2009年に出会った美味の3は「新しい味、新しい店との出会い」。
「新しい味との出会い」ってことで最も印象に残ったのはマンダリンホテル東京の「センス」の「酢豚」。
「酢豚」と言えば「黒醋」を使ったここずっと「酢豚」が人気。10年前には考えられなかったことです。
そんな「黒醋」を使った「酢豚」を超えて、新たな創意と工夫を凝らしてあるのがマンダリンホテル東京「センス」の「酢豚」。
初めて食べた時「へ~!?こんなのあり、なんだ!」と驚きました。 なんといっても「センス」と関わり深いマンダリンホテル香港の「文華」の料理人も感心し、レシピを尋ねた!という一品。これもブログでは紹介してきませんでした。
実は「センス」の「酢豚」、中国産ワインの「長城」をたっぷり使って煮込んだもの。つまりは豚肉のワイン煮込み、なんですね。火を通したワインがもたらす効果、酸味、甘味、果実フルーティーな風味を生かしたもので、その着眼が面白い。
それだけじゃありません。実は豚肉にパイナップルの小片が忍ばせてある。豚肉がパイナップルの小片を包み込んでいる、という按配。
噛み締めると爽快な果実の酸味がほとばしる。
いきなりのことだけに「エ?エ?これ何?何の味?」と、最初はどぎまぎ。
ですが、すぐさま「これ、パイナップルだ!」とわかります。
そんな意外性にとんだ仕掛けだけじゃなくて、ワインの酸味、甘味、フルーティな味、風味、なによりもこくのある味にインパクトあり。
ワイン風味の「酢豚」を考案したのは料理長の高瀬健一さん。
仙台のホテルの広東料理店を振り出しに、いくつかのホテルの広東料理店に勤務するうち香港の広東料理に目覚め、香港通いを続けてきた料理人。しかもその表層だけでなく根っ子にある広東地方の伝統的な郷土料理に関心を持ち、素材、調味料、その組み合わせを追求。
おまけに香港だけに限らず、広東料理とも関わりの深いシンガポール、マレーシアやタイなど東南アジアへの食探求の旅へ。ことに、一時、不況のあおりから低迷していた香港にとって代わっり、モダンで斬新な新派的趣向による広東料理を生んできたシンガポールの最新の広東料理事情に詳しい。
もっとも、香港や東南アジアで学んできたものをそのまま日本で実践しても、日本の客には容易には受け入れられない。塩漬け醗酵魚の「咸魚」にしろ「あみ」を醗酵させた「蝦醤」などのクセのある調味料、好きな人はたまりませんが、やはり日本では一般的にはまだまだ抵抗がある。
そんな日本の中国料理事情、一般客の嗜好を見据えながら、広東地方独自の調味料をふんだんに活用。さりげなく、でもなく、かといって出過ぎないように、というその使い方、按配が面白い。
清淡、つまりはサッパリした味を求めながら、中国料理となるとそこに程ほどの味の濃さ、インパクトを求める、というのが一般的な日本人が求める中国料理の味。というあたりを見はからい、味付けは少々濃い目でめりはりを利かせてある。
さらに、そのプレゼンテーション、フレンチやイタリアンの手法を積極的に取り入れたもので、平面的には空間、隙間のあるレイアウト。さらに、立体感のある盛り付けを織り込むといった寸法。
それでいて、素材の扱い、組み合わせ、味付け、調理はしっかり広東料理の伝統的な手法を下敷きにしたもの。ということでは、ヌーベル・シノワ、というよりもネオ・クラシック・チャイニーズというにふさわしい。しかも、日本人としての視線、嗜好、主張がそこにある。
そんなわけでマンダリンホテル東京の「センス」の料理の数々、メニューの料理名を見て、その素材、味付け、調理は判明しても、プレゼンテーションを含めて想像の域を脱した料理が目の前に現れる。なんてことで「センス」では高瀬さんにおまかせ。
新しい店との出会いということでは中野の「蔡菜食堂」。
寧波風味の家庭料理は心和みます。
蔡さん、プロフェッショナルな料理人ではありませんが、ご夫妻のおふくろから学んだほのぼのとして心温まる味をそのまま再現。
それから恵比寿の「MASA’S KITCHEN 47」。
かみさんの中国語教室の忘年会をやったもんで、私も参加。
店主の鯰江さん、文琳時代からの顔なじみ。
「絶対に食べてください!」と鯰江さんお薦めの「ふかひれのステーキ」に興味津々。
「ふかひれのステーキ」は私、初体験。
日本人の中国料理人による日本ならではの中国料理の工夫が、そこにありました。
新世代の料理人の話、今年のテーマのひとつなりそうです。