2009/04/12

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の7

 それから「雙冬炆野豬」。本年、私が食べそびれた福臨門の冬の野味の名残りもの。
 今年の冬の「野味」で、まだ調達可能な素材を問い合わせたら、鹿は終わり。豬は「部位によっては」との返事でした。

 私が食べたかったのは「家鄉五寶炒野豬粒/猪肉の五色炒め」か「菲王銀芽菜炒野豬絲/猪肉と韮、ザーサイの細切り炒め」。残念なことには、炒めものにふさわしい部位、どうやらフィレ肉か腿肉だったようですが、すでに終わり。

 「でも、ばら肉ならあります。煮込みにうってつけで、ちょうど筍が出回りはじめたので干椎茸も一緒に炊き合わせた「雙冬炆野豬」があるってことで、即座に「それそれ!」ってことで、決定!
 「筍」はさくっとした歯触り。若々しく、清々しい、春の味です。風味もよくってかなりの美味。それよりも「豬」。なんせ、肉喰い、野味が生きがいの私です。

 皮の下の脂、豬ならではの脂はつるんと滑らか、とろける感じです。肉はしっとり、噛み締めるとねっとり感も。ジューシーで、こくがある。その味は濃密。それも、野味特有のくせの強さより、素朴で自然、なによりもフルーティー、ことに甘味が浮かび上がる。
 

 それより、この豬のばら肉を気に入った福臨門の徐さん。なんと「東坡肉」風の煮込み料理にしたそうな。豬の脂、それに、このフルィーティーな肉の持ち味を生かした料理なのに違いない。

 その話を耳にして、無念の歯軋りしきり。広東地方の冬の野味料理に特有の「柱侯醤」で味付けした煮込みもいいですが「東坡肉」仕立てにする、というのがスルどい!さすが喰いしんぼうの徐さん、目のつけどころが違います。来年には、この大分産の豬の「東坡肉」仕立てをなんとか食べなくちゃ!

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の6

 ほくほくの「蚕豆」が旨い。火の通し加減、按配が絶妙です。確かにあの独得の「匂い」がない。「蚕豆」にからむ「雪菜」の味、風味も成る程。漬物独得のクセのある味、風味。しかも、旨味をさりげなく加味、というあたり効果絶大。

 そういえば、私、この季節、「空豆」のパスタを頻繁につくります。「空豆」は茹でたりなんかせず、一個、一個、丹念に皮を剥いて、ニンニクと唐辛子風味のオリーブ・オイルでじんわり、じっくり火を通したもの。憧れの料理人で、色々と学ぶことの多い狐野扶実子さんのレシピをもとに、手前勝手に工夫しました。その風味漬けに「アンチョビ・ペースト」を必ず使います。つまりは「蝦醬」を使うのと同じ要領で。 ということは、「蝦醬」を漬物に替えたのがこの料理ってことか!

 一緒に炒め合わせた「圍蝦」、才巻きのぷり感、甘味が良いなあ。 実は、当初「えび」じゃなく「「蚕豆」と「龍蝦」では?」という提案がありました。「龍蝦」、つまりは「伊勢えび」ってことです。
 「伊勢えび」と耳にして、胸をとめかせて小躍りする人、しない人。私、しない人。これまで「これぞ!」という「伊勢えび」に出会ったのは数えるほど。良いのに滅多に巡りあえたことがないもんで、ついつい懐疑的で、疑心暗鬼。
 それでも「龍蝦」を薦めてくれたのにはワケがありそう。

 「「龍蝦」って、どこ産のですか?まさか、香港の近海ものの小ぶりの「龍蝦」の「ベビー・ロブスター」が入荷したの?あれ、私の一番の好みです」
 「香港の近海ものの「ベビー・ロブスター」なんて、昔話。獲れなくなっちゃんですよ、最近。たまにあっても、その量はほんのわずかですから、滅多に口にすることはできません」 

 「すると、今回のお薦めは日本産の伊勢えび?でも、これぞといえる良質なのってなかなかないでしょう。なんだか水っぽくて大味で、風味が足りなかったり、火を通しても甘味、旨味を感じないぼってりしたものが多いし……」
 「それに、日本の「伊勢えび」ってメタリック(金くさい)のが多いでしょ?」

 「なるほど、言われてみればの話だね。じゃ、日本産でないとして、どこの?」
 「ニュージーランド産です」
 「そうだ、香港の香港島店、九龍店もニュージーランド産の伊勢えびを使ってるよね。そういうことだったのか。そうそう、日本じゃオーストラリア産のものが盛んに輸入されてて、禁漁期はニュージーランド産が来るって話を聞きましたね。そのオーストラリア産のを食べたことがあるんだけど、なんだかなあ、って感じだったんで。でも、ニュージーランド産のを日本で食べたことはないなあ。そういえばニュージランド産とオーストラリア産じゃ違うって九龍店の梁保も言ってましたね……」

 なんて伊勢えび話で盛り上がりながら、結局、今回は見送り。もっとも、今回、才巻海老を使って正解。ですが、ちょっとがっかりしたのは「魷魚」。「やりいか」でした。素材自体はグッド。ですが、その下拵え、包丁の切り込みがいささか乱雑。この一つ前のコラムでの「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」の画像見れば、それは歴然。

 本来はぬめっとしていてねっとりの「いか」の身に包丁を入れ、ぷちぷちの触感、爽快感を加味という寸法。ところが包丁の切り込みが乱雑でざらっとした触感。それだけに「いか」の緻密な触感、その持ち味、ことに甘味、旨味がそがれてしまっていたのがちょいと残念でした。

 たまらず、アテンドの清水さんに 「あのう、この「魷魚」の下拵えなんだけど、「板」はどういう人がやってんの?」 生意気な私です。ですが、それを確かめられずにはいられないぐらいに、ちょいと乱暴な包丁の切り込み、下拵えだったもんで。 ついでに言っちゃえば「雪菜」の切り揃えもいささか乱雑。それもまた、味、風味をそがれる感じで……。

 「こういうこともあるんだ」とひとりごち。 青木さん、しっかり聞き届けていたみたいで 「そですね。これはちょっと残念だ!」と、同意のぽつり。その点をのぞけば「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」はOK。 でも、「魷魚」なしでもよかったかもなあ。なんて、しつこくてくどい小言ぢぢいの私です。

2009/04/11

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の5

 もう一品。春ならではの素材ということで豆類の料理。
 「蚕豆(空豆)」と「蜜豆(さとうさや)」があるってことでした。それも「蚕豆」なら漬物の「雪菜」と「えび」か「いか」炒めた「雪菜蚕豆圍蝦魷魚」。「えび」や「いか」でもなく「伊勢えび」に替えるのもあり、なんて話でした。それから「蜜豆」は「咸魚」風味で炒めた「咸魚炒蜜豆」がお薦め、なんて話。さて、どうしよう?

 「蚕豆」といえば香港の上海系の店、上海の食堂や揚州で紹興酒漬けを食べたことがあります。それに「枝豆」の「毛豆」と「雪菜」を生唐辛子の「紅辣椒」風味で炒め合わせた「雪菜毛豆」は、作りたてのもにしろ、冷ましたものにしろ、この季節、必ずとる一品。酒のつまみとしてもおかずとしてもうってつけですから。

 そうか「雪菜蚕豆圍蝦魷魚」は「雪菜毛豆」の「毛豆」を「蚕豆」に置き換えたってことだ。広東料理店でもそんな風にして出してるなんて知りませんでした。そういえば「蚕豆」と「雪菜」のスープ仕立て、なんてのがありましたっけ。

 それにしても「蚕豆」にしろ「毛豆」にしろ「雪菜」などの漬物で炒め合せ、時には生の「紅辣椒」の微塵切りで風味漬けというのが面白い。ざっくばらんで気取りのないお惣菜的一品です。

 「「蚕豆」にしても「毛豆」にしても、茹でたり、蒸したり、火を通すと、独得の強いクセのある「臭い」がするでしょ?だから、あの「臭い」を抑えるのに漬物と一緒に炒めあわせるんです」なんて話に「ふ~ん、そうだったのか、成る程!」と納得。

 「匂い」じゃなくって「臭い」というのが面白い。そうです、「蚕豆」しろ「枝豆」にしろ、茹でたり、蒸した時のあの匂いの受け止め方、中国、日本ではまるで違う、ってことですね。

 日本だとあのクセのある独得の匂い、香り、風味こそが味わいところ、なんてのが一般的じゃないでしょうか。ことに、山形産の「だだ茶豆」など、あのクセのある香りが倍増、なんてところが味わいところ。そんなことからすると、もしかして香港の人に「だだ茶豆」を出せば、鼻をつまんじゃうかも!それに、もしかして「豆ご飯」も、アウチ、なのかなあ。

 一方の「咸魚炒蜜豆」。「炒めた「蜜豆」の甘さと、「咸魚」の塩味、それに旨味がうまくマッチして、とっても美味しいです」なんて話に、そそられます。

 私、「咸魚炒蜜豆」は未体験。それも、福臨門がストックしている「咸魚」、半醗酵でクセのある味、風味、とりわけ芳醇な香りを撒き散らす「梅香」ものの「馬友」があるのを知ってますから、大いにそそられる。「咸魚」好きな青木さんなら、即座に「咸魚炒蜜豆」に決定しそうだな。
 迷った挙句「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」に決定。

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の4

 この季節、貝が旨い。蛤か浅蜊を素材にした料理が食べたい。どちらでも良いものがあればと、手配を依頼。蛤なら去年「蛤蜊蒸蛋」にしましたから今回は「金銀蒜茸蒸蛤蜊」で。浅蜊も大ぶりのものなら「蒸蛋」仕立てで食べてみたい。
 それとも、今回は新鮮な魚介の類の料理がないからオーソドックスな海鮮風の炒めものでも悪くないなあ とまあ、そのあたりは素材の調達次第で調理、味付けはおまかせにしました。 そして登場したのが「豉椒炒蜆」。浅蜊をピーマン、パプリカなどとともに黒豆味噌の「豆豉」を素材にした調味料の「豉汁」風味で炒めたもの。いつもの福臨門のこの種の料理に比べ、とろみ付けが少しばかり厚くて重い。その分、味つけは濃い目で、メリハリが利いています。それも、香港の街中で深夜遅くまで開いている大衆的な海鮮料理専門の店、それに鯉里門、流浮山、西貢、南Y島や長洲の船着場の近辺にある海鮮料理の店で食べた料理の数々の思い出が蘇るような「懐かしい味」、なのが面白い。

 火を通せば、ぼってりとした身も露わに妖しい艶っぽさをふりまく蛤。その味わい、風味は濃密で色濃い。浅蜊はそんな蛤とは対照的。素朴で直截的な磯の味、風味がする。そう、浅蜊は、言わば木綿の肌触り。そんな浅蜊の持ち味を黒豆の醗酵味噌の「豆豉」が引き立てる。それに、ちょいと唐辛子の辛味が利いていて、スパイシー。なんてところがますます食をそそる。

 「これ、いいじゃないですか。この味、この風味!」と、青木さんは大はしゃぎ。 広東地方、香港の、ざっくばらんで気取のない直球勝負の海鮮料理の味を海鮮料理の醍醐味を存分に味わい、楽しみました。

2009/04/09

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の3

 続いては「荔蓉香酥鴨」。その料理名、なんと紹介すればいいのやら。
 「香酥鴨」、つまり「家鴨の香り揚げ」は北方の料理で山西、山東省のが有名です もっとも「香酥鴨」、下味をつけた家鴨を丸ごと一羽を蒸してから揚げたもの。香ばしくて、さっくりとした皮の触感、ジューシーな肉が味わいどころ。

 ですが「荔蓉香酥鴨」は、それとはちゃいます。家鴨の骨を抜き、身を開き、皮はそのまま残し、肉に里芋の一種の「荔浦芋」、もしくは「タロ芋」を蒸すか茹でて擂り潰したものをたっぷり厚みをつけて塗りつけ、というか貼り付け、揚げた料理です。

 ほんとは丸ごと一羽の盛り付けなんですが、今回は少人数だったので半身仕立て。
 広東地方の郷土料理の代表的な一品で、宴会などにも登場。

 そういえば、先に「赤坂璃宮」の銀座店で紹介してきた「盆菜」が生まれた新界の「圍村」の名物料理のひとつ、なんて話を耳にしたことがあります。「圍村」で良い「荔浦芋」が採れるから、なんだそうで。実は「家鴨」も大事ですが「芋」も大事。採れ立てのものじゃなくて、しばし寝かせたひねの芋を使う、なんてこともあるようです。

 この「荔蓉香酥鴨」、日本じゃ未体験。なんとか日本でも食べられないものかと願っていた一品です。それが今回の「青木宴」を実施するにあたって、調達可能な素材、新しいメニューを尋ねた際、リストの中の家鴨の料理にありました。見つけて、思わず狂喜。

 今回の「荔蓉香酥鴨」、日本で飼育されてる「家鴨」を求め、あれこれ探して、ようやく日本で飼育されているフランスのバルバリー系のものを入手、なんてことでした。加えて、芋に関しては上質な台湾産の「タロ芋」が入手出来たそうで。

 ちなみに香港なら「荔浦芋」を使いますが、日本では調達が難しい。台湾産の「タロ芋」、「荔浦芋」にくらべると香りの点では劣るものの、粘りがあって、蒸して潰した時の舌にとろける滑らかな触感は「荔浦芋」にも匹敵、なんてことだそうです。

 さて、「荔蓉香酥鴨」。揚げた家鴨の皮はぱりぱり。「脆」の蝕感、そのままです。もっとも「脆皮鶏」のように、下拵えした鶏に熱い油を注ぎかけて調理といった感じでなく、油でじっくり揚げた感じ。そのせいか、表面は焦げっぽい感じの色あい。しかも、下拵えの味付けはしっかり。

 じっくり揚げてありますから、しっかり火が通ってます。も少し肉がジュシーなのが好みかな、なんて思いましたが、おそらくはバリバリー系の家鴨だからじゃないでしょうか。もっとも、香ばしさ、風味は格別です。

 一方、擂った芋を貼り付けた身の肉の表面、揚げて部分的には蜂の巣状。さくさくの触感。「香酥」とあるように、揚げて生まれる香ばしさが風味を増す。味わい所のひとつです。さくさくの歯触りは、まさしく「酥」そのもの。

 噛み締めれば、しゅわっとした触感、それに、舌にまとわるねっとり感があります。そうだ、マッシュポテトのあのねっとり感を思い浮かべもらえばいいかな。おまけに、香ばしさだけでなく、こくのある甘味、濃密な味が、舌にのしかかってくる。

 これだ、これ、この味! しっとりしてて、こくのある濃密な甘味! これもまた広東地方の郷土料理、それも伝統的なそれに特徴的なもの。 思わず、頬が緩みます。
 そうそう、香港の飲茶の点心に「芋角」ってのがあります。「荔浦芋」もしくは「たろ芋」を茹でて、あるいは蒸して、擂り潰して、豚の挽き肉などを混ぜあわせ、掌におさまるぐらいの形にまとめ、揚げた点心です。蜂の巣状ですが、その見かけ、味、風味はまるで中華風のコロッケ。

 「そうか、あれか!」と納得の人もいらっしゃるに違いない。「家鴨」の身に擂った芋を厚く塗りつけた部分は「芋角」そのまま。

 「荔蓉香酥鴨」は広東地方の郷土料理の奥深さを知ることが出来る一品です。しかも宴席を飾ることも少なくない。日本で食べられるなんて、思いもよりませんでした。

2009/04/05

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の2

 前菜に続いて、いつもなら「例湯」。ですが、今回はちょっと贅沢にふかひれのスープ料理を組み入れました。「肘子燉生翅/金華火腿の脛肉とふかひれ、湯煎蒸しスープ」です。 「海虎翅(いたち鮫)」の胸ひれ。それと「金華火腿」、中国ハムの膝下の脛の部分を上湯で湯煎蒸しにした料理です。

 このふかひれの料理については、以前、紹介しました。上海系のふかひれ料理に「火腫魚翅」というのがあります。もともとは杭州料理なんてことでしたが、「金華火腿」の脛の部分とふかひれ、それもふかひれの形状を残した「排翅」をふんだんに入れ、「だし」を足して湯煎蒸しの「燉」で調理したもの。

 かつて福臨門が出張料理を専門としていた時代、上海系の顧客からのリクエストに応じて同料理を再現。それをヒントに、もともとは宴会向けの多人数用の料理だったことからそのサイズを縮小し、少人数でも食べられるようにしたことや、より洗練された上品な味付けに仕上げたのが福臨門の「肘子燉生翅」、と言う話は、昔、福臨門の総料理長の羅安さんに取材した際、耳にしました。

 「話には聞いて知ってますが、食べたことがないんですよ」という青木さんの話が頭にこびりついていました。それに、私、この料理、これまで福臨門でふかひれを素材にした料理、色々食べてきましたが(なんて、自慢話ですんません)、その中でもベストの一品のひとつ(ですから、他にもベストの一品があり、なんですが・・・というのも自慢話ですね)。

 日頃、美味しい味、料理に出会えても、それはその時のもの、なんてことで追体験にはさほど執着はなく、むしろ常々未知の味、料理に関心のある私ですが、中には例外もあり! という料理のひとつが「肘子燉生翅」。何回食べても、食べ飽きることがない一品です。

 福臨門の「上湯」は老鶏(ひね鶏)、豚赤身肉に、なんといっても「火腿」をたっぷり使ってありますから、旨味は濃厚。それに「火腿」特有の醗酵味が生み出す旨味、独得の、風味があります。このふかひれ料理は蓋付きの容器にふかひれ、「上湯」、さらに「火腿」の脛の部分を加え、2時間ほどかけて「燉」したもの。調理に時間がかかるため、事前に予約が必要な料理です。

 旨味たっぷり、風味の豊かな「上湯」に「火腿」をさらに加えてあるだけに、旨味、風味は一層増してより濃厚に。それに「火腿」自体、塩蔵の醗酵品ですから、その分、塩味が滲み出て、塩味しっかりの重い味になる。塩味の濃い重い料理は苦手な私ですが、この料理に関しては文句なし、問題なし。しっかり利いた塩味、濃厚な風味こそが味わいところ、ですから。

 そして「生翅」、つまりは「海虎翅」、いたち鮫の胸ひれをばらばらにほぐした太い翅絲(ひれの繊維)の「ぷち」、「ぷり」の歯触り、噛み応えがたまらない。もっとも、今回は予算の都合上ふかひれの分量を加減して、少なめに。ほんとはもっとたっぷり食べたいところですが……でも、そうやって、つまり、ふかひれの分量などを加減しながら予算を按配し、コースを組み立てていくのは賢明な方法。相談に乗ってくれます。

 それよりなにより「肘子燉生翅」は旨い。
 舌にのしかかる濃厚な味、醗酵味が入り混じった旨味は、有無を言わせぬ力強さがあります。澄まし仕立ての「清湯魚翅」の優しくすっきりとした清淡な美味とは対照的。荒武者のような野生味にあふれていて、逞しく、凛々しい。その風味の重厚さにも圧倒され、しばし、押し黙る。

 この料理に初めて出会った青木さん、ひと口食べて、目を丸くしてしばしフリーズ。さらに、もうひと口。その味、風味をしっかり味わっている様子が、手に取るようにわかります。その余韻を愛おしむように、再び沈黙。しばし間を置いて、ため息をこぼすように「これは、すごいや!」とひと言もらして、後が続かない。ちょいわるオヤジ風の藤原君も「すごい、ですね!」と言ったきり、後はひたすら食べ続けるだけ。  お碗によそわれたふかひれ、スープとは別に、一緒に「燉」されていた「火腿」が皿に盛られて並べられます。それをそのまま味わうのもよし。そのエキス、ふかひれのスープに滲み出て「だしがら」のはず。ですが、そのまま食べればまだまだ旨味が残っている。

 そうだこの「火腿」、みかけはなんだかドイツ料理の「アイスバイン」だ。で、私はその「火腿」を、ふかひれのスープの入ったお碗に戻して、ふかひれと「火腿」を共に味わいます。なんて風に、勝手気ままに味わえばいいんですから! 
 これまで東京の福臨門で何度か食べてきましたが、いずれも呉錦洪さんによるもの。日頃の呉さんの料理、繊細で緻密なんですが、この料理に関してはしっかりの重い塩味が特徴。もちろん「火腿」をたっぷり使ってあるからですが。

 それにくらべると、今回の「肘子燉生翅」、若武者のように溌剌とした爽快感がある。加えて、九龍福臨門の重さとは違って、香港島福臨門の垢抜けた洗練を感じさせます。
 その秘密、理由、後になって判明したのでありました。

2009/04/03

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の1

 久々の「青木宴」です。本来なら年が開けてしばらく「春節」前後、冬場の「野味」を中心に、ということで一旦は日時が決まりかけていたものの、当方、この1月の終わり以来、いろいろ慌しく、日時を延期したままあっという間に日が経って、3月半ば、急遽、開宴を決定。今回は第一回目の「青木宴」と同じくこぢんまりと3人で実施。

 それより「青木宴」の一番のテーマ、趣旨は、中国料理の根幹の思想のひとつである「不時不食」、つまり「季節に非ずは食さず」に倣って、旬の素材による広東地方の郷土料理を楽しみ、味わうところにあります。もっとも、素材の調達、香港と日本では事情が異なりますから、すべて現地、本場そのままというわけにはいかない。それなら、日本の素材を使って広東地方の郷土料理を再現、という試みもその目論見のひとつです。

 というわけでいつもなら広東地方の郷土料理として再現可能な日本の素材をあたり、調達し、どのような調理がふさわしいのか。あるいは、日本ならではの素材を使って、広東地方の郷土料理が可能か、なんていうのを「青木宴」の実現前に調査、検討、下準備してきたものですが、今回は、充分な時間のゆとりもなし。

 そんなことから、調達可能な素材と調理方法を問いあわせ、同時に、希望する素材の調達が可能かどうかを確認。で、本来の目的だった冬の野味の素材、鹿と豬ですが、いささか時期遅しで、入手可能な素材では調理方法も限られる、とのこと。

 もっとも、青木さん、今回の「青木宴」までに、鹿や豬の料理のいくつかをすでに味わったそうな。うらやましい。中でもよかったのは鹿のフィレ肉の炒め物。それに、鞍下肉の煮込みだったそうです。

 今年は機会を逸しましたが、昨年、食べる機会のあった福臨門が取り寄せている大分の鹿、豬は、いずれも味、風味ともに格別で、扱いも巧み。各部位ごとに味わいが異なります。ことに内蔵類など、タイミングよく出会えればその真味を堪能できるのが嬉しい。

 そういえば青木さん
「鹿の煮込み料理と一緒に食べた「ほうれん草」が格別に旨かった」
 と、ぽつり。
 「根がついたのをそのまんま炒めたほうれん草、なんですけど」。

 もしかして、それって「埼玉の東松山の加藤さんの「日本ほうれん草?」」と尋ねたら、
 「そうそう、そうだってことでした」と、青木さん。
 もっとも、加藤さんの「日本ほうれん草」が味わえたのも、2月半ばまで。
 それに取って代わる葉物の野菜、なんかあるだろかと福臨門に問い合わせ。

 そしたら「通菜(空芯菜)」の良いのが出回りはじめた、とのこと。
 それ以外に、葉物ではないけれど「蚕豆(そら豆)」、「蜜豆(さとうさや)」を素材にした料理があると言う話。

 そういえば、蚕豆にしろ枝豆にしろ、上海系や揚州系の料理をやる店ではお目にかかっても、広東料理系の店でその種の料理には滅多にお目にかかったことがない、なんてことに興味をそそれらました。
 それに季節柄、貝類です。
 蛤、それに、浅蜊を素材にした料理が可能なはず。
 蛤といえば、昨年、春過ぎに豚の内蔵類の各種の料理を中心にした際、「蛤蜊蒸蛋」を依頼。それがとっても素晴らしかった。
 
 その際、「金銀蒜茸蒸蛤蜊」にするかどうか、迷った挙句の選択だったことを思い出し、それなら今回はその「金銀蒜茸蒸蛤蜊」で、なんてことも思い浮かぶ。
 とまあ、調達可能な素材を尋ね、その調理法をあれこれ思案。
 そして、以下のように相成りました。


 まずは前菜の「前菜三拼盆/三種の前菜の盛り合わせ」。焼肉(皮付き豚ばら肉の焼き物)、叉焼、くらげの3品。前菜というよりもアミューズといった趣で、焼肉、叉焼ともに一片ずつ。

 焼肉、皮のぱり感とともに脂身、肉はしっとり。叉焼もジューシーな味わいを残した焼き加減で、じんわり甘味、旨味が浮かび上がる。それも、穏やかで優しい味、風味が口中に広がります。ことにくらげが旨かった。肉厚で、最初はこりっとした歯ざわり、ぱりぽりの噛み応えが快感。味付けの塩梅、めりはりのあるしっかり味で、風味がある。

 いずれもその味、風味、さりげなくて奥床しく、それでいて存在を主張、なんてところが、福臨門の焼き物らしい、なんて思いました。

2009/04/02

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の10

 締めくくりの「甜品」(デザート)は「海帯緑豆沙/昆布入り緑豆のおしるこ」。
 「緑豆沙」というのは「緑豆のお汁粉」。「緑豆」といえば文字から「グリーン・ピース」と思われがちですが、さにあらず。

 マメ科の一種の「やえなり」ってことで、「青小豆」、「文豆」とよばれていて、むしろ小豆と同種、ささげ属の豆です。もやし作りに使われるほか、その澱粉から「春雨」を作ります。さきほどの「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」に使われていた「龍口粉絲」はまさにそうでした。

 「緑豆」の「お汁粉」は経験あり。ですが「海帯/昆布」入り、というのは初体験。戻した昆布ですから、ぷり感のはざわり、噛み応え。それに、磯の香、味がします。

 そうか、小豆のお汁粉を作る際、塩を加えて味をひきしめたり、甘味を引き立てる、なんてやりますが、もしかしてそれと同じ要領、というか考えなのかもしれませんね。

 「緑豆」のお汁粉自体、素朴でひなびた味、風味、甘さが特徴ですが、それに昆布が加わって、味も風味も、少しばかり複雑。それも磯の香、風味が醸し出す独得の雰囲気がおもしろい。香港には南Y島、長洲の船着場の周辺に海鮮料理が食べられる店がありますが、その光景が突如として甦りました。

 それになんだか沖縄気分。ほら、沖縄には北海道から届いた昆布を使った料理が多くって、南の島の山海の幸と北の海の旨味が織り成す哀愁を帯びた郷愁の味がある。そんなことも、思い浮かんだりして。

 ともあれ、今月の「赤坂璃宮」銀座店の料理、「老火豬肚湯」にしろ「大馬站煲」の広東地方の郷土料理の「家郷菜」風味の「湯」や「小菜」、なんといっても香港B級グルメの極めつけ的一品「まじ、やばい!「炸醬撈麵」」に、大いに盛り上がったのでありました。

2009/04/01

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の9

 香港式炸醬面、香港の炸醬面の「摩訶不思議」のこってり味。
 濃厚で甘酸っぱくて、辛味じんわり!
 「ですから、酢豚ね、酢豚のあの甘酸っぱさに、辛味と味噌味の旨味、こくが加わったような感じなんです!」
 と力説しても
 「なんだか、想像がつかない!」と、メンバーには話が通じない。

 そんな時
 「私、それ、香港で食べたことがあるかも!」と、右手が上がりました。
 「麵屋さん、だったか。食べた具入りの麵がそんな感じ。炸醬面、みたいなんだけど、炸醬面にしては甘いような、酸っぱいような……日本の炸醬麵と違って、独得の味つけなんだけど、炸醬麵のような……!」 

 「それ、それ、そういうの!、多分、きっとそれよ!」
 思わぬ援軍の登場に勇気付けられ、つい声高になってしまう私です。
 そして、いよいよ「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」が登場。

 「香港式にスープもご一緒に、ということですので!」と、アテンドの山下さん

 「わお!この色あい、この香り!」と、ひとり盛り上がる私です。
 「あれ?これ、私が香港で食べたのと、ちょっと雰囲気、違うかも……?」
 「あ、もしかして、これより赤色がかってるって言うか、レンガ色を赤くした感じで?」
 「う~ん、そうかな……?」なんて会話の横では
 「これ?これですか?」といささか怪訝顔。

 しかし「違うかも?」の人も、怪訝顔の人も、ひと口食べてしばらく、皆さん、破顔一笑。
 「そうかこの味!なんですね、なるほど!」と、声が上がります。
 「美味しい。だけじゃなくって、不思議で、おもしろい味ですね。甘酸っぱくて、辛味がじわっとくるなんて。それに、クセになりそうな味、なんですね」なんて声も上がる。

 甘酸っぱくて、やがて辛味がじんわり。おもしろいっていうだけじゃなく、なんだか懐かしい味。昔ながらの中華料理の味、なんてところが私にとっては堪らない。

 それより、気になったのはその味付け、調味料。香港で食べたそれとは、少しばかり趣がちゃいます。なんていうか、甘味、酸味、辛味だけでなく、ひねた味噌の味、醗酵味が、旨味、コクをましてる感じです。

 甘味は、おそらくケチャップに間違いなし。それに、ケチャップには酸味もあり。さらに、その酸味、火を通すと、思わず「ブフっ!」とむせちゃうウースター・ソースのそれ。なんだか「リーペリン」ぽいんだけど、甘味、コクがあるってことは「A1ソース」かなあ。いずれも香港の広東料理店や、中華式洋食を供する「餐廳」の料理、味付けの必需品。

 で、辛味。色合いからすると、赤色の若い「豆板醬」でもなし。
 やっぱり唐辛子味噌の「辣椒醬」?
 それにしては、ひねた味、味噌の味、こくを感じる。
 「桂林醬」だったら、辛味、もっと鮮烈なはず。

 ということは、「海鮮醬」か「磨豉醬」を加えてこくを増してるのかも。
 でも、それにしては、ひねた味がする!
 とまあ、私の味覚センサーが活発に稼動し、その味、風味のもと、出所を探って記憶と照らし合わせます。といっても、それは瞬時の出来事。

 後で大藤さん経由、袁さんに尋ねたところ、調味料は
 「A1ソース、豆板醤、トマトケチャップ」、とのこと。
 「わお! 香港の「炸醬麵」のようにケチャップや豆板醬をふんだに使ってる印象はなかったなあ」、と私はひとりごち。

 それより、ひねた味噌の味が、旨味、こくを増してる感じだったので
 「「海鮮醬」、「磨豉醬」を使ってますか?」と尋ねたところ、いずれも使っていないとの返事が返ってきました。私もいい加減。知ったかぶりを痛感。

 でも、そうしたら、ひねた味噌味、旨味、こくの元は、一体、何なのだろう?
 そこんとこが気になって、もしかして「「豆板醬」?赤い色の若いものじゃなくって、れんが色のひねたものですか?」と、大藤さんを経由して袁さんに再々度質問。
 すんません、袁さん、大藤さん。毎度、お手数かけます!

 そしたら戻ってきたのが
 「成都 郫県(ピーシェン)豆板醤を使用しております」という返事。
 成る程。「れんが色でひねた味のやつだ!」と、そこで納得。
 併せて質問したのは「京式」、「京都式」の「炸醬麵」ですか?
 それとも「香港炸醬麵ですか?と尋ねたら、
 「袁的には香港(広東)スタイルです」とのことでした。

 麵と乗っかった具をかき混ぜて食べる。そして、スープを口にする、というオーソドックな食べ方もいいですが、麵と具をぐちゃ混ぜにして、食べてしばらく、麵と具にスープを注いで食べるのも悪くない。

 日本にありそで、横浜あたりにありそで、ないんですよ、この「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」。
 それとも私が知らないだけ、なんでしょうか。でも、これからは「赤坂璃宮」銀座店で出会えます。もしかして、事前予約が必要かも。 ですが「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」が食べられるなら、事前予約もいとわない。

 「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」は、とにかく旨い。メリハリが利いていて、パンチがあります。甘酸っぱくて、辛味じんわりの味、風味は誰にでも納得、郷愁を覚える懐かしい味、中華ならではの味。ジャンクな味。そうだ、B級グルメの極めつけ的一品に数えられるかも。この料理も「赤坂璃宮」銀座店の看板の麵料理のひとつになるかもしれません。

 いまどきの若い人たちぶりっこすれば、「これ、マジ、やばいっす!」

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして、いよいよ「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」。この料理、かねてより大藤さんを通して袁さんにリクエストしていた一品。 香港式の炸醬麺には格別の思い入れがあります。

 香港式の炸醬麵、というのは、香港で出会った炸醬麵。日本のそれとも、中国本土の北方のそれとも、大いに違いました。そもそもの出会いは、香港に通い始めてしばらく、当時、香港に出向けば通い詰めていた陸羽茶室を訪れた時のことです。

 陸羽茶室といえば飲茶。飲茶の点心の質の高さで有名です。夜の陸羽での広東地方の家郷菜、ことに、大良/順徳風味の小菜の数々は、かなりの味わい。ちょっと時代ががって寝ぼけた感じがしないでもないですけど、伝統的というか、実にオーソドックな季節の「小菜」数々は、実に魅力的。

 加えて、案外、見逃せないのが陸羽茶室の麵料理。香港の食について語る人の著作、ネットのサイトやブログの数々、いろいろみてきましたが、私が知る限り、陸羽の麵料理について目についたことは、滅多にない。

 私、遅い昼下がり、陸羽で「下午茶」、要は中国式アフタヌーン・ティーなんて時間には、飲茶の点心は控え目にして、陸羽の麵料理を注文します。しかも、ひと碗盛り、ひと皿盛りがあって、その種類は実に豊富。

 そんな中に「京醬肉麵」を見つけ、興味をそそられ、ものは試しと注文。最初、摩訶不思議な味だと思いました。
 そうだ、陸羽茶室の「京醬肉麵」は、以前、紹介したことがあります。
 そ、そ、この画像。
 左の具を面にいれると、こんな按配に!
 肉を主素材に味噌味で仕上たこってりの味付け。見た目、結構、濃い、というか早い話が「えぐい」感じ。で、口にすると、甘くて、酸っぱくて、最後に辛味がじんわりと浮かび上がる。その料理名「京醬肉麵」から、その正体、「京都式炸醬肉麵」と判明。

「京都式」ってことは、「北京式」というか、北方の炸醬麵ってことになります。が、北方のそれは味噌味仕立てで、豆や粉の味噌の味が濃厚。それよりも、甘さ、酸っぱさが立っている。
 やがて、その甘味、酸味、辛味、香港特有のもの、香港の大多数をしめる広東系の人々の好み、嗜好を反映したものだと知ることになります。伝統的な広東料理の店に特徴的な味、風味、というのにも一脈通じるところがあります。
 同じような面料理が街中の粥面店にもあります。いくつかの店で試してみると、やはり、甘くて酸っぱくて、辛味がある。中でも秀逸というか、独得の味わい、風味なのが、旺角の「好旺角」の「京都炸醬面」。油麻地の白加士街の「麥文記」の「炸醬麵」も、悪くない。

 で、「好旺角」の甘味は、明らかにケチャップ。酸味はウースター・ソース。で、辛味ですが、香港らしく辣椒醬ってこともあるし、豆板醬なんてこともある。ちなみに「好旺角」では「海鮮醬」を加えて、味噌のひね味、甘味、「こく」を加味。
 そいえば「磨豉醤」を加える店もある。でもまあ、調味料理の基本構成は大体似通っていて、分量と、それに辛味の醬、コク加える味噌の種類が店によって違う様子、ってことらしい。ですから、北方の炸醬面とは使う調味料が違います。よって、味付けも違う。
 なのに香港では「京式」、もしくは「京都式」なんて料理名なのがおもしろい。
 ま、日本だって、何々風、現地風といいながら、実はアレンジされ日本化したもの、なんてよくあることですから。そうそう、韓国の炸醬面も、そうした傾向強しで、一風変わっている。お国柄をあらわす独自性のあるものなのが面白い。

 ともあれ、そんな香港の「京式」、もしくは「京都式」の炸醬面、実は日本でであったことがありません。
 ご存知の方、いらしたら、是非、ご一報ください!
 なんてことで、「京式」、もしくは「京都式」でなくとも、香港風味、香港式の甘くて酸っぱくて、辛味がじんわり浮かび上がる「炸醬面」を食べたい。
 
 その思い募って、幾年月!袁さんと出逢って、これはもう千載一遇のチャンス!袁さんに作ってもらうしかない!なんてことで、たまらずリクエスト!

2009/03/31

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」のこくのある味、旨味、風味ですが、後で大藤さんを経由して袁さんにその秘密を尋ねました。そしたら「蝦醬」だけじゃなく「蝦膏」をプラス・アルファ、なんてメールで返事が到着。

 「蝦膏」と知って、まず思い浮かべたのは瓶詰めになった「蝦醬」ではなく、「蝦醬」を固形状に固めたもの。瓶詰めのしっとり系の「蝦醬」よりも、味も風味も濃厚。それだけ、より「くせ」を感じます。

 ところが、大藤さんのメールにあった「シュリンプ・イン・オイル」という注釈に「はて、一体何だろう?」。
 ネットで検索したところ、もっぱらタイ料理で使われるオイル漬けの「蝦醬」だと判明。

 実はタイ料理でも「蝦醬」は不可欠な調味料のひとつ。その種類も豊富で、いろんなタイプのものがある。そのひとつ「蝦醬」のオイル漬け、ということで成る程と納得。
 それにしても、タイの調味料理を起用、なんてところが興味深い。

 そういえば、今回の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」で、もうひとつさりげなく効果を発揮していたのが生姜です。香り、風味づけに使われていたものですが、その生姜、きっちり、5~6ミリ角ほどの大きさに切り揃えてありました。

 その細やかな技、素材の切り揃え、下拵え、つまりは「板」の仕事をおろそかにしない袁さんの料理に対する心構えが汲み取れました。
 ちなみに「板」の担当、大藤さんの話によれば、日本人の料理人だそうです。今度名前を聞いとかなきゃ。

 この板の人、袁さんの要求に応えて、いつも緻密で細やかな仕事ぶり。にいつも関心させられます。その仕事ぶりから、この人、絶対に腕っ利きの良い料理人になること間違いなし、と私は確信します。

 そうです。
 「板」をおろそかにしては「鍋」も腕の奮いようがありませんから。

 これまで何度もふれてきたように、中国料理で「鍋」担当の料理人が腕を奮うには、細やかな包丁仕事、下拵えに専念する「板」の存在、役割が不可欠です。
 一般に、素材の切り揃えなど、下拵えは新入りの仕事、なんて思われがちですが、実際には経験に培われた技量を要するプロフェッショナルな存在。そこんとこ、実は見逃されることが多い。

 ホテルや大きな店では、人材も豊富。「鍋」、「板」の役割分担が明確に分かれています。それにオーナー&シェフの店として先鞭をつけた「吉華」の久田大吉さん、「文琳」の河田吉巧さん、「竹爐山房」の山本豊さんなどは、目配りが行き届いてました。

 ところが、近頃話題のオーナー・シェフの店では、「鍋」を振るオーナー・シェフを確実にサポートする「板」の存在を、滅多に見かけない。あの店もこの店も、「板」を充実させれば、「鍋」の力量、もっと発揮できるんじゃないの? なんて思うことがしばしばです。

 中国料理の料理人を目指す若い人たちも「板」の仕事は、あてがわれた修行仕事だと思いがち。それよりも、先急いで見映えの派手な「鍋」ばかりに気をとられ、「鍋」を振りたくてたまんなくて、「板」の仕事はうとんじれられがち、なんて話しも耳にします。 そうしたことが解決されれば、日本の中国料理の未来も明るい!なんて、決してオーバーな話、なんかじゃないんですが。

 ともあれ、「赤坂璃宮」銀座店の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。ほのぼのとしていて心が和みます。 ご飯と一緒に食べたくなるお惣菜。広東地方の郷土料理ならではの一品です。

 本来はお袋の味的な素朴さが魅力の一品。それを料理として上品で洗練された味、風味に仕上げたもの。そこんとこも、見逃せません。

 この「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、「赤坂璃宮」銀座店の、知る人ぞ知るメニューのひとつになること、間違いありません。

2009/03/30

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 さて、「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。「蝦醬」の味付け、風味もさることながら、主要な素材である「豆腐」と「焼肉」も要のひとつ。それに香味野菜の「韮」、味付けの「だし」の存在も見逃せない。

 まずは豆腐を一口。さっくり揚げた豆腐の表面に、煮汁が絡んで「じゅわ」の触感。
 滑らかな舌ざわり、柔らかな噛み応えです。
 中の豆腐は、純で無垢な味、そのまま。

 「美味しい、これ!この豆腐!」と声が上がります。
 「香りがいいねえ」
 「この豆腐って、ここで揚げたんでしょうね。豆腐の揚げ方も絶妙だし、「だし」が染みこんでいて美味しい!」なんて声も聞かれます。

 「「厚揚げ」にしては、表面の衣の感じ、全然違うもの。多分、この豆腐、ここで袁さんが揚げたんじゃないかな。普通、中国料理店のこういう料理だと、豆腐を揚げるだけど、「厚揚げ」を使うところもあるから。後で、確認しときます。

 そうそう「厚揚げ」でいいのがあるの。両国近くの石原町に「豆源郷」ってあってね、そこの「厚揚げ」。「湯葉」もいいんだ、繊細で精緻な味、それに風味がある」と、ついつい横道に話しがそれる私であります。

 後で、大藤さんに確認したら、袁さんが豆腐を揚げたもの。豆腐は「絹ごし」ってことでした。

 「豆腐」もいいけど、この肉も旨いね」
 「そ、そ、それ、スルど~い! これって、皮付きバラ肉を焼いた「焼肉」。表面カリカリで、脂身と肉の部分はしっとりな感じでしょ。

 実は私、この料理、結構やるんですけど「焼肉」が手に入らないから、豚ばら肉でやるんですが、なんだか今ひとつ、なんですよ。豚ばら肉じゃなくって、この「焼肉」じゃないと、旨さ、味わいが引き立たない。ほら、この「焼肉」の「かりかり」、「ざらざら」の表面に「だし」が絡んで、揚げた豆腐の触感とは対照的でしょ?それに脂身と肉が重なり合ったところも、普通に豚ばら肉を揚げて煮込むのと、「焼肉」のように窯で焼いて自分の脂で脂と肉を焼きながら、余分な脂を落としてジューシーに仕上がってのとでは、確実にひと味、違いますから」と、私。

 「それよりこの料理の味付け、ご飯がほしくなるおかず、ですね!」
 「そ、そ、ご飯がほしくなるおかず、ですね。香港、てか、広東地方ではそれで有名ですから。その要が「蝦醬」なんですよ」と、知ったかぶりの私です。

 「でも、クセがあって、香りというより匂いの強い「蝦醬」を使ってあるのに、強烈じゃないのが不思議だね。ほのかになんて感じで、旨味と風味があるし、コクのある味付けなのに、すっきりしてて上品だ!」
 「ほんと、上品で優しい味!」。

 実際、皆さん、「蝦醬」に火を通した独得の匂いは、さほど感じなかった様子。
 それでも、ひと味違う味、風味、しかも、こくがある、ってことには納得。
 「だから、やっはりご飯と一緒に食べたくなりますね。そんな味付けですもん」

 といった次第で「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、大いに盛り上がったのでありました。

2009/03/29

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。 この料理、大好きな一品ですから、大感激。この料理をリクエストするつもりだっただけに、嬉しさもひとしお。














 この料理のことを知ったのは邱永漢さんの奥さんの邱藩苑蘭さんによる『母から娘に伝える 邱家の中国家庭料理』(暮らしの設計134号、中央公論社)でのこと。 ちなみに同著、邱永漢さんの「食」にまつわる随筆本のなかでも珠玉の作品「食は広州にあり」、「象牙の箸」で紹介されている料理の詳細や作り方を紹介した副読本的な内容です。

 この料理、広東地方の伝統的な料理のひとつ。大馬というのは広州の地名。「站」というのは「駅」という意味ですが、かつては宿場を意味していた言葉です。で、、曰くいわれがあります。

 大馬というのは広州の地名。清朝時代、広東、広西の総督となった張之洞が初めて広州を巡行した際、大馬の宿場に着いた所、漂う濃厚な海老の香りひき付けられた。その香りのもとを辿ったところ、地元の人々が食べていたのが煮込み鍋。

 張総督が「これは一体何か?」と尋ねたところ、地元の役人が場所を尋ねられたと勘違いし「「大馬站」でございます」と答えたそうな。以来、この料理、「大馬站」と呼ばれるようになった、とのこと。

 普通に料理を明記すれば「蝦醬焗豆腐火腩煲」、つまりは豆腐と豚の皮付き三枚肉の焼き物の「焼肉」の土鍋煮込み。なによりもの特徴は小えび(もしくはアミ)の醗酵味噌である「蝦醬」を味、風味づけの要にしていることです。

 もとより「蝦醬」は醗酵味噌ですから味も香りもくせがある。しかも、香り、というかその匂いは強烈。火を通せば香りは一層強くなり、旨味、風味を増す。それだけに、抵抗を覚える人も少なくない。

 以前、話したことがあるように、かつて京王プラザの南園で季節の素材に「通菜/空芯菜」があるのを知って「蝦醬」で味、風味づけをした「蝦醬通菜」を頼んだところ、香港からやってきた料理人が、料理してくれました。
 ところが、ある時を境に黒服の人(女史ではありません!)に「申しわけございません、その料理、お出しすることができませんので」と、丁重に断られました。

 「は!?」と私。
 「これまで、何回か食べましたけど、どうしてまた?」と尋ねたら
 「「蝦醬」の匂いが強いもので、他のお客さまのご迷惑になりますので・・・」。
 なんだか申しわけなさそうな様子。ですが、納得がいかない。

 話を聞くと、どうやら「蝦醬」の匂いにたまりかねて、クレームをつけた客がいた様子で、匂いの強い調味料の使用を控えるようになったらしい。
 「広東料理の店で、そりゃないでしょ!」
 とは言いませんでしたが、楽しみがそがれたのは確かです。
 以来、「南園」から足が遠のくきっかけにもなりました。

 ついでながらあの脇屋友詞さん、石鍋さんに迎えられて麻布の「クィーン・アリス」の地下に「桃源郷」を開いた際、「蝦醬」を使った料理を用意したところ、その強烈な匂いにクレームがつき、使用厳禁になった、なんて話しもありましたっけ。

 それに、わが変態、じゃなかった、兄弟(って、へんたいってよむんです、広東語では)の周中と話をしていた際、目黒にある白金亭の料理に「広東地方の家郷菜、たとえば「「大馬站」なんか織り込んだら?」と進言したところ

「え?! 良いけど、あれ、「蝦醬」を使うし、日本の人に受けるかな?「凱悦軒」の頃、「蝦醬」使った料理を出したら、クセがありすぎて、受けなかったから」
 というエピソードを明かしてくれたこともありましったっけ。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 それからもう一品、海鮮料理が登場。マテ貝を素材にした「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」です。
 マテ貝も今が旬。潮干狩りで砂浜に穴が開いていたり、ざっと砂をかき寄せてみて穴がみつかれば、それはマテ貝の棲み処。塩をふりかけると吸い口を突き出した細長い殻がぬっと姿を現す。そうやってマテ貝を採ったなんて方もいらっしゃるでしょう。

 マテ貝の乳白色の身は、貝にしてはくせがない。細長い体型そのまま、のっぺら棒なて感じです。そういえば乳白色の色合い、牡蠣に似てもなくない。なんてことからすると、ふっくりぷっくらでぼてっとした牡蠣がまるでやせ細った感じです。その分、身が締まっていて、噛み締めると「こり」っとした触感で、磯の香りが浮かび上がる。そのあたり、やはり貝の味、風味。それに、ほのかな 甘味があります。

 乳白色の色合いそのまま、くせがなくって純な味のマテ貝は、色んな調理、味付けに向いています。つまりは調理、味付けてに馴染みやすい。ということは、調理、味付けが過ぎると、純な味をそこねかねない。つまりは、味付けの加減が難しい。

 袁さんが調理したこの「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」。醗酵黒豆味噌の「豆豉」は、粒がほぼそのまま。それに、葱や香菜、生唐辛子、赤と青のピーマンなどの香味野菜の細かな微塵切りが入り混じってカラフル。照りがあるのは、ほんのりとろみ付けがほどこしあるからです。その下には戻した春雨。 頬ばるとマテ貝は「こり」、「ぱり」っとした触感。クセがないものの、やはり、貝の味、磯の香り、甘味、マテ貝の純な味がします。それに「豆豉」や微塵の香味野菜、唐辛子が一体となって織り成す味は、ぴり辛で、爽快。

「豆豉」のひねたこくのある味が生み出す旨味。生唐辛子の爽快な辛味。さらには様々な調味料と香味野菜がおりなす複雑な一体味が、マテ貝の味、風味、持ち味を引き立ててます。素材の持ち味を生かした調理、味付け、調味料の加減、按配がいいなあ。

 とろみ付けの加減もいい。でも、このとろみつけ、日本だと大抵の場合、香港と違ってじゃがいもの澱粉ってことになる。もしそうだとしたら、つまり、じゃがいもの澱粉を使っているとしたら、控え目、薄目にした澱粉の使い方、いい感じです。

 マテ貝の下の春雨。これがマテ貝から滲み出た磯の味、それに、香味野菜や調味料が織り成す一体味をしっかり吸い込んで、旨い。それも、この春雨、春雨って普通は緑豆の澱粉で出来たものですが、そうとは思えないぐらい太い。乾燥したものを戻してあるんですが、ねっとり感を含んだ噛み応え、弾力がある。

 思い出したのは、韓国の「チャプチェ」に使われるじゃがいもの澱粉から作る春雨。でも、じゃがいもではなさそうだ。じゃがいもの澱粉で作った春雨よりも細い。が、香港でふつーに食べる春雨に比べれば、太めの感じ。それでいて、戻しすぎというわけでもなく、ぷり感、ねっとり感がある。戻しすぎの春雨にありがちなぶよ感もなし。旨い。だしを吸った春雨が旨い。その太さ、歯触り、触感が良い。不思議に思って、後で大藤さんにメールして、袁さんに尋ねてもらいました。

 そして知った春雨の実態は、中国「青島産緑豆100%」の「龍口粉絲」ってことでした。 そうだったのか。緑豆なんですね。で、フツーの(緑豆の)春雨とは違う感じ。というこおとは、戻し方、調理、味付けに工夫あり、ってことじゃないですか!

 それに、複雑な一体味、風味を生んだ調味料、香味野菜の類は「豆豉、葱花、生辣椒、芫茜、青・紅椒、陳皮、胡椒粉、豆板醤、豆豉、老抽、蠔油、沙糖、生粉、麻油」ってことでした。調味料や香味野菜、思いのほか色々と使わていますが、しっかりひとつの味、「一体味」にまとめあげられています。

 調味料、香味野菜のそれぞれの分量、使い方の按配が、ぴったし、ばっちり、ってことですね。しかも、毎度の話になりますが、調味料、香味野菜の使い方、その組み合わせ、行き過ぎるてことがなくて、ぎりぎりの一歩手前で止め。料理人の腕、技、なによりもセンスのよさを物語る。

 そんな調味料、香味野菜の中に「陳皮」が使われてるのを見逃せない。袁さん、広州に隣接する広東省南西部の出身、もしくは、その種の料理で育ってきたからでしょうか。今度、逢ったら確かめてみようと思います。

2009/03/27

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯(スープ)」は「老火豬肚湯/豚の胃袋と銀杏、湯葉のスープ」。「老火豬肚湯」は料理名で言えば「腐竹白果猪肚」。豚の胃、ってことは「がつ」ですね。それと「白果(銀杏)」、「腐竹(干し湯葉)」、それに「薏米(はと麦)」を加えて長時間に炊き込んだスープです。

 この種の「老火湯」、いつもながらの表現ですが、素材の持ち味が生かされた自然で素朴な味わい。すっきりとしていて、優しく、穏やかで、心和みます。そうです、胃に、体に優しいスープです。

 香港では店でも用意されてますが、家庭でも作ります。事前に予約が必要ですが、こんな「湯」にありつける、であえるのが嬉しい。

「ね、エージさん、これ、このだしなんだけど、豚の胃袋だけでこんなにふくよかな味がでるものなの?鶏だしなんか入ってるのかな?」

「う~ん、鶏だしだと、旨味がたくさん出るけど、鶏だし独得の味、香りがするから。これって、そんな感じじゃないよね。鶏だしって、案外クセがあるでしょ。部位によって味も風味も違うから。

 ほら、皮付きの腿肉なんかだと、脂肪分があるし、手羽元とか手羽先だとコラーゲンたっぷり、ゼラチン質が多いから。だから、クセのない鶏だしをとるには「ささみ」が格好なんで、我家ではそうしてんだけど。その感じもしないしね」、と私。

 「この旨味からすると鶏じゃなくって、豚の赤身肉じゃないかな。実は豚の赤身肉って、意外にクセがなくて、美味しいだしがとれるんだよ。でも、ね、知ったかぶりじゃまずいから、料理長の袁さんに聞いてもらいましょ」と、さらに私。

 アテンドの柏木さん確かめてもらったところ、「豚の赤身肉を使ってるそうです」とのことでした。

 豚の内臓を使ったこの種のスープでは、豚の肺を使った「杏仁豬肺湯」があります。香港の陸羽茶室の名物料理のひとつで、去年の春、福臨門の「青木宴」でそれを再現。ほかに、雌豚の輪卵管を使った「鹹菜粉腸湯」があります。九龍城市の城南道にある潮州料理の店「創發」の名物料理。

 なんてことなら、袁さんに「杏仁豬肺湯」や「鹹菜粉腸湯」、作るのに手間隙かかりますがリクエストしたらやったもらえるかも。それに豚の胃の食道と十二指腸の付け根の部分の「肚尖」を使った料理も。
 もっとも、難しいのは内蔵の確保。「良い状態の内蔵類、入手するのが難しくてね。今回もたまたま良い素材が手に入れられたんで」と、譚さん。

 大阪の安土町にある「一碗水」の南さんの話によれば、大阪では牛、豚の内蔵類、それも新鮮なのが簡単にゲット出来るとのこと。東京と大阪では内蔵類の需要と供給、それに流通事情、異なるようで。

 それなら、なんとかルートを探し出して、素材をゲット。そのうち、袁さんにやったもらうことにしよう、なんて、わがままオヤジは秘策をねるのでありました。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 そして「湯(スープ)」。かと思いきや、先に「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」が登場。 先月は「しゃこ」と揚げた「琵琶豆腐」という組み合わせでしたが、今月は、「穴子」に、春らしく「筍」の揚げ物が添えてある。それも、香味野菜の微塵を揚げたチップスをまぶした「避風塘」スタイル。

 先月の「しゃこ」はお寿司屋さんに持ち込んで下拵え、なんて凝ったものでしたが、今回の「穴子」も同様に、下拵え工夫を凝らした、なんてことでした。ちなみ「穴子」は長崎産。吟味して選んだものだそうです。

 そんな「穴子」、衣のついた表面が「さくさく」の揚げ加減。歯ざわりがなんとも心地よい。しかも、表面はしっかり揚がってるのに、その中身、アナゴですけど、根魚独得の緻密なあの「しゅわしゅわ」の肉質、それに火を通した結果の程ほどの「ねっとり」感があります。噛み締めると「さくさく」、次いで「じゅわじゅわ」、さらにジューシー!しかも、根魚独得の臭みを感じさせません。絶妙です。

 こんな揚げ方、中国料理の手法のひとつ。とくに、ふわっとした衣をつけて揚げる「酥炸」は、中華風フリッターなんてことで知られてます。
 でも、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」、衣は薄め、フリッターのように膨らんでいなくて、「さくさく」の「酥」よりも、どちらかといえば「ぱりぱり」、「かりかり」の「脆」の感じ。

 中国料理では代表的な調理方法。鶏の唐揚げなんてそうですよね。それに、関西などに行けばいまだに人気の「豚肉の唐揚げ」なんかもそう。
 ちなみに、「豚肉の唐揚げ」。関西では豚のてんぷら、なんて言ったりもしますが、てんぷら屋ではなく中華料理屋でしか食べられない定番の料理のひとつ。私が知らない、気づかなかっただけなのか、東京ではみかけたことがありません。

 豚の唐揚げって、おそらくは「椒鹽排骨」のバリエーション。かつてはスペアリブがそんなに流通していなかったことから、豚肉でそれを代用したんじゃないでしょうか。最後にぱん粉を絡めて揚げる「とんかつ」とは違って、分厚い肉じゃなくってごく普通の豚肉の薄切りに衣をつけて揚げただけのもの。

 ところが、日本の中国料理店でおめにかかる鶏の唐揚げにしろ、豚の唐揚げにしろ、しっかり揚がって表面は「ぱり」あるいは「さく」ですが、中の素材もしっかり火が通り過ぎて、肉がパサついている、なんてことがほとんど。ですから、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」には、揚げ方の按配、火の扱い、それが生み出す香りのよさ、素晴らしさに驚いたわけです。

 しかも、先月の「しゃこ」と比べれば、表面の衣の「さく」加減、同じなのに、噛み締めた時の素材の触感、「しゃこ」にはむちっとした弾力、「穴子」はしゅわっとソフトでねっとり感も。どちらかといえば「しゃこ」よりも「穴子」に軍配、かな。


 そういえば、一緒に出た筍の揚げ物。これは「ぽりはり」の弾力のある歯ざわりが快感。ってことでは「穴子」、それに、先月「しゃこ」と一緒だった「琵琶豆腐」の揚げ物の触感とは対照的。もちろん、味、風味もです。

 それよりも、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」は、新鮮な海鮮素材による贅沢な一品。香港あたりの日頃の食事でも、惣菜的な料理にこうした一品を加えるなんて、よくあること。食事が盛り上がります。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の1

  「赤坂璃宮」銀座店の月例報告、今月は月越えせずにすみました。
 そのタイトル、本来なら季節にちなんだタイトルを考えますが、今月は冬から春への端境期。なんてしようかと思うよりも、今月のメニューにいつも以上に嬉しくなる好物がいくつかあって、思わずタイトルにした次第です。

 幕開けは定番「璃宮前菜盆/前菜の盛り合わせ」。

 「焼鴨(家鴨の焼き物)」、「焼肉(皮付き豚バラ肉の焼き物)」、「叉焼」の焼き物三種は絶好調。いつもなら4品並ぶはずが3品。その左横に初めての「腐皮巻」。人参、アスパラガスの湯葉巻きです。さらに、その上には春らしい3品。

 左から、まず「菜の花」の煮浸し。ほろ苦さ、青さ、その味、風味がなんとも春らしい。真ん中はつぶ貝の湯引き。これも春を感じるはしりの味ってとこでしょうか。

 それから右端、何だと思います?

 なんと、ミニトマトを「杏露酒」で漬けたもの。爽やかなトマトの酸味に「杏露酒」の味、風味が加わってよりフルーティーな甘味を感じます。 フレンチのアミューズの趣。

 なかなか、どころか、お洒落な趣向に、思わずニヤリ。

2009/03/25

久々に「彩雲瑞」の3

 そして「柱侯燜豬頬」。豬の頬肉の煮込み。それも柱侯醤の味付け、ってのがニクい。
 しかも「枝竹」、干し湯葉を添えてあるってのがこれまたニクい。なんて間違ってたりして!(笑)。

 ホロホロの感じの煮込んだ肉が旨い。もっとも、だしがちょいと弱い。けど、ぎりぎりのところで踏ん張ってるのと、味付け、調味の加減が実に慎重。もっと、大胆にメリハリつけていいんだよ、千脇君。なんてこれまた余計なお節介ですけど、その姿勢が頼もしい。嬉しくなっちゃいます。なんせ、ガキの頃から知ってますから、応援したくなるのも当然でしょう。

 意表をつかれたのが「紅棗牛百頁湯」。牛のセンマイと棗の湯煎蒸しのスープ。
こんなのもあるんだと嬉しくなっちゃいました。  そしてご飯は「彩雲瑞」の名物のひとつともいえる中華風の「菜飯」。
 上海、それに香港の昔ながらの上海料理の店では定番のもの。漬物を具に炊き込んだご飯。素朴な味、風味で、しかも、これ見よがしじゃない味の加減の良さが嬉しい。ついついお代わりをしたくなります。  う~ん「菜飯」のお代わりもいいけど、もうひと品食べたい。

「ね、なんか面料理ないかな。あっさり、さっぱりで、シンプルなのがいいんだけど」。なんてわがままオヤジのおまかせリクエストに、千脇君「わかりました!」。

 そして登場したのが「腐乳撈面」。

汁なし、腐乳で和えた面料理。私、初体験。 「え!?、こんなのあり?」なんて、ちょっと驚きました。  我家で作る最もシンプルな和え面は、葱と生姜の「姜葱撈面」。香港の粥麵店のように茹でた面に葱と生姜の細切りをのっけて、胡麻油を少々かけて和え、さらにオイスター・ソースで味をつけて、混ぜ合わせて食べるだけ、なんて代物です。

 時間の余裕があれば、葱と生姜の細切りをピーナッツ・オイルで炒め、「だし」、それも、鶏のささみや手羽元で取ったものじゃなく、昆布とかつお節でひいただしが残ってれば放り込み、オイスター・ソースで味付け。そこに茹でた面を加える。面を煮浸しにするってやり方です。

 そういえば、香港の鏞記の甘健成さん。修行時代、食事にありつけるわずかな時間、空き腹を満たしたのが、ローストした鵞鳥の油、ことに腿の付け根を切り落としたときに零れ落ちる油を茹でた面にかけて食べたそうで。そんな甘健成にとって懐かしい味を鏞記の顧客に提供したところ、「王子面」として評判となり、裏メニューとして定着、なんて話しもありましたっけ。

 そんなことからすれば、同じ発想で「腐乳」だけでなく「XO醤」を使ったり、揚げた「咸魚」で和えるなんての出来そうだ。 で、実食しての感想は、ちょいと「腐乳」の量が多かったかな、というのがその印象。「辣油」か、潮州式の「辣椒油」があれば、味、風味を増すような感じ。

 もっとも、日本では「腐乳」にしろ、「咸魚」にしろ「XO醤」にしろ、クセのある調味料や香味素材は、ちょっと加減多めにしてその存在をアピール! なんて方が「通」っぽくてウケる!なんててことからすると、この「腐乳撈面」、好事家の評判を呼びそうだ。

 そして、締めくくり甜品は「紅米湯圓」。素朴でほのぼのとした味、風味。大陸、本土風のデザートでした。やるじゃない、千脇君。
 千脇君、頑張ってます。おかみさんも頑張ってます!

2009/03/23

久々に「彩雲瑞」の2

 それから「一品海参蒸蛋」。戻した干しなまこにすり身を餡にした具入りの中華風仕立ての茶碗蒸しです。淡いその色彩は、さながら春は朧、春霞といった趣。

 冬きたりなば春遠からじ。ところが、冬の寒さが逆戻りした今年の2月。春の訪れを待ちわびる気持をそのまま映し出したような心温まる一品。
 「わ!すごいじゃない、千脇君!やりますね」と、すぐさまエールを送りました。  つるん、とろんの舌を撫でるきめ細かで滑らかな触感、優しくて穏やかな味わいがいいです。
 具の干しなまこのぷるぷるの触感、餡のすり身のぷりぷり感の対比も絶妙です。

 干しなまこって、それ自体に味はなし、とはいうもののどこか磯の味を感じるもの。「老抽」あるいは「蠔油」で色合いをつけたり、上海系の料理だど「葱油」や「鶏油」を隠し味として忍ばせ、いくらか濃い目の味付けで、というのが一般的。

 ですが、戻した干しなまこの風味を生かし、えびのすり身の味付けも控え目にして、茶碗蒸しの具に、なんてところ意欲満々。欲をいえば、だしの味、香り、もう少し強めのほうがなんて思いましたが、ともあれ「やったね、千脇君」の一品でありました。

 次いで「韮黄蟹拑」、蟹の爪、黄韮、それにエリンギ、わけぎなどの炒めもの。  これは可もなく不可もなくの一品。「蟹の爪」の贅沢感が嬉しいですが、下味の付けから、衣つけ、揚げ方がいまひとつで、素材を生かしきれてないのが課題。それに具材のすべてを炒め合わせた時の「鑊気」、鍋の気力がいまひとつで、香りに乏しい、なんていうのが課題かも。なんてまた、オヤジの余計なお節介ですね。

 それから「髪菜蠔豉」。牡蠣、髪菜、筍、大根、人参、銀杏などの炒め煮込み。甘味の利いた味付けで、さっぱり控え目な味付けなどからすると広東料理仕立て。  冬場らしい一品で、広東地方の正月料理に出てきそう。
 そうです、2月の「赤坂璃宮」銀座店で紹介した「盆菜」に通じる一品で、ほのぼのとした温もりを覚えるもの。

 惜しいのは大根、人参の素材の生かし方、味の煮含め。ことに大根、この手の料理では「だし」を生かした味つけがどんぐらい煮含められているか、それに、人参はその甘さをどうやって生かすか、なんてのがテーマのはず。ということでは、ちょいと「だし」が弱いのと、味付けのめりはり、もう少しあったほうがいいかも。

 ですが、「一品海参蒸蛋」、「韮黄蠔豉」に続いてこの「髪菜蠔豉」という流れ、調理方法、味付けを考えたコースの組み立てが面白い。それも千脇君が薫陶を受けた「竹爐山房」の山本豊さんは中国本土の北方「魯菜」や中部の江南、「淮揚」の料理がお得意。なんてことからすると、千脇君、広東料理や他の地方料理にも関心を持って、その幅、広げたんだ!なんてことがよくわかりました。

2009/03/22

久々に「彩雲瑞」の1

 仕事仲間で編集者のNさん。韓国語がバリバリで韓国事情通。アジア通でもあって、文化事情、食事情にも明るい。もっとも、奥床しい人柄ですから、日頃、Nさんに接している人でも、そうした一面をご存知ない、なんて方も多いんじゃないでしょうか。

 そんなNさん、食べ歩きが趣味だってことをふとしたことから知りました。「どういう店に?」と尋ねて驚いたのは、アジア関係の料理店事情に明るく、その種の最新情報に詳しい事情通が知る話題の店だったからです。青山のあの店、銀座のどこそこなんて具合にその行動範囲も広い。 そして、最近お気に入りの店って教えられたのが経堂の「彩雲瑞」。

 「家の近所なんで、休日やたまに平日にランチを食べに行ってるんです、美味しくて、楽しみだから」
 「え!そうなんだ。あの店、「彩雲瑞」ね、昔からの知り合いの料理人がやってる店、なんですよ。千脇君ってね、ほら吉祥寺の「竹爐山房」の山本豊さんのところで修行した人。

  店に入ったのが15歳だったか、そん時からの知り合い。で、「竹爐山房」の後は四川料理の店で修業して、それから経堂に自分の店を持ったわけです」
 「でも、私、ランチばっかりで。なら、今度の打ち合わせ、夜に「彩雲瑞」でやりましょう!」。
 なんてことから「彩雲瑞」へ。
 2月のある夜のことでした。
「おまかせのコース」ってことでまずは前菜として 「豆豉蕗冬菜(蕗の葉の豆豉和え)」、 「燻蛋巻(すり身巻き卵の燻り焼き)」、 「咸魚薇菜(ぜんまいの塩漬け醗酵魚和え)」が。
 













それから 「辣香葱(分葱の辛味和え)」、 「湯浸蕗冬菜(蕗の湯引き)」、 「XO醤蕨菜(蕨のXO醤和え)」が3種ひと皿盛りで登場。

 













 中でも「湯浸蕗冬菜(蕗の湯引き)」が、青くてほろ苦い初春の味、鼻筋に抜けていく香りがいっぱいで旨かった。
 それに「咸魚薇菜(ぜんまいの塩漬け醗酵魚和え)」、「XO醤蕨菜(蕨のXO醤和え)」、ともにメリハリの利いた味付け。

 私にはちょいと濃い目に思えましたが、千脇君ならではの若くて溌剌とした味付け。酒飲みにはぴったりなおつまみだし、いきなりガツンの味が好みのイマドキ、近頃の若い人には受けそうだ。

  続いてもう一品、「辣爆蜂窩肚」も登場。「蜂の巣」を辛味の味付けで煮込んだもの。これがいかしてました。味付けはしっかり濃厚。蜂の巣をさっぱり風味で、という料理もありますが、クセのある素材だけに揚げて下拵えしたのなら味付けは濃厚なのに限ります。
 味が染み込んだ表面は「ざら」っとしていて「じゅわ」と味が滲み出る。噛み締めると弾力のある歯応え。「ハチノス」ならではのもんです。で、濃くてメリハリの利いた味付け、それも爽快な辛味が「後引き」で、すぐさま箸がのびます。

  ついでに言っちゃえば、味付けの香辛料の組み合わせ、その分量や按配、もう一味足して、強めにする。そうすれば、味わい、風味がより複雑に入り組んで、後味、辛味だけじゃなくって風味のインパクト、より増幅されるんじゃないかな。なんて、オヤジの余計なお節介ですね。 

 千脇君、頑張って!

2009/03/16

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店のおまけ

 そしてデザート。今回は「本日自選甜品/本日のデザートからお選びください」って、 あれ?これまでにもメニューにありましたが、この中国語料理名、なんだか変な感じなんだけど、大藤さん・・・。
 なんて思ってる前に一品、譚さんからスペシャル・プレゼント。それがなんと「奶黄包」、卵の黄身餡入りの蒸し饅頭です。

 ちなみに「元宵節」には「元宵」、つまりは「湯圓」を食べる風習があります。家族の団欒と幸福を象徴するもので、元宵節には欠かせない。「湯圓」というは餡入りの団子のこと。それにちなんで広東風味ってことで黄身餡の蒸し饅頭、ってことなんですね。

 熱々の蒸し饅頭ですから、いきなりかぶりついたりすると中から熱々の餡が飛び出して舌を火傷、なんて経験、これまで何度もありますから、用心用心。頃合を見計らってから割ってみたら、餡の定、黄色い餡がたっぷり。濃密でねっとり、こってりの旨さ。甘味たっぷり。なのに、決してくどくなんかない。広東式の甜点心の美味を堪能したのでありました。

2009/03/14

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの麵、飯。今回は「合時臘味飯/干し肉と腸詰め入り土鍋ご飯」。
 そうです「腊味煲仔飯」です。

 秋の終わり、秋の実り、その収穫を終えた後は、長い冬に向けて、家禽類、ことに家鴨、それから家畜の場合には主に豚肉をつぶし、その部位のすべてを隈なく使い、加工処理して備蓄します。塩蔵、風乾、燻製なんてのがその加工処理の基本。なんてところはフランス、イタリアはじめ欧州の国々、つまりは、肉食主体の国々、地域では、共通した事柄です。

日本で腸詰といえば豚肉の腸詰を干したもの、台湾料理の店で供されるのが知られているんじゃないでしょうか。薄切りにして、タレで食べる、ってやつですね。

 ですが、腸詰、豚肉だけを素材にしたものだけに限らない。豚の血を混ぜたもの、豚肉の内蔵入りのものがあります。それに、豚の三枚肉、あばらのところを塩蔵したり、風干しにしたり、燻製にした「臘肉」がある。それに、家鴨の肝臓など内蔵類を素材に、家鴨の血を混ぜて作った「潤腸」などがあります。

 今回の「合時臘味飯/干し肉と腸詰め入り土鍋ご飯」、腸詰は豚肉の腸詰の「臘腸」と、家鴨の内臓、血で出来た「潤腸」の2種。それに豚の三枚肉を風乾させた「干肉」の3種によるもの。

 「腸詰」、「干し肉」は、別皿盛りにして登場。炊いたご飯をお碗によそい、具をのせ、油、たまり醤油の「老抽」で作ったタレを好みでかけて食べるという按配。
 
 旨いです。中でも豚の三枚肉の干し肉の肉質、味、香り、風味が抜群に素晴らしかった。甘味、こくがあって、柔らかい干し肉を食べているような触感で、肉の旨味、風味が生きている。その味わいは実に濃密。蜂蜜をかければ、さらに旨味、風味を増す感じ。
 炊き込みご飯をたっぷり味わったあとは、鍋にこびりついた焦げに「だし」を加え、焦げが柔らかくなる感じに炊いた「お焦げの雑炊風仕立て」というのがあります。タレで味をつけたもので、これがなかなかに旨い。焦げとタレの味、風味があいまって、舌だけでなく喉元から鼻筋を刺激。

 「エ!? ご飯を食べたばかりだし、もう、お腹は一杯!もう、食べられません!」と、皆さん。
「ま、それはわかりますが、とりあえず一口!」と私。 皆さん、最初はいまひとつ乗り切れない様子。ですが、オヤジ(あ、私)の強引な押しに逆らえず、なんだか否応なしに口に運んで、とりあえずはひと口。
 一瞬、皆さんの目の色が変わったのを見逃しませんでした!

 「だし」の旨さもさることながら、「お焦げ」と「たれ」が醸し出す味、香り、風味が、「後引き!」なもんで、一口のはずが、二口、三口。 あっという間、全員がひと碗、平らげちゃいました!

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 いけない。また間があいちゃいました。申しわけありません。 いや、連日、でもないですけど、ここんとこコンサート通いの日々が続いております。
 本日、朝日新聞の夕刊での拙評ご覧になって、目が点、口あんぐり、なんて方がいらっしゃるかも。 そうです、本日掲載されたステージ評、なんと安室奈美恵!! オヤジがアムロかよ!なんて、言われそうだ!

 そうそう、言っときますが「アムロ!」なんていうのは、小室哲哉プロデュースでヒット曲連発、「アムラー」が生まれた昔の話。それが、出来ちゃった結婚して、子供が産まれ、かと思ったら離婚して、シングルマザーに。若い年少のファン、支持者を得て彼女たちにとって憧れの存在、憧れの女性となった今、「アムロ!」じゃなくって「奈美恵さ~ん」なんて声援が、コンサートの会場のそこかしこから聞こえますから。

 それに、今夜は今夜でスゲエ!なんて歌、聞いちゃいました。大物歌手によるあの「愛のままで」のカバー・バージョンなんですが、これが、身震いするぐらい素晴らしかった。なんて話しはそのうちに!

 話、戻って、2月の「赤坂璃宮」銀座店。6品目に登場したのが「上湯芥菜胆/蕾菜の上湯スープ仕立て」。 「ン!? 中国語の料理名には「芥菜胆」、ってことは「芥子菜の軸」のはずなのに、なんで日本語の表記「蕾菜」なの?」

 「ええ、あの「芥菜胆」ではなくて「蕾菜」といいまして、いい素材、おもしろい素材が入りましたので、やってみたんですが」と、大藤さん。

 その「蕾菜」。初体験なもんで、帰宅して早速、ネットで検索。なんでも福岡県の農業総合試験場が開発した新しい野菜。アブラナ科の一種だそうで、蕾を収穫したものってことです。みかけは「芽キャベツ」。ですが、少しばかりの葉で覆いつくされていて、芯の部分が大きい。で、食べると、「芽キャベツ」のような、青さ、甘さよりも、アブラナ科特有の辛味がある。

 そうか、それで「芥菜胆」と表記したわけか。ところ
が、食べてみると火が通って「じゅわ」と柔らかい葉。それに芯はさくっとした歯ざわりで、辛味だけでなくほろ苦さがある。まさしく春の味、風味です。青さのある独得の香りも面白い。

 そんな「蕾菜」を「上湯浸」、つまりは「上湯(極上だし)」で煮浸し風にしたもの。さらに、芡汁、というかとろみがついてます。口にすればとろっとした滑らかな舌ざわりがするのは、とろみがついてるから。
 そして、噛み締めれば、ほのかな辛味。それからほろ苦さ。それとだしの味が見事にマッチング。しかも、塩味、袁さんの料理しては珍しいぐらいしっかり利いている。といって、濃すぎるわけでもなし。塩味のメリハリ、輪郭が明解、なんて感じです。

 それに、金華ハムの極上の部分「雲腿」の細切りが、ふんだんに使われてます。「金華火腿」の細切りの色合い、味、風味が効果的に使われてる。「金華火腿」を使ってます!、というこれ見よがしな主張、お飾りじゃなくって、細切りながらも、しっかりその存在、味、風味を主張。それに「だし」の味、さらには「蕾菜」自体の辛味、ほろ苦さとががあいまって、極上の美味を生み出す。上品で洗練されています。
 「蕾菜」って、結構いけますね。みかけ、それに、最初口にした時には「芽きゃべつ」みたいなのに、口にすれば、味、風味、香りが違う。初対面だった「蕾菜」は実にグッド。 いや、正直にいえば、辛味、ほろ苦さはあっても、青臭さ以外、香り、というか風味が今ひとつ。言ってみれば、温室育ちで、やわな感じ。強い主張がなくって、よく言えば奥床しくて上品。

 そんな素材の持ち味、ことに辛味とほろ苦さを見極め、袁さん、だしを効果的に使う。いつもよりも塩味を加味して、味の輪郭を際立て、めりはりをつける。しかも「金華火腿」の味、風味、ことに塩味の加減、塩梅や、醗酵味に由来する旨味、風味を生かす。

 「上湯芥菜胆/蕾菜の上湯スープ仕立て」は、上品でしっかりした味、風味の野菜料理でした。

2009/03/09

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の4

そして「鮮文蛤水蛋/はまぐり入り中国風茶碗蒸し」。これは私のリクエスト。
 この時期、貝類が旨くなっていく。三月三日の「桃の節句」には、ちらし寿司にはまぐりのお吸い物、というのは長年の慣わしだったりしますから。
 もっとも、我家のちらし寿司、すし飯の上に江戸前仕込みのこはだやえびなど各種の具をずらり並べ、でんぶなどを添えたものとは違います。干し椎茸や干瓢、それにはすなどの根菜、野菜を主体にした精進したてのも。錦糸玉子は必須ですが、それ以外、海鮮ネタ、それにでんぶなども入れません。
 で、貝の話。旨くなる貝を使った料理のひとつに「蛤蜊蒸蛋」があります。家庭でも作られますが、簡単なようでいて、案外、蒸し加減が難しい。そんなことから、料理店でみつけたら注文、なんて感じです。香港では上海料理店で見かけることが多い。広東料理店でもやってもらえますが、メニューで見かけることは少ない。
 袁さんならきっと作ってもらえるに違いない。ということで、大藤さんを通じてリクエスト。それには、昨年、香港の広東料理店の「小菜」の定番的なメニューの「蒸水蛋」、それも、「皮蛋」、塩漬け卵の「鹹蛋」に鶏卵の三種の卵を使って作り中国風の茶碗蒸ししたて「三色蒸水蛋」をリクエストして、大成功!その美味を堪能した前例もあってのこと。
 もっとも、「蛤蜊蒸蛋」の素材の「蛤」。ここ最近、市場で流通しているのは韓国産、もしくは、中国産のそれ。極上の日本産の蛤となると値段は目の玉が飛び出るほど高価。なんてことなら「浅蜊」でもいけるんじゃないか?なんて思い立った次第。もっとも、その「浅蜊」にしても、ここ最近は中国産がなんだか一般的、だったりするのですが。

 それに香港の「蛤蜊蒸蛋」に使われる「蛤蜊」。英語のメニューの表記に「Clam」ってあるように「蛤」の一種ですが、実は「蛤」、その種類は豊富。それに、香港で「蛤蜊」として一般的なのは小ぶりの「蛤」。日本の「浅蜊」をすこしばかり大きめにしたほど。それに、日本のはまぐりほどの大きさのものは「蛤蜊」ってよりも「貴妃蚌」と表記されてることが多い。そのあたりの詳しい事情については現在調査中。
 ともあれ「蛤」もさることながら「浅蜊」も旨いし、火を通せば結構なだしが出る。それに、極上の産地物もあって「蛤」ほどではないにしても、値段もそれなりです。なら「浅蜊」で試してもらうのも一計かも、なんてことから「浅蜊」を使った「蛤蜊蒸水蛋」をリクエスト。
 それが、後で袁さんから聞いた話によれば、譚さんに素材について相談したところ「「蛤」でやれば!」という譚さんの一声で「浅蜊」は却下。「蛤」を素材にした中国風茶碗蒸し仕立て、ということで「鮮文蛤水蛋」となった次第、とのことでした。
 「鮮文蛤水蛋」。蒸した卵のとろんととろける滑らかな舌触り。そして「蛤」に火を通せば滲み出るだしの旨味、馥郁とした香リ、風味がじんわりと浮かび上がる。「蛤」から出るだしの味を巧みに生かした料理です。しかも、塩加減、その塩梅が絶妙。
 いきなりガツン、がっつりじゃなくって、口に運び、味わうごとにその旨さ、風味が口中に広がり、鼻腔をくすぐり、その味わい、風味が徐々に姿を現しはじめる。淡い味わいが次第に大きくふくらんでいく。ほのぼのとしていて、心が和む一品です。
 「蛤」を蒸した中国仕立て、中国料理風味の茶碗蒸し、リクエストしてよかったと思いました。

2009/03/05

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「圍村大盆菜/新年を祝う大盆菜」。これぞ新年、春節の行事の締めくくり「元宵節」を祝う香港ならではの料理です。
 料理名に「圍村」とあるように、九龍半島の北、新界の農村地区に散在する塀に囲まれた独自の生活様式を持つ村落に昔から伝わる伝統料理で、新年や慶事の際に用意されるハレの日の御馳走。

 「盆菜」についてはネットで検索すれば明らかですが、広く知られているのは南宗時代に帝が都を追われ、辿り着いたのが新界のあたり。同地の住民が帝へのもてなしとして供したのが「盆菜」のそもそもの発端だ、という話。

  私が「盆菜」を知ったのは客家料理店でのことでした。随分昔の話です。 実は、新界の農村地区の村落の生活様式は客家のそれに類似したものがあります。 「圍村」、つまりは塀に囲まれた村落の生活様式などその最たるもの。

 資料をあたれば明らかなように、もともとの「盆菜」は豚肉に家鴨、鶏などの家禽類による肉料理、干椎茸などの乾物に野菜料理が主体。その料理方法、味付けは、地元広東地方よりも、北方の煮込み物に似て、濃い目の味付け。なんてところは客家料理に似ています。

 後年、新界周辺の沿岸地域で水揚げされる魚介類、さらには、広東料理の豪華宴会では欠かせない干し鮑、干しなまこ、干した魚の浮き袋や干し貝柱などの「干貨」などが加えられうようになったもの。
 最初は木桶、それが銀や錫の大きな器を何層にも重ねて供する、というのがその特徴。重箱におせちを詰める日本の正月料理さながらです。

 「盆菜」を作る際には村人が共同で何日もかけて下拵えや調理にあたり、腕を振るうといのが恒例のこと、素材、内容など、基本的には似通っているものの、それぞれの村落ごとに味付けや調理に独自の工夫がある、なんてことです。

 今でも昔ながらのやり方に倣い、村人が共同で作る村などもある一方、近年にはそれを料理店に依頼。結果「盆菜」を看板にし、仕出し、あるいは店で提供する専門の料理店が新界、ことに元朗にいくつかあります。残念ながら、私は未体験。香港の街中では客家料理の店が供するぐらいでした、

 それが、ここ最近、広東地方独得の伝統的な料理、昔懐かしい「懷舊菜」が脚光を浴びるようになったのと前後して、街中の広東料理店が「盆菜」に目をつけ、特に新年の祝宴の看板料理として売り出し始め、以来、ちょっとしたブームになり、話題を呼んできました。

 そんな「盆菜」に「赤坂璃宮」銀座店で出会えるとは思いもよりませんでした。
 で、今回の「盆菜」、コースの中の一品ですから、その簡略版。とはいっても、近頃流行、ブームになってる街中の広東料理店の「盆菜」さながら、中国料理の素材でも最も高価な「干貨」を主体にした豪華絢爛な「簡略版」。

  正直な話「盆菜」を目の前にして、生唾をゴクン。同時に、その素材、内容を見て「エッ!!どうしよう、こんなにすごい内容で!!!」と、焦りました。ビビリました。

 まずは、干しなまこの「海参」。その大きさ、形からすると「婆参」の様子。それに魚の浮き袋の「魚肚/花膠」。う~ん、形状と厚みとからすると「ボラ」の浮き袋かな? それに干し貝柱の「瑶柱」。これは「たいらぎ」じゃなくって日本産の帆立貝の貝柱に違いない。干し椎茸の「冬菇」もどうやら香港、中国では極上品扱いされている日本産の様子。

  ここに干し鮑が加われば、極上の干貨素材をひと鍋にして供する「海味一品煲」ではないですか。そういえば、香港の広東料理店での「海味一品煲」のそもそもの発端は盆菜」にあり、なんて話を聞いたこともあります。「海味一品煲」も、確か南巡した帝に提供したのがそもそもの発端だった、なんてことでした。

 加えて、蝦のすり身団子、「髪菜」入りの魚のすり身団子も。その横には青梗菜。下に大根の煮込みが潜んでいました。というあたりは、まさしく「圍村」に伝わる昔ながらの「盆菜」内容です。

 その味付けは、だし(「上湯」)が利いたもので、干し貝柱の「瑶柱」を戻した際に出るだし、あの旨味、甘味、こくも加味されたもの。それに「蠔油」、つまりはオイスターソースらしき味、風味、甘味、こくなども。もっとも、これみよがしじゃなく、手前の加減でほのかな感じ、なのがいかにも袁さんの「腕」と「技」らしいところです。軽く、すっきり、穏やかで、上品で洗練された味、風味。それに、適度なとろみがついている。そのとろみの付け方の加減、按配がまた見事。

  ですから、口に運べば、最初、唇にふれるのは滑らかな「とろり」の触感。ですが、噛み締めると「海参(なまこ)」はプルンとした弾力があって、ぷりぷりの歯ざわり、噛み応え。魚の浮き袋の「花膠」は、ムチっとしていて、ねっとりの感じ。

 「コラーゲンたっぷり!お肌がツルツルになっちゃいますね!」なんて声もあがる。

 「瑶柱」は、はらりとほどけ、繊維がほろほろと崩れていく。旨味、こくがたまらない。干椎茸を噛み締めれば、じゅわとジューシー。旨味が口中に広がる。そうか、干椎茸のだし、も効果あり、と思わず納得。

 蝦のすり身の「蝦丸」はすり身の加減の按配、そのぷりぷりの歯ざわり、噛み締めれば滲み出る味、風味が、これまた上品。白身魚のすり身の「魚丸」も、適度に歯ざわりを残した触感、「つなぎ」の按配がよくって、魚のすり身の団子とは思えない奥床しさ。

 実は、練り物が好きな私ですが、市販のものは大抵がアミノ酸入り。というわけで、おでんだね、それに、潮州風の汁ビーフンの具にするとき、白身のすり身を買い込んだり、自分ですり身を作りますが、つなぎの按配、加減が微妙で難しい。なんて、ま、素人の料理オヤジですから、無理ないか。なんて、体験つんでるもんですから、魚のすり身には感心しました。

 それにしても内容充実、「干貨」をたっぷり味わって、満足至極。
 なんといっても日本で「盆菜」が食べられるなんて!おまけに、客家風の濃い味付けじゃなく、すっきり、さっぱり、上品で軽い味付けなのに、参りました!

2009/03/04

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いては「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
 実は以前、譚さんがメヒカリを椒鹽で調理というグッドな体験をしたもので、メヒカリを他の魚、それも、キスやメゴチなど、江戸前の天麩羅で食べるような根魚を使っての塩胡椒風味の揚げ物炒めをリクエスト。それが、なんと「瀬尿蝦/しゃこ」で登場。
 シャコを「瀬尿蝦」と呼ぶのは捕まえて海水から上げると水を吐き出す。なんてところがまるでオシッコ/小便をしてるみたい、なんてことに由来してたはず。それじゃあんまり下品な呼び方ってことで、潮州料理の店などでは「富喜蝦」と称されます。

 香港の近場で収穫される地場物は、日本のシャコと同じく小ぶりのもの。殻がクリスタルのように透明で澄み切っているのが上物。鈍くてどんよりした曇りガラス風のはランクが下。

 なんてこと食べ物にうるさい人ぐらいしか知られてないんで、その知識がない人は小ぶりの地場物、ってことだけで有難がることも。しかも、小ぶりの地場物には旬があって、お目にかかれない時期もあります。

 それより、香港よりもはるか南方、タイやヴェトナム近海、さらにはオーストラリア近海で収穫され、香港に運ばれてくる大振りのシャコが値段も安価なことから大衆的な海鮮料理店では一般的。それも、伝統的な塩、胡椒風味のシンプルな揚げ炒めだけではなく、大蒜、生姜、葱の微塵切りに、時にパン粉を混ぜ、生の唐辛子の微塵なども加えて、辛味、風味を増した「避風塘」スタイルの調理が人気を呼んでます。

 なにがなんでも海鮮、エビエビカニカニのスパイシーな味付けの揚げ物が好み、なんて人には絶対的人気があります。揚げた微塵きりの大蒜など風味、味わいは、さながら塩味しっかりのポテト・チップス的味と風味ですから。

 で、今回の「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
 香味野菜の微塵を揚げたチップスたっぷりの「避風塘」スタイルで。さらに、豆腐をれんげの型にすくって琵琶の形にし、煎り焼きにした「煎琵琶豆腐」が添えられたもの。

 まずはシャコをひと齧り。
 「アレ?」なんて思ったのは、香港なんかではこの種の料理、殻つきというのが一般的。殻なしなのは見ればわかること。
 それをひと齧りしたところ、やはり殻つきとは触感、歯ざわりがちゃいます。パリパリの「脆」じゃなくっって、さくさくの「酥」の歯ざわり。当然、噛み締めれば、歯がすっと肉にはいる柔らかさ、そして、ジューシーな味わい。シャコの甘味、旨味、独得の風味が面白かった。

 これまで未体験のシャコの揚げ物。ソフトな触感、ジューシーな味わいに「殻つきじゃないと、こんな風なんだ!」と、目の前に広がる新世界の初体験を楽しみました。

  さらに、琵琶豆腐。これまで食べてきたのは、ほとんどが蒸したもの。それを煎り焼きにしたその表面は「酥」よりも「脆」といえるようなパリパリ感。ところが、噛み締めるとソフトで柔らかい。殻なしのシャコ程の弾力はなし。

 ということで、揚げたシャコ、それに豆腐の触感、歯触りの対比、その面白さとともに、「避風塘」スタイルのクリスピー、かつスパイシーな味、風味を楽しめるという按配。それも、シャコの甘味、旨みは、は香港にはない「(「避風塘」)椒鹽瀬尿蝦」。 袁さんが生んだ「赤坂璃宮」銀座店のオリジナル。
 う~ん、でも、「椒鹽瀬尿蝦」、殻つきてパリポリの触感も捨て難いなあ。

 なんて思いに、後で出会った譚さんが語るには
 「香港だと、殻つきのシャコを取り寄せて、水槽(生簀ですね)に泳がせてて、それを生のまんま、調理が出来るんだけど、日本じゃ、生のままのシャコの入手が難しいしんだよ。店に来るまでにへたっちゃっててね。ほんとは殻つきの生のシャコを調理したいんだけど。そこで、シャコの旨さ、旨味、味、風味を生かすには、すし屋で食べるシャコがいい。なんてことで、仕入れたシャコをすし屋に運んで、下拵えしてもらったものを、使って、調理することにしたんだ」。

 なんて話を聞いて、思わず納得。
 日本でゲットできるシャコの持ち味、旨味、風味を生かしながら、それを中国料理の下拵え、味付け、調理で実践、という試みだったのですね。
 殻つきのシャコを揚げたパリパリの触感とは異なる、サクサクの表面、噛み締めるソフトでしっとり、なおかつ、シャコの旨味、甘味が生きている。

 そうか、そうやって、日本の素材を生かして新しい中国料理が生まれるんだ、ということを納得したのでありました。譚さんはエライ。それに応えて調理した袁さんもエライ。
  それより、キスやメゴチなどの手に入りやすい素材でお願いしたのに?
 なんて尋ねたら「ダメ、シャコでやりなさい!って、社長の命令です!」と袁さん。なんだか申し訳ない、なんて思いつつ、美味しいものが食べられるんですから、私にはとっても嬉しい話でした。

2009/03/03

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 まずい!
 あっと言う間に3月になっちゃいました。そんなことで2月の「赤坂璃宮」銀座店の料理報告、今回もまた月越えになったりして。「ナイフ&フォーク話」の続編はひとまずおいて、いざ報告。

 今年の1月は新年会があったことから「赤坂璃宮」銀座店での会議はなし。そして2月になって新年を迎えてはじめての会議。メンバーもひとり入れ替わりました。その日、テーブルの上に用意されたメニューに、農歴、日本で言えば旧暦の正月、春節にちなんだ料理を見つけました。

 それも、春節の日から数えて15日目、初めての満月を迎える「元宵節」にちなんだもの。といって、実際には「元宵節」から4日は過ぎてましたが、春節らしい趣向を凝らした料理に、感謝感激!

 ちなみに「元宵節」、グーグルなどで検索すれば明らかなように、中国での新年、春節の行事の締めくくりにあたる行事。日本でいえば「小正月」。以前、ここでもふれてきましたけど、神戸にいた頃、正月、つまり松の内が開けるのは15日の小正月。松飾りを外してとんどをやり、その火に割った鏡餅を放り入れ、焼いて食べたりしたものです。

 中国、ことに南方や台湾あたりだと「元宵節」の夜には提灯に火をともし、花火を上げて祝う一夜。家族、親族が集い、揃って「湯圓」を食べるのが慣わしです。
 加えて「元宵節」は「バレンタインデー」にちなんで「情人節」なんて風にも言われます。それは「元宵節」の行事が慣習化されたそもそもの発端に、家族との出会いがあり、ちなんで、男と女の出会いも語られるようになった、なんて話もあってのこと。
 もっとも「中国情人節」というのもあって、それは旧暦の7月7日、つまりは「七夕宵」のこと。

 さて、最初は、いつも通り「璃宮焼味盆/焼き物の盛り合わせ」。いつも感心するのは「赤坂璃宮」銀座店の「焼味/焼き物」のレベルの高さ。東京では福臨門とは双璧をなす香港風味。それぞれ持ち味がビミョーに異なる、というのが面白いところです。

 支配人の大藤さんに聞いた話では「赤坂璃宮」銀座店の焼き物担当は赤坂の本店で腕を振るう梁さんに学んだ金山さん、だそうで、素材の持ち味を見極めた焼き方の工夫に努力あり、なんてことから皮はパリパリ、あるいはさくさく。そして、中の身ははしっとり。噛み締めた後に「ン!?」と思う味わい、風味があります。

 そして登場したのが「順徳魚雲羹」。
 「ま、まさか、マジィ?イエイ!」と、思わず興奮、盛り上がりました。


 順徳は広東省広州市に隣接する仏山市にあり、広東地方でも食の本場として知られています。ちなみに、広州の味、風味が「羊城」と語られるのに対し、順徳の大良のそれは「鳳城」として有名。広東地方でも特色ある郷土料理が数多く生まれたところで、すぐれた料理人を輩出。多くは広州、香港の料理店、あるいは富裕層の家庭のお抱えの料理人に。

 つまり「順徳/大良」の「鳳城風味」は、広州の「羊城風味」とともに香港の広東料理、特色ある郷土料理の基礎、下地、根幹をなすものです。とはいえ、現在、香港で順徳料理を看板にする店はほんのわずか。ですが、陸羽茶室、蓮香樓などの老舗や福臨門、鏞記など70年代以後名声を得てきた有名店、「美麗華集団」の「翠亨邨」、「美心集団」の「翠園酒家」などの料理店での「小菜」のほとんどは「鳳城風味」を下敷きにしたもの。

 で、順徳は珠河河口の平野部、珠河デルタの奥まったところにあって肥沃な土壌と温暖な気候に恵まれ、農産物とともに淡水魚が豊富。その養殖も盛んなところです。

 そういえば順徳には生魚を素材にした独得の料理もある。日本の中国料理で刺身に香味野菜や木の実などを混ぜ合わせ、タレをかけて食べる料理がありますが、間違いなく順徳の料理がヒントになったはず。

 そして「順徳」の地名を料理名した「順徳魚雲羹」。日本だと「かぶと焼き」、「かぶと煮」などに調理する魚のアラ、頭の部分を使った料理。それも身をほぐし、くずを引いたとろみの餡かけ仕立ての「羹」にしたもの。ですが、日本じゃ川魚で入手可能なのは「鯉」、「鮒」、「鯰」ぐらいなもの。アメ横に行けば「生魚/ライ魚」があったりもしますけど。それに、日本の川魚は泥臭いのが特徴です。なんてことなら「海水魚?」とアテンドの柏木さんに尋ねたら、案の定「鰤と鯛のアラを使っております」という返事。

 「成る程、納得!」と思いながら、海水魚のアラ、そのまま生簀で泳いでたものを下ろしたのなら、問題なしですが。締めたものだとどうしても独得の臭み、匂いを隠せない。脂肪分と蛋白質のせいですね。
 はたせるかな、袁さん、その問題点を見事にクリアー!
 臭み、匂いなんてまるで感じない。上品で洗練され、しかも、さっぱりの味わい、風味です。
 日本の中国料理店でこの種の料理を食べると、臭み、匂い消しの生姜、葱の味、それに胡椒をはじめとする香辛料を使い過ぎなきらいあり。
 その点、ほのかに!というあたりの技が見事です。しかも、陳皮とか桂皮とか「なんだったっけ、これ?」という香辛料がさりげなく潜んでいます。
 あっさり、すっきり、さっぱりの海水魚を使った「順徳魚雲羹」。ガツンとインパクトのある強烈な味じゃなくって、食べすすめるごとに味わいがしっかり姿をあらわし、輪郭が明解になっていく。しみじみと味わい豊かな料理です。

 さすが、袁さん。魚、アラの下拵え、香味野菜、香辛料の使い方、火の加減のすばらしさにうっとり!。
 もちろん仲間にも「こんなに上品な味つけなんて、信じられない!」と大評判でした。