毎年、三が日を過ぎてから小正月までの間に千葉の富津から夏みかんが届きます。
ウチのかみさんのジュエリーの師、中村好子、ミナト先生からの贈り物です。夏みかんの旬は2月から4月にかけて、ってことらしいですが、富津の中村家に自生する夏みかんの収穫期はこの時期。ほぼ毎年、この時期に送り届けられます。
到着すればすぐさま夏みかんのマーマレード作りにとりかかります。そのレシピ、色々ありますが、我が家では山本麗子さんの甘夏のマーマレードの作り方をもとにアレンジ。しかも、毎年、中村家から夏みかんが到着すれば、マーマレード作りに専念し、試行錯誤を重ねてきました。
まずは夏みかんを洗い、出べそのついた頭部とお尻の部分を厚目にカット。それを細く切り刻んで、水をとっかえひっかえしながら何度も何度も水さらし。ですが、さらしすぎると苦味が抜けすぎる。なんてことでその按配、見計らいが難しい。
残った皮付きの身は8等分。袋の根本、種のついた部分はざっくり切り落とし、種だけをより分け、ガーゼで包みます。とろみ付けに欠かせないペクチンのもとですから。
そういえばネットで調べたところ、夏みかん、甘夏のマーマレード作り、皮から身をはがし、別々に処理、なんてのが一般的なんですね。私の場合は皮付きの身をそのまま銀杏きり。というのも、イギリスでマーマレードをゲットした際、明らかにオレンジ(多分、マンダリン)を皮付きの身を切り分けたのが一般的で、しかも旨いってことを知ってから。
もっとも、皮付きの身の切り方には、厚目のシック・カット、薄切りのシン・スライスがあります。私はシック・カットとシン・スライスの間くらいが好みです。ともあれ、深夜、暖房を切ったキッチンでそんな作業をひたすら黙々と続け、切り分けた皮付きの身を鍋に入れ、砂糖を加えて一晩寝かします。
夏みかんの銀杏切りの皮つきの身は、鍋に8分程。そこに砂糖を山盛り、たっぷり。最初はピラミッド状に盛り上がった砂糖の山も、一晩越せば皮付きの身と一緒になってジャム状に。しかも、馥郁とした夏みかんの香りが台所ばかりかあたり一面に漂います。柑橘類独得の酸味を帯びた香りに、時には思わず目がショボショボ。
さて、問題は砂糖とその分量。
初めて作った年「ジャム作りにはグラニュー糖がうってつけ」なんて話を聞き込んで来たウチのかみさん。もともと「グラニュー糖」の風味の乏しいベタ甘感には懐疑的だった私ですが、その話に不承不承お付き合い。
案の定、出来上がったジャムはベタ甘過ぎて夏みかんの味、風味を殺してしまったのにがっかり。
なんて昔話を持ち出と「(小姑みたいに)ほんとにしつこい!」とかみさんに煙たがられます。
それより、ベタ甘味になったジャムを一体どうすればいいのか。
窮余の策として思いついたのはそれぞれ別鍋で仕上ていた風味付けのコニャック、ウィスキーの分量を増して、煮直し。ですが、煮直した分、夏みかんの味、風味が飛んじゃうんです。
次いで試したのが、日頃、我が家で常備している「黒砂糖」。
ところが「黒砂糖」、「グラニュー糖」のようにベタ甘感はなし。ですが、「黒砂糖」の味、風味が濃厚すぎてこれまた「夏みかん」の持ち味、爽快な酸味、風味を殺してしまう。「黒砂糖」そのままでは夏みかんのマーマレード作りには適さない。他の砂糖とブレンドの必要あり、ってことを学習。「過ぎたるは~」ってことでした。
次いで試したのが「三温糖」。その「三温糖」、精製された「三温糖」だったもんで、グラニュー糖ほどではないにしても、やはりベタ甘を隠せない。なんかないのか、夏みかんのマーマレード作りにうってつけな砂糖!
そんな折に見つけたのが精製度の少ない「三温糖」。精製された「三温糖」に比べて値が張ります。なんせ値段は2倍ですから。ところが、試してみたら夏みかんの素材の持ち味を損なわずに、甘味があり、酸味があって、苦味もある好みの夏みかんのマーマレードが出来上がり。しかも、コニャック風味、ウィスキー風味、それぞれ個性、持ち味の異なる夏みかんのマーマレードが出来上がった。それを冷蔵庫中で寝かせ続ければ、旨味、風味、コクをましていきます。
学んだことは、素材の持ち味、個性の見極めってことです。毎年、夏みかんの甘味、酸味、香りが違います。それを見極め、砂糖の種類、吟味、その分量を按配。もしかしたらものによっては「グラニュー糖」のベタ甘が効果大、なんでしょうが、我が家に届く素朴で自然な甘味、酸味を持つ夏みかんには、向いてない。
ですから、やみくもにレシピ通りの砂糖、分量でジャムを作って煮込んでも、美味しくて風味のあるマーマレードは作れない。それに下拵え、つまり、切り刻んで、砂糖を加えて漬け込んで一晩寝かせたあと、火の通しをどのぐらいにするか、ってこともかなり重要、ってこともわかりました。
今年届いた夏みかん。切り分けると若々しく、溌剌としていて清々しい味、風味。甘味よりも酸味が立つ感じ。ですが、香りがいつもに比べてまだひ弱。ですが、英断。下拵えは早いうちがいいと、てきぱき処理して砂糖漬けにしたら、香り、風味が立ちました。
今年の最初のひと鍋分の果肉の切り分けは私が担当。以後、ヘタの水さらし、漬け込む砂糖の分量の按配、煮込みはかみさんが担当。最初の鍋は、いつもとは趣向を変え、砂糖の分量を多めにして、風味付けはコワントロ。さらに煮込みの回数を少なくしたところ、爽快で溌剌としたマーマレードが完成。
けど、私には甘味が少々過ぎて、やはりべたな感じ。砂糖の分量をかみさんに尋ねてみたら、その甘さにも納得。ただ、爽快な鮮味は煮込み時間の加減によるものだってことが判明。その点も見逃せない。
「う~んでも、もうちっと苦味あるほうがマーマレードらしかない?」
なんてことで、ヘタの部分の水晒しの回数、控え目にしました。それから風味付けはウィスキーで。煮込みの加減、按配したところ、甘味だけでなく適度な苦味ありのマーマレードができました。
「これ、ちょっと苦味、強すぎない?」とかみさん。
「こんぐらいでいいんじゃない。しばらく寝かせれば、練れてくるから」と私。
ですが、甘味、苦味もそうですけど、酸味が案外決め手!
煮込み、煮直しが過ぎないようにしてその点を按配。
甘味、酸味、それに苦味のあるのが私のマーマレードの好みです。