2008/08/13

夏の味 三陸シーファームの「岩牡蠣」

 岩手の大船渡の赤碕から夏の味「岩牡蠣」が届きました。送り届けてくれたのは志田建志さん。

 大船渡の牡蠣と言えば「シダッチ」の「赤崎冬香」。以前、dancyu(04年1月号)で紹介したことがあるでっかい牡蠣です。

 ホタテの貝殻で一年ほど育った牡蠣を外し、貝の根本にドリルで穴を開け、テグスを通して海に沈め、年月をかけて育てた「赤崎冬香」は、ともかくでっかい。でかいだけでなくその味、風味はリッチで芳醇。

 そんな「赤崎冬香」を兄の志田恵洋さんと育んできた弟の志田建志さんが、昨年「シダッチ」から独立。奥さん、それに23歳になった息子さんと新たにスタートさせたのが「三陸シーファーム」。

 話を最初に聞いたときには、エッ!一体何が!と一瞬はどぎまぎ!もっとも、建志さんの息子さん、建志さんの牡蠣の養殖を手伝い、それに専念なんてことが建志さん独立のそもそものきっかけ、なんて話を聞いて、成る程と納得しました。

 ところで「岩牡蠣」。秋の終わりから冬に入り旬を迎え、雪解け水が大船渡湾に流れ込む春に旨さがそのピークを迎える「真牡蠣」とは、品種、種類が異なります。
 「岩牡蠣」は「夏牡蠣」の通称で知られる通り、初夏から夏真っ盛りまでがその旬。

 その昔、私が知っていたのは能登の天然の「岩牡蠣」。海のものに限らず、陸のものでもそうですが、毎年、その出来栄えは天候、気象条件に左右され、不出来な年もあるのは自然の恵みの常。とはいえ、能登の「岩牡蠣」、その「精」の強さ、味の濃さ、風味の強烈さに打ちのめされたもんです。

 それが、dancyuで大船渡の「シダッチ」に「赤崎冬香」や成長して1年に満たない処女牡蠣の「姫」の取材に赴いた際、こんなのもあるよと教えられ、試しに食べたのが生育途中、確か4年目を迎えたとかいう「岩牡蠣」。

 なんでも壱岐産の天然の「岩牡蠣」の種を大船渡で養殖、育成ってことでしたが、能登の「岩牡蠣」とは異なる味わい、風味に驚きました。能登の「岩牡蠣」の精の強さよりも、「赤崎冬香」をさらに凌ぐ、ぽってりふっくらとした牡蠣の身のでかさ、その味の濃さが印象的でした。

 年月をかけて育てた「赤崎冬香」は、胴長で、下半身が膨らんだ言わばペンギン体系。「岩牡蠣」は、バスト、ウエスト、ヒップのサイズは同じ、上から下までずんぐりむっくり、寸胴状のドラム缶。言わば、カバ体系。

「岩牡蠣」を頬ばり、身をしごいて海水を吐き出し(ってのが、船上での生牡蠣の食べ方だってことを建志さんから教わりました!)、肉厚の柔らかい身をぐちゅっと噛み締めると、中から卵やわたが威勢よく一気に弾け出し、口中に溢れる。味蕾をざわざわと引っ掻き回すような感じに、思わず目を丸くしたりして。その味の濃さ、濃密さに吃驚。それも、舌にぐんと重くのしかかる。能登の「岩牡蠣」の精の強さとはまるで違ったぬめりのある味の濃厚さ、濃密さ。それが、たまらなく快感。そして、美味でした。

 殻を剥いた「岩牡蠣」を、一個、食べるだけではおさまらず、海から引き上げた「岩牡蠣」を立て続けに一気食い。
「エッ!オレたち、試し食いはするけど、そんなに沢山、生じゃ食わないよ!」と、志田建志さんにあきれられた程でした。

 以来、夏の頃には大船渡、シダッチの「岩牡蠣」を堪能。
 そして、昨年からは「三陸シーファーム」の「岩牡蠣」を堪能。 ところが、今回、「三陸シーファーム」から届いた「岩牡蠣」、なんだか、いつもとは違った様子。

 「あの、普通の「岩牡蠣」に比べると建志さんとこの「岩牡蠣」、でっかいんだけど。けど、今年の、いつもよりサイズが小ぶりな感じがして。何年ものです?」と尋ねたら、
 「4年もの。ああ、でかいのもあるんだけど、今年はサイズが少し小さめの方が、身もしまってて、味も良かったから」、ってことでした。

 なる程。
 「ですけど、サイズだけじゃなくって、身の感じ、味もこれまでとはちょっと違う感じがして」と尋ねたら「そうだ。小倉さんが前、シダッチで食べたのは、壱岐の「岩牡蠣」を種にしてたけど、今回のは岩手のだから。それも関係あるのかな」ってことでした。

 その「岩牡蠣」。火を通すと、まるでその触感、変わります。
 私がいつもやるのは、殻を剥いて、溢れる塩水を残しながら、酒(ワインってこともあるし、シャンパンってこともあるし、日本酒ってこともありますけど)を注ぎ足し、それをグリルに並べて火で炙る。

 しばらくすると酒がぐじゅぐじゅと沸き立ちはじめ、やがて牡蠣の身の表面がぷっくりふっくら、ぴんと張り詰めたような状態になります。皮がまさに緊張。体をそらして、気を付け状態。もっとも、その時点では、表面だけに火が入った状態。
 というわけで、さらに火を入れ、牡蠣が火の熱さにのたうちまわる(わけはないですけど、そんな感じの一歩手前で火を止める。

 火が入った「岩牡蠣」。身に張りがあって、噛み締めるにもいささか加減が必要。すると、身の間から弾け出す卵、わたは滑らかでねっとり。そのねっとりの触感がたまらない。味の濃さ、濃密さはうんと増して、海のミルクどころか生クリーム状態。うっとりとなって、言葉をなくします。しかも、一個がでかいですから、満足至極。なんていいながら、次から次へと殻を剥いて、止められません。
 「三陸シーファーム」の「岩牡蠣」、8月の半ば過ぎ頃までだそうです。
 

2008/08/03

7月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 いよいよ締めくくり。それがなんと「干炒魷魚河/河粉と一夜干の烏賊の炒め」の登場でした。それも、大皿にたっぷり盛られた「干炒魷魚河」を手にして登場した大藤支配人、まずは仲間の一人の目の前に。 それがメンバー全員の「干炒魷魚河」を一皿に盛ったものと思いきや、仲間ひとりけのためのものでした。

「ええ、お決まりの「超大盛り」です!」と、大藤支配人。それから、私の「大盛り」、それに残る3人の「普通盛り」が、次々に登場と相成った次第。さては大藤支配人、拙ブログをチェックなのに違いない!ということが判明。

「河粉」は米の粉から作った米粉(ビーフン)の一種。うどんの一種である平麺の「きしめん」に、形状が似ていることから「広東風きしめん」、「香港風きしめん」と称して「河粉」の料理を紹介している店もあれば、「河粉」の日本での入手が難しいことから素材をきしめんに代えて「河粉」の各種の料理を紹介してる店もあります。

 「河粉」には、生のものと乾燥させたものがあります。生のものは乳白色。乾燥したのは半透明の状態。その幅、7~8ミリのものから1・5センチ弱の程まで、色々あります。それに「河粉」の料理、調理方法や味付けは、実に多種多彩。広州にある「沙河粉」の料理の専門店に行ったことがありますが、料理の幅、多彩さに驚きました。そん時、お土産に買った干河粉の良さはいまだに忘れ難い。

 多彩な料理がある中で、香港で人気が高いのが、牛肉を具材にしたもの。そのひとつが「干炒牛河」。つまりは、焼きそば、焼きうどんにも似て、「河粉」、「牛肉」、時に、もやしや茎野菜なども一緒に炒め合わせ、オイスター・ソース、あるいは、中国たまり醤油の「老抽」などで、味付け、色付けしたもの。通称「ドライ」と呼ばれているもので、「干炒」の文字が物語るとおり、汁気なし。汁気がないように炒めてあります。
 もうひとつは、通称「ウエット」。「炒牛河」もしくは「菜遠牛河」という料理名で、炒めた「河粉」に、牛肉、茎野菜などを炒めてとろみをつけたあんかけ状の具材をかけたもの。

 それより、生の「河粉」にしろ、干したものを戻した「河粉」にしろ、素材自体、水ッ気があってベタベタ状態。茹でた麺ならおよそは水気も切れますが、「河粉」の場合にはそうはいかない。
 そんなことから、「河粉」を炒めるにはワザが要る。火の強さ、炒める油の加減と、その温度の見極め。ベタベタの水気を失くしても、炒めた油のベタベタが残っていれば意味がない。というわけで「炒飯」同様「鍋」使いの技量を試される、料理人泣かせの料理のひとつです。

 その「炒飯」にしても、日本では「炒飯」とされながら、実はそのほとんどは「焼き飯」だったりして。その差、違いは歴然としているのに、実態不明のまま混然状態。
 「エ!? 「炒飯」と「焼き飯」って、どこがどう違うの?」と、素朴な疑問を持たれるかたもいらっしゃるでしょう。それについては、また後日!

 さて今回の「干炒魷魚河/河粉と一夜干しの烏賊の炒め」。具が牛肉ではなくて、「烏賊(いか)」。それも「一夜干し」というのが実に憎い!
 その「烏賊」、香港だと大抵の場合、使われるのは「するめいか」で、大雑把ながらほとんどの場合「魷魚」と表記されてます。生のものを調理することもあれば、ひとしおして一夜干しにする。あるいは、日本の「するめ」同様、時間をかけて干し、調理するには、戻して、身を柔らかくしてから、というのが一般的。

 今回の場合には、その身の柔らかさからすれば、一夜干しでしょう。味はしっかり。さらに、炒めて火を通した結果、旨味を増してます。そう、あのいか独特のくせある濃厚な味、風味が味わえるという寸法です。それに、風味付けの醤油が実に効果的。
 水気の、あるいは、油っ気のベトベト感は皆無。火の扱い、巧みな「鍋」のワザを物語る一品でした。

 ちなみに画像は私の「大盛り」サイズ。超大盛り、普通盛は、ご想像ください!

2008/07/27

7月の「赤坂璃宮」銀座店の4

「鹹魚牛崧豆腐煲/牛挽肉と豆腐の鹹魚風味煮込み」が登場し、ご飯を別途注文。ご飯の上にのっけ、ぶっかけ飯にして、豪快に一気呵成にかっこんで「鹹魚牛崧豆腐煲」の旨さをしっかり堪能。

 と、なると、いよいよ最後の締めくくり?
 かと思いきや、もう一品「柱侯茄子炆帶子/帆立貝柱と茄子の煮込み」が登場。

 そうか! 先月は4人、今回は5人。ひとりメンバーが増えれば、その分、予算が増える。ということは、高価な素材を使うことも可能で、一皿の内容、充実を図れる。もしくは、もう一皿、料理の追加が可能。そんなところが中国料理面白さ、楽しさ。人数が増えれば、コースの内容、メニュー構成が、いろいろ按配できるという寸法です。

 さて「柱侯茄子炆帶子/帆立貝柱と茄子の煮込み」。私は初体験。はじめての出会いです。
 料理名にある「柱侯」は広東省の佛山で生まれた味噌、調味料の一種で、佛山の特産品として知られる「柱侯醤」のこと。その「柱侯醤」の内容は、大豆を主体に、塩、砂糖、胡麻、醤油などで作ったものです。本来は肉料理に使われ、家庭では豚のスペアリブ、牛バラ肉の煮込み、鶏の手羽先の煮込みなど使われます。

 そういえばあの「果子狸/ハクビシン」や羊や山羊など、冬場の野味の調理などに欠かせない。それを「茄子」と組み合わせた料理、しかも、「帶子」、新鮮な貝柱と組みあせた料理には今まで出会ったことがありません。

 これからの季節「茄子」が旨い。卵型の真黒茄子、それに長卵茄子や長茄子に、加茂茄子のその一種である丸茄子なすなど、その種類は豊富。灰汁が多いので水にさらし、滋養があるという皮をつけたまま調理。水分をタップリ含んでいることから脱水し、旨味を凝縮ってことから、油で揚げたり、焼いたり、蒸したりして下拵え、というのが一般的。ことに油と馴染みがいい、というのはよく知られます。

 そんな茄子を使った代表的な料理といえば日本でもすっかり中華風惣菜として定着した麻婆茄子、でしょうか。その麻婆茄子からも明らかなように、中国料理で、茄子を素材にした料理には、なんらかの形で肉が組み合わせられるようです。

 そういえば以前、芋頭/里芋のところでも紹介したことですが、茄子もまた「痩物」、それに「寡」、つまりは、それだけでは味が足りない、物足りない素材、なんてことを家郷菜、家常菜を紹介したサイトで見かけたことがあります。ついでに「柱侯茄子」を香港、中国のサイトで検索したところ、ありました。そのレシピを見ると、やはり豚の豚肉が使われてました。

 それが今回の「柱侯茄子炆帶子」、料理名からも明らかなように、豚肉ではなく新鮮な貝柱と組みあわせたもの。それに「炆」というのは、素材を煎り焼き、もしくは揚げて、だしを加えて煮込むという調理方法。

 結果、茄子、貝柱は「柱侯醤」を主体にした甘味、旨味にこくのある味噌味で包まれ、噛み締めるとそれぞれの素材の味が浮かび上がるといった按配。油で揚げた茄子は、しんなりしっとりとした歯触り、触感で、特有のえぐ味をかすかに残した青い味わいが印象的。貝柱は火が通って噛み応えのある弾力を残しながら、むちむちねっとりの歯触り、触感で、貝柱独特の甘味が浮かび上がる。

 その茄子を食べながら思い浮かんだのは、焼いた茄子、揚げた茄子に味噌をのっけて食べる茄子の田楽。そうか譚さん、もしかして田楽をヒントに、甘味、旨味、コクのある「柱侯醤」を起用?なんて、思いあたったりして。肉ではなく、新鮮な貝柱を組み合わせたのも、火を通した貝柱のすっきりした甘味との対比を考えあわせてのこと、だったのかもですね。

 肉や鶏肉、野味と「柱侯醤」の組み合わせは慣れっこの私ですが、茄子と貝柱との組み合わせには意表をつかれました。しかも、こくのある味噌はガツンとくるメリハリの利いた味。それに爽快な茄子、さっぱりした新鮮な貝柱、といった素材と「柱侯醤」の味の対比が面白い。これもご飯と一緒に食べたくなる一品。いや、私としては焼酎を飲みながら味わいたくなりました。

2008/07/24

7月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして、4品目の「鹹魚牛崧豆腐煲/牛挽肉と豆腐の鹹魚風味煮込み」が登場。

 土鍋の中でぐつぐつ煮えたぎる豆腐。その上には、切り込みを入れた白葱のぶつ切りが、え~ひ、ふう、みい、よ~、表面に見えるのは全部で9本。

 そうです、撮影した画像で白葱の数をチェック。豆腐の数は……ま、いいっすか?
 画像撮影禁止だった「ヘイフンテラス」(私もしつこい!)と違って、バンバン料理の写真撮りますから。もうしわけないことに、その間、皆なはお預け待機。 
 前にも話したように、土鍋煮込みですが、汁気もたっぷり、というのがここ「赤坂璃宮」の「鹹魚豆腐煲 」の特徴です。そうだ、なんで、汁気多いのか、理由を譚さんに聞くのをわすれたので、回答は後日。

 それにしても、ぐつぐつ煮えたぎる料理の顔つき、色あいがとても良い。いい香りがします。もちろん、「鹹魚」のくせのある香りが、あたり一面に。それに、鍋の気、「鑊気」に溢れてます。
「ねね、これもやっぱり「馬友」?」と、支配人の大藤さんに「鹹魚」の種類を尋ねたら、「そうです!」と、にっこり、キッパリ。

 なんて、話を聞きながら、やっぱりこの「鹹魚牛崧豆腐煲」、白いご飯がなくっちゃ、白いご飯と一緒に食べなくっちゃ、意味ないかも。
 「あの、すんません。白いご飯、そだな、2個。それに、お碗を4個!」と、大藤支配人に注文。

 「これ、ご飯なしに食べないって、なんてもったいなすぎるから!最後に麺か飯なんだけど、白いご飯にのっけて食べちゃいましょ!」、とまあ、皆の意向を確かめないで、白いご飯を注文。
 ウケました。白いご飯と一緒に食べるのかめっちゃウケました。
 
 「これ、こうやって食べると、すごく美味しい!」。
 「でしょ?」と、自分で作ったわけでもないのに、自慢気な私です。なんて、話の間にしっかり白いご飯に「鹹魚牛崧豆腐煲」を載せて、ご飯をかっこんでる人もいて。

 ところがこの「鹹魚牛崧豆腐煲/牛挽肉と豆腐の鹹魚風味煮込み」。普通のとはちょっと違います。すでにお気づきの方もいらっしゃるでしょう。
 そうです。この「鹹魚豆腐煲」、香港じゃ、それに広東地方じゃ「牛肉」ではなく「鶏肉」と組み合わせるのが一般的。「鹹魚鶏粒豆腐煲」というのがその料理名。それも「鶏粒」とあるように、みじん切り、もしくは粗みじんが普通です。中には、賽の目切りの「丁」や、ぶつ切りの「球」の半分くらいの鶏肉だったりすることもあります。

 それが、「鶏肉」ではなく「牛肉」の粗みじん、粗いひき肉状なのが、ワザのひとつ。「鶏肉」は、ご存知の通り、肉自体そのものは淡白さっぱり系。それが「牛肉」の粗みじん、ひき肉を使うことで、旨味を増し、味が濃くなる。だしがしっかり、味の濃いものになります。

 そして、白葱、4センチほどの長さで、しかも、細かな切り目入り、というのがワザのふたつ目。単に薬味、風味づけってことだけじゃなく、葱も要の味のひとつになってるのが面白い。すき焼きのだしを吸って葱の、あの感じでですね。さらに豆腐は賽の目の倍位の大きさで、衣をつけて、油で揚げて下拵え。油で揚げた結果表面は「脆」、そうです、パリサク。それがだしに絡んで、しっとりパリサク。噛み締めれば、豆腐は「嫩」そのままの柔らかさ、というのがワザの3つ目。

 そんなところで見逃せないのが「脂」と「油」の効果的な使い方、使い分け。
 そうです、牛肉の粗みじん、ひき肉の味の濃さは、牛肉そのものがもつ「脂」もあってのこと。さらに豆腐の下拵えの「油」の使いかた。さらに「鹹魚」も、「油」で調理されて、クセのある「匂い」ではなく、クセのある「香り」が引き立つという寸法です。
 そして、土鍋にたっぷりのだし汁がぐつぐつ煮えたぎる様を見てると、そこでも「(化粧)油」をさりげなくしのばせてある感じです。 それとも、牛肉の「脂」のせい?いや、それだけじゃない様子。それに、鍋の「火」の加減がポイントなはず。その辺は、今度、譚さんにあったら確認してみます。

 そして、しっかり、濃い味。だから白いご飯との相性は抜群です。「鹹魚雞粒豆腐煲」とは趣の違う味、風味。そのインパクトは強烈でした。

2008/07/23

7月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 3品目は「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」。広東地方の伝統的な郷土料理の一品です。
 その内容は、鶏肉のぶつ切りを黒きくらげ(雲耳)、百合の一種のかんぞうの蕾(金針菜)、棗を乾燥させた「紅棗」とともに蒸した料理。香港では「金針雲耳蒸鶏」ということで、広東料理店なら「小菜」のメニューにたいてい載ってます。家庭でも作られることが多い料理です。

 基本は味付けした「鶏肉」に、「雲耳」、「金針菜」、「紅棗」を加え、蒸した料理。
 ちなみにネットで検索すれば「雲耳」、「金針菜」、「紅棗」には様々な薬効ありってことが、即座にわかります。この料理自体、滋養供給、補血、神経衰弱に効果あり。ことに「紅棗」は煮出すと甘味、独特の風味が増す上に、鎮静作用がある、なんてとこを見逃せない。

 以上4種の素材以外に干し椎茸の「冬菇」、さらには「大頭菜」を加えることもあります。その「大頭菜」はアブラ菜科でキャベツの親戚、なんていっても、葉がくるまってるわけじゃなく、こぶし2個ほどの根っ子が蕪のよう。そのまま調理もしますが、香港、それに潮州では漬物にして使います。以前、紹介したスッポンの各種の具材入りの蒸し物の「八寶蒸水魚」などにも使われます。「涼」の性質があるんで夏場にはうってつけ。さらに、漬物なんで乳酸の醗酵味が、旨味、コクを増すってこともあります。
もっとも、今回の「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」は「金針雲耳蒸鶏」に忠実。

 「わ、これ、すごく美味しい!上品でしっかりした味ですね」。
 「うん、確かに、すごいヒット! 旨いだけじゃなくて、味わいがあるし、風味もいいね! ほら、この「紅棗」の甘さもいいね。こくがある」と、私。
 「これは?ほら、この黄色いの?」。
 「うん、それは・・・アレレ?名前……思い出せない・・・・・」と、慌てふためく私。

 ニンマリと笑うK2氏の顔には「歳はとりたくないね!」と書いてありました。
 「金針菜、ですよね!」と担当氏がすかさずフォロー。
 「そそ、金針菜。かんぞうですね!」と、私。
 
 なんてワイワイ言いながら、二口目の鶏を噛み締めたら、爽やかな涼風が一瞬、口の中をすっと通り抜けました。
 「アレ?」と、皿の中を見返してみると「香菜」と極細の「青葱」が。
 まさか「香菜」?、でも、「香菜」じゃなかったなあ。念のため「香菜」を食べてみると、青緑の味、風味が強くって、さっき目の前を通り過ぎた爽快さとは違います。

 そういえば、青さだけじゃなくってホロ苦さ、それに、えぐみと醗酵味が。
 「そうだ、「陳皮」!」。
 みかんの皮を干したやつです。後で譚さんに確かめたら、案の定、どんぴしゃで「陳皮」。
 それも、香りがする、というぐらいに控え目な量。ということは、「陳皮」は風味付けの隠し味だけじゃなくって、「大頭菜」にとってかわる涼風の役目を担ってた、ってことですね。

 「ねえ、さっきのスープもそうだったけど、これ、ご飯が欲しくなる!ご飯と一緒に食べたいね!」。
 そんな話が出るのも無理はない。というのも、この「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」は、惣菜、おかずとしてもうってつけ。家庭料理の定番の一品です。けれど、家庭で作られるのと違って、なんだかひと味違います。それは、蒸した鶏から滲み出たジューシーな煮汁だけじゃなくって、「だし」のような味の濃さ、こくと厚みがあったからです。

 「あのう」と、柏木さんと一緒に我々をアテンドしてくれた山下さん(その昔、京王プラザの「南園」時代ににお目かかったことがあったと判明!懐かしい話です!)に、「これ、「二湯(二番だし)」か、それともなんか「だし」、使ってます?」と、尋ねたら「少々お待ちください!」と、部屋から去って間もなく、「「二湯」は使ってないそうです。下拵えはチキン・コンソメ、オイスター・ソースなどで調味したそうです」と、いう返事。そうか!、チキン・コンソメ、オイスター・ソースの旨味が、プラスされたわけだ!と納得しました。

 それにしてもこの「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」、誰もが「これは旨い!」と絶賛。一口目の印象よりも、二口、三口と味わって、その旨さ、味わいがより鮮明に浮かび上がってくる、なんてところが素晴らしい。
 食べ終えて、その余韻がしっかり残る味わい深い一品でした。

2008/07/21

7月の「赤坂璃宮」銀座店の1

久々のブログ更新は、「7月の「赤坂璃宮」銀座店」。 そうです。月例のとある会議が「赤坂璃宮」銀座店にその場所を改めたのは先月のこと。それからあっという間に一月以上が過ぎました。そして、今月、その食事内容が素晴らしかった。

 なんだか譚さん、手ぐすね引いて待ち構えていたような料理内容に、これは拙ブログで報告と思い立ちました。しかもその報告、どうやら月例化しそう。そんなことからそのタイトル、大阪のlamplusさん主宰の敬愛するブログ「L'AMBROISIE +++PLUS+++」の月例のシリーズレポに倣って「7月の~」とした次第です。

 今月の会議にはもうひとりの担当のK2氏も参加。東京の最新のハンバーガー情報の交換や、アメリカの南部における「豆料理事情」のあれこれ話でに盛り上がっていた最中、前菜が登場。

 「先月と変わり映えしませんが・・・・」とアテンドの柏木さん。
 ですが「赤いパプリカ」をめざとくみっけて、思わず、あれれ?
 「ええ、パプリカの酢漬けです!」。
 酢漬け、ってもしかして「泡菜?」。
 だったら、先月の「湖南菜館」の「剁椒魚頭」に使われてた「剁辣醤」のパプリカ版?

 酸味がしっかり利いていて、味は爽快。パプリカのほろ苦さが失せて、甘味がじんわり浮かび上がります。そのパプリカの爽やかさもさることながら、皮はしっかり焼けてパリっとした「脆」の歯触りなのに、肉質はしっとり潤んでジューシーな焼き物3種、皮の上にちょこんと微塵の葱の油あえの薬味がのっかった地鶏の醤油漬けが旨い。上品で洗練された美味です。やっぱり赤坂離宮の「焼味/焼き物」は旨い。

 「湯(スープ)」は、「螺頭豬展燉湯/乾燥ツブ貝と豚スネ肉のスープ」。
 「いぇい、「例湯」?」と、私はおおはしゃぎ。
 譚さんが香港で仕入れたという乾燥ツブ貝、そこに瑶柱(干し貝柱)、豚のスネ肉をじっくり煮込んで作ったスープです。

 香港では乾燥したツブ貝に色々な具材を加え、じっくり煮込んだスープを作るってのはよくあることです。山芋の一種を乾燥させた「淮山」や「杞子(くこ)」を加えることもあれば、魚の浮き袋の「花膠」を加え、鍋で煮込む「煲」ではなく、「燉盅」という容器に素材を入れて蒸す「燉」の料理方法で、といった豪華版もあります。

 今回の「螺頭豬展燉湯/乾燥ツブ貝と豚スネ肉のスープ」は、その「燉」の料理方法によるもの。「淮山」や「杞子」などの漢方素材はなし。その代わり、ツブ貝に、干し貝柱がたっぷり。豚のスネ肉が生み出すすっきりとしただし味に、ツブ貝が生み出す磯の香、干し貝柱が生み出す旨味とひねた風味、さらにはコクがあいまって、味わいはしっかり。実に濃厚で奥深い。まるでグィ~ンと唸る豪速球がずっぽりとキャッチャー・ミットの奥深くに収まったような、ずしりと重い手応えのあるスープです。

 これで、生の、あるいは、干した広東白菜や、夏なら「冬瓜」や「節瓜/毛瓜」が加われば、さっぱり系で、お惣菜としての趣の「例湯」ですが、それよりもむしろ宴席の料理の一品というにふさわしいどっしりとした味、風味の豊かな「湯菜(スープ料理)」でした。

2008/07/07

「湖南菜館」の6

 「湖南菜館」は靖国通りから「新宿歌舞伎町一番街」のアーケードを潜って、すぐ左手にある大塚ビルの4階にあります。一階はタイ式マッサージの店。うちのかみさん連、その光景に一瞬、たじろいだそうで。タイ式のマッサージって、どんな風だか興味津々。なんて言ってるから、お小言くらったりして。

 そして4階の「湖南菜館」に一歩足を踏み入れれば、そこは別世界。東京とは、日本とは思えない不思議のワンダーランドです。某サイトの紹介によればシックで落ち着いた雰囲気ってことですが、青いライトがあったりして、なんだか水族館に迷い込んだような気分。

 そう、壁の色彩とか照明のセンス、言ってみればチャイニーズ・モダンの趣。中国の都市で出くわすあのミント・グリーン的色彩感覚、センスの面影ありで、それをモダン化したような印象。さらに、部屋を見上げれば常時、中国の番組を紹介し続けるTV。もちろん、カラオケの設備あり。思い出したのは、上海や南京にあった(チャイニーズ・)モダンな内装、カラオケ設備有りの最新のレストラン。

 「湖南菜館」でぐるりと店内を見回し、目がとまったのは奥の部屋の壁の「毛沢東」の肖像画。毛沢東は湖南省の出身で、湖南省の素朴な郷土料理、家庭料理をこよなく愛したなんて話、伝記本を読めばどこかでその記述を見出せます。私の記憶違いかもしれませんが、文革の嵐が吹き荒れる中、反革命分子として幽閉されたチェン・ニェン(鄭念)著の「上海の長い夜」だったか、毛沢東と妻だった江青の日常生活について触れたところで、素朴な湖南の田舎の料理を好んだ毛沢東。それを受け入れられなかった江青の話、ありませんでしたっけ?

 そういや、以前、北京の「揺滾楽隊」(ロックバンド)を取材した際、出向いたのが北京郊外にある保養地の北戴河。「これが江青の別荘だったところ!」と教えられたのは瀟洒な白亜の洋館でした。そうそう、北京で会った新進のロック歌手君がかつて結成していたバンド「紅焼肉」というグループ名の由来のきっかけも、どうやら6・4、すなわち天安門事件以後、再燃し始めた毛沢東の評価、文革を体験しない若者の間での毛沢東ブームもあってのことじゃないか、なんて気配が濃厚でした。

 いつだったか、香港で一時、湖南料理が話題になったこともあります。その記事のファイルあるはずですが、見つからず。確か、どっかのホテルが毛沢東の好んだ湖南料理を看板にしたフェアーを開催。腕を奮ったのは毛沢東の料理人だったか、毛沢東好みの料理を看板にする店の料理だったかで、香港の新聞、週刊誌がほぼ時を同じくしていっせいにそのニュースを報道。そん時、メインの料理として紹介されていたのが「紅焼肉」でした。

 「湖南菜館」で「剁椒魚頭」とともに「紅焼肉」を楽しみにしてたのは、そんなワケもあってのこと。皮付き豚のバラ肉の「五花腩」の煮込みの「紅焼肉」、極上とは言い難いものの、味付け、調理、風味はやはり本土のそれ!
 似たような料理で日本で一般的な皮付きの豚バラ肉の煮込みの甘口でとろみたっぷりなものとは異なり、とろみは少々で、すっきりとした味わい。素朴でしみじみとしていて、味、風味は、やはり本土のそれ。

 さて、「剁椒魚頭」、「紅焼肉」以外にも、看板のお勧めの料理の「ふわふわ肉豆腐団子のスープ煮」や「季節野菜と豆腐の高級スープ煮」などにも挑戦。というあたりになると、正直言ってトーンダウンを否めない。というのも、だしに無理があって、料理としての奥行き、深み、洗練度はいまひとつ。どうやら「だし」、素材の調達の問題などもあって、本土でのそれと同じようにはいかず、入手可能なもので工夫を強いられている様子。

 とはいえ、日本の一般的な中華料理店でのそれとは明らかに印象は異なる。強引に「らしき「だし」」を作るのではなく、入手可能な素材を使って、その持ち味を生かした「だし」をとり、味付けの要にしてること。穏やかで、無理がない。そんななところ、やはり本土の料理人は違うなあ、なんて思います。年季、技量もあるでしょうが、素材の捉え方、生かし方、その見極めがなんだか違う感じ。ですから、だしの弱さを否めないにしても、独特の持ち味がある。なんて言うと、本土の料理人信仰丸出しと誤解されないかも。その結果を味わっての私の印象、感想ですから。

 「だし」同様、料理の素材の吟味についても、同じ課題を抱えている様子。本土出身の料理人を抱え、本場の味、風味を再現しながら、素材にかける予算、経済的な問題から、洗練度、完成度はいまひとつ、というのはよくあることです。それでも、素材の持ち味の見極め、生かし方、調味料の扱い、その分量、匙加減が生み出す一体味、風味に、唸ります。油の扱いも実に巧み。ほとんどが大豆油を使ったもの、なんて聞いてその生かし方、扱いに驚きました。火の通りの見極め、味を生み出すだけでなく、風味、香りを生み出すタイミングの捉え方も。それは、蒸し物、煮込みものにも当てはまること。その味付け、味わい、風味、香りは、まさに本土のそれ。ま、本土の料理人なら当たり前のことなんでしょうが、様々なハンディを背負いながらの話、ですから。
 「剁椒魚頭」の爽快な酸辣の味、風味。しみじみと味わい深い「紅焼肉」は、この店ならではのもの。

 「湖南菜館」は、今、私が東京で興味をそそられる中国料理店の一軒。今度訪れる際には、もっとピリ辛ものに挑戦したい。出来れば本場そのままの辛さをそのまま再現してもらってみるつもり。「湖南菜館」の料理人なら、単に本場そのままの辛さだけを再現するだけじゃない料理を作ってくれそうですから。それに、まだまだある湖南独特の地方料理、肉や魚介を燻製にした「腊味」の料理の数々にも挑戦したい。その結果はいずれ、報告いたします。

 そうそう「湖南菜館」に限らず、中国本土から料理人を招聘。本土の味、風味、香りが味わえる店が、東京には相次いでます。それもまた、そのうちに報告の予定です。
 そして、画像は「ふわふわ肉豆腐団子のスープ煮」。

2008/07/06

「湖南菜館」の5

 私にとって湖南料理との最初の出会い、と言えば新宿の「雪園」ってことになります。「雪園」のサイトによれば開店30年を超えるそうで。
 その昔、日本で「火腿」、いわば中国ハムがその存在を広く知られてなかった頃、その「火腿」を素材にした「蜜汁火腿」、竹筒に鶏肉のすり身を入れて蒸したスープなど、概ね洗練された上品で気品のある味付けの料理が中心。そんな「雪園」も、最近は随分ご無沙汰してます。

 それからしばらく、といってかれこれ20年前の話。ロック・アーティストの取材の為に単身渡米を何度も繰り返してました。それも、アメリカの大都市だと地元メディアの取材も殺到。そんなことからアメリカの地方都市を専用のバスで巡演中の彼らに同行取材。そんな折、知ったのがアメリカのフーナン・レストランの存在。

 「今夜はフーナン・デイナーだから、楽しみにね!」とツアー・マネージャー。 なんて教えられても「は!? フーナン・デイナー?」といぶかしがる私。 「知らないのか?ほら、ホット&スパイシーなチャイニーズ」、とマネージャー。 「ホット&スパイシーなチャイニーズ……っていったらシーチュアンじゃないの?」。
 そう尋ね返したところ、今度はマネージャーが「何?それ?」とばかり、怪訝な顔。
 店に案内されて「フーナン」が「湖南」だとわかり、ようやく納得。

 最近のアメリカの各都市における中国料理事情、しかも、中国各地の地方料理の分布図が一体どんな按配なのか知りません。ですが、かつて私が頻繁にアメリカに単身取材で出かけた80年代半ばから90年代半ば、西や東の沿岸部の大都市はともかく、中部、中西部、西南部の地方都市でチャイニーズ・ディナーってことになると連れて行かれたのは大抵がフーナン・レストラン。「ホット&スパイシー」なチャイニーズが看板でした。その手の店にばかり案内されたから、ってこともあるかもしれませんが、例えば、宿泊先のホテルやモーテルの地元の食案内のチャイニーズの項目で「フーナン・キュジーヌ」、「フーナン・スタイル」が目立って多かった。そして知ったのが湖南料理独特の唐辛子をふんだんに使った激辛の料理の数々の存在です。

 ま、そうした店のメニュー構成は、中国各地の地方料理の代表的な料理のアメリカン・バージョンがずらり。とまあ、実にありがちな話。それでも、フーナン独特の料理には特別なマーク(たいていは唐辛子マーク)があって、フーナン・レストランとしての存在を誇示、強調。そのマーク、その数は辛さの度合いを示すもの、といった按配でした。

 「雪園」での「湖南料理」との出会いをきっかに、その実態を文献などで調査し、辛い料理、それも、四川料理とは異なる辛い料理の存在を知ったものの「雪園」ではその種の料理には出会えず、あっても辛味は加減気味。そんなことからアメリカで「湖南料理」における辛い料理の存在を認識。その後、香港にも「湖南料理」の店が誕生。もっとも、味付けは香港の四川料理店同様、地元、香港人の嗜好に合わせた様子、なんてことからなじめませんでした。

 その後、90年代の初めから半ば、台湾、香港の音楽関係者の案内を得て北京にしばしば出かけたことがあります。中国の最新の「流行的音楽」、及び「揺滾(って、中国語でロックのことです!)音楽」の歴史、現在の探求、調査、取材がその目的。もちろん、その機を逃さず食関係のフィールドワークの探求、調査、取材も怠りませんでした。

 その際、出会った新進のロック歌手。かつて組んでいたバンドの名前が「紅焼肉」。
 「どうしてまた、そんな名前に?」と尋ねたら 「中国人なら誰でも知ってる料理だから!
 「紅焼肉」の作り方は簡単なんだけど、作る人ごとに工夫や、家伝来の秘伝があってね。誰もが自分の作る「紅焼肉」、家伝来の「紅焼肉」が絶対に旨いと信じて疑わないワケ!」 なんて話でした。
 そればかりか教えてくれたのは「「紅焼肉」は毛沢東の大好物だったってこと。

 そんな話を聞いて「毛沢東が好んだ湖南式の「紅焼肉」、湖南地方のお惣菜、家庭料理が食べたい!」と思ったことは言うまでもありません。ですが、教えてくれた湖南料理の店の場所は、はるか遠く。おまけに、時間も遅く、出向くのは断念。その代わりにと出向いた食堂のような風情の店で、いろいろおかずを注文。そんな中に唐辛子の辛味の利いた青菜の炒めものがありました。 「これ、これ、こんな感じ!」と、語るその青菜の炒め物、舌を刺す唐辛子のぴり辛の鮮烈な味が印象的。しかも、北京の食堂にしては味が濃い目。他にとったおかずのいくつかもそんな感じでした。  話戻って、新宿、歌舞伎町の「湖南菜館」でのこと。
 注文した料理を食べ終え、しばしリラックス。それを見計らってか
 「あの、私達の食事の時間なんで、ちょっと失礼!」 と、我々をアテンドしてくれた山東省出身の女性。
 「はあ!」、なんて生半可な返事を返しながら、一体なにが?と思う間もなく、キッチンから料理人二人、料理二品、ご飯の入った茶碗を携えて登場。

 「まかない!」の時間でした!
 そうと知って一緒だった連れ、俄然、興味深々!
 「あの、それ、ちょっと味見させてもらえませんかね!」なんて、私に負けず劣らずの喰いしんぼうで、いやしんぼう。

 そんなまかないの料理の一品の青菜の炒めものを見つけて、「エ!?、あれ!」。
 なんでも、「からし菜」の一種「セリホン/雪里紅」を炒めたもの。それに「芥蘭」だか、「露筝」だか、小口切りにした軸ものの青野菜が。さらに、赤い唐辛子の乱切りがそこかしこ。
 もしかして、北京の食堂で食べたのと、似たような唐辛子風味の野菜炒め?
 まさにその通り。唐辛子のひり辛の味、それに、味付けもしっかり。
 ご飯が何杯でも食べられそうな「おかず」でした。

2008/07/04

「湖南菜館」の4

 「ほら、これ! 湖南省特産の唐辛子の漬物」と李さん。
 そうか成る程、漬物の酸味が鍵を握ってるわけだ。火を通せば、甘味、旨味、こくを増すって寸法ですね。だからこそ「剁椒魚頭」の清々しくって爽快な辛味、酸味、甘味、旨味、こくが生まれるわけだ!
 そこで思い出したのが四川料理の「泡辣椒」のこと。「剁辣椒」同様、塩で漬け込んだ唐辛子の漬物のことです。

 さて「剁椒魚頭」の「剁」は「刴」とも書きます。その意味は「(切り)刻む」ってことになります。つまり「剁辣椒」というのは、唐辛子を切り刻んだもの。とはいえ、「漬物」にあたる表示はなし。

 そんなわけで「剁辣椒」については興味津々。ウチに帰って早速手元にある資料、文献をひっくり返し、ネットでも検索、調査。ついでに四川の「泡辣椒」についても再調査。その結果は、各自、検索、調査戴ければ明らかです。

 「剁辣椒」は湖南地方特有の唐辛子の塩漬け。一方、「泡辣椒」は四川地方特有の唐辛子の塩漬けと判明。いずれも唐辛子の塩漬け、ということでは根っ子は同じ。
 ただし、湖南地方では「剁」とあるように唐辛子を切り刻んで漬け込む。そこに大蒜を加える、ってこともある。李さんが見せてくれた「剁辣椒」の頭に「蒜茸」とあったことがそれを物語る。

 一方、四川地方の「泡辣椒」。唐辛子は切り刻まずに丸ごとそのまま、というのがほとんどのようで、大蒜は加えられることもあれば、加えられないってこともあるようです。

 話は横道にそれますが、四川地方の「泡辣椒」は、四川特有の味付けである「魚香」には欠かせないもの。一応の歴史があるようです。ところが、陳建民さんによって日本に四川料理が紹介された際、「泡辣椒」は日本で入手不可能だったといった事情もあったらしく、その存在こそ知られてはいたものの、四川系の料理人仲間でも一般化せず。そんなことから日本の四川料理の「魚香」の味付けは、豆板醤が主体に、なんて、歴史、足跡もあるそうです。

 もっとも、ここ10年程だか、最近になって四川に赴いた日本の四川系の料理人がその存在を認識し、日本に持ち返った結果、その存在が知られはじめた、なんてことがあるようです。ともかく「泡辣椒」は、「豆板醤」のように味噌のような味の濃さ、重さがない。むしろ、辛味に加えて、酸味があり、火を通せば甘味、旨味、こくを増すというのがその特徴。

 そういえば、経済的な反映を背景に、濃厚でしっかりした味、風味ではなく、淡白、それこそ清淡で、洗練されたさっぱり味が好まれるようになった、という昨今の四川の料理事情からすれば、爽快な鮮味を生み出す「泡辣椒」を主体にした料理が、評判というのも大いにうなずける話。そうです、今話題の「新派四川」の料理の数々において、「泡辣椒」が果たす役割は大きい、なんてことにも興味津々。

 「湖南菜館」の「剁椒魚頭」を食べながら、そんなことを思い浮かべたりして。
 なんてこと言うと「湖南料理と四川料理は違いますから!」と李さんにお説教されそう。
 実際、唐辛子の塩漬けの「剁辣椒」を使った「剁椒魚頭」を食べてみると、「湖南料理」と「四川料理」の違いがよくわかります。辛味はあっても「麻」の痺れ味なし。それに酸味の使い方、それも、塩漬けの唐辛子の「剁辣椒」から生まれる、酸味、甘味、旨味、こくのある味は、違いますから。

 それにしても「剁椒魚頭」。その色、下拵え、味付け、調理の技、味わい、風味は、見事です。日本で、東京で、こんな料理に出会えるとは思いもしませんでした。ですが、それだけに惜しいと思ったのは、素材の選択、吟味のことです。「湖南菜館」の料理人の緻密で繊細な味付け、見事な調理の技を生かせる素材、鯛じゃなくって、他にあるんじゃないか、なんて思い巡らしたりして。余計なお節介かもしれませんけど、そこんところはなんだかモヤモヤ。

 そして、登場したのが「毛家紅焼肉」。 楽しみにしていた一品でした。

2008/07/03

「湖南菜館」の3

 「湖南菜館」の「剁椒魚頭」は実に旨い。美味です。
 辛味が利いてます。鮮烈な赤い色彩がそれを物語ってます。 とはいえ、赤い色彩は唐辛子だけでなく赤いパプリカもあってのこと。その赤いパプリカ、青臭さ、ほろ苦さ、甘さがあって、唐辛子の辛味を和らげてます。それに、微塵の唐辛子、パプリカなどで覆いつくされた魚の頭を取り囲む赤いパプリカの存在も見逃せない。 このアイデア、一体誰が考案したものなんでしょうか。

 某グルメサイトの紹介によれば、「湖南飯店」の料理人は本土の「毛家飯店」の本部出身とのこと。
 早速ネットで検索。本部のサイトでは「剁椒魚頭」の画像が見つけられず。 ところが、北京をはじめ中国全土にある『毛家飯店』、なんだかフラインチャイズ・システムの感じなんですが、中国各地の各店のサイトで見つけた画像によれば、なんと赤いパプリカじゃなくって赤い唐辛子の小口切りがどっさり。

 ということからすると、赤いパプリカを効果的に使ったのは「湖南菜館」独特のもの?美的効果、それに、辛味を和らげるための工夫から生まれた産物、なんでしょうか? その辺りの事情を詳しい方、是非、ご連絡を!

 ともあれ、赤いパプリカは実に効果的。本場そのまま、唐辛子の小口切りどっさりなら、まちがいなく抵抗があるかも。もっとも、中には、本場かぶれ(って、私もそうですけど!)、まんま、唐辛子の小口切りどっさりでなきゃ、って人もしるでしょうね。いや、まじ、私もそれを試してみたい!

 それより、この「剁椒魚頭」の美味は、辛味だけじゃなく、酸味がしっかり利いていて、しかも、直接的ではなく、まろやかで滑らかな舌ざわり。こくや旨味があります。
 そう、酢、漬物の乳酸、酸味の強い果物に火を通せば生まれるあの味、風味!
 酸味だけでなく、甘味、旨味がある。それと唐辛子の辛味が入り混じって醸し出す清々しくて爽やかな味、風味、コク、旨味が、しっかり味わえる。

 実は、最初、メニューを決める段階で、お店の人にあれこれ尋ねました。
 アテンドしてくれたのは山東省出身の女性です。料理の内容のあれこれ、どんな調味料を使っているのか、仔細を尋ねた際、基本の調味料を確認。その対応、回答が実に懇切丁寧。もちろん、MSG(化学調味料)の類の使用の有無についてもです。

 なんて、MSGの話題に触れると、批判、非難の嵐を浴びることがあるのはちょっと厄介。
 もっとも、私、「今更そんなこと御託並べて、大げさに言うか!」の、スローフード信者でもなければ、生産者礼賛のフードライター諸氏に目立って多い「絶対的な有機無農薬産物信者!」でもありません。
 個人的な嗜好からでもなく、早い話、一定の摂取量を越えると身体に異常をきたす!というだけのことなのですが………。

 ともあれ「湖南飯店」におけるMSGの使用の有無、その対応、処置については、なんと嬉しいことに本土の料理店、一般の大衆食堂並みのレベル、寛容さ! といっても、それをふんだんに使うってことじゃありません。客の要望にしっかり応え、使用有、無し、その減量にも対応。既に使用済のものは、それを明確に教えてくれ、「どうしましょうか?」と、その対応は実にきめ細か。
 私、思わず「ワオ!」と、快哉を叫びました!
 嬉しいじゃないですか!日本の中国料理店も、是非、見習って欲しいところです!

 なんだか、話が横道にそれちゃいました!
 そう、メニューを決める段階で、あれこれ、話を聞いた段階で、使っているお酢は日本のそれ。
 黒醋はない、ってことでした。なんてことからすると、「剁椒魚頭」のまろやかな酸味、甘味、こくは「お酢?日本のお酢で、こんな味、旨味、こくがでるの?」

 「違います!」と、李さんはきっぱり!
 同時に、やおらキッチンに姿を消し、携えてきた調味料の一瓶をテーブルの上に!
 「これ!これです!これがその秘密!」
 それには「蒜茸剁辣椒醬」と記されてました。
 湖南省株洲市産のものでした!

2008/07/02

「湖南菜館」の2














これが奈々先生の絶対のお勧めの料理「剁椒魚頭」。 メニューには「「湖南料理の代表作!」鮮魚のお頭のぜいたく蒸し」とありました。この料理はどうしても食べたかった。ものの本やらネットで検索すれば湖南料理の名菜として紹介されている一品です。

 湖南省という地名は、湖、すなわち洞庭湖の南に位置していることに由来。その洞庭湖はじめ、近辺で生息する中国四大家魚(青鱼、草鱼、鲢鱼、鳙鱼)のひとつ、鳙魚を素材にしたのが「剁椒魚頭」、あるいは「醤椒蒸魚頭」。

 その鳙魚、鯉科の一種で、頭がでかくて、なんといっても頭が旨いってことで、大頭魚、熊魚とも言うらしい。そんな淡水魚を素材にして、湖南独特の「剁辣醤」や生の唐辛子を刻んでたっぷりかけて蒸した料理なのが「剁椒魚頭」。

 けど、待てよ?
 日本じゃ鳙魚どころか、残る中国四大家魚の青鱼、草鱼、鲢鱼だって入手は難しい。北京の湖南料理店には大頭魚を洞庭湖から直送、なんてとこもあるようで。なら、日本にも直送が可能なはず。ましてや淡水魚、ですから輸送に時間がかかったって、元気で長持ちしそう。しかし、その辺り、うまい按配に運ばないのが中国と日本の流通事情。ましてや淡水魚の日本での市場価値は絶望的。どれだけ在日、滞日中の中国人の方々が熱望しても、無理でしょうね。
 そういや、上野の御徒町の中国物産の店や、大阪の三寺街界隈にある上海料理の店には、生魚、鮒や鯉が!思わず買って帰りたい欲望に駆られます。

 さて「湖南菜館」の「剁椒魚頭」。魚を何に置き換えているかってことに、興味津々。そのあたり、食文化比較をテーマとする私には、関心のあるところです。メニューには「鮮魚のお頭のぜいたく蒸し」とあったんで、もしかして「鯛」と予想していたところ、案の定、ピンポン! でした。

 「そうか、鯛か・・・」と、予想はあたったものの、正直な話、ちょっとばかりがっかり。料理の値段からすると、養殖の鯛だって想像がつきますから。
 でも、ま、ワイルドだったり、素朴だったり、本場そのままの中華(の味、風味)を期待するむきには、養殖だろうが、天然だろうが「なんたって旨くて安けりゃ、それでOK!」なんてノリが支配的。そんなところで「養殖?」と聴くのはヤボ、言わずもがなの世界。

 ま、そいう認識のハードルの低さやら、素材の吟味、素材の質、素材にかける値段に制限あり、っていうのが本場そのままの美味を日本で再現するにあたって、ネックなのは事実です。
 「中華って、そんなもんじゃないっしょうが!安くて旨いのが当たり前、なんだから!」と、フレンチ、イタリアン、和食の極上の美味から大衆的で庶民的なラーメンの美味までほめそやす料理評論家、フード・ライターばっかりじゃなく、その種の人がウザイと噛み付く人々だって、口にしそうなセリフ、でもあります。

 もっとも、現実問題として本場中国の淡水魚、ある種のものは養殖化がさかんに行われ、香港あたりの市場に出回っている大半の淡水魚は、養殖のそれ!という実状はよく知られている話。中には厄介な問題も抱えたものもあって、たまに新聞種になったりしてますから、うかつには手を出せないという現状もある。

 そんな問題を抱えつつも、やっぱり、淡水魚を素材にした「剁椒魚頭」を食べてみたい。が、日本では淡水魚の調達が難しい、ということからすれば当然、海水魚。そこで、素材を置き換えるなら、素材の肉質、持ち味なども考慮してもらいたい。ところが、本土からやってきた料理人、香港や台湾からやってきた料理人もそうですが、日本の魚事情にはうといのが現状のようで。おまけに経営者は、仕入れの値段、原価のことも考慮しますから。

 李さんに尋ねたわけじゃないんで実状は不明ですが、「湖南飯店」の「剁椒魚頭」の素材が「鯛」の頭になったのは、日本人への馴染みも考慮してのことでしょう。
 でも、ま、養殖の鯛でもいいじゃん。現地の味を再現、という調理、調味が目当て、それに出会えれば幸せ、そこに命、生きがいをかけるしかない。
 なんてことで挑戦した「湖南飯店」の「剁椒魚頭/鮮魚のお頭のぜいたく蒸し」、実に見事でした!

 湖南に行ったこともないし、北京の湖南料理店に行ったこともなし。
 ネットで検索した「剁椒魚頭」のほとんどが、魚の頭の上に小口切り微塵切りの赤い唐辛子、もしくは、青い唐辛子がどっさり。

 ところが「湖南菜館」の「剁椒魚頭」は、その赤い色彩が美しい。料理がほんとに美しい。本土の料理ならではの美しさ。本土からやってきた料理人じゃないと作りえない美しさです。
 周りを取り囲むのは赤いパプリカ。そして、小口切りの赤い唐辛子に混じって、赤いパプリカの粗微塵切りなどがどっさりで、魚の頭を覆いつくす。むやみやたらにどっさりなんじゃなくって、その分量、按配は、かみさんが指摘していた通り、中国料理の宴会料理の一品の美学、美意識が貫かれたもの。

 晴れ晴れとしたその佇まいに、惚れ惚れとしました。
 この店、それに、これを作った料理人、すげ!
 なんて、目の前にした料理を見て、そう思いました。

2008/07/01

「湖南菜館」の1

噂の歌舞伎町の「湖南菜館」を初訪問。

噂の、なんて言っても私の周辺でのことで、果たして世の評価はどうなんでしょうか?

 ちなみにネットで「湖南菜館」を検索。
 そしたら、もっぱらランチメニューで店、味の評価の投稿がほとんど、なんてことからその評価はまったくあてにならず、店の所在、場所、地図の確認のためにしか存在価値や用のない通称グルメサイト、それに地元新宿歌舞伎町の応援サイトやブログでその名を発見するのみ。

 それ以外には、極私的マニアックな食のブログ(あ、私のもそうですね!)でその紹介を見かけたぐらい。なんてことからすると、もしかしてまだ知る人ぞ知る店のひとつ?なんでしょうか。

 「湖南菜館」のことを知ったのは、ウチのかみさんが友人共々勉強中の中国語の教師である奈々先生に課外授業として連れられて行ったのがきっかけです。奈々先生も「湖南菜館」のことを知ったのは、御主人で某新聞社勤務のカメラマンの郭さんが、たまたま「湖南菜館」をプロデュースした李小牧さんを取材、というのがきっかけだったそうで。

 そうです、この店、新聞や週刊誌などで見かける「歌舞伎町の案内人」こと李小牧がプロデュースした店。確か昨年の夏に開店したはず。新聞かもしくは週刊誌で見かけた記事が印象に残ってたことや、他の人からも噂には聞いてました。

 ちなみに、某グルメサイトには「『歌舞伎町案内人:李小牧』プロデュースの店」、ってことで、店の案内、湖南料理の特徴、効用が簡単に紹介され、しかも、本場中国の名店『毛家飯店』本部から料理人を招聘、なんてある。

 もっとも、そんな紹介を読んでも、日頃、その某グルメサイトへの不信と疑惑を抱き続ける私としては、額面通りには受け取れません。ところが、課外授業で奈々先生に引率され「湖南菜館」に出かけたウチのかみさん 「(中国)本土の味を味わえる店、めっけ!」と、大はしゃぎ。

 「値段が安いんで、素材はそれなりなんだけど。ま、その辺りはしょうがないとしても、素材の下拵え、素材の切り方とか、料理一品の素材の組み合わせや分量に按配、それに、なんといっても調理が素晴らしいし、風味、香りがあるの!全然、日本の中国料理とは違う味、風味!」と、熱弁しきり。

 な、こと書くと、一体どんな夫婦?なんて思われるかも。ま、長年連れ添ってるもんで、食事時に限らず交わす会話はそんなのばっか! というか、うちのかみさん、話題が豊富。ですけど、私は大抵、ただただふんふんとうなずくだけ。 夫婦の会話が成立するのは、私が会話の受け答えができる飯、料理、食べ物の話ばかり。

 ともあれ、かみさんから話を聞いて以来「湖南菜館」に出かけたい思いながら、それが果たせず、ようやく初訪問が実現できたのは先月のことでした。 といっても、多人数で訪れての宴会なんかじゃなく、とある方との打ち合わせの場所にふと思いついて出かけた次第。
 そんなことで人数はふたり。注文できる料理の数は限られますが、評判に聴いた肝心な料理はしっかり押さえました。

 まずは、前菜代わりに「口水鶏/よだれ鶏」。 いや、初訪問ですからほんといえば前菜にも関心ありでしたが、その内容を見てもなんだかそそられませんでした。

  さて「口水鶏」といえば、四川料理のそれが一般的。なんでも近年、人気、評判を呼んで、いまや四川を代表する料理の一品に。四川料理が大流行の北京経由で日本にその評判が伝わった、との説もありで、その話もうなずけます。

 ですが「湖南菜館」の「口水鶏」は、東京のいくつかの店でお目にかかれるそれとはいささか趣が違いました。 なんていうより、湖南料理に「口水鶏」ってあったっけ?いろいろ資料調べても、なし。
 ってことからすると、北京通いを頻繁に繰り返しているらしい李さんのアイデアで、メニューに加えたのかも。その話、李さんから聞きそびれました。

 ですが「あのこれって、他の店の、ほら、四川料理店の「口水鶏」とは、味も風味も違うけど、どんな作り方?」なんて、李さんに尋ねたら「あ、それ、俺、わかんないや!料理人にまかせちゃってるから!」とのことでした。

 画像でも明らかなように、辣油まじりのタップリの油が、茹でた鶏をひたひたの状態で覆いつくし、なおかつ胡麻がたっぷり。それに白髪葱。
 鮮烈な赤が物語る通り、辛い!ひーひー、ふーふーの辛さです。
 連れの「辛い!」という一言には、明らかに「激辛だ!」のニュアンスが。けど、私にはフツーの、なんてことない辛さ、でした。

 それより、豆豉、つまりは、醗酵した黒豆味噌なんかも入っていながら、四川料理店で食べる「口水鶏」にくらべ、豆板醤の味、コクや、花椒の「麻」の痺れ味がない。酸味、甘味もある爽快で鮮烈な辛さが特徴的。甘味、というのは、たっぷりの油にも関係してのことかも。そこに酸味がからんだ酸辣の味、風味。それが「湖南菜館」の「口水鶏」でした!

2008/06/24

「赤坂璃宮」銀座店の4

 嬉しいことには会議の仲間、会議の担当氏の誰もが、嫌いな物はなし。食への好奇心は旺盛です。
 たとえば仲間のひとりは「わ~、こんなの初めて!」 と、嬉々として、未知の味を恐れない。
 もうひとりは料理好きで料理への探究心も旺盛。それに、自分で料理するだけでなく「ハンバーガー」から「牛丼」までファーストフード事情にも明るく、ことに話題の「メガ」プロダクツの事情通。料理ってのは美味しいだけではなく、ビッグなメガサイズ、たっぷりの量があってこそ御馳走の必須の条件、という主張が頼もしい。

 なんせ洋食屋での会議の頃、メインの料理にピラフなどご飯ものの一品の「盛り」の量、「並」サイズの「普通盛り」から始まり、次第にエスカレート。「中盛り」を突破して「大盛り」に落ち着き、さらには「超大盛り」が慣例化!
  以後、店が変わってからもその慣例は受け継がれ、中国料理店での最後の締めくくりの面飯類は、会議のメンバーそれぞれに合わせた3種の「盛り」の登場が定例化。実は私も「並」サイズの「普通盛り」では満足がいかず、さすがに「超大盛り」までは行きませんでしたが、「大盛り」を注文していた次第。

 はたして「赤坂璃宮」の銀座店での食事の締めくくり。面か飯のはず。期待に胸を膨らませていたところに登場したのが、なんと「鹹魚肉餅煲仔飯」。


 それが、直径14~5センチほどの小ぶりの土鍋で調理されたもの。一人前用の土鍋で炊かれてました。

 ひとりに土鍋、ひとつづつ。香港でもこんな小さい土鍋は見たことがない。私は初体験。それだけまた、盛り上がっちゃいました。 が、まてよ、そうか、今日は打ち合わせ不足、言い忘れちゃって、最後のご飯は、皆、同じサイズ。ってことは、分量が足りない?

 「鹹魚肉餅」の肉餅は、豚のひき肉。しかも、慈姑(くわい)入り、ってのが(譚さん)憎い!
 さらに、塩漬け醗酵魚の「鹹魚」は、なんと「馬友」(っていうのが、ますます譚さん、憎い!)。
 塩味しっかり利いているだけでなく、風味抜群、強烈な香りがたまらない「梅香」もの。「鹹魚」好きにはたまらない。こたえられない逸品です。
 「鹹魚」といえば必ず引き合いにだされるのが「くさや」ですが、所変わればで、味、風味は異なります。

 「これが「鹹魚」?」。
 「肉餅」の上にのっかった「鹹魚」は、幅3センチ、長さ4センチ強ぐらいで、厚さは5ミリ程。
 「そそ!そいつをほぐして、肉もほぐして、ご飯にかき混ぜて、ほら、そのタレ、ね!
 「老抽」って、中国たまり醤油と、油とだし少々で出来てんだけど、そいつをかけて、ご飯に混ぜ合わせて食べる、って寸法。ほら、タレは、最初からたっぷりじゃなくって、加減しならが!」
 とまあ、ここでも小言ぢぢい(私です)は、いちいちうるさい。

 「「煲仔飯」って、要は炊き込みご飯だなんだけどさ(はふはふ!)、あぢ!
 日本の炊き込みご飯とかこの手の釜飯って、ご飯を出しで炊くでしょ(はふはふ!)?。
 それが「煲仔飯」は、ご飯と一緒に炊き込む下拵えして(はふはふ!)、 味付けした具材から出る汁やエキスだけなの(ホ~!)。

 う~ん、美味しいは、これ!
 あ!慈姑(くわい)! ほくほくの感じがわかるぐらいに切り分けられてて、いい感じ!
 肉だけじゃなくて、慈姑(くわい)を加えた、ってのが、憎いなあ(はふはふ!)。
 え、どこまで、話したっけ?(って、誰も聞いてなかったかも!)
 あ、そだ、素材の持ち味を生かす炊き方ってことです!」。

 「ね、この「鹹魚」って、この分量でもしっかりした塩味で、旨いねえ。これだけで、ご飯食べられちゃうぐらいだね!」。
 「うん、それって、全然あり! 旨い「鹹魚」があれば、ご飯、いっぱい食べられるから。
 けど、ほら、今日は、ひき肉と一緒に炊き込んだってことで」。

 それにしても「鹹魚肉餅煲仔飯」はビッグ・サプライズ。
 なんといっても一人用の小さな土鍋で、というプレゼンテーション、譚さんの見事な演出に脱帽!演出だけではありません。
 ほんとに、旨い。風味がありました。


    

 








 最後のデザートは、マンゴ・プディングはじめ冷たいデザートが4品、銀のトレイで登場。さらには「麻蓉芝麻球/黒胡麻あんの胡麻揚げ団子」も。 冷製のデザート、マンゴ・プディングに人気が集中、かと思いきや、会議のメンバー、選んだのはてんでばらばら。それぞれに個性的、と言いますか、しっかりした主張がそのまんま表れた、という感じで、本題の会議になだれ込み。食事が旨いと、会議も盛り上がります!

2008/06/22

「赤坂璃宮」銀座店の3


 「時菜油泡扇貝」、おまけに、添えられた四種の「醤」で、大いに盛り上がった後に登場したのが「黒椒炒和牛/和牛肉の黒胡椒炒め」。
 「ワッ! 肉! 牛肉じゃん、これ!」と、大盛り上がり。そうです。牛肉と言うだけでも、盛り上がっちゃいます。ですが、それだけじゃないんですよね。

 その味付け、調理、香港の広東料理ならではのもの。 香港の広東料理の定番的な料理、メニューのひとつに「中式牛柳」というのがあります。 中国風のフィレ肉のステーキ。訳せば聞こえはいいものの、かつて香港で牛肉といえば、日本のそれのように刺し(脂肪)が入った身の柔らかいものじゃなくって、農耕系の牛や水牛をつぶした硬い肉が中心。

 そんなことから、肉をいかに柔らかくして調理するか、という創意と工夫が凝らされた。それが、戦後、各国から輸入肉が到来。中でも人気を得たのが日本の牛肉だったことは言うまでもありません。が、値段は高い。 そこで、一般庶民にもてはやされたのが米国、豪州産の牛肉。中でも人気を呼んだのが、黒胡椒風味のステーキ。 最初は香港の洋食店で人気のメニューに。それが、広東料理店にも浸透し、かつての「中式牛柳」にとって替わるほどになりました。

 黒胡椒のひり味の利いた牛肉のステーキを噛み締め、戦後の香港の広東料理における牛肉料理の変遷を思い浮かべた次第です。

「赤坂璃宮」銀座店の2

続いては「時菜油泡扇貝/活け帆立貝と季節野菜の炒めもの」。 料理が綺麗ですね。「ヘイフンテラス」の黒服の女史に見せつけたいぐらい。

 












 あ、そうそう。過日、我が友人、久々に「ヘイフンテラス」を再訪。私も誘われましたが、生憎、一緒できず。友人の話によれば、黒服の女史いたそうですが、アテンドはしてもらえず。
 それより、旬の素材を使った郷土料理の種類が増えて、以前よりも幅広くなった様子。
 もっとも、肝心の味は、日本のホテル中華のそれで、風味に乏しいとか。以前、出かけた時の方が良かった、って話でした。
 噂によれば、キッチンの日本人スタッフ、いろいろ入れ替わったそうです。

 話、戻して、季節野菜は「芥蘭」。千葉で栽培したもの、なんて話でした。まずは人数分を大皿盛りでお披露目。そん時、貝柱の油泡と気づいて、すかさず「あの、一緒に「蝦醬」、「蠔油」も持ってきてね!」と念押し。
 お披露目があってから、小皿にひとり分づつ取り分けられた「時菜油泡扇貝」が配られるのに時間はかからず、同時に別のアテンドの女性がテーブルの上の円卓の上に「蝦醬」、「蠔油」だけでなく「辣椒醤」、「XO醤」をずらりと用意。

  その昔、「赤坂璃宮」の赤坂店でのこと。開店当初、譚さん、ホテル・スタイルのサービスを積極的に取り入れたものの、サービスの人々、料理に即した各種の「醤」類、用意するのを忘れがち。というよりその認識など無かった様子でした。

 譚さん、香港の最新流行を取り入れながら、抜群の料理の腕の冴えを見せて、繊細で上品な味付け。ですが、香港じゃ料理によって用意される「醤」の類、たとえば「油泡」の魚介には「蝦醬」、「蠔油」、鳩の焼き物の「脆皮焼乳鴿」や鶏の丸揚げの「脆皮鶏」にはレモン・ソルト、ウスター・ソースが、添えられないまんま。

 せっかくの譚さんの料理も、なんだか今ひとつ物足りない。譚さんの腕、最大限に魅力を発揮できないってことが、ままありました。
 そこで「あのう~、すんませんが~」と、恐る恐る「醤」の類を頼み、その登場を待ってる間に、他のメンバー、ほとんど料理食べ終わり状態、なんてことも。

 今ではそんな昔話とは比べ物にならないぐらい、ひとり分ずつ取り分けられた料理のサービスは迅速。各種の「醤」類もすぐさま登場。
 実に気分爽快、というか、それだけでも嬉しくなって、美味しさ倍増。

 「え~!こんなに「醤」類が並んじゃって! どうするわけ?」。
 「あ、これが、蝦の醗酵味噌の「蝦醬」。早い話、アミの塩辛みたいなもん。これがオイスター・ソースの「蠔油」。そのどっちかをちびっとだけ、貝柱につけて食べると、貝柱の甘味、旨味が引き立つ、ってワケ。
 ほら、貝柱はさっと油通ししてあって、火が通って、甘味、旨味が封じ込められてんだけどさ。
 そこで「醤」をちょびっとつければ、貝柱の凝縮した甘味、旨味、風味がますます引き立つ、って寸法。
 あ、ちょびっとだけね、つけるのは。タップリはだめ!」
とまあ、小言ぢぢい(って私ですけど)、いちいちうるさい!

 
ですが、私の話に最初「ン?」といぶかしがってた皆の表情が、食べてみれば満面の笑顔に豹変。「なるほど!」と、「醤」を添える。しかも、ちびっだけの効果を納得してもらえた様子。





 「で、この見た目辛そうは、どうなの?」。
 「えとね、ちょい濃い目、焦げ茶の色あいのやつね。
 「辣椒醤」ってことだったから、唐辛子の醗酵味噌。
 けど、四川のほら蚕豆と唐辛子で作った「豆板醤」とは違いますから。

 ちょっと味見してみると、普通の「辣椒醤」よりも、唐辛子の辛味がしっかり利いて、小麦粉などを混ぜ合わせた「桂林辣椒醤」のようでした。

 「で、これは、皆さんご存知の「XO醤」。 ほら、干貝柱がたっぷり入っていて、辛味もそうだけど、旨味、風味、抜群のやつ!
 ちょっと待って、味、先に試しますから!」
なんて、頼まれもしないのに、先に勝手に味見。

これが、なんと、干貝柱の旨味、風味しっかり、ばっちりでした。
「旨いわ、これ!」 と、皆のことをすっかり忘れて、私は夢中!

 「そんなに?」といぶかしがる面々。
 早速「XO醤」をまわしたところ
 「これ、めっちゃ旨い。貝柱につけるのも旨いけど・・・
 あの、ご飯もらえないかしらん、すぐに!
 ご飯と一緒に食べたいから!」
 なんて、皆な、私に負けず劣らず、わがままなんです!

2008/06/18

「赤坂璃宮」銀座店の1

 久々に「赤坂璃宮」の銀座店で昼食。充実したランチでした。

まずは前菜。 香港からやってきた焼き物「焼味」の師傳、梁さんの指導による「焼味」は、さすがに旨い。

手前が皮付きの豚のバラ肉を焼いた「焼肉」。 その後ろ、右から家鴨の焼き物の「焼鴨」、真ん中が地鶏の醤油漬けの「醤鶏」。奥には小さな器に「くらげ」。こり、ぽりの触感が堪らない。

 添えられているのは、青ずいきと小松菜。青ずいきは湯がいて、酢であえているような味。小松菜は生のまま。パリっとした触感でした。

 それに続いたのが「冬瓜瑶柱羹」。
 だしの味が素晴らしい。きっちり、丁寧で、緻密。しかも、奥行き、深みのあるしっかりした味わい。
 ふくよかでいて、がっしりした力強さがありました。

 総料理長の譚さん。細やかな感性の持ち主ですが、そのしなやかな力強さも再認識。
 「冬瓜瑶柱羹」にがつんとくる力強さを感じました。

2008/06/16

誕生日


ということで、15日、またひとつ歳をとりました!
ますます小言ぢぢいの一途を辿りそうで・・・・
とりあえずは、ご報告まで!

2008/06/14

閑話休題 鳥越祭の2


 鳥越の本社御輿の渡御で、一番の話題、見ものは、地元の「睦」、「宮元」による「宮入り」の道中を妨げ、本社御輿をつぶそうとする六尺一丁軍団殴りこみ、ってことになってます。見物の野次馬にとっては、面白くて、楽しみな「鳥越祭」ならではの見ものです。

 ですが、見物人がひしめく「宮入り」もさることながら、地元の「睦」による本社御輿の町内渡御の「宮出し」での厳かな風情が、実に味わい深い。眠い目をこすりながら、鳥越の本社の「宮出し」を目の当たりした光景は、いまだに忘れられません。
 私が鳥越でお世話になってるのは小島の越村さんち。
 小島の町会の睦で「今年、最年長になっちゃったよ!」って、満面笑みを浮かべながら、今年の鳥越祭でも大張り切り。越村さんのお世話になってから、もうどんぐらいになることやら。
 きっかけは川越の豆腐屋の小野哲に紹介されてからです。仕事の関係もあってか日曜の本社御輿の町内渡御しか参加できない豆腐屋の小野哲と違って、仕事なんかおっぽりだして御輿を担ぎたい私は、毎年、宵宮、翌日の町内御輿の町内渡御、本社御輿の町内渡御と、すべてに参加。

 御輿担ぎの合間には、越村家の居間に居座り、飲んじゃ喰い、眠くなれば「あ、すんません、眠いんでちょっと」と、越村家の2階でごろ寝、という遠慮がなくってあつかましいマイペースな御輿担ぎおたくです!
 そんな越村家の鳥越祭の日々、入れ替わり立ち代り訪れる人々の顔ぶれが面白い。
 まさしく新年の賑わいそのままです。
 まずは、越村さんの長兄の島倉さん。日曜日には息子のしょうへい君夫妻が加わります。普段なら板橋の次兄のお兄さんご夫妻も。ですが、今年は体調を崩されて欠席。そこに、なんでだかいつのまにか私が居座ってます。しかも、居間に上がってすぐ左、TVの前というのが私の定席。
 
 それを迎えるのは越村さんのおかみさん、息子のこうたろうさん。が、今年は、おかみさん体調芳しくなく、おまけにこうたろうさんも仕事で出張。そこで、大踏ん張りなのが、長女のくみこさん。関西弁がペラペラで、私との会話は、いつもツッコミとボケの間柄。まるで漫才をやってるみたいと言われます。

 そこに越村さんの町内の睦の面々がやってくる。その大半が、どうやら越村さんが鳥越祭りの日々に作る「おでん」目当ての様子!
 越村さんちの「おでん」は、祭りの前日から昆布を水出しにし、鰹節を加えて作った出しが味の要。
 それから二番だしを作ったり、水出しにした昆布も無駄にせず、割いて、結んで、おでんの種に。
 おでんの種の練り物類は、実は、四国の今治の桧垣かまぼこに依頼して送ってもらったもの。そこに東京ならではの具種、卵、こんにゃくなどを加わります。ちなみに、今治の桧垣かまぼこは私のお気に入り。簀巻きの「鶴姫」の素材の持ち味がする飾りのないピュアな美味が好みです。関西では「てんぷら」と称する具種に工夫を凝らした各種の練り物類の素朴でピュアな味もグッド。
 祭りの前日から出しを仕込み、大きな鍋一杯に盛り沢山の具種を入れて、煮込んだ越村さんの「おでん」は、越村家を訪れる人々の間では評判のもの。
 「今年の出しの塩梅、どうかな~」
 と、いつも決まって、最初は不安気な表情の越村さん。
 今年はおかみさんが不在のため、くみこさんが、味見の手伝い。
 「もう、忙しいのに何回も何回も、「(出しの)加減どう?」なんて、しつこくしつこく聞かれて!」と、呆れ顔のくみこさん。
 もっとも、じっくり煮込んで時間がたてば、出しもいい塩梅になって、具種のどれもが食べ頃。
 一口食べて、誰もが「美味しい!」。
 その一言で、越村さんもにんまり。
 中でも人気のあるのが「たこ」。これが実に美味。
 誰もが「たこ」の美味を知っていて、「たこ」が入ると、みるみるなくなります。
 その「たこ」を目当てにやってくるのが、米屋の都築さん。今年はおかみさんも一緒でした。
 それから、越村さんの隣人で、びく抜き、つまり紙の打ち抜き加工をやってらして、とあるオーケストラのトランペット奏者でマネジャーも務める小島さんはじめ、町会の睦連の方々が入れ替わり立ち代りやってきます。

 そして、越村さんちで知り合ったのが、勅使川原さん親子。
 娘の恵美さんの御主人はリヴァプール出身で日本で英語教師を務めるスティーヴン。弟のリチャードがやってきたこともありました。現在は、リヴァプールのビートルズ・ミュージアム勤務。

 今年は、そこに越村さんの町会の睦仲間の松下さんの娘のえみさんが、リヴァプールに留学中に知り合ったボーイフレンドのマイクと一緒にやってきた。
 それに、ここ数年、私が御輿に引っ張り込んだ甥っ子が、仕事仲間でヨークシャー出身のサイモンを連れてきた。
 さらには、スティーヴンの知り合いで、リヴァプール出身で名前の似たスティーヴが加わった。

 今年の鳥越祭の越村家には、イギリス中部の出身者がずらり。
 例えれば、宮城出身の3人に岩手の出身者が加わり
 「おめえ、あそこの在、なのが~?」
 なんて感じで 地方訛りむき出しの英語が飛び交う有様。結果、スティーヴとマイクは同じ学校の出身で、先輩、後輩の間柄だった、なんてことも判明!
 
 イギリスから遠く離れた極東の地で、出会った4人の盛り上がりようは、尋常じゃない。英語の訛り具合は一気にエスカレートし、4人はなお一層、早口でまくしたてる。
 ですが、越村家の居間に居合わせた4人以外、何が何だかわけがわからず、目の前を飛び交う異国の言葉に、誰もがあっけにとられ、ポカーン状態。通訳を買ってでようにも、訛りがすごくて手に負えないもんで(なんて、ごまかしたりして!)
 実は越村さんち、毎年、国際色豊か。異国の人がなんでだか、越村家の居間にいるのが面白い。
 なんせ、かつてはアラブの某国の大使もやってきた、とまあ、毎年、鳥越祭の日々の越村家はインターナショナル。

 スティーヴンと恵美さんには、長男のショーン/翔音と長女のカナ/可奈ちゃんの二人の子供。
 ショーン君、日本語をあまり話す機会のない父親のスティーヴンの通訳を務めてくれるのが頼もしい! それに、鳥越の生まれ育ちの恵美さんの血をついで、祭り、御輿が大好きで、祭りの間は鯉口に股引姿。
 
 おじいちゃんの勅使川原さん、ショーン君のそんな姿が可愛くてたまんない様子。
 そんな二人が並んで太鼓の山車を押す画像を、恵美さんが送り届けてくれました。

2008/06/10

閑話休題 鳥越祭の1

あ~あ、終わっちゃいました、鳥越祭。

5月の三社、6月の鳥越は、私にとって一年を通して最大のイベント。その 三社と鳥越、それぞれに味わい、雰囲気、風情が違います。

「三社なんて、観光化された祭、だもんな」なんていう人もいたりしますが、私はそうは思いません。確かに三社には独特の華やいだ雰囲気があるのは事実です。

 それより、三社と言えば「宮出し」のことばっかりが話題になって、三社祭を取り上げるマスコミの報道もそれ一辺倒。もしくは、例年百万人を越える、とか言われる三社目当てに浅草に訪れる観光客の人数や、浅草神社から出て町内を渡御する三つの宮御輿のことばかり。

 もちろん、本社の三つの宮御輿の渡御は特別なもんです。それがあってこその三社祭です。が、三社の本社の御輿渡御の真髄は「宮出し」よりも、おごそかな雰囲気に包まれ、遠い昔の時代に舞い戻ったような錯覚に陥る「宮入り」にこそあり、というのは地元の人々の多くが語ること。

 それに、町内ごとにある御輿の町内渡御も和やかで楽しい。 私が世話になってる雷門中部は、土曜、日曜の両日の町内渡御では、浅草神社、浅草寺にまで繰り出します。その間、宝蔵門や雷門の潜り抜け、仲見世の通り抜けは、担ぎ手にとって興奮とスリルを覚えずにはいられない美味しいスポット。

 宝蔵門や雷門では、御輿担ぎの掛け声が、わんわん響いて耳に届き、興奮を覚えずにはいられない。担ぎながら門を潜ってこそ、味わえるもの。仲見世の道中も、掛け声がわんわん鳴り響いて耳に届きます。それも、担いでいるからこそ、味わえるもの。 それに、三社のそれぞれの町内の人たちの楽しみ方も和気藹々としていています。

 鳥越の人たちの祭りの楽しみ方も面白い。格別な味わいと独特の風情があります。
 三社の華やかさや粋な趣とはいささか違い、気取りが無くって、ざっくばらん。
 実にくだけていて、人情味にもあふれていて、ぐっと庶民的。

 もちろん、地元の人たちにとって鳥越祭は日常の「ケ」ではなく、まさしく「ハレ」の日々。
 それを象徴するのが、鳥越の祭り、御輿を扱ったカレンダー。
 その始まりは、なんと6月。すべては鳥越祭から。
 なんてことからも明らかなように、鳥越祭のある6月、鳥越祭の日々は、地元では新年、正月というにふさわしい。ですから、地元の人の祭りの楽しみ方は、新年、お正月の楽しみにも似ています。 町内ごと、家ごとに、それぞれの楽しみ方があるようで、そのひとつひとつを覗いてみたくなります。

 玄関のガラス戸を大きく開け放ち、玄関のたたきや上がり座敷に、あるいは日頃、車を置いてある駐車場のスペースに、テーブルや床机座椅子を並べてあります。
 玄関前にテーブルや椅子を持ち出して並べるなんてのもあって、その様相は家ごとにまちまち。
 中にはビール壜のケースに板を渡しただけの簡単なしつらえ、なんてのもあってほほえましい。

 そんなテーブルの上は、ビールにお酒、各種のつまみ、とっておきのご馳走や、なんてことない日常のお惣菜の類で埋め尽くされてます。
 一軒ごとに立ち寄って、片っ端からテーブルを埋め尽くすつまみや御馳走の数々を、全部味見をしたくなる衝動に駆られます。  

 さて、今年の鳥越の本社御輿の渡御。
 今年の三社では本社の渡御が中止。
 日頃、浅草神社から仲見世の町内に本社の三つの御輿が受け渡しされるまでの間、地元の氏子連に混じって、近隣の各地から馳せ参じた面々が御輿に群がり、浅草神社、浅草寺の境内をあっちこっち。そして三つの本社御輿がそれぞれの町内に受け渡される、というのが三社の「宮出し」。

 そんな三社の「宮出し」が、今年は本社の三つの宮御輿の町内渡御が中止ってことでありませんでした。そんなことから、近隣の御輿好きの連中が鳥越の本社御輿の町内渡御や「宮入り」に集結、なんて噂が鳥越祭の始まるまでに飛び交ってました。

 鳥越の本社御輿といえば、三社の宮出しとは対照的に、町内渡御を終えた本社御輿が鳥越神社に収められる最後の儀式、地元の「睦」、「宮元」による「宮入り」の道中が、話題を集めてきたもんです。

 というのも、「宮入り」の道中の際、それも「宮元」の道中を狙って、各地からやってきた六尺一丁の軍団が本社御輿を落とそうと襲い掛かる。地元の「睦」や「宮元」にとってははた迷惑で厄介この上ないことなんでしょうが、見物人にとっては最大の見物。しかも、御輿が落とされる場所は、毎年、あっちこっちと変わるもんで、そのやりとりが見られる場所を狙い定め、見当をつけながら見物の場所を陣取る、なんてのも楽しみです。

 そんなことで、例年、鳥越祭の本社御輿の「宮入り」には、見物人がびっしり! そんな見物人の合間に、出番待ち?の六尺一丁の兄ちゃん、おっちゃんが、ひそかに紛れ込んでいたりします。 鳥越祭の本社御輿の「宮入り」ならではの光景です。

2008/06/01

春の春の広東地方の郷土料理の14

「青木宴《春編》」もいよいよ大詰め。
 本格的な宴席なら魚料理で《結》ですが、気の置けない仲間同志の食事ですから、食べたいもの、美味しいものはコースのど真ん中までに。

 そういえば、今回、魚介は「えび」も「魚」もなし。「蛤」だけでした。「えび」はあっても、すり身で鶏との組み合わせ。小魚や根魚などがあれば「椒鹽焗」、「蒜茸蒸」、あるいは「油浸」などの料理を組み入れたのですが。なら、口も変わって別の展開になったかも。

 地方に行けば、土地ごとに面白い地魚があって、そういうのに出会うたび「これ、広東地方の郷土料理、家庭料理の調理、味付けで!」なんて思うことが、しばしばです。しかし、東京での調達は難しい。
 東京に集まる魚のほとんどは、一般的に親しまれた高級魚や大衆魚が中心です。いや、築地に行けば、地方の魚も探せばあるそうで。 今度、張さん、袁さんと築地ツアーを敢行してみようかしらん。

 その代わり、今回は、豚の内臓料理が充実。川越の「はぎちく」の岸さん、福臨門のキッチン・スタップのおかげです。 ほんとにお手数かけました。なんでも、このブログ、ご覧の方から、内臓を使った料理についての問い合わせもあったそう。内臓を使った料理がお好きな方、案外、多そうで、皆、その登場を待ってらした様子ですね。

 そんな話を耳にすると嬉しくなります。 もっとも、今回はともかく試し、ってことで福臨門のキッチン・スタッフに無理をお願いしました。日本ではお目にかかれなかった料理にも出会えましたが、解決が必要な課題も続出。そんなことから、お勧めの料理として紹介されるのには、しばし時間がかかりそう。 広東地方の内臓を素材にした料理の数々の美味、早く多くの人と分かち合えるようになればと、願ってます。

 そして、締めくくり。麵か飯。
 今回は豚の内臓類が豊富にあり、ってことから豚のレバ、ハツ、ガツ、十二指腸、子袋など、内臓類をふんだんに具にした「及第粥」はいかがでしょう?という提案もありました。

 「え!福臨門で「粥」?」なんて言われそうですが、あります。
 香港の九龍店ではメニューにちゃんと5種、紹介されています。
 それ以外の「粥」、どんな内容のリクエストも可能です。
 もちろん、「白粥」だけの注文でもOKです。

 お昼時、新界の大哺あたりに工場があって、九龍店にお昼を食べにやってくるお偉いさんのほとんどは、飲茶の点心などには目もくれず、例湯、小菜何品に、「粥」なんて組み合わせ、珍しくありません。
  残念ながら、日本の福臨門の各店では事前の予約が必要なようですが、頼めば「粥」を作ってもらえます。

 そんなことから「及第粥」には大乗り気。今回のコース内容の締めくくり、最後の「決め打ち!」にはうってつけ。
 ところが、青木さん経由で、新参加の海津さん 「カレー味がことのほかお好き。カレーの炒飯などありますか?」 というリクエスト。
 その話に、私もぐらっと気持が傾きました。
 カレー味の炒飯、といえば、一昨年の秋ぐらいから銀座店はじめ、日本の福臨門の各店で、お勧めの炒飯として紹介されるようになった「香港風カレー炒飯」。機会を逃して食べ損ねていたからです。

 「香港風カレー炒飯」、中国語の表記は「摩囉鶏粒炒飯」。
 「摩囉」というのは、唐の時代、交流のあった北アフリカの回教徒のムーア人に端を発し、他方、かつての広州人がインド人を「摩囉」と称していたことにちなんでのこと。つまりは「インド風」ということですね。カレー味だからインド風。

 福臨門のブログによれば福臨門の徐維均さんがケイタリングをやっていた時代、顧客からドライカレーを食べたいとリクエストがあったそうな。
 「中華料理しか作ったことのない社長は考えた末、あるホテルのビュッフェでだされていたドライカレーをもとにこのカレー炒飯を考案。レーズンやアーモンド、パンが入った独特の食感と食欲をそそるカレーの香りが今でも沢山のお客様に好まれています」と紹介されてます。

 「今でも沢山のお客様に好まれてます」って、一昨年の秋、銀座のメニューで見つけるまで、私、その存在を知りませんでした。
 ほんと、世の中、知らない事だらけです。歳をとれば取るほど、それを実感。
 って、また話がずれそうで。

 この「摩囉鶏粒炒飯」、かなりのもんです!
 美味、それに、風味が豊か!
 まずはカレー味、風味が興をそそります。 初めて食べるのに、なんだか懐かしい味!
 カレー味のせい、ですね。
 そればかりか、ドライ・レーズンの甘さ、アーモンド・スライスの香ばしさ、風味が、エキゾチックな雰囲気を倍増する。














「あ、そうだ!」と、突然思い出したのは、赤坂、TBS会館の地下にあった「TOPS」のレーズン、ナッツ入りのライスで食べるカレー。
 カレーそのものは、食後にはもたれる感じの重さ、くどさだったのに、レーズン、ナッツ入りのライスで食べてる時は、なんだか爽快な美味。
 あれをドライ・カレーにしたら、こんな感じ?なんて、思いました。

 くどさ、しつこさがなくって、重くもない。(ついでに「みかけと違って、食べるとさっぱり!」なんて書こうものなら、ほらほらTVのグルメ番組、ワイドショーのグルメ案内の「食べタレ」こと「○○タレ」と、同じになっちゃいますが、うん、そんな感じ!  あ、いけない、私も似たようなもんか!)

 徐社長がケイタリング時代に考案、という話にもくすぐられます。
 実は、今回のみならずこれまでの「青木宴」に登場してきた料理の多くは、「福記」をきっかけに、主に上流階層の顧客を抱えるケイタリングの専門店として始まった福臨門の歴史で、伝統的な広東料理を継承すると同時に、顧客からのリクエストに応じ、独自の創意、工夫を凝らしたもの。

 その背景に、香港の、それも戦後の香港の歴史が覗いて見える、ということに興奮を覚えずにはいられません。