2010/01/27

海斑両吃~両斑三吃 10年1月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」が登場。
 「ハタ」を素材にした料理がもう一品登場したのに吃驚仰天。 「サプライズ・4」の登場です。
 しかも、私の好きな魚の煮込み料理の「紅炆海斑」。
 料理名に「魚尾」とあったで「紅炆斑翅」かと思いきや、なんとお頭付き!

 「ン!? さっきの「豆腐魚腩湯/豆腐とハタのアラのスープ」で、お頭はすでに登場のはず。それが、なんでまたお頭付き?」
 なんでって、もう一匹「ハタ」を使ってるからこそのお頭付きなのに決まってます!
 「どうしよう!豪勢すぎます、今日のメニュー、コースの献立!」と嬉しい悲鳴!
 というわけで、二匹の「ハタ」の三種の料理ってことですから「両斑三吃」!

 そういえば、以前、「赤坂璃宮」銀座店で、袁さんの手になる「紅炆海斑」、食べてみたいな。けど、人数からして魚一匹だと分量多すぎ。おまけに「ハタ」はなんといっても値段は「時価」の高級海鮮魚介ですから、無理だろうな。そういうことなら「ハタ」でもなんでも、魚のアラ、腹身、上ひれの部分を使った「紅炆斑翅」にありつきたい、なんて話、書きましたが………。
 「やった、ラッキー!」(とまあ、私は軽佻浮薄なお調子者)。

 さて、魚の料理。以前、書いたことと重複するかもしれませんが、香港で丸ごと一匹魚を使った料理で最も有名で、一般的なのが蒸し魚の「清蒸魚」。宴会料理の華です。
 もっとも「清蒸魚」、最後の仕上げにだし、油を混ぜ合わせてかけますが、その際、化学調味料をしのばせる、というのが一般的。香港で著名な店でもよくあることで、ことに味の濃い(中国)料理が好む日本人に向けてのサービスとして、地元の人よりもひと匙、ひと加減多い目に、なんて按配なのは知る人ぞ知る話。

 魚一匹、丸ごとを使った料理で化学調味料から逃れるには、上湯で煮浸しにした「上湯浸」という方法があります。その「上湯浸」のバリーエーションで、一緒に大根などの根菜や季節野菜を一緒に煮浸しにする「上湯浸時菜海斑」という料理があります。過日、例年通りこの時期に香港へ食探訪に出かけた浅草「龍圓」の栖原さん。九龍の福臨門で「蘿蔔芹菜浸星斑」にありつけたそうです。そのうち栖原さんのブログで画像アップの予定だそうですから、画像、見ることができそうです。

 もっとも「上湯浸海斑」は、地元でも年季の入った食通好みの一品。それより、丸ごと一匹素材にした料理では醤油煮込みの「紅炆海斑(石斑)」、大ぶりの「ハタ」のアラ、ことにすなずり部分の腹身、背びれ、尾びれを素材に醤油煮込みにした「紅炆斑翅」、「ハタ」の切り身を醤油煮込みにした「紅炆斑球」が一般的。ちなみに「紅炆斑翅」、飲茶の点心で有名な「陸羽茶室」や「蓮香樓」の夜の看板料理。広東地方の郷土料理を中心にしたコースには欠かせません。

 話戻して今回の「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」、「ハタの尾」どころか、お頭付き。切り身もしっかり。まさしく「紅炆海斑」そのものです。しかも、魚の切り身だけでなく、皮付きばら肉の焼き物の「焼肉」、干椎茸、干し湯葉の「腐竹」も一緒に煮込まれてます。

 もっともこの種の魚の醤油煮込み、部位はそれぞれ違っても「紅炆」の料理方法では、皮付きばら肉の焼き物の「焼肉」か細切りの豚肉、干し椎茸、干し湯葉の「腐皮/枝竹」を一緒に煮込むのはよくあることです。さらに豆腐を加えることもあれば、旬の筍や茄子などの野菜を加えることもある。以前、福臨門銀座店での「茄子紅炆海斑」を紹介したことがあります。

 そして、今回は皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」を使ったより伝統的で昔懐かしい「懷舊式」。「(古式)紅焼炆魚尾」ってわけです。やってくれました、袁さん!  頬張った魚の切り身。衣付きですが、先ほどの「韮黄泡斑球」での「真ハタ」の切り身の衣とは違います。ぼってりに近いぐらい、厚みのあるしっかりの衣の付けかた。しかも、さっと油通しの「油泡」じゃなく、煎り焼きの「煎」の感じで、しっかり揚げてあります。ということでは「脆」の触感。ですが、だしで煮込まれ、その表面、だしを吸ってますからぐじゅっとした触感。

 しかもその味付け、味の按配、袁さんの日頃の味つけからするとしっかり濃厚。それも香港の昔懐かしい伝統的な広東料理の煮込み料理に共通した味付け、風味がします。多分、オイスターソースも使ってあるんでしょう。甘味が立っていて、こくがある。

 ところが、身を噛み締めて「あれ?」と思いました。「ハタ」ってことですが、ほろり、はらりと身が崩れるものの、さっきの「真ハタ」の身とは触感、肉質、明らかに違います。さっきの「真ハタ」に比べれば、より火がしっかり通っているのに、肉がそんなに締まっていなくて、ゆるい感じ。

 「なんでだろ?衣で包まれ、揚げて、火がしっかり通ってるのに、肉質、繊維が柔らかくって、身がゆるい!」。その身のゆるさ、なんだか「青衣」や沖縄の牧瀬の市場で見かける極彩色のベラ系の魚の肉質に近いものがある。それとも「ハタ」の下拵え、調理のやり方、「油泡」じゃなくて「煎」だから(肉質)違うように感じるのかな?」。なんて具合にまたまた頭の中では疑問符が続出。

 後になって橋本さんに「豆腐魚腩湯」、「韮黄泡斑球」と「紅焼炆魚尾/ハタの尾の醤油煮込み」の「ハタ」が同じものだったのかどうか尋ねました。「スープと油泡のハタは「真ハタ」を使用、煮込みのみ「アズキハタ」を使用したそうです」との答え。やっぱり「ハタ」の種類が違ったんだ、と肉質の違いに納得しました。

 ちなみに「アズキハタ」。香港での名称は「白線星點班」。英語名は「Slender grouper, Whitelined grouper」。和名はやはり地方によって色々あり。どうやら沖縄、久米島あたりが主なる収穫地で、浜ごとに呼称が異なる!なんてのが面白い。

 それより、今回の「あずきハタ」、もしかして沖縄で収穫したものなんでしょうか。そうでなくとも「尾鷲産」の「真ハタ」と肉質、味、風味、違っていたのは紛れもない事実。生息する海が違えば、魚の肉質、味が違いますから、そのあたりの真相、知りたいところです。

 それにしてもさっきの「油泡」で調理した「真ハタ」、このこの「紅焼炆魚尾」にしろ、ともに技ありの風格のある味、風味。豪華な料理です。ことにこの「紅焼炆魚尾」と言うよりも「紅炆星斑」、広東地方の伝統的な昔懐かしい料理法、味付に技あり。その美味、堪能しました。