2009/02/24

パンにバターのその1

 先月NHK-BSの『世界のドキュメンタリー』で放映されたイギリスのBBC制作による『みんなロックで大人になった』。はたしてどれぐらいの方がご覧になったのか、実は同番組の日本版の監修を担当したこともあって気がかりだったのですが、いろんな方から「見たよ!」、「見ました!」との反応があったのでほっとひと安心。

 ロックの歴史を紐解き、その変遷、多様な変化を7回にわたって紹介したもので、イギリスのBBCの制作、ということからイギリスにおけるロックの歴史、その変遷が中心。

 ロックン・ロールはアメリカで生まれたもんじゃない?という疑問、突っ込みもありそうですが、「ロックン・ロール」ではなく「ロック」としてその誕生は「65年」だとし、ザ・フーの登場などを出発点として捉え、イギリス独自のロックが生まれた社会的な背景、また、アメリカのロックとの関わり、その源であるアメリカの黒人音楽のブルース、R&Bがイギリスのロックに及ぼした影響、アメリカとイリギスのロックの対比なども描かれていました。

 たとえば、ロックの源となったアメリカの黒人音楽のブルース、R&Bは、イギリスの労働者階級の若者にとって共感しうるものだった、というアニマルズのエリック・バードンの発言が物語るように、60年代初頭のイギリスにおけるビート・グループの誕生や隆盛の背景にあったもの。

 また「パンク・ミュージック」はそもそもアメリカに生まれたもので、反社会的、政治的であると同時に、芸術的な側面を持ち、知的でボヘミアン的な性格も持ち合わせていたのに対し、イギリスのそれは不況に陥っていた当時のイギリスの社会状況だけでなく、階級社会の存在と密接な関わりを持っていたこと。

 「ヘヴィー・メタル」の誕生の背景にはイギリスの重工業都市で働く若者に密接な関係を持っていたこと。それに様式美を持つに至る過程。また、アメリカにおける「ヘヴィー・メタル」、さらには「グランジ・ロック」、「オルタナティヴ・ロック」が、ロナルド・レーガンが実施した様々な政策が生んだ社会的なひずみと関わりがあったこと。

 日本ではビートルズ以来のポップ・ロック的ギター・バンドの台頭として受け止められるのがほとんどだったオアシスをはじめとするブリット・ロック、ブリット・ポップの誕生や台頭の背景にはイギリスのアンダーグラウンド・シーンやインディーズ、当時、それれまでにない不況を抱えたイギリスの社会状況や、そこでも階級社会の存在が関わりを持っていたこと。

 だからこそ「シガレッツ&アルコール」が親しまれたのだ、なんてことなどイギリスに生まれた独自のロックとイギリスの社会状況、ことに階級社会との関わりなど、これまで日本ではあまり触れられず、認識が持たれることはなかっただけに、「目うろこ」の事実を知った、なんて方も多かったようです。

 なんてことからすれば、日本のロックの歴史、その社会的背景との関わりを捉えながら、自分探しはおろか、まるで小学生の夏休みの宿題の絵日記みたいじゃん、という歌が大半を占める日本のJ-POPの現状を捉えたドキュメンタリー番組があってもよさそうなもんですが、せいぜい、日本のアニメが世界を制す!ぐらいのもんじゃないでしょうか。

 ともあれ『みんな大人でロックになった』は、そのうち再放送の機会もありそうなので、同番組を見逃した方は是非、ご覧ください。