2010/01/28

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして甜品。しめくくりのデザート。
 「年糕凍甜品/お正月のお菓子と本日のデザート」の「お正月のお菓子」に目が釘付け。
 そのお正月のお菓子、嬉しいことに「年糕」でした。

 「年糕」は、さしずめ日本のお正月に食べるお餅にとってかわるもの。日本でもお餅は正月に限らず、年中、食べるように「年糕」をお惣菜の具として使うところもあります。そういえば飲茶の点心で人気の高い大根餅の「蘿蔔糕」もその一種。

 なんてことからも明らかなように「年糕」の種類、具材、地方によってまちまちで、種類も味も千差万別。ですが、正月に食べる「年糕」は基本的には甘味仕立て、甜点心的なものが多いようです。ことに北方ではその傾向が強い。それが、南方、つまり広東地方や香港あたりだと、大根、タロ芋、里芋などの根菜類を具材にしたものが多い。

 今回の「赤坂璃宮」銀座店の点心長の久保田さんの手になる「年糕」。
 橋本さんを通して尋ねたところ、素材は「白玉粉、コーンスターチ、ココナッツ・ミルク、ピーナッツ油、平糖、中国醤油、卵」とのこと。

 基本の材料は「白玉粉」、つまり糯米の粉、お餅ってわけです。
 その味、風味、素朴でシンプル。素朴で自然な味、風味。ひなびた感じが堪らなく美味。 伝統的な昔懐かしい作りの「懷舊点心」というわけで、久保田さんに感謝。ちなみに「年糕」、「年年高(ガオ)」「歩歩登高(ガオ)」ってことにちなんだ縁起物。正月に欠かせない点心です。

 それから好みのデザートを選べる「本日のデザート」。
 そんな中に薩摩芋と豆類を煮込んだスープ仕立ての「金著喳咋露」、かぼちゃと豆類を煮込んだスープ仕立ての「南瓜喳咋露」が登場。
  右端の手前が「金著喳咋露」。その奥が「南瓜喳咋露」です。
「「薩摩芋」と「かぼちゃ」のデザートは温かいもの、冷たいもの、どちらでもご用意出来ますので、お好みで!」と柏木さん。

 「喳咋」は豆や穀物を煮込んだスープ仕立ての点心です。「喳咋」の語源はポルトガル語の「穀物」なんだそうです、このデザート自体はマレーシアのもの、なんていうのが面白い。

 香港の甘物屋のメニューにあって、看板にしている専門店もあるほど、香港で広く親しまれてます。日本じゃ滅多に出会えないだけに、こんな点心の登場だけでも嬉しくなります。

 今回の素材、橋本さんに尋ねたら 「眉豆、黒豆、小豆、花生(ピーナッツ、麦、タピオカ・金時豆」ということでした。冷製なら、バニラかなんかのアイスクリームを添えて食べたくなります。ですが、胃に優しくって、消化の助けにもなる、ってことでは熱いのに限る。

 「薩摩芋」か「南瓜」か、どっちにしようか。迷うところです。
 「あの「薩摩芋」も「南瓜」も食べたいんで、誰かと分けっこしますから、最初から両方、半碗ずつ、小ぶりの碗仔で!なんて出来ます?」
 いつでも、どこでもワガママな私です。
 「あ、私もそれがいい!」
 「大丈夫です、かしこまりました!」と柏木さん。
 「私もそれにします。それから、マンゴ・プリン!」と、デザート・トレイにない一品を追加オーダー、なんて私よりももっとワガママな人もいました!

 「金著喳咋露」に「南瓜喳咋露」。素材の持つ甘さをそのまま生かした素朴で純な味わいです。しみじみと味わい深い。ほのぼのとしていて、心温まる甜品でした。

2010/01/27

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 しめくくりの面・飯。
 今月は「杬豉角炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」。
 ですが、「杬豉角炒飯」の「杬豉角」ってなんだろ? 「杬角/欖角」は「橄欖」の実、果肉を塩漬けしたものです。
 「橄欖」は、三種あり。通称は「中国オリーブ」ってことですが、オリーブとは品種違いなんて話は、以前にもふれてきた通りです。

 しかし「杬豉角」、それも「杬角」の間に挟まった「豉」の字、一体どういう意味なのか。橋本さんを経由して袁さん尋ねました。
 「豉=豆豉と同じ意味だそうです。~の漬け物と言う意味があるみたいです」とのこと。

 「豉」は「くき」、塩漬け醗酵させた大豆、なんてどこかで知りました。「欖角」は、「豆豉」と同じく塩漬けですから「豉」の字、ついたものかも。勉強してみます。

 香港で「牛挽き肉のチャーハン」と言えば「レタス/生菜」と組み合わせたものが一般的。日本の広東料理店でもメニューに見かけます。しかし、この「牛挽き肉のチャーハン」、レタスじゃなくって「欖角」の微塵切りとの組み合わせ、というのが面白い。

 というのも牛肉って意外にくせあり。ことに最近の肥育肉のさし入りの肉の脂がくせ、というか独得の匂いを放つ諸悪の根源。そんなところで、ひと味、ひと風味加えて、牛肉のくせを和らげる、なんてのは実にスマートなアイデアだと思いますけど、ちゃいます?

 「欖角」、塩漬けってことで「漬物」。ひねた醗酵味もあり、旨味あり。しかも「橄欖」そのものに独得の甘味、渋味、苦味にえぐ味と、風味あり。さらに、火を通すと味わい複雑、一層の旨味と風味を増す、という按配。

 「橄欖」は広東地方だけでなく中国南部、東南部にかけて繁茂してます。「橄角」はその産物。各地方で色々使われてます。こうやって炒めものに使うだけでなく、蒸し物、煮込み物にも絶大な効果を発揮。なんてことからすると日本の広東料理店でも常備されていておかしくない素材なんですが、滅多に出会えることがないのが残念です。 

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 2種の「ハタ」、豪華で贅沢な「ハタ」の料理を味わって、ため息しきり。 次いで「南乳温公斎/五目野菜の煮込み南乳風味」。 これまた、私の好みの料理で、たまんない!
ちなみに今回の「温公煲」の素材、スィートコーン、筍、湯葉、白と黒のキクラゲ、干椎茸、白菜に春雨。そして「棗」。これまたお正月には欠かせない縁起ものの素材。くわいなどと同じく、子宝に恵まれますようにと祈願したものです。

 「南乳って?」 「紅麹で醗酵させた豆腐、腐乳の一種です」 「じゃ、温公斎っていうのは?」 「「温公」っていう人にちなんだ野菜の炒め煮込みです」と、知ったかぶりの私です。

 「南乳温公斎」については以前紹介したことがあります。広東地方の代表的な郷土料理の小菜で野菜を素材に紅麹仕立ての腐乳の「南乳」で味付けしたもの。肉類を素材にしないことから、精進料理とも見なされてます。

 その由来、諸説あり。
 その1は、「温公」とは「司馬光」の仇名。というわけで「温公」がとある寺で料理を所望した際、お寺ですから精進仕立て。そんなことから生まれ、「温公煲」と名付けられた、という説。
 その2は、70年代、香港の華僑日報のボスだった温氏のために「陸運海飯店」の料理長が野菜主体、南乳で味付けしたこの料理を考案し、出したところ喜ばれ、以来「温公煲」と名付けられるようになった、という説。
 その3は、広東地方南西部「番禺」では「南乳」を「温公」と称していたことが発端、という説。

 いずれにせよ、香港の広東料理店の定番的な料理ですからメニューになくても作ってもらえます。そんなことからわかるのは、袁さん、やはり、広東地方南西部の出身、もしくはその料理を香港で学んできた料理人だってこと。しかも「南乳」、あくまで風味付けでその量、按配、控え目な感じ。口にして、やがて「これ、何の味、風味?」と気づきます。そんなところに袁さんの技あり。   

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」が登場。
 「ハタ」を素材にした料理がもう一品登場したのに吃驚仰天。 「サプライズ・4」の登場です。
 しかも、私の好きな魚の煮込み料理の「紅炆海斑」。
 料理名に「魚尾」とあったで「紅炆斑翅」かと思いきや、なんとお頭付き!

 「ン!? さっきの「豆腐魚腩湯/豆腐とハタのアラのスープ」で、お頭はすでに登場のはず。それが、なんでまたお頭付き?」
 なんでって、もう一匹「ハタ」を使ってるからこそのお頭付きなのに決まってます!
 「どうしよう!豪勢すぎます、今日のメニュー、コースの献立!」と嬉しい悲鳴!
 というわけで、二匹の「ハタ」の三種の料理ってことですから「両斑三吃」!

 そういえば、以前、「赤坂璃宮」銀座店で、袁さんの手になる「紅炆海斑」、食べてみたいな。けど、人数からして魚一匹だと分量多すぎ。おまけに「ハタ」はなんといっても値段は「時価」の高級海鮮魚介ですから、無理だろうな。そういうことなら「ハタ」でもなんでも、魚のアラ、腹身、上ひれの部分を使った「紅炆斑翅」にありつきたい、なんて話、書きましたが………。
 「やった、ラッキー!」(とまあ、私は軽佻浮薄なお調子者)。

 さて、魚の料理。以前、書いたことと重複するかもしれませんが、香港で丸ごと一匹魚を使った料理で最も有名で、一般的なのが蒸し魚の「清蒸魚」。宴会料理の華です。
 もっとも「清蒸魚」、最後の仕上げにだし、油を混ぜ合わせてかけますが、その際、化学調味料をしのばせる、というのが一般的。香港で著名な店でもよくあることで、ことに味の濃い(中国)料理が好む日本人に向けてのサービスとして、地元の人よりもひと匙、ひと加減多い目に、なんて按配なのは知る人ぞ知る話。

 魚一匹、丸ごとを使った料理で化学調味料から逃れるには、上湯で煮浸しにした「上湯浸」という方法があります。その「上湯浸」のバリーエーションで、一緒に大根などの根菜や季節野菜を一緒に煮浸しにする「上湯浸時菜海斑」という料理があります。過日、例年通りこの時期に香港へ食探訪に出かけた浅草「龍圓」の栖原さん。九龍の福臨門で「蘿蔔芹菜浸星斑」にありつけたそうです。そのうち栖原さんのブログで画像アップの予定だそうですから、画像、見ることができそうです。

 もっとも「上湯浸海斑」は、地元でも年季の入った食通好みの一品。それより、丸ごと一匹素材にした料理では醤油煮込みの「紅炆海斑(石斑)」、大ぶりの「ハタ」のアラ、ことにすなずり部分の腹身、背びれ、尾びれを素材に醤油煮込みにした「紅炆斑翅」、「ハタ」の切り身を醤油煮込みにした「紅炆斑球」が一般的。ちなみに「紅炆斑翅」、飲茶の点心で有名な「陸羽茶室」や「蓮香樓」の夜の看板料理。広東地方の郷土料理を中心にしたコースには欠かせません。

 話戻して今回の「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」、「ハタの尾」どころか、お頭付き。切り身もしっかり。まさしく「紅炆海斑」そのものです。しかも、魚の切り身だけでなく、皮付きばら肉の焼き物の「焼肉」、干椎茸、干し湯葉の「腐竹」も一緒に煮込まれてます。

 もっともこの種の魚の醤油煮込み、部位はそれぞれ違っても「紅炆」の料理方法では、皮付きばら肉の焼き物の「焼肉」か細切りの豚肉、干し椎茸、干し湯葉の「腐皮/枝竹」を一緒に煮込むのはよくあることです。さらに豆腐を加えることもあれば、旬の筍や茄子などの野菜を加えることもある。以前、福臨門銀座店での「茄子紅炆海斑」を紹介したことがあります。

 そして、今回は皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」を使ったより伝統的で昔懐かしい「懷舊式」。「(古式)紅焼炆魚尾」ってわけです。やってくれました、袁さん!  頬張った魚の切り身。衣付きですが、先ほどの「韮黄泡斑球」での「真ハタ」の切り身の衣とは違います。ぼってりに近いぐらい、厚みのあるしっかりの衣の付けかた。しかも、さっと油通しの「油泡」じゃなく、煎り焼きの「煎」の感じで、しっかり揚げてあります。ということでは「脆」の触感。ですが、だしで煮込まれ、その表面、だしを吸ってますからぐじゅっとした触感。

 しかもその味付け、味の按配、袁さんの日頃の味つけからするとしっかり濃厚。それも香港の昔懐かしい伝統的な広東料理の煮込み料理に共通した味付け、風味がします。多分、オイスターソースも使ってあるんでしょう。甘味が立っていて、こくがある。

 ところが、身を噛み締めて「あれ?」と思いました。「ハタ」ってことですが、ほろり、はらりと身が崩れるものの、さっきの「真ハタ」の身とは触感、肉質、明らかに違います。さっきの「真ハタ」に比べれば、より火がしっかり通っているのに、肉がそんなに締まっていなくて、ゆるい感じ。

 「なんでだろ?衣で包まれ、揚げて、火がしっかり通ってるのに、肉質、繊維が柔らかくって、身がゆるい!」。その身のゆるさ、なんだか「青衣」や沖縄の牧瀬の市場で見かける極彩色のベラ系の魚の肉質に近いものがある。それとも「ハタ」の下拵え、調理のやり方、「油泡」じゃなくて「煎」だから(肉質)違うように感じるのかな?」。なんて具合にまたまた頭の中では疑問符が続出。

 後になって橋本さんに「豆腐魚腩湯」、「韮黄泡斑球」と「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」の「ハタ」が同じものだったのかどうか尋ねました。「スープと油泡のハタは「真ハタ」を使用、煮込みのみ「アズキハタ」を使用したそうです」との答え。やっぱり「ハタ」の種類が違ったんだ、と肉質の違いに納得しました。

 ちなみに「アズキハタ」。香港での名称は「白線星點班」。英語名は「Slender grouper, Whitelined grouper」。和名はやはり地方によって色々あり。どうやら沖縄、久米島あたりが主なる収穫地で、浜ごとに呼称が異なる!なんてのが面白い。

 それより、今回の「あずきハタ」、もしかして沖縄で収穫したものなんでしょうか。そうでなくとも「尾鷲産」の「真ハタ」と肉質、味、風味、違っていたのは紛れもない事実。生息する海が違えば、魚の肉質、味が違いますから、そのあたりの真相、知りたいところです。

 それにしてもさっきの「油泡」で調理した「真ハタ」、このこの「紅焼炆魚尾」にしろ、ともに技ありの風格のある味、風味。豪華な料理です。ことにこの「紅焼炆魚尾」と言うよりも「紅炆星斑」、広東地方の伝統的な昔懐かしい料理法、味付に技あり。その美味、堪能しました。

2010/01/26

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「韮黄泡斑球/黄ニラとハタの炒め」が登場。 「真ハタ」の身の切り身を炒めた料理です。「サプライズ・3」の登場です!
スープでは「真はた」のアラを使い、残る身は炒めものに。ということで、魚一匹使って2種の料理。それが「海斑両吃」。
 もっとも、2種の魚料理にする部位の使いわけ、調理方法、種々ありますから「両吃」といっても色々あります。
 さて、「真ハタ」の炒め物。料理名に「泡」ってあることからすると「油泡」、つまりは油通しってことになりますが、衣がついていて、揚げてある感じです。その衣の按配、付け方、衣の厚みに技と工夫あり。
 油通しで揚げた「真ハタ」の切り身の表面は「さくっ」とした触感の「酥」の状態。ぱりぱりの「脆」ほどではないにしても、噛み応えあり。噛み締めれば「ハタ」の身が、ほろり、はらりと崩れていく。
 もっとも「清蒸魚」のようにレア感を残したしっとり系の潤んだそれではありません。火が通ってますから、しなやかな弾力あります。かといって、火が通りすぎというわけじゃない。パサついた感じはなし。
 その、火の通りの按配が見事。緻密な繊維質、しかも柔らかい歯触り、舌触り。それに「ハタ」の身の甘味、旨味が浮かび上がる。その甘味、旨味、脂のノリによるものでしょう。
 もっとも、香港あたりで食べる「ハタ」、香港周辺、さらには東南アジア海域で収穫され香港に運び込まれる南方の「ハタ」、「紅斑」、「星斑」さらには「青衣」などのベラ系の類などとは、肉質、味、風味がなんだか違う印象。ことに肉質の違いは明らかで、締まっている感じ。そういえば、関西でアコウと呼ばれるキジハタに違い感じ。強引な例えでは、鯛など白身の魚の切り身に火を通したような肉質です。それに、沖縄あたりで収穫され、東京に運ばれてくる「ハタ」の類の身、肉質とも違います。
 気になって「真ハタ」、どんな「ハタ」ですか?と橋本さんに質問。
 「ハタの名称は「真ハタ」で、仕入れた者も他の名称は不明です」
 という返事が帰ってきました。
 早速、検索開始。そしたら、日本での通称名「真はた/真羽太」、収穫/水揚げ地によって呼称が異なること(ちなみに三重の隣の和歌山で「シマアク」、南方の沖縄では「アーラミーバイ」なんてそうで)。
 香港では「泥斑」もしくは単に「石斑」。台湾、中国では「七帶石斑魚」と称するのが一般的と判明。黒地に白い縦縞が頭から尾にかけて7箇所あり、なのが「七帶」の由来ってことも判明。
 ま、ネットで検索かけても、ブログ系(って私もですね)いい加減なのがありですから、いろいろ検索かけて見なければ、実態はつかめない。
  ともあれ、久々に見事な「ハタ」の切り身の「油泡」、その美味を味わいました。
 そうそう、丸ごと一匹の魚を使った料理も魚の音が「餘(あまる)」に通じる、ということで正月にか欠かせない縁起担ぎの一品です。

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯」は「豆腐魚腩湯/豆腐とハタのアラのスープ」。素材をとろ火で長時間じっくり煮込んだ「老火湯」です。問題はその主素材。というのも、この料理も「三重県産の食材フェアー」に関わりがあって「尾鷲産の真ハタ」を素材にしたもの。「尾鷲産」というよりも「尾鷲で水揚げ」ってことでしょう。その「真ハタ」のアラが素材です。 「魚腩」と料理名にあるように「すなずり(腹身)」の部分もってことですね。
 それより「真ハタ」、値段は時価の高級海鮮魚のアラ。「サプライズ・2」の登場ってわけで、それだけでも盛り上がります。
 素材は「真ハタ」のアラ以外にクレソン(西洋菜)、(黒)くわい、ピータン。
 魚を素材にしたこの種の「湯」の特徴ですが、スープは白濁しています。ちょいと茶色がかった乳白色。
 「このスープ、いつもの煮込んだスープと違って、濃厚というか独得のこくがあるね。味わい深いなあ!」と、毎回「老火湯」に感心しきりのYさん。実際、牡蠣ではないですが、海のミルクの味、って感じがします。
 くわいから出る澱粉質と甘味、ほんのりの苦味や、ピータンの苦味、旨味なんかも加味されて味、風味は複雑で重層的。やはり「ハタ」が素材ってこともあって、魚の味、海の風味が濃厚。
 「この野菜、ほろ苦さがある。なんだろ? 芹?」
 「西洋菜、クレソンでしょ? 芹にしちゃ、味が緑っぽくて青いし、苦味もあるから」と、私の説明もなんだかわかるような、わからないような感じでいい加減。けど、雰囲気はそんな感じです。
 これまでに何度もふれてきたことですが、この種のスープ、海の魚と淡水の川魚、同じように白濁しますが、味、風味は異なります。ハタの場合、しっかり海の味になる。それだけ強い個性のある魚とも言えるわけで、クセもあります。ですから、そのクセを失くす工夫あり。たとえばほんのり生姜の味、風味あり、なんてところは袁さん、技、手腕を発揮。
  熱いスープを食べると身も心も温まる。体温が上がって、上着を脱ぎました。
 そして、別皿に用意された具材。ぶつ切りのハタやくわい、ピータンが並びます。そんな中にハタの目ん玉を見っけ!
 「この目ん玉、すごくでかいね!この目ん玉みれば、このハタの大きさ、想像つくもんね!」なんて話に「ほんとに、そうそう!」との声が上がります。 
 さて、「真ハタ」のアラはスープに。その身はどうなった?
 その回答は次なる料理で明らかに。

2010/01/25

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 前菜は「前菜焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」だけ、と思ったらもう一品登場。
 「「辣鶏」でございます。今、当店では「三重県産の食材フェアー」をやっておりまして、これは「熊野地鶏」を使いました「辣鶏」です。いつもより、辛味は控え目、とのことですので」とアテンドの山下さん。

 帰宅して「赤坂璃宮」銀座店のサイトを調べたら、ありました「三重県産の食材フェアー」の告知。「的矢の牡蠣」、「伊勢えび」、「尾鷲産の真ハタ」、「熊野地鶏」の数々が。もっとも期間は1月13日~25日までってことでした。
 さて、目の前の「辣鶏」。 前菜というよりも見事な一品。「サプライズ・1」の登場です。

 「辣鶏」。その見かけ、色艶、照り具合からすると「脆皮(炸)鶏」。
 もっとも、一見、油をかけて最後の仕上げをしたように見えますが、よくよく観察してみれば皮の張り(突っ張り具合)や色艶からすれば、釜焼きのようでもある。
「はて?????」という疑問符が、頭の中をあっちこっち、右往左往しながら行ったり、来たり。

 「これ、旨いワ!皮のぱりぱりも旨いけど、肉が甘いの!」
 なんて話に口に鶏肉を頬張ったままの皆さん、黙々と食べながら相槌のうなづき。
 一呼吸あって「「熊野地鶏」ってこんなに甘くって旨いんだ!」
という声が相次ぎます。

 良い鶏、美味しい鶏に出会った時の私の定番的表現
 「歯がすっと肉に入って、噛み締めると柔らかいのにしなやかな張りと弾力があって、ジューシーな肉汁がほとばしる!」。

 そんな風だけじゃなく、肉の旨味、確かに甘さが際立っていたのに驚きました。
 けど、それってもしかして、熊野地鶏自体の肉質の良さ、旨さだけでなく、素材の持ち味を生かした下拵え、抜群の火の通し方、調理の腕にも関係ありなんじゃない?

 なんてことで、またまた「はて?????」という疑問符が頭の中をあっちこっち。どうも油で下揚げし、仕上げにもう一回揚げ、皮の張り、艶を出す従来の基本的な「脆皮鶏」の料理方法ではなさそうだ。というのも、ぱりぱりに仕上げられた鶏の皮、その裏側についた脂(要は皮下脂肪ですけど)、それが皮の裏側を焼き、肉も焼いている様子。

 肉を噛み締めていると、皮下の肉を皮下のが焼き上げた、というようなびみょーな味、風味を感じます。おまけに、肉を食べた時の甘さには、肉質そのものの甘さだけじゃなく、脂の甘さ、下拵えの際に「水飴/麦芽糖」が塗り込められているからじゃない?なんて考えが頭をよぎる。ま、「脆皮鶏」も下拵えの際、「水飴」、「麦芽糖」なんかが使われます。

 それよりこの「辣鶏」、普通に油で揚げた鶏肉、早い話が鶏の唐揚げとは、火の通り、肉質の感じが違います。「これ旨い!」と直感的に思いながら、その一方で、美味、旨さの秘密、秘訣をめぐる疑問が沸騰し、難問の解決を目指すといった次第。

 そんなこと考えたり、探ったりしてたりしたら、料理なんて味わえないし、ちっとも美味しくないんじゃない?なんてよく言われますけど、幸いにして私の頭の中、常にそんな風ですから、なんてことない作業。頭の中では瞬時にし「旨い」「けどなんで?」という思考が平行して駆け巡る。

 ほんとに美味を楽しんでます。そうじゃなきゃ、つまりは美味じゃなきゃ、探求心も芽生えず、頭をもたげてきませんから。いや、音楽を聴いている時、ことにコンサートの時だって、そんな状態です。
 ともあれ、疑問解決のために橋本さんに連絡。袁さんに尋ねてもらいました。

 判明した正式な料理名は「脆皮辣炸鶏」。「辣」の字が入っているのは下拵えに「カイエンペッパー」を使用。普段はたっぷり、しかし、今回は控え目、なんてのは先の通り、山下さんに聞いた話でした。

 「下拵えの際「甘味は「水あめ」を使用。釜焼きで80%火を通した後、熱油をかけて揚げて仕上げる」ということで、疑問氷解。釜焼きにした後で、油をかけて仕上げていたわけです。
 そうか、こういう「脆皮炸鶏」もあり、なんだと納得。
 そのうち、このスタイルの「脆皮炸鶏」を味わってみたい。
 下拵えして、釜焼きで火を通して、最後は油をかけて仕上げる「脆皮炸鶏」、「赤坂璃宮」の銀店の看板料理、名品として数えられること間違いなし。

 そうそう、香港では様々な祭事、四季の行事の際には鶏を丸ごと一羽料理して、神様や先祖へのお供えにします。
 そんなことからするとこの「脆皮辣炸鶏」、鶏を丸ごと一羽を使った料理ですから、正月にちなんだ料理だってことに食べ終わってから気づいたのでありました。

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 2010年に入って初めての「赤坂璃宮」銀座店。
 昨年の正月はお休みでしたが、今年は正月から。 正月、とはいっても日本でのこと。香港、中国、それに韓国やベトナムも農歴(旧暦)に準じてますから、春節はまだ先。今年は2月の14日、バレンタインの日。それより、春節が2月14日。ということは、今年の冬、例年よりも寒くって、まだまだ長く続く、ってことなんでしょう。
 
 さて、10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の料理の数々。 農歴ではまだ「臘月」。とすると「臘月」に準じたものか、それとも日本の正月に準じたおめでたいメニューが並びそう。そんな期待に胸を躍らせ、テーブルに着席。 テーブルに置かれたメニューを見て、縁起を担いだおめでたい素材、料理の数々が並んでいたのに思わずにんまり。
 まずは「前菜焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。
 お馴染みの「赤坂璃宮」銀座店の焼き物の盛り合わせ。皮付き豚バラ肉の焼き物の「焼肉」、家鴨の焼き物の「焼鴨」に「叉焼」。

 「あれ、鶏がない!いつもより焼き物、少な目?」 と思ったら、後ほど「サプライズ・1」として鶏の料理が登場。

 付け合せの野菜は黄色い色した根菜の感じ。
 「大根?」、にしては黄色いし、色着けでもしてあんのかな?

 後日、橋本さんに連絡して尋ねてもらったら、その正体、実は黄色いズッキーニと判明。色着けした大根、なんて私も実にいい加減!
 その下には酢漬けの蕪。さらには、春らしく菜の花。 そして、皆さんが感心したのがクラゲ。
 「クラゲの頭を使っております!」。
 柏木さんの説明に「??????」。
 そう、クラゲって、傘の部分を塩蔵してもどして食べるのが一般的。
 見かけからすると頭は傘のテッペンについてるように思えますが、傘の裏の根本あたりから長く伸びている口のある部分、その辺りを頭というわけです。

 頬張ったくらげ、こりこり、パリパリの歯応え。噛み応えのある触感です。
 「これ、いいじゃん」
 「いい感じ、この噛み応え」なんて声があがります。
 味付けは「葱油」風味。ほんの少しヒリ辛の味、なのは辣油?
 なんて思ったら、どんぴしゃでした。
 そですよね、辣油なら誰だってわかりますから!

 それより気になるのは「クラゲの頭」。 クラゲの種類、色々あるようですが通称名なのがほとんど、というのはふかひれに似ていて大雑把。ですが、等級(ランク)は厳密らしい。
 色々調べたところ、食用にするクラゲで多いのがビゼンクラゲ、繁殖しすぎて厄介者扱いされてるエチゼンくらげ。それも傘の部分、ことに傘の周辺、縁側の部分が値打ちもの。どんなものにしろ「縁側」ってのは美味で貴重というわけです。そして頭の部分も貴重品。

 ということで今回の「頭」、一体どういうクラゲの頭?
 橋本さんに連絡して尋ねました。
 「キャノンボールというクラゲです!」。
 なんだかすごい名前。ネットで検索したら主にアメリカ、メキシコ沿岸で収穫という小型のクラゲで、ことに頭が美味、なんてことらしい。頭は通常8個、筒状にひとかたまりになっている、と知って驚きました。その形状が名前の由来かも。

 ともあれ、こりこりぽりぽりのくらげの心地よい触感、噛み応えと、葱油の甘味、辣油の辛味が入り混じった旨味のある味、風味を楽しみました。

2010/01/24

夏みかんのマーマレード

 毎年、三が日を過ぎてから小正月までの間に千葉の富津から夏みかんが届きます。
ウチのかみさんのジュエリーの師、中村好子、ミナト先生からの贈り物です。夏みかんの旬は2月から4月にかけて、ってことらしいですが、富津の中村家に自生する夏みかんの収穫期はこの時期。ほぼ毎年、この時期に送り届けられます。
到着すればすぐさま夏みかんのマーマレード作りにとりかかります。そのレシピ、色々ありますが、我が家では山本麗子さんの甘夏のマーマレードの作り方をもとにアレンジ。しかも、毎年、中村家から夏みかんが到着すれば、マーマレード作りに専念し、試行錯誤を重ねてきました。

 まずは夏みかんを洗い、出べそのついた頭部とお尻の部分を厚目にカット。それを細く切り刻んで、水をとっかえひっかえしながら何度も何度も水さらし。ですが、さらしすぎると苦味が抜けすぎる。なんてことでその按配、見計らいが難しい。

 残った皮付きの身は8等分。袋の根本、種のついた部分はざっくり切り落とし、種だけをより分け、ガーゼで包みます。とろみ付けに欠かせないペクチンのもとですから。

 そういえばネットで調べたところ、夏みかん、甘夏のマーマレード作り、皮から身をはがし、別々に処理、なんてのが一般的なんですね。私の場合は皮付きの身をそのまま銀杏きり。というのも、イギリスでマーマレードをゲットした際、明らかにオレンジ(多分、マンダリン)を皮付きの身を切り分けたのが一般的で、しかも旨いってことを知ってから。

 もっとも、皮付きの身の切り方には、厚目のシック・カット、薄切りのシン・スライスがあります。私はシック・カットとシン・スライスの間くらいが好みです。ともあれ、深夜、暖房を切ったキッチンでそんな作業をひたすら黙々と続け、切り分けた皮付きの身を鍋に入れ、砂糖を加えて一晩寝かします。

 夏みかんの銀杏切りの皮つきの身は、鍋に8分程。そこに砂糖を山盛り、たっぷり。最初はピラミッド状に盛り上がった砂糖の山も、一晩越せば皮付きの身と一緒になってジャム状に。しかも、馥郁とした夏みかんの香りが台所ばかりかあたり一面に漂います。柑橘類独得の酸味を帯びた香りに、時には思わず目がショボショボ。

 さて、問題は砂糖とその分量。
 初めて作った年「ジャム作りにはグラニュー糖がうってつけ」なんて話を聞き込んで来たウチのかみさん。もともと「グラニュー糖」の風味の乏しいベタ甘感には懐疑的だった私ですが、その話に不承不承お付き合い。

 案の定、出来上がったジャムはベタ甘過ぎて夏みかんの味、風味を殺してしまったのにがっかり。
 なんて昔話を持ち出と「(小姑みたいに)ほんとにしつこい!」とかみさんに煙たがられます。
 それより、ベタ甘味になったジャムを一体どうすればいいのか。
 窮余の策として思いついたのはそれぞれ別鍋で仕上ていた風味付けのコニャック、ウィスキーの分量を増して、煮直し。ですが、煮直した分、夏みかんの味、風味が飛んじゃうんです。

 次いで試したのが、日頃、我が家で常備している「黒砂糖」。
 ところが「黒砂糖」、「グラニュー糖」のようにベタ甘感はなし。ですが、「黒砂糖」の味、風味が濃厚すぎてこれまた「夏みかん」の持ち味、爽快な酸味、風味を殺してしまう。「黒砂糖」そのままでは夏みかんのマーマレード作りには適さない。他の砂糖とブレンドの必要あり、ってことを学習。「過ぎたるは~」ってことでした。

 次いで試したのが「三温糖」。その「三温糖」、精製された「三温糖」だったもんで、グラニュー糖ほどではないにしても、やはりベタ甘を隠せない。なんかないのか、夏みかんのマーマレード作りにうってつけな砂糖!

 そんな折に見つけたのが精製度の少ない「三温糖」。精製された「三温糖」に比べて値が張ります。なんせ値段は2倍ですから。ところが、試してみたら夏みかんの素材の持ち味を損なわずに、甘味があり、酸味があって、苦味もある好みの夏みかんのマーマレードが出来上がり。しかも、コニャック風味、ウィスキー風味、それぞれ個性、持ち味の異なる夏みかんのマーマレードが出来上がった。それを冷蔵庫中で寝かせ続ければ、旨味、風味、コクをましていきます。

 学んだことは、素材の持ち味、個性の見極めってことです。毎年、夏みかんの甘味、酸味、香りが違います。それを見極め、砂糖の種類、吟味、その分量を按配。もしかしたらものによっては「グラニュー糖」のベタ甘が効果大、なんでしょうが、我が家に届く素朴で自然な甘味、酸味を持つ夏みかんには、向いてない。

 ですから、やみくもにレシピ通りの砂糖、分量でジャムを作って煮込んでも、美味しくて風味のあるマーマレードは作れない。それに下拵え、つまり、切り刻んで、砂糖を加えて漬け込んで一晩寝かせたあと、火の通しをどのぐらいにするか、ってこともかなり重要、ってこともわかりました。

 今年届いた夏みかん。切り分けると若々しく、溌剌としていて清々しい味、風味。甘味よりも酸味が立つ感じ。ですが、香りがいつもに比べてまだひ弱。ですが、英断。下拵えは早いうちがいいと、てきぱき処理して砂糖漬けにしたら、香り、風味が立ちました。

 今年の最初のひと鍋分の果肉の切り分けは私が担当。以後、ヘタの水さらし、漬け込む砂糖の分量の按配、煮込みはかみさんが担当。最初の鍋は、いつもとは趣向を変え、砂糖の分量を多めにして、風味付けはコワントロ。さらに煮込みの回数を少なくしたところ、爽快で溌剌としたマーマレードが完成。
 けど、私には甘味が少々過ぎて、やはりべたな感じ。砂糖の分量をかみさんに尋ねてみたら、その甘さにも納得。ただ、爽快な鮮味は煮込み時間の加減によるものだってことが判明。その点も見逃せない。

 「う~んでも、もうちっと苦味あるほうがマーマレードらしかない?」 
 なんてことで、ヘタの部分の水晒しの回数、控え目にしました。それから風味付けはウィスキーで。煮込みの加減、按配したところ、甘味だけでなく適度な苦味ありのマーマレードができました。
 「これ、ちょっと苦味、強すぎない?」とかみさん。
 「こんぐらいでいいんじゃない。しばらく寝かせれば、練れてくるから」と私。
 ですが、甘味、苦味もそうですけど、酸味が案外決め手!
 煮込み、煮直しが過ぎないようにしてその点を按配。
 甘味、酸味、それに苦味のあるのが私のマーマレードの好みです。

2010/01/22

おっといけない!2009年に出会った美味、番外編の2

 2009年に出会った美味、ひとつ忘れてました。
 KK・ミーティングで食べた岐阜の泉屋の「鮎の熟れ寿し」。
 「寄る年波には、勝てないんでしょ?」と小野哲あたりからツッコミがありそうだ。

 今年に入って岐阜の泉屋の泉善七さんから「子持鮎熟れ寿しの【ごはん】を練りこんで作ったガナッシュ『白練りショコラ』が完成いたしました。一度ご賞味いただきたく、熟れ寿しとともにお送りしたいのですが」というメールが到着。

 「そうだ!KK・ミーティングで食べた「子持ち鮎の熟れ寿し」、KK・ミーティングで出会った美味の中ではピカ一、だったことを思い出し、そればかりかあの味、旨味、風味までがしっかり甦りました。

 「子持鮎熟れ寿しの【ごはん】を練りこんで作ったガナッシュ『白練りショコラ』の話はKK・ミーティングの際、試作中だと泉さんから伺いながら「はて、どんなもん?」と想像がつかず。
 届いた『白練りショコラ』。食べて、なんでまた「熟れ寿し」のご飯がチョコレートになるの?」という素朴な疑問が解消。早い話、狙いは「チーズ風味のチョコ」にあったんだと食べて即座にわかりました。納得。要は「熟れ寿し」の塩味、醗酵味、ひね味をチョコレート作りに生かしたもの、なんじゃない?ってことです。

 もっとも、チョコはホワイト。塩味、醗酵味、ヒネ味を生かす為なのか、こってり濃厚なチョコの甘さはうんと控え目(と私には思えました)。それは塩味とのバランスを考えてのことだろうし、近頃、甘味控え目のチョコレート、ケーキが人気、その需要も高いですから、そのあたりも狙い目、なんて思ったりして。ですが、チョコにしろケーキにしろ、こってりぼってり甘いのが好みの私ですから、正直いってホワイトチョコは少々物足りない。

 そして「子持ち鮎の熟れ寿し」。
 「KKミーティングの時に提供したもの(3年前 2007年製)とは年代が違い、昨年漬け上がったいわゆる「新モノ2009年製」ものです。微妙に味が違うと思います」と泉さん。

 確かに「微妙に味が」違いました。「微妙に」どころか、しっかり味、風味が違いました。
 KKミーティングの時に食べた3年前ものは、口にすればぐじゅ、ぼて、どてっとした重量感が舌にのしかかる。まろやか、というのを通り越したような濃密で濃厚、熟した味、風味が舌にまとわる。その味わい、妖艶でなまめかしくて・・・エロティック!
 まさしく「まったり」というの表現がぴったりな感じ、でした。

 それに比べて「新モノ2009年製」。鮎の身、レアというか生な舌触り、味わい。しかも清廉で清々しい。おまけに、熟れ寿しのご飯、きりっとシャープ、とんがったような鮮烈な味わい。しかも、ひりっとした辛味まじりのさわやかで爽快な刺激感がありました。

 その爽やかでシャープな爽快感に、思わず冷酒がほしくなり、試したところ、これがぴったり。
 「いや、まてよ!これならもしや!」と、本醸造をぬる燗で食べ合わせたところ、熟れ寿しが口の中でほどける感じになり、きりっとした印象がゆるやかに。清々しい爽快感がほどけていく感じがたまらない。

 それにしても子持ちの鮎の熟れ寿し、とっても素敵です。鮒寿しでの鮒などとは明確に異なる鮎の素材の味。それに、泉屋の「子持ち鮎の熟れ寿し」の寿し、ご飯そのものが鮮烈で爽快。独得の味、風味があります。

 以上のような感想、泉善七さんに伝えたら、「ホワイトチョコ」「ゴルゴンゾーラチーズのレシピを応用して作り上げました」とうご返事。お!私の解釈と見解、まんざら間違でもなかったんだと判明。

 それから泉屋には「鮎のパテ」があります。それもKK・ミーティングでであったもの。
 泉さんによれば数寄屋橋の「バードランド」の「レバーパテ」をイメージして、鮎の内臓の「うるか」で作ったもの。もっとも、発端ともかく、出来上がった「鮎のパテ」、「うるか」を素材にしてあるだけに、塩味、ひね味、それに旨味しっかり。というだけでなく、甘味やら苦味やらその味わいは複雑で微妙。ねっとりの触感が次第にほどけて味わい、旨味が変化していく宇宙的な広がりに「う~ん」と唸って後の言葉が出ない。

 「子持ち鮎の熟れ寿し」も凄いですけど「鮎のパテ」も格別の味わい。
 清廉で爽快。泉屋の「子持ち鮎の熟れ寿し」や「鮎のパテ」にはそんな表現があてはまるんじゃないでしょうか。

2010/01/08

2009年に出会った美味、番外編

 その1、馴染みの店で食べた「鰤」と「鯖」。
 「一期一会」なんて言いますが、あん時食べた「鰤」と「鯖」、まさにそれ。 多分2度と出会えない、なんて思いました。

 その2、KKミーテイングで食べた「祇園ささ木」の「太巻き」。
 豪放磊落、奔放でいて繊細で緻密。料理人の人となりを物語る「太巻き」。
 その出来栄え、味、風味が印象的でした。

 その3、両国「豆源郷」の「くみあげゆば」。

 両国の「やわらもめん」が看板の両国の「豆源郷」。
 「やわらもめん」は旨い豆腐。かなりのレベルの豆腐ですが、これからますます進化しそうな豆腐です。

 そんな「豆源郷」で見逃せないのが「厚揚げ」と小ぶりの「がんも」。
 ことに「厚揚げ」、冬になるとこさえる「かんとだき」に欠かせません。
 なんてことない普通の「厚揚げ」。ですが、近頃、なんてことない普通の「厚揚げ」をゲットするのが難しい。なんだか子供の頃に食べた「厚揚げ」みたいに懐かしい味がするのが好きな理由。

 「豆源郷」の「厚揚げ」、「かんとだき」にする時には切り分けてますから、揚げた部分もあれば、豆腐そのままむきだしになった部分もある。ですが、周りは出しの味で包まれながら、噛み締めるとじゅわとだしの味がひろがる。なおかつ、だしと一体化した豆腐の存在が感じられる。豆腐の味がする。実は「厚揚げ」や「お揚げ」、「がんも」の類に限らず「豆源郷」の「豆腐」、何にでも寄り添いながら、豆腐の持ち味、個性と存在を発揮、というのがその特徴。奥床しい豆腐です。

 「豆源郷」でもうひとつ見逃せないのが湯葉。
 「くみあげゆば」、「まきゆば」、「平ゆば」の3種ありますが、なんといっても「くみあげゆば」。これまで何度も食べてきましたが、今年2回、「豆源郷」に立ち寄ってゲットした「くみあげゆば」、格段の進歩。

 舌にまとわるねっとりの滑らかな触感。舌を撫でていく感触がたまらない。しかもその味、濃密。しかも、清廉で素朴、純な味わい。同時にしみじみと滋味深い。うっとりとなりました。
 画像は「豆源郷」のサイトから借用。
 ピンボケなのがご愛嬌。

 店主の横井康之さんが仕込んだ豆乳を、湯煎し、出来たうすめのゆばを豆乳と一緒に汲み上げるのは横井さんのかみさんの役目。絶妙のコンビが成せる技、ってことですか。

 「くみあげゆば」も今後一層の進化の一途をたどりそう。
 ですが「やわらもめん」よりも先に高いハードル越えちゃった。
 「豆源郷」の「ゆば」、「豆腐」、揚げ物類から目を離せません。

2010/01/06

2009年に出会った美味の3

 2009年に出会った美味の3は「新しい味、新しい店との出会い」。
 「新しい味との出会い」ってことで最も印象に残ったのはマンダリンホテル東京の「センス」の「酢豚」。
  「酢豚」と言えば「黒醋」を使ったここずっと「酢豚」が人気。10年前には考えられなかったことです。
 そんな「黒醋」を使った「酢豚」を超えて、新たな創意と工夫を凝らしてあるのがマンダリンホテル東京「センス」の「酢豚」。
 初めて食べた時「へ~!?こんなのあり、なんだ!」と驚きました。 なんといっても「センス」と関わり深いマンダリンホテル香港の「文華」の料理人も感心し、レシピを尋ねた!という一品。これもブログでは紹介してきませんでした。

 実は「センス」の「酢豚」、中国産ワインの「長城」をたっぷり使って煮込んだもの。つまりは豚肉のワイン煮込み、なんですね。火を通したワインがもたらす効果、酸味、甘味、果実フルーティーな風味を生かしたもので、その着眼が面白い。

 それだけじゃありません。実は豚肉にパイナップルの小片が忍ばせてある。豚肉がパイナップルの小片を包み込んでいる、という按配。
 噛み締めると爽快な果実の酸味がほとばしる。
 いきなりのことだけに「エ?エ?これ何?何の味?」と、最初はどぎまぎ。
 ですが、すぐさま「これ、パイナップルだ!」とわかります。
 そんな意外性にとんだ仕掛けだけじゃなくて、ワインの酸味、甘味、フルーティな味、風味、なによりもこくのある味にインパクトあり。

 ワイン風味の「酢豚」を考案したのは料理長の高瀬健一さん。
 仙台のホテルの広東料理店を振り出しに、いくつかのホテルの広東料理店に勤務するうち香港の広東料理に目覚め、香港通いを続けてきた料理人。しかもその表層だけでなく根っ子にある広東地方の伝統的な郷土料理に関心を持ち、素材、調味料、その組み合わせを追求。
 おまけに香港だけに限らず、広東料理とも関わりの深いシンガポール、マレーシアやタイなど東南アジアへの食探求の旅へ。ことに、一時、不況のあおりから低迷していた香港にとって代わっり、モダンで斬新な新派的趣向による広東料理を生んできたシンガポールの最新の広東料理事情に詳しい。

 もっとも、香港や東南アジアで学んできたものをそのまま日本で実践しても、日本の客には容易には受け入れられない。塩漬け醗酵魚の「咸魚」にしろ「あみ」を醗酵させた「蝦醤」などのクセのある調味料、好きな人はたまりませんが、やはり日本では一般的にはまだまだ抵抗がある。
 そんな日本の中国料理事情、一般客の嗜好を見据えながら、広東地方独自の調味料をふんだんに活用。さりげなく、でもなく、かといって出過ぎないように、というその使い方、按配が面白い。
 清淡、つまりはサッパリした味を求めながら、中国料理となるとそこに程ほどの味の濃さ、インパクトを求める、というのが一般的な日本人が求める中国料理の味。というあたりを見はからい、味付けは少々濃い目でめりはりを利かせてある。

 さらに、そのプレゼンテーション、フレンチやイタリアンの手法を積極的に取り入れたもので、平面的には空間、隙間のあるレイアウト。さらに、立体感のある盛り付けを織り込むといった寸法。
 それでいて、素材の扱い、組み合わせ、味付け、調理はしっかり広東料理の伝統的な手法を下敷きにしたもの。ということでは、ヌーベル・シノワ、というよりもネオ・クラシック・チャイニーズというにふさわしい。しかも、日本人としての視線、嗜好、主張がそこにある。

 そんなわけでマンダリンホテル東京の「センス」の料理の数々、メニューの料理名を見て、その素材、味付け、調理は判明しても、プレゼンテーションを含めて想像の域を脱した料理が目の前に現れる。なんてことで「センス」では高瀬さんにおまかせ。

 新しい店との出会いということでは中野の「蔡菜食堂」。
 寧波風味の家庭料理は心和みます。
 蔡さん、プロフェッショナルな料理人ではありませんが、ご夫妻のおふくろから学んだほのぼのとして心温まる味をそのまま再現。

 それから恵比寿の「MASA’S KITCHEN 47」。
 かみさんの中国語教室の忘年会をやったもんで、私も参加。
 店主の鯰江さん、文琳時代からの顔なじみ。
 「絶対に食べてください!」と鯰江さんお薦めの「ふかひれのステーキ」に興味津々。
 
 「ふかひれのステーキ」は私、初体験。
 日本人の中国料理人による日本ならではの中国料理の工夫が、そこにありました。
 新世代の料理人の話、今年のテーマのひとつなりそうです。

2010/01/05

2009年に出会った美味の2の2

 2009年に出会った美味の2の2。
 「赤坂璃宮」銀座店の昨年のベストの続きです。
 「湯類」のベスト、ナンバー1は「順徳魚雲羹」。
 続いて、広東地方の郷土料理の大菜、小菜の類の部です。
 思い浮かぶのは鶏を素材にしたいくつかの料理。
 まずは「大澳香酥鶏/伊達鶏の蝦醤風味揚げ」。
 それに「家郷鹽焗鶏/比内地鶏のオーブン焼き。
 豚のレバーと炒め合わせた土鍋仕立ての「豬肝滑鶏煲/啫啫鶏煲」。

 魚介の料理では蛤を素材に茶碗蒸し風仕立ての「鮮文蛤水蛋」。
 本来は淡水魚の「鯪魚」が素材。それを鱸に替え、つみれ団子仕立てにして揚げ、「蜆介醤」で炒めあわせた「蜆介炸魚球」。
 白身魚のぶつ切りを皮付きバラ肉の「焼肉」と煮込んだ「蒜子火腩魚球煲」。
 大船渡、赤崎のシダッチの「赤崎冬香」と皮付きバラ肉の「焼肉」と煮込んだ「火腩生蠔煲」。
 以上の内、「鮮文蛤水蛋」と「火腩生蠔煲」は旬の素材を使った季節料理。

 豚肉の料理では南乳風味のスペアリブの揚げ物の「乳香脆排骨」。
 それから豆腐料理ですが、豆腐と皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」を揚げて土鍋で煮込んだ「蝦醤」の風味の「大馬站煲」。

 野菜料理では蓮根と豚挽き肉を素材にした「家郷蓮藕餅」。
 「芥菜胆」を「蕾菜」に置き換えて上湯の煮浸し仕立てにした「上湯浸蕾菜」。
 十勝瓜を大蒜風味で蒸した「生熟蒜蒸勝瓜」。
 いずれも「走り」の素材を生かした季節料理でした。

 そうそう、前菜に出てきた塩漬け家鴨の「塩水鴨」。これが旨かった。
 それに「とんとろ」を唐辛子風味で釜焼きにした「辣焼豬爽肉」。
 私、早速、「とんとろ」のスライスではなく塊をゲット。グリルを使って「辣焼豬爽肉」をアレンジしたなんちゃって!を再現。
 「とんとろ」の噛み応えのある肉質、なんだか牛のさがり、腹身肉のバベットに通じるものがあって、やみつきになります。焼き肉用にスライスしたものより、断然、塊でゲットして調理するのがグッド。

 大菜では農歴(旧暦)の小正月の宴会に登場する盛り沢山な内容の「圍村大盆菜」なんてのに驚きました。ちょいとばかり興奮しました。
 それに「豆腐」に「なまこ」、「冬菇」を「蝦子」の風味で煮込んだ「蝦子参豆腐」の上品で洗練された繊細な極上の美味も忘れ難い。

 それから「面・飯」。
 2種の腸詰に「腊肉」を加えた「腊味煲仔飯」。
 もみじ(鶏の爪)とスペアリブを具にした「鳳爪排骨煲仔飯」。
 「柱侯醤」で牛ばら肉、筋肉を煮込んだ具を素材にした「柱侯牛腩河」。
 袁さんの鍋技の技量が物語る「赤坂璃宮」自家製の「河粉」の炒め物の「干炒沙河粉」。
 中国たまり醤油の「老抽」で味付けした「豉油皇炒面」。
 卵入り面の「伊面」を干し鮑の戻し汁の「鮑汁」で味付けした「鮑汁炆伊面」。

 ですが、なんといっても「面・飯」の極めつけは、これぞ香港の味!
 甘辛味の香港式炸醤面の「炸醤撈面」以外にありません。
 日本で食べられるなんて思いもよりませんでしたから。
 そうです、「面・飯」のベストは「炸醤撈面」。
                                                                                                                             




 そして、「八寶冬瓜盅」や「圍村大盆菜」などの大菜、それに、えびや魚を素材した海鮮料理を別にして、選んだ広東地方の家郷菜の小菜のベスト5は以下の通り。

 「鮮文蛤水蛋/蛤の中国風茶碗蒸し」(09年2月)
 「家郷蓮藕餅/蓮根と豚挽き肉の煎り焼き」(09年5月)
 「大澳香酥鶏/伊達鶏の蝦醤風味揚げ」(09年4月)
 「蜆介魚球煲/魚のすり身の揚げもの 蜆介醤添え」(09年6月)
 「家郷鹽焗鶏/比内鶏のオーブン焼き」(09年10月)

 以上の中で一品だけ選ぶとしたら・・・・・「大澳香酥鶏」に決定!
                                               







そして甜品。色々ありましたが中でも絶品だったのは鳩の卵入りの「紅蓮燉春蛋」。                                                                                      








なんてことで、昨年「赤坂璃宮」銀座店、料理長の袁さんの手になる料理のベストを選んでコースを組み立て、広東地方の郷土料理の真髄を味わう、なんて企画、なんとか実現したいと思い立ちました。

 いずれの料理とも、事前に予約の必要あり。いきなり「赤坂璃宮」銀座店にでかけて注文は不可能です。予約して楽しむだけの値打ちはあり。ですが、なんといっても日本で香港の味、広東料理の真髄が味わえるというのは実に貴重。はたして今年はどんな料理に出会えるのか。大いに楽しみです。

2009年に出会った美味の2の1

 続いては「赤坂璃宮」銀座店のマイ・ベスト/ファイヴァリット。
 昨年、「赤坂璃宮」銀座店で一年を通して食べた料理の総数は72品。前菜が14種。湯類、大菜、小菜の数が47品。面・飯の類が11品。

 前菜の一部、湯類、大菜、小菜、それに面・飯のほとんどは譚さん指導のもと料理長の袁さんの手になるもの。干貨素材や新鮮な魚介による海鮮料理、広東地方の郷土料理、小菜の数々です。加えて甜品の数々が11品。しかも8月以来、久保田点心料理長による昔懐かしい伝統的な「懷舊甜品」が5品ということで計16品。
そんな中からベストを選ぶとなるとあれこれ迷います。

 たとえば湯類。豚肉、鶏肉の各部位、内蔵などを使った煮込みスープの「老火湯」の数々。豚の胃、舌、肝臓や肺を主素材に、「アメリカ朝鮮人参」の「花旗参」などの漢方素材、「銀杏」や「落花生」などの木の実の類、「大豆」の類などが加えてとろ火で長時間煮込んだものなど自然で素朴、ほのぼのと心温まるしみじみとした滋味深い味わいです。

 日本の広東料理店、ことにホテル内にある広東料理店には「例湯」、それも「老火湯」の類、供されるようになりましたが何かアレンジしてあるのがほとんど。袁さんの「老火湯」も時にアレンジしてありますが、根っ子のところはしっかり広東料理。アレンジする際の素材の組み合わせ、ハズレがない。まんま香港、広東地方の「老火湯」なのがほんとに嬉しい。日本にいるってことを忘れさせてくれますから。

 そういえば、宴会の華、冬瓜を容器仕立てにし具材ととものまるごと蒸した大菜の「八寶冬瓜盅」なんてのもありました。

 そんな「老火湯」の中でも印象に残っているのは「栗子花生煲鶏脚」。
 鶏の脚、つまりは「もみじ」と落花生を具材にした「老火湯」。香港、広東地方の家庭でも頻繁に作られるスープです。そこに豚のシッポを加えたもので、コラーゲンたっぷり。そんなことから日本の料理名は「コラーゲンたっぷりスープ」。

 それに「金銀菜豬肺」も味わい深かった。豚の肺にレバーを加え、中国アーモンドの「杏仁」、さらには新鮮なものと干したものの2種の広東白菜を加えられてます。広東白菜、日本でも入手可能になりましたが、こんな風にしてスープに使うというのは滅多にない。

 ですが、スープの中で絶品だったのは「順徳魚雲羹」。
 順徳地方の郷土料理で、本来は淡水魚の「鯇魚」や「鯪魚」を素材にしますが、日本ではその調達が不可能。そんなところで袁さん、素材にしたのは鰤と鯛のアラ。

 ですが、淡水魚に特有のクセがあるように、海水魚にも特有のクセがある。それをどうやって処理するか。そんな課題を、袁さん見事にクリアー。素材の生かし方、香味野菜の使い方、その加減、按配など、袁さんの手腕に目を見張りました。

 日本じゃ絶対味わえないに違いないと思っていた「順徳魚雲羹」。
 日本の素材、しかも、海水魚を使い、素朴な味のエッセンスを残し、洗練された上品な味わい、風味に仕上られてました。後に海水魚の「はた」のアラと豆腐のスープも登場。ですが「順徳魚雲羹」が断然、光り輝いてました。

2010/01/04

2009年に出会った美味の1

 正月2日目。日高市の高麗神社へ初詣。
 昨年、初めて訪れ、高麗神社が放つオーラに惹かれ、今年も参拝。今年もなんだか不思議に高揚感を味わいました。我が家から往復5時間ほどの旅の後は新年の挨拶まわり。

 そして本日は、年賀状の整理や明日からの仕事始めの準備。
 そういえば、昨夏、NHKのFM放送40周年記念の一環として特別復活した「クロスオーバー・イレブン」が好評を呼んで、「クロスオーバーイレブン2010新春」として再々復活。1月4日から8日まで放送されます。

 さて、昨年、撮影した画像整理の傍ら、思いついたのが昨年出会った美味の選出。
 まずは「福臨門酒家」銀座店で9月に食べた「迷你佛跳牆」。
 ブログでの紹介はしませんでしたが、昨年、出会った忘れ難い味のひとつ。

久々に味わった「佛跳牆」。
「迷你」とあるようにこれまで食べた「佛跳牆」とはいささか異なりました。

 福臨門のブログでの紹介によれば、たとえばふかひれ、本来は「生翅」を使うところ「荷包翅」に替えてあるのと、干し鮑のサイズが小ぶりなのが「迷你」の由来、だそうで。

 ふかひれ、干し鮑以外の素材は、魚の浮き袋、なまこ、スッポン、鶏肉、干し椎茸、豚のアキレス腱、干し貝柱など10種。

 その昔、香港のいくつかの店、それに本土でも「佛跳牆」を体験しましたが、その極め付け、極上の「佛跳牆」は福臨門のそれでした。中でも忘れ難いのは86年だったか、週刊文春でマスヒロ先生を香港に案内という企画を実施した際、福臨門九龍店のマネージャーの梁保先生が考案した一人用の「佛跳牆」。本来は大きな燉盅で多人数分作る「佛跳牆」を、小ぶりの燉盅を使い、一人用にしたもの。

 今回の「迷你佛跳牆」、その流れを汲むものといっていいでしょう。もっとも、中味に関してはいささかの変更あり。魚の浮き袋、なまこ、スッポン、干し貝柱は同じですが、豚ではなく鹿のアキレス腱だったこと。それに髪菜や幾種かの漢方素材が入っていたことがその違いかな。
 それにもうひとつ、スープ、つまりは上湯が少なめ。実はそこんとこ、今回の「迷你佛跳牆」の特徴のひとつになって新たな効果を発揮。

 「佛跳牆」の素晴らしさ、修行中の坊さんがその匂いに惹かれて塀を跳び超えた、なんて料理名の由来通り、馥郁とした「香」が官能的。
 心身を惑わせる煩悩の権化というにふさわしい。

 まずはふかひれ。確かに「生翅」に比べれば翅絲は細め。ですが、ぷりぷちの歯触り、噛み応えで、しかも、分量もたっぷり。う~ん、たまんねえ。
 次いで鮑を取り出し、別皿でナイフとフォークで切り分ける。32頭(って鮑の大きさです)ってことですが、なんだか31頭の感じ。
 
 しっかりフォークで押さえてないと切り分けられないぐらいの粘着度。その断面はほのかにピンクがかった好みの戻し具合。噛みしめれば歯にすっと入る柔らかさ。しかも、歯や歯茎にまとわりついて離れない。そのねっとり感の妖艶な触感に身震い!ほんとですから。
 干し鮑ってほんとエロティック。最良のキスを味わっているような触感に身悶え!濃密な磯の香の最良のエッセンスを凝縮した味わい、風味が堪らない。

 そして魚の浮き袋。歯がすっと入る柔らかさは干し鮑にも似てます。ですが、ぷるんと弾けて跳ね返すようなしなやかな弾力あり。しかもねっとり感の粘着性とともに、独得の繊維質でちゅういーな触感あり。しかも、噛み締めれば、これまた磯の味、風味がする。それも干し鮑とは異なる磯の香り。

 なんて具合に具材のひとつひとつ、味、風味を堪能するうち、唇、腔内はべろべろねっとりのコラーゲンの膜が幾重にも張り付いて離れない。以前、食べた「佛跳牆」よりもスープが少なめ。だったのはふかひれ、干し鮑、魚の浮き袋にスッポンや豚のアキレス腱が生み出すコラーゲンの濃度、密度を高めるためのものだってことに気づきました。

 「迷你佛跳牆」、その料理名からするとエコ(って、エコロジーじゃなく、エコノミーな)デフュージョン的イメージですけど、そんなもんじゃない。「佛跳牆」の真髄である「香」だけでなく、味、風味に加え「コラーゲン」の効用、効果を美味化した「ネオ・クラシック」的思考による伝統料理の今日的展開の極意、極めつけなのだと確信しました。

2010/01/02

賀正2010

 新しい年を迎えました。
 今年、一体どういう年になるのやら。
 大晦日、例年の慣わし、知人宅で紅白歌合戦とゆく年くる年を見ながら年越しそば。
 駅前の地元の住人御用達の増田屋のそばですが、これが格別に旨かった。

 その帰り、思い立って地元の氏神様の喜多見の氷川神社に初詣。
 そこで梅枝にニワトコを挿した「アボヘボ(粟ボ稗ボ)」をゲット。
   http://www5e.biglobe.ne.jp/~hikawa-j/

 去年は入手しそこねた暦を開くと、今年の「九紫火星」の運周り「吉」とあったのに嬉しくなりました。

2009/12/31

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして甜品。なんとうれしいことに「紅豆沙」が登場。
 中国風のお汁粉です。日本のお汁粉のように甘味ぼってりの濃厚なものじゃなく、すっきりさっぱり。みかんを干した「陳皮」の酸味、苦味、フルーティーな味が生かされたもの。
 「紅豆沙」は冷たいものと熱いものがありますが」と柏木さん。
 私は躊躇なく「熱いの!」を所望。
 というのも、冷たい「紅豆沙」、すっきり、爽やかですけど、なんだか胃が冷たくなる感じ。

 それに比べて熱い「紅豆沙」、ほのぼのとした和み味。というだけでなく、胃に優しくって消化をうながしてくれる感じですから。ン!? もしかしてデザートは別腹ってやつなのかなあ。

 「紅豆沙」の登場を待つまでに現れたのが点心料理長の久保田さんによる伝統的な点心。

 今回は「馬拉糕」。ですが、伝統的なそれじゃなくって柚子風味。伝統的な点心を下敷きにした現代的/今日的点心、ってわけですね。上品で洗練された味わいでした。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 締めくくりの「面・飯」。今回は「豉油皇炒麺/もやし入り醤油焼きそば」。
 私の好みの一品です。細めの生麵を醤油味、それも中国たまり醤油の「老抽」で炒めたもの。具はもやし、それに玉葱。もやしのひげ、根はしかっり切り取られてます。こういうあたりのこまやかな仕事こそ、美味を生み出す要因です。長野出身の平林君、頑張ったのかな。

 そして、味付けの「老抽」、中国たまり醤油、以前は日本では珍しかったものですが、近頃「老抽」を味付けに使った炒飯や炒麺、いろんなところでお目にかかるようになりました。ですが、たいていの場合、なんだか「老抽」を使いすぎな印象です。
 「老抽」、色は濃くて黒いですが、塩味控え目。なんてことから、日本の中華、中国料理、一般的に濃い味が好まれる、なんてことからたっぷり使われるのでしょうか。その分、色が濃くなる。その色の濃さを売り物、看板にした炒飯もあり。なんて、本土、香港あたりでは滅多に出会えない。というよりありえない。
 
 その点、「赤坂璃宮」銀座店の「豉油皇炒麺/もやし入り醤油焼きそば」、「老抽」の使い方、その味付け、色合いは控え目。まさしく本場の味、風味を再現してくれるのが嬉しい。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 そして「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」。
 大皿盛りで披露はなしにいきなり小皿盛りで登場。 「豆腐がメイン?それよりも海参(なまこ)、それに干椎茸の2種の干貨が目立ってます。
 豆腐を干した海老の子の「蝦子」で味付け、風味付けにした豆腐料理は中国各地にあり。ことに北京、というより厳密には山東料理地方の名菜にもなってます。もちろん、広東地方にもあって、広東料理店のメニューに並んでます。

 そして一緒に登場のなまこの料理にも「蝦子」で味、風味付けした「蝦子海参」というのもあり。おまけに肉厚の干し椎茸(どうやら「冬菇」のようす)。「蝦子豆腐」も乙なもの。ですが私はそれ以上に干貨素材の干しなまこと干し椎茸に盛り上がる。

 実は日頃、家郷菜/郷土料理、それに惣菜的な家庭料理を中心にしたコースを組み立てるとなると、コースを引き締めるような一品か二品、組み入れたくなります。それに家郷菜/郷土料理の中には高級な素材を使った料理もあって、きちんとした宴席に登場、なんてことが多い。

 たとえばスッポンの一種の「山瑞」を醤油煮込みにした「紅炆山瑞」。それにおおきくてでっかい淡水のウナギで背中が錦模様の「花錦鱔」を素材にした「紅焼花錦鱔」なんかがそうですね。SARS禍以来ご法度になってしまった「果子狸/ハクビシン」なんてのもありました。

 もしくは海鮮の魚、値段がはりますけど、組み入れる。それも蒸し魚なんかじゃなくて、石斑/はたを豚肉の細切りなどと煮込んだ「紅炆海斑」にしたり、丸揚げの「油浸海斑」なんかにする。ですがやっぱり干貨。それも干し鮑では目が飛び出るほどの値段になりますからそれはおいて、花膠/干した魚の浮き袋。そうか、花膠も最近、値上がりがすごくってそう簡単に口にはできないか。
 
 というところで干しなまこが登場。
 干しなまこも色々種類あり。中には目が飛び出るほどの値段のものもありますが、リーゾナブルな値段のものもあり。それを干し椎茸、ことに肉厚の「冬菇」、さらには冬筍なんかと組み合わせる。そこに鵞鳥の掌なんかが加われば文句なし。なんてことで、私は今回の「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」で干しなまこと干椎茸に盛り上がった、と言う次第。

 ですが、豆腐もなかなか、いや、かなりのものでした。
 「蝦子」独得のクセを抑えてその味、風味を生かしてあります。おまけに、とろみのある衣で包まれてますけど、その衣、北方のそれや日本の北京料理を看板にする店の「蝦子豆腐」のように、ぼってりのもんじゃない。絹の衣に包まれたように透明感のあるうっすらとしたとろみ付け、衣加減。しかも「蝦子」の味、風味が、口中で噛み締めてみて、じんわりと顔をのぞかせはじめる。その上品で洗練された気品のある奥床しい味わい、風味に打ちのめされました。こんな豆腐の料理、あり?なんて感じです。

 おまけになまこ。その戻し加減がいいですね。ぷりっとした触感が快感。わ、なんつう贅沢、と思いました。さらに干し椎茸。噛み締めるとじゅわっと旨味、独得の風味が口中に広がる。

 この料理、まさしく本日のメイン・ディッシュ。
 出来れば「金銀菜豬肺」のあとに食べたかった。
 広東料理の干貨の扱い、その調理、味付けの見事さを物語る一品。つまりは、袁さんの腕、技がすごい、ってことですね。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の5

それから「清蒸沙姜鶏/伊達鶏の生姜蒸し」。
伊達鶏の骨付きのぶつ切り、胸肉。さらには砂肝、レバー、ハツを生姜と上湯とともに蒸したもの。
 伊達鶏のぶつ切り。皮はぷるん。噛み締めると肉はしっとり潤んでます。肉質は緻密。ですけど、10月に食べた「鹽焗鶏」の比内鶏の野生味のある肉質、味、風味からするとおとなしい。ですけど、憎い!なんて思ったのは、生姜の風味漬け。

 生姜たっぷり、のはずなのに生姜の味、風味、さほど感じない。普通ならこの種の料理、生姜のひり味、辛味、風味、しっかり目立つくらいの感じで仕上られてますけど、そういう押し付けがましさは皆無。噛み締めて「ほのかに」!というあたりの生姜の使い方の按配、袁さんの技、その手腕を感じました。

 さらに袁さんの手腕、ますます感じたのが砂肝とレバー。
 それぞれ、特有の持ち味、というかくさみがあります。それが皆無。生姜の風味がなせる技。それに上湯でしょう。ことに砂肝、しっとりとして柔らかい。その柔らかさ、火の通りのなせる技。それにレバー、これもまた独得のクセがありますが、そういうものなしで、ねっとり感を味わいました。
 

2009/12/30

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「芥蘭双腊腸/腸詰と芥蘭の炒め」。

「双腊腸」というのは豚肉の腸詰の「腊腸/臘腸」、家鴨の肝臓を混ぜ合わせた腸詰の「(鴨)潤腸」の2種の腸詰のこと。
 この時期、つまり、年の暮れの12月、旧暦では「師走」と言いますが中国の農歴では「臘月」と言うのが一般的。
 秋の実りの収穫を終えた後、冬に備えて肥えた家畜や家禽類を潰し、あらゆる部位を様々に仕込んで備蓄します。というのは中国でもヨローッパはじめ肉食文化の発達したところは一般的、ですよね。

 腸詰の「腊腸」、「(鴨)潤腸」はその産物。他に皮付きばら肉をほした「腊肉」、家鴨の身を塩漬けにして干した「油鴨」なんてのもあります。「腊腸」、「潤腸」に「腊肉」、「油鴨」は、新米を使った炊き込みご飯の「腊味煲炒飯」に欠かせない。それに「油鴨」はたろ芋と煮込みココナッツジュースで味付けした「荔芋油鴨煲」がその代表的な料理。
ちなみに「油鴨」、塩味が強くて独得のくせがあります。おまけに日本ではなかなか入手が難しい。なんてことから、我が家では家鴨か鶏の骨付きのぶつ切りを塩でしばし漬け込み、たろ芋じゃなくて里芋や海老芋、それに唐の芋で代用し、ココナッツ・ジュースを味付けにしたなんちゃって「荔芋油鴨煲」もどきを作ります。我が家の冬場の食卓にしばしば登場。
 そうだ、今度、袁さんに鶏肉でやってもらおう!

 またまた話がそれました。話戻して「芥蘭双腊腸/腸詰と芥蘭の炒め」は2種の腸詰めと「芥蘭」を炒め合わせたもの。
 「芥蘭」はアブラナ科の一種でキャベツの仲間。英語名はチャイニーズ・ケール。ですが、その茎の部分の触感、ブロッコリーに似ていて、キャベツとブロッコリーの合いの子みたい、なんてことからチャイニーズ・ブロッコリーとの異名もあり。
 茎はブロッコリーで、青い味、甘味もあり。ですが、葉はキャベツ、というよりも芥子菜に似た味、風味で苦味、辛味があります。香港や広東地方では旬の時期になると市場に並び、料理店のメニューにも並びます。
 「芥蘭」はそのまま炒めたり、茹でて、オイスターソースをかけて食べる、というのが一般的。それと同じくらい親しまれているのが「腊味」と炒め合わせたもの。「腊腸」だけでもいいですが、私は今回のように「(鴨)潤腸」も一緒に。出来れば「腊肉」も!なんてついつい欲がでる。
 ですけど豚の腸詰の「腊腸」はともかく、家鴨の肝臓入りの「(鴨)潤腸」の入手が日本では難しい。というだけでも嬉しい。有難くなります。
 おまけに「芥蘭」との炒めもの。それも「芥蘭」、日本ではなかなか入手が難しい。入手できたとしても茎が細身で華奢で甘味不足やら、葉も辛味、苦味が今ひとつ、なんてのがほとんど。それに比べて、今回の「芥蘭」、茎の太さはしっかりで青い味、それに甘味があり。これだけの「芥蘭」なかなか日本ではみつけられない。なんてことにも関心しました。
ちなみに「芥蘭」、それに「菜心」などの茎のしっかりした青野菜、香港からやってきた仲間のほとんどが日本滞在何日かすると、食べたくなるようで「どっかで食べられないかなあ?」なんてよく尋ねられます。

 野菜不足のせい?なんて尋ねると「ま、そうでもあるんだけど」と返事はあいまい。よくよく尋ねると、レタスはじめ日本の料理店で食べられる緑野菜はほとんどが生のまんま。それに、私の知り合いの香港の友人たち、日本の緑野菜は味が薄くて香りがしないとは一様に口にすることで、ドレッシングはじめ余計なものが必要になる。最初の内は生野菜でもOK。ですが、そのうち火を通した野菜を食べたくなるそうで。

 「お浸し」があるんだけど、茹でてだしで煮含めものが、なんていっても、わざわざそれを食べに日本料理屋にでかけるほどのこともなし。それに、よほどの日本料理通以外、手を出さないんですね。
 で、私の知り合いの香港の友人たちが「芥蘭」や「菜心」を食べたくなる、しかも、体が欲する理由は、その繊維質に秘密あり。つまり、腸の消化の手助けになる(っていう理由、書かずともわかっていただけますよね)っていうことにありってことが判明。
 そういえば、香港に食べ歩きに出かける私の友人にも同様の悩みを抱えるらしくて「おひたし」が食べたい!と。そんな人に「上湯」で煮浸しにした青菜の料理の類をお薦めします。ですが、そのだし、日本の「おひたし」のように昆布、鰹節などの魚介系のそれと違って、痩肉、鶏肉、中国ハムと「肉食系」のそれですから、ちょっとなじめない、なんて人も。野菜の食べ方、だしの違い、それぞれお国柄あり、ってことです。
 そうそう「腊腸」や「潤腸」などの「腊味」の類、香港の街中に色々老舗あり。
 それぞれに工夫があって味、風味は様々。それに「玫瑰露」はじめ各種の酒、焼酎の類が使われていることもあって、それがネック、という人もありですが。
 それで、街中でゲットしそびれた場合には香港の赤鱲角國際機場に榮華の出店で調達という方法あります!

2009/12/29

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そしてスープ。今月は「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」。
 「豬肺/豚の肺」という文字を見ただけで盛り上がりました。「豬肺/豚の肺」に「杏仁」つまりは中国アーモンドととも煮込んだスープは私の大好物。
 陸羽茶室の「豬肺杏仁湯」は陸羽茶室の名物、看板料理のひとつ。「陸羽茶室」でデイナーを楽しむ時には欠かせない、外せないほどの逸品。
 「豬肺杏仁湯」、陸羽茶室だけに限らず伝統的な広東料理、しかも「家郷風味」を看板にする広東料理店なら必ずといっていいほどメニューにあります。たとえば○○の△△や○○の△△。それに○○の△△(意地悪ですねえ!)。

 おまけに「金銀菜」というのに大いに惹かれまして。つまり「金」というのは干したひね味のする「広東白菜」。「銀」というのは甘味と独得の味、風味がある新鮮な「広東白菜」。そのふたつを組みあわせる、なんて日本の広東料理店では滅多にない。

 それだけじゃありませんでした。この「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」には豚の肺だけじゃなくって豚のレバーも加えてありました。私は初体験!
 この種の煮込みスープの煲湯。素材の持ち味がそのまま煮出した素朴でほのぼのとした味、風味が特徴です。体に良くってほのぼのとしたこころ和むスープです。しかも杏仁の苦味、渋味、蜜棗の甘味が、スープに滲み出てます。

 ですが、いつもとちょっと違うのは「豬肺」、さらには「豬肝」が加わって、やはり内蔵の独得の味、風味がする。それも「豬肺」そのものは味気のない感じですが「豬肝」はやはり血の味、鉄分が入り混じった独得のクセ、匂いがある。それをほのかな感じにしているのは「杏仁」と「蜜棗」、でしょう。

 そしてスープそのものは滋味深くて、しみじみとした味わいあり。
 出し殻、抜け殻の「豬肺」。まるでスポンジ状で、口にいれればホワットした触感ですけど、噛み締めると肺に残っていたスープがじゅわと滲み出る。「豬肝」は、ねっとり感こそ薄れてますけど、ぷるんの触感で、上湯とたまり醤油仕立てのたれに浸して食べると、乙な感じ。
 香港の伝統的な広東料理を看板にする店では「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」は定番の一品。ですが、日本じゃ滅多に食べられない。
 それに出会えた、有りつけられたというだけでも盛り上がります。
 なんてことだけじゃない滋味深い味、風味に、全員、こぼすのはため息ばかり、なのでありました。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。牡蠣を具にした卵焼きです。
 牡蠣が採れる中国東部から南部にかけての沿岸部各地にそれぞれ特徴のある牡蠣の卵焼きがあります。

 台湾の「蚵仔煎」はその代表的なもの。なんて私、台湾の「蚵仔煎」は未体験なものですから、知ったかぶり。どうやら卵と粉をつなぎにして青野菜などを入れて煎り焼きにし、甘味の利いたたれをたっぷり!というのが台湾の「蚵仔煎」だそうで。台湾の屋台店で見かけたことがありますが、あれがそうだったのかも。

 その「蚵仔煎」の原型とされるのが福建のそれ。これまた私、未体験。その隣、潮州にもあり。その名は「煎蠔餅」。
 潮州料理の牡蠣のかき揚げの「蠔烙」はそのバリエーション。卵は鶏卵ではなく「鴨蛋」、つまりは家鴨の卵を使い粉を混ぜ、「豬油」、つまりはラードでしっかり揚げる、というのがその特徴。

 そして広東地方にもあり。私、広州で食べたことがあります。その時仕入れた話によれば淡水の川蝦を素材にした「煎蝦餅」と並んで順徳/太良はじめ広東省の南西部の沿岸地区の代表的な郷土料理ってことでした。

 潮州の「煎蠔餅/蠔烙」が、かき揚げ風にその形状、ぼってり、どってり。それに対して、広州で食べた「煎蠔餅」は、卵と粉をつなぎにした牡蠣入り具材を、丸く、平べったくして煎り焼きにしたもの。さながら牡蠣入りのオムレツ。それもぼってりの厚みのあるものじゃなくって、ピザ風に丸くて平べったい。しかも、潮州風にしろ広州(広東)風にしろ、牡蠣は小粒のそれ、というのが特徴です。

 「牡蠣入りの卵焼き」ということでは、私が愛してやまない「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」こそは、広州で食べた「煎牡蠣」、広東地方の郷土料理の伝統を受け継ぐもの。
 
 「神戸元町別館牡丹園」の今は亡き先代の王熾炳さんは、広東省東南部の新會の出身。というわけで「神戸元町別館牡丹園」には広東地方東南部の郷土料理を下敷きに、日本で調達可能な素材を使った料理の数々がメニューに並んでます。目玉焼きをテッペンにのっけた焼きそばだけが名物だけではありません。

 広東地方東南部の郷土料理の伝統を受け継いだ「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」。牡蠣が旬を迎える冬場の季節料理ですが、その牡蠣、今は伊勢の鳥羽の的矢の牡蠣ですが、以前は広島の牡蠣だったはず。

 話を戻して「赤坂璃宮」銀座店の袁さんの「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。
 「牡蠣は赤崎の牡蠣です」とアテンドの柏木さん。
 「赤崎って大船渡の?もしかして「シダッチ」の牡蠣?」と私。
 「ええ、そうです。「シダッチ」の「赤坂冬香」です!」
 「ええ~!こんなところで「赤崎冬香」にご対面、とは!」と私。

 先月、触れた通り、私の好みの牡蠣は大船渡の赤崎産。
 志田兄弟の兄の恵洋さんが経営する「シダッチ」の3年ものの「赤崎冬香」か、1年未満の処女牡蠣の「姫」。もしくはそれに準じた志田兄弟の弟の建志さんが経営する「三陸シーファーム」のもの。
 そして、先月の「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」のどってりぼってりのでっかい牡蠣の正体が判明、となった次第。

 具は牡蠣の他にニラ。卵がたっぷりってことを物語るように、表面は黄金色。しかも、色艶、照りのある焼き色です。「脆」よりも「酥」の感じです。噛み締めると火が通ってますけど、しっとりの触感が残ってる。しかも、切り分けたでっかい「赤崎冬香」の身がたっぷり。おまけにぐじゅ感を残した火の通り、濃い味、風味が格別です。

 その焼き加減、牡蠣の味わい、風味を生かした味付け、調理、火の通し方はままさしくプロの技。家庭料理、お惣菜が、上品な一品に。誰にだって出来そうでいて、なかなかこんな風には焼き上げられない。

 広東地方の郷土料理の一品である牡蠣を素材にした「煎蠔餅」。日本では意外に出会えない。神戸元町別館牡丹園の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」が西の横綱としたら「赤坂璃宮」銀座店の「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」は東の横綱。なんともはや、面白い展開になりました。

 ともあれ、牡蠣が旨い。旬の味、風味を堪能しました。

2009/12/28

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店

 今年も残すところあと4日。そんなわけで年内終了を目指して駆け足で09年12月の「赤坂璃宮」銀座店報告。 まずは「広東前菜盆/焼き物前菜盛り合わせ」。
 手前は皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」。その後ろ右から家鴨の焼き物の「焼鴨」、続いて「叉焼」。

 そうです、今月の焼き物、「赤坂璃宮」ご自慢の焼き物の3品に絞り込んだシンプルな構成。「赤坂璃宮」銀座店の焼き物の王道、ってことです。

 皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」が旨い。カリカリの皮の裏側、5層になった脂と身の中でも、脂身の旨さが格別。しかも、しっとり感があって、噛み締めるとジューシーな味わいもあり。

家鴨の焼き物の「焼鴨」。皮のパリ感は文句なし。私の好みでもあります。ですが、肉の部分、火が通り過ぎな感じもあって、ジューシーというよりもぱさ感がいくらかあって、おまけになんだか独得クセがあるのが不思議でした。「叉焼」は甘味のある表面の部分、それに肉質もしっとりで、味わいと風味あり。

 付け合せの野菜は赤いパプリカ、いんげん、人参。その下に寝そべっているのはヤーコン。赤いパプリカ、酢漬け仕立てで、酸味の爽快さ、さわやかな味、風味が抜群。もう一片、食べたい!なんて思ったほど。

 いんげん上にはXO醤油。そのいんげんの火の通し、独得の青臭さ、くさみを消してあるあたり、技ありの感じでした。XO醤との相性もグッド!
 ヤーコンはほくほくの触感。噛み締めれば澱粉質の甘味がほのかに、なんてところがいいなあ。
 それからくらげ。「このぽりかり感、たまんないね!」と好評でした。 

2009/12/27

ワンズ・キッチン

 長渕剛のNHKホールでの公演を見た後、打ち合わせを兼ねて一杯。ということで立ち寄ったが公園通りの「上海人情 ワンズ・キッチン」。オーナー&シェフの王連青さん、dancyuの中国料理の特集で見たことがあって、前々から気になりながら訪問の機会を逸していました。

 メニューを開くとそそられる料理が色々あり。上海の家庭料理が中心ですが、各地の料理も入り混じってます。ですが、ちょっと気になったのはもしかして「味精」、「鶏精」などの化学調味料が使われてるんじゃないか、ってことでした。というのも中国からやってきた料理人による本土の味を看板にする店で、目立った傾向ですから。

 ところで、これまでたびたび触れてきたように、私、「味精」や「鶏精」などの化学調味料の類、好き嫌いでダメというわけじゃありません。その種のものを一定の使用量を超えると体に支障をきたす。まず、唇や口腔が麻痺し、喉が渇く。次いで目の下のくぼみ辺りから頬が痺れ、ひどい時には平衡感覚が麻痺し、耳が遠くなって体がふらふら。なんてことで、出来ればその使用を避けた料理が望ましい。

 ということで、化学調味料の不使用を申し出る訳ですが、多くの人にはそういう体験皆無なのか、それとも、体験あっても察知や認識がないのか、なかなか理解してもらえない、というのが辛いところです。

 そんなことから不安になって、どうやら作り置きらしい前菜の類、化学調味料の使用の有無を尋ねたところ「あ、使ってます」とアテンドの方の正直な答え。
 「ですけど、他の料理、炒めものなどでしたら「味精」、「鶏精」抜きで調理ができますが!」という心強い答え。俄然、信頼が芽生えます。

 なんてことで「味精」、「鶏精」を使用は覚悟の上で前菜から選んだのは、日本の上海料理店でも滅多にメニューには見かけない「烤夫」。

 この「烤夫」。凍み豆腐で作ったものと思ってましたし、そういうのも食べたこともあります。ですが上海のそれの多くは大豆が素材ではなく、小麦粉を素材に作ったもの、なんてこと王清連さんに教えられました。

 ともあれ、ワンズ・キッチンの「烤夫」は小麦粉のグルテンから作ったものを醤油味で甘辛っく煮付けたもの。甘辛の味付けは上海料理ならではのもの。ですが、ベタっとした甘さ、風味の乏しい旨味は化学調味料を使ったそれ、なのは明らか。

 「(化学調味料は)ほんの少し使ってるだけなんですけど」という話ですが、その「ほんの少し」の分量、お店の人と私の認識では大きな開きがあるようで。いつも頭を抱える問題です。

 そして、料理の中から選んだのは「お、こんなのあり!」と思わず興奮してしまった「上海風エビと塩漬卵の炒め/咸蛋黄炒虾」。10年ぐらい前だったか、香港で上海料理が最新のトレンドになった際、新しい上海料理系の店のメニューに並んだ一品。
 そういえば当時頻繁に香港通いをしていた脇屋友詞さんが着目し、「トゥーラン・ドット」の看板メニューにもしていた一品。当時、香港で仕入れた情報ではもともとは上海郊外の揚州の郷土料理。

 揚州といえば海から遠いことから淡水の蝦を素材にしていたそうで。揚州だけでなく海に近いはずの上海だって海鮮の魚介が素材として用いられるようになったのは近年、それも80年代以後のこと。

 で、海鮮の魚介が広まるようになって以来、本来は淡水の蝦が素材だった「鹹蛋蝦」も海のえびが使われ、やがては素材を渡り蟹の一種の青蟹に置き換えた「鹹蛋蟹」が登場。もともと家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」を使った料理は中国の各地にあって、例えばかぼちゃと組み合わせた「鹹蛋南瓜」なんて、山東地方の郷土料理の一品です。

 そして「鹹蛋蝦」、それも海鮮のえびを素材にしたものは上海の名物料理のひとつに揚げられるほど。で「ワンズ・キッチン」でのえび、ブラックタイガー系の冷凍のそれのようで甘味はいまひとつ。ですが、その調理、味付け、しっかりの塩味で、「鹹蛋」の卵黄がコクをましていて味は濃厚、風味もあり。日本の中国料理ではなかなか味わえない本土の味との出会いに嬉しくなりました。

 スープ料理を食べたい。出来れば塩漬けの豚肉と筍を煮込んだ「腌篤鮮」か、面筋と春雨の煮込みなんかないかなとメニューを探しましたが見つからず。日本じゃ馴染みがないんでメニューにはないんでしょう。

 それなら野菜料理でもと、メニューを物色してもこれぞというものはなし。
 ですが「枝豆」を使った料理がある。季節はずれでもしかして冷凍物かもしれませんけど、枝豆があるなら食べたい料理がある。

 「あの、枝豆があるでしょ?だったら、枝豆と雪菜の漬物の炒めもの、出来ませんか?唐辛子風味のもので」なんて尋ねたら「出来ます」なんてことで、それに決まり。
「雪菜毛豆」。
漬物の「雪菜」の塩味、醗酵したヒネ味がかもし出す旨味、風味がたまらない。酒がすすむ格好なつまみでもあります。
 しかも酒、上海料理が看板ですけど、北方の焼酎があったりするのが嬉しい。

 NHKホール、CCレモンホール、渋谷AXでのコンサート帰りに楽しめる面白い店をみつけました。

2009/12/26

美薗亭の有田のみかん

 我が家の醤油は和歌山県御坊市、堀河屋野村の「三ツ星醤油」。
 ご主人の野村太兵衛さんとは香港旅行で知り合った仲。
 たしか「美味しん坊」の雁屋哲さんが周富徳さんの案内で読者を香港への食を旅に招待という企画があって、確か野村さん、そのツアーに参加。たまたま同時期に香港に出かけることになっていた私共も一行と合流、というのがきっかけだったはず。

 そんなことから野村さんと知己を得て「三つ星醤油」、それに「径山寺味噌」を知り、以来、我が家の必需品になったもの。
 そうそう、堀河屋野村の「白味噌」も我が家には欠かせません。

 「白味噌」と言えば関西出身の我が家ではお正月の雑煮に欠かせないものですが、お正月だけに限らず我が家では「白味噌」の出番が多い。
 実は私、味噌汁が苦手。子供の頃から苦手です。
 子供の頃、椀物と言えば味噌汁よりも澄まし仕立ての「おつゆ」がほとんどだった、というのも大きな理由です。ですが、白味噌仕立ての「味噌汁」なら全然OK。我が家の食卓に並べば「おかわり!」なんてことも多い。

 ことに堀河屋野村の「白味噌」はジャストの好み。
 堀河屋野村の「白味噌」に惹かれて年少時の食体験が甦ったこともあって、他の白味噌、例えば京都のどこそこの評判のものなども試しましたが、結局のところ堀河屋野村の「白味噌」が一番。塩がしっかり利いていて、醗酵したヒネ味の加減がいいからです。
 もっとも、ヒネ味、醗酵の加減は、年々ビミョーに違う、というのが面白い。

 さて、堀河屋野村の野村さん、揺るぎのない確かな「舌」の持ち主。というのも「こういうのがあるんですが!」と教えられたもので失望を味わったことは皆無。
 たとえば今は幻のものになってしまった魚楠商店の「釜揚げしらす」と魚の干物。送り届けた知人の誰もが絶賛し、取り寄せ名人の石原明子先生を唸らせたほど。
 それから「九重雑賀」の「黒糖」と「梅」の「梅酒」。その味わい、風味の奥深さにうっとりとなりました。

 そんな野村さんの好みの品々は堀河屋野村のサイトの「太兵衛好み」で紹介されてます。    http://www.horikawaya.com/ct03/konomi.html

 そんな中で、この時期見逃せないのが「美薗亭のみかん」。
  「美薗亭」は美味しいもの好きな野村さんが好みの品々を堀河屋野村の一角で紹介したもの。
 で、「美薗亭のみかん」。和歌山の有田の湯浅町で親子三代にわたってみかんの栽培をしてきた北村真佐彦さんが栽培したものだそうです。
これが旨い。
その皮の色艶、自然な色合いが見事です。
皮を剥けば房の皮、これが薄い。頬張って唇や舌に抵抗のない薄さ、というのがその特徴。

頬張ればジューシーな甘味がほとばしる。爽快な酸味が口中に広がる。そこんとこが味わいどころ。

 そうです、甘味と酸味が入り混じった「これぞ、みかん!」と言える味、風味に、次から次へと房を外して頬張りたくなる後引きのみかんです。

 近頃、ベタっとした甘味たっぷりのみかんが多いですけど、みかんってやっぱり甘味だけじゃなくって酸味が肝心、なんてことを教えてくれます。

 というより、子供の頃に親しんだみかんの味がする!
 なんてのも「美薗亭のみかん」を次から次へと頬張ってしまう理由なのかも。
 みかんの名産地、色々あります。
 子供の頃、暮れから正月にかけて送り届けられたみかんの中でも、美味しかったのは和歌山の有田のみかんだった、なんてことを思い出しました。

2009/12/23

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の7

そしてデザート。
まずは、ここずっと恒例になった点心料理長の久保田さんによる伝統的な点心が登場。
 表面に白胡麻、黒胡麻をまぶした南乳風味の揚げ饅頭。名前は聞きそびれましたが、多分「酥炸煎堆仔」のバリエーションなのに間違いないはず。

食後の甘い点心の前に、言わばプチ・フールとして登場する点心の一品。 「南乳」と「胡麻」の風味が入り混じった上品で洗練された点心です。

 こんな「酥炸煎堆仔」が供されるのは、香港でも格式のある伝統的な広東料理を供する店で、豪華の宴席料理を楽しんだ後に、締めくくりの甜品の前にさりげなく供されるもの。実に憎らしい演出。

 その洗練の美味、風味は、広東料理における点心の美味の極意を極める一品とも言えるもの。
 「中国料理のデザートって「杏仁豆腐」ぐらいなもんでしょ?他に何があんの?」
 なんて人が多いですが、そんな人にこそ味わってもらいたい甜品です。

 そして、締めくくりの甜品.
色々あった中で私が選んだのは、温かい汁仕立ての薩摩芋と白玉のデザート。

 ほくほくの薩摩芋が旨い。 薩摩芋の甘味、旨味、風味を生かした点心です。ねぼけていて、とぼけたようなヌーボーとした味、風味ながら、素朴で純な味わいにひかれます。 それに白玉、なんてことない白玉。これまた素朴で純な味わい。

 薩摩芋にしろ、白玉にしろ、なんだか懐かい。郷愁を覚えて、思わず頬がゆるんでしまうような微笑ましい味わい。心のこもったお袋の手作りの甘物、なんて感じで、しみじみと味わい深い。それでいて、きちんとの甜品としての奥床しい品のよさが汲み取れる、なんてところが憎いです。

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの「面・飯」。
 今回は「XO海鮮炒米/海鮮とXO醤入りビーフン」。
 「米粉/ビーフン」で締めくくり、というのが嬉しい。 炒めた「面」、汁物の「面」、炒めた「飯」、リゾット風の汁煮込み風の「面」、それに炊き込みご飯の「煲仔飯」というのもいい。ですけど、「米粉/ビーフン」って締めくくりの料理に案外に見逃せない。

 というのも「米粉/ビーフン」、米そのものより軽くて胃に負担をかけない。米をじっくり煮込んだ「粥」よりも軽い。ですから、香港や広東地方の人たちは「粥」よりもむしろ「粉」を好む傾向が強いようです。

 で、「米粉/ビーフン」。夏場あたりだと「榨菜」と「豚肉」の細切り炒めを具にした熱々のスープ仕立ての「榨菜肉絲粉」など格好のもの。フーフー汗をかきながら食べ進めるうちに、汗が収まり、体の熱気をさげてくれます。もちろん、冬場に食べるのもよし。

 そして、炒めた「米粉/ビーフン」。炒飯でもなく粥でもなく、さりとて炒面でもなく湯面でもなし。なんて時、格好なのが「炒米」。その種類、味付け、調理方法、いろいろあります。中でも人気が高いのは「星島炒米」。カレー風味のものでスパイシーなのがエキゾチック。食をそそります。

 そう、ちょっと辛味とかスパイシーな味をプラスアルファ、なんてのが締めくくりの「炒粉」にはうってつけ。ということではこの「XO海鮮炒米/海鮮とXO醤入りビーフン」、食をそそります。

 具は「海鮮」とあるように「えび」と「いか」。それ以外に「魚片」というか、魚のすり身のの揚げ物と思しきもの。

 野菜は「にんじん」、「赤パプリカ」、「黄パプリカ」、「もやし」、「赤玉ねぎ」、「黄ニラ」と実に具沢山。その野菜の切りそろえ、長さ、幅、揃ってます。おまけに錦糸玉子がどっさり、たっぷり。

「XO醤」で味付けってことですが、いつも通り、行き過ぎない。けど「XO醤」の味わい、旨味、辛味、風味が、行き渡ってます。その加減、按配が見事です。それまでにお腹一杯だったはずなのに、その味付け、風味にそそられて箸運びが進みます。

 こんな「炒粉」、日本中のどこでも食べられれればいいな、なんて思いますが、今のところ出会えるのは「赤坂璃宮」銀座店だけ。

2009/12/22

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」。
 これが旨かった。すごーく旨かった。私好みの一品でした。
 調味、調理がパーフェクト。味はしっかり、風味もあり。なんといっても牡蠣が旨い。それに、牡蠣がでっかい!
 その素材。生牡蠣。「火腩」とあるように皮付きばら肉の焼き物。干椎茸。丸ごと一個の大蒜がごろんごろん。それから青葱。

 味付けはだしの「二湯」、それからオイスターソースの「蠔油」、醤油にたまり醤油の「老抽」によるもの、らしい。厳密なところは聞きそびれました。

 で、牡蠣。でっかい。牡蠣の中でも私の好みのひとつである大船渡の赤崎の牡蠣。それも「シダッチ」もしくは「三陸シーファーム」の3年ものの牡蠣。方形の網籠に並べ入れた団地型共同住宅的養殖ではなく、牡蠣の根本に穴を開け、テグスで通して海に沈める個別型養殖のそれ。

 我が家で作る「シダッチ」もしくは「三陸シーファーム」の3年ものの牡蠣のカキフライやソテーの味、風味に似てるなあ。その中国風仕立て。なんて思ってたら、その後、「赤坂璃宮」銀座店の牡蠣は「シダッチ」の「赤崎冬香」と判明。柏木さんが教えれくれました。

 実に食べ応えのある牡蠣です。それは分量的にも、それ以上に味、風味に関しても。
 で、一緒に煮込まれた皮付きバラ肉の「焼肉」、衣がついててだしを吸い込んでます。
 ですが、頬張り、噛み締めると、肉の味、ジューシーな肉のあじ。まんまの「焼肉」もいいですけど、こうやって煮込まれた「焼肉」の味もなかなかのもの。

 そして干椎茸がうまい。戻した干し椎茸は旨味たっぷり。しかも独得の風味がある。
 それから、丸ごとごろんごろんの大蒜。これが旨い。ほくほくの感じで甘味があります。面白いことに油で炒められ、煮込まれた大蒜。生の大蒜のあのひり辛が薄れて、旨味、独得の風味、それにこく、みたいなものが滲み出る。
  「お!技あり!」なんて思ったのは葱。
葱というよりも分葱のような感じですが、根本の白い部分は5~6センチほどの長さ。それが、青いところはその倍くらいの長さ。葱にしろ分葱にしろ、根本の白い部分と先っぽの青い部分、それぞれに持ち味が異なります。それも火を通すと、その違い歴然。辛味、甘味、それにとろ味なんてのもあって、本来は風味づけのはずの葱ですが、味わいたくなります。
 この「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」、ご飯に乗っけて丼仕立てにするのもいいかも、なんて思いました。

2009/12/18

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」。
 ホタテ貝の殻を器にして、半身に切り分けた帆立貝の貝柱、ひもなどとともに、生湯葉をそえてにんにく風味で蒸したもの。

 ホタテ貝の貝柱がでっかい。蒸して火が入ったホタテ貝の貝柱、頬張って噛み締めると歯をかすかに跳ね返す弾力がある。といって、硬いそれじゃなくって、噛み締めればすっと歯が入る。生のねっとり感が消えて、貝柱の繊維質がかすかに感じられるぐらいの火の通りかた。絶妙です。

 ひもがうまい。表面の皮、というか膜は張っていてぷるんの触感。噛み締めるとねっとり感を残した肝の旨味が舌の上でほどけていく感じ。この火の通り方も絶妙です。

 そして添えられた生湯葉、噛み締めると生湯葉に含まれた煮汁がじゅわっと口中に広がる。その触感が快感。素材の生湯葉の持ち味、風味を生かした味付けが憎い。春雨も煮汁を含んでしっとり加減。

 大蒜風味ってことですが、大蒜のひり辛味は抑えられていて、甘味、風味がほのかに、なんてところが面白い。決め手はたれというか煮汁ですが、会議に夢中だったもんでどんな調味料を使っているのか、聞きそびれました。醤油だけじゃなくてかすかに醗酵味がかんじられたことからすると、赤坂璃宮特製のナンプラー入りの海鮮ソースが使われていたのかも。

 押し付けがましくない上品で洗練された味、風味の「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」。そういえばホタテ貝、中国にもあるそうですけど、香港で流通しているホタテ貝のほとんどは日本産のそれ。香港で貝柱を素材にした料理というのは、ホタテ貝じゃなくってたいらぎがほとんどです。そのたいらぎとホタテ貝の貝柱、貝柱だけをとりだせば見かけは似ていますけど、味わい、風味は違います。
 
 ということではこの「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」は、日本の素材を広東料理の手法で調理した日本独自のもの。日本でしか食べられないものと言えるでしょう。