから。
そして「生翅」、つまりは「海虎翅」、いたち鮫の胸ひれをばらばらにほぐした太い翅絲(ひれの繊維)の「ぷち」、「ぷり」の歯触り、噛み応えがたまらない。もっとも、今回は予算の都合上ふかひれの分量を加減して、少なめに。ほんとはもっとたっぷり食べたいところですが……でも、そうやって、つまり、ふかひれの分量などを加減しながら予算を按配し、コースを組み立てていくのは賢明な方法。相談に乗ってくれます。
それよりなにより「肘子燉生翅」は旨い。
舌にのしかかる濃厚な味、醗酵味が入り混じった旨味は、有無を言わせぬ力強さがあります。澄まし仕立ての「清湯魚翅」の優しくすっきりとした清淡な美味とは対照的。荒武者のような野生味にあふれていて、逞しく、凛々しい。その風味の重厚さにも圧倒され、しばし、押し黙る。
この料理に初めて出会った青木さん、ひと口食べて、目を丸くしてしばしフリーズ。さらに、もうひと口。その味、風味をしっかり味わっている様子が、手に取るようにわかります。その余韻を愛おしむように、再び沈黙。しばし間を置いて、ため息をこぼすように「これは、すごいや!」とひと言もらして、後が続かない。ちょいわるオヤジ風の藤原君も「すごい、ですね!」と言ったきり、後はひたすら食べ続けるだけ。
お碗によそわれたふかひれ、スープとは別に、一緒に「燉」されていた「火腿」が皿に盛られて並べられます。それをそのまま味わうのもよし。そのエキス、ふかひれのスープに滲み出て「だしがら」のはず。ですが、そのまま食べればまだまだ旨味が残っている。そうだこの「火腿」、みかけはなんだかドイツ料理の「アイスバイン」だ。で、私はその「火腿」を、ふかひれのスープの入ったお碗に戻して、ふかひれと「火腿」を共に味わいます。なんて風に、勝手気ままに味わえばいいんですから!

これまで東京の福臨門で何度か食べてきましたが、いずれも呉錦洪さんによるもの。日頃の呉さんの料理、繊細で緻密なんですが、この料理に関してはしっかりの重い塩味が特徴。もちろん「火腿」をたっぷり使ってあるからですが。
それにくらべると、今回の「肘子燉生翅」、若武者のように溌剌とした爽快感がある。加えて、九龍福臨門の重さとは違って、香港島福臨門の垢抜けた洗練を感じさせます。
その秘密、理由、後になって判明したのでありました。

そうか、小豆のお汁粉を作る際、塩を加えて味をひきしめたり、甘味を引き立てる、なんてやりますが、もしかしてそれと同じ要領、というか考えなのかもしれませんね。
「わお!この色あい、この香り!」と、ひとり盛り上がる私です。
「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」は、とにかく旨い。メリハリが利いていて、パンチがあります。甘酸っぱくて、辛味じんわりの味、風味は誰にでも納得、郷愁を覚える懐かしい味、中華ならではの味。ジャンクな味。そうだ、B級グルメの極めつけ的一品に数えられるかも。この料理も「赤坂璃宮」銀座店の看板の麵料理のひとつになるかもしれません。
左の具を面にいれると、こんな按配に!
肉を主素材に味噌味で仕上たこってりの味付け。見た目、結構、濃い、というか早い話が「えぐい」感じ。で、口にすると、甘くて、酸っぱくて、最後に辛味がじんわりと浮かび上がる。その料理名「京醬肉麵」から、その正体、「京都式炸醬肉麵」と判明。

頬ばるとマテ貝は「こり」、「ぱり」っとした触感。クセがないものの、やはり、貝の味、磯の香り、甘味、マテ貝の純な味がします。それに「豆豉」や微塵の香味野菜、唐辛子が一体となって織り成す味は、ぴり辛で、爽快。

先月は「しゃこ」と揚げた「琵琶豆腐」という組み合わせでしたが、今月は、「穴子」に、春らしく「筍」の揚げ物が添えてある。それも、香味野菜の微塵を揚げたチップスをまぶした「避風塘」スタイル。
そういえば、一緒に出た筍の揚げ物。これは「ぽりはり」の弾力のある歯ざわりが快感。ってことでは「穴子」、それに、先月「しゃこ」と一緒だった「琵琶豆腐」の揚げ物の触感とは対照的。もちろん、味、風味もです。
「焼鴨(家鴨の焼き物)」、「焼肉(皮付き豚バラ肉の焼き物)」、「叉焼」の焼き物三種は絶好調。いつもなら4品並ぶはずが3品。その左横に初めての「腐皮巻」。人参、アスパラガスの湯葉巻きです。さらに、その上には春らしい3品。
ホロホロの感じの煮込んだ肉が旨い。もっとも、だしがちょいと弱い。けど、ぎりぎりのところで踏ん張ってるのと、味付け、調味の加減が実に慎重。もっと、大胆にメリハリつけていいんだよ、千脇君。なんてこれまた余計なお節介ですけど、その姿勢が頼もしい。嬉しくなっちゃいます。なんせ、ガキの頃から知ってますから、応援したくなるのも当然でしょう。
そしてご飯は「彩雲瑞」の名物のひとつともいえる中華風の「菜飯」。
う~ん「菜飯」のお代わりもいいけど、もうひと品食べたい。
我家で作る最もシンプルな和え面は、葱と生姜の「姜葱撈面」。香港の粥麵店のように茹でた面に葱と生姜の細切りをのっけて、胡麻油を少々かけて和え、さらにオイスター・ソースで味をつけて、混ぜ合わせて食べるだけ、なんて代物です。
千脇君、頑張ってます。おかみさんも頑張ってます!
つるん、とろんの舌を撫でるきめ細かで滑らかな触感、優しくて穏やかな味わいがいいです。
これは可もなく不可もなくの一品。「蟹の爪」の贅沢感が嬉しいですが、下味の付けから、衣つけ、揚げ方がいまひとつで、素材を生かしきれてないのが課題。それに具材のすべてを炒め合わせた時の「鑊気」、鍋の気力がいまひとつで、香りに乏しい、なんていうのが課題かも。なんてまた、オヤジの余計なお節介ですね。
冬場らしい一品で、広東地方の正月料理に出てきそう。

味が染み込んだ表面は「ざら」っとしていて「じゅわ」と味が滲み出る。噛み締めると弾力のある歯応え。「ハチノス」ならではのもんです。で、濃くてメリハリの利いた味付け、それも爽快な辛味が「後引き」で、すぐさま箸がのびます。

炊き込みご飯をたっぷり味わったあとは、鍋にこびりついた焦げに「だし」を加え、焦げが柔らかくなる感じに炊いた「お焦げの雑炊風仕立て」というのがあります。タレで味をつけたもので、これがなかなかに旨い。焦げとタレの味、風味があいまって、舌だけでなく喉元から鼻筋を刺激。

「蕾菜」って、結構いけますね。みかけ、それに、最初口にした時には「芽きゃべつ」みたいなのに、口にすれば、味、風味、香りが違う。初対面だった「蕾菜」は実にグッド。 いや、正直にいえば、辛味、ほろ苦さはあっても、青臭さ以外、香り、というか風味が今ひとつ。言ってみれば、温室育ちで、やわな感じ。強い主張がなくって、よく言えば奥床しくて上品。
「鮮文蛤水蛋」。蒸した卵のとろんととろける滑らかな舌触り。そして「蛤」に火を通せば滲み出るだしの旨味、馥郁とした香リ、風味がじんわりと浮かび上がる。「蛤」から出るだしの味を巧みに生かした料理です。しかも、塩加減、その塩梅が絶妙。
その味付けは、だし(「上湯」)が利いたもので、干し貝柱の「瑶柱」を戻した際に出るだし、あの旨味、甘味、こくも加味されたもの。それに「蠔油」、つまりはオイスターソースらしき味、風味、甘味、こくなども。もっとも、これみよがしじゃなく、手前の加減でほのかな感じ、なのがいかにも袁さんの「腕」と「技」らしいところです。軽く、すっきり、穏やかで、上品で洗練された味、風味。それに、適度なとろみがついている。そのとろみの付け方の加減、按配がまた見事。
それより、キスやメゴチなどの手に入りやすい素材でお願いしたのに?
支配人の大藤さんに聞いた話では「赤坂璃宮」銀座店の焼き物担当は赤坂の本店で腕を振るう梁さんに学んだ金山さん、だそうで、素材の持ち味を見極めた焼き方の工夫に努力あり、なんてことから皮はパリパリ、あるいはさくさく。そして、中の身ははしっとり。噛み締めた後に「ン!?」と思う味わい、風味があります。
はたせるかな、袁さん、その問題点を見事にクリアー!




