3品目は「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」。広東地方の伝統的な郷土料理の一品です。
その内容は、鶏肉のぶつ切りを黒きくらげ(雲耳)、百合の一種のかんぞうの蕾(金針菜)、棗を乾燥させた「紅棗」とともに蒸した料理。香港では「金針雲耳蒸鶏」ということで、広東料理店なら「小菜」のメニューにたいてい載ってます。家庭でも作られることが多い料理です。
基本は味付けした「鶏肉」に、「雲耳」、「金針菜」、「紅棗」を加え、蒸した料理。
ちなみにネットで検索すれば「雲耳」、「金針菜」、「紅棗」には様々な薬効ありってことが、即座にわかります。この料理自体、滋養供給、補血、神経衰弱に効果あり。ことに「紅棗」は煮出すと甘味、独特の風味が増す上に、鎮静作用がある、なんてとこを見逃せない。
以上4種の素材以外に干し椎茸の「冬菇」、さらには「大頭菜」を加えることもあります。その「大頭菜」はアブラ菜科でキャベツの親戚、なんていっても、葉がくるまってるわけじゃなく、こぶし2個ほどの根っ子が蕪のよう。そのまま調理もしますが、香港、それに潮州では漬物にして使います。以前、紹介したスッポンの各種の具材入りの蒸し物の「八寶蒸水魚」などにも使われます。「涼」の性質があるんで夏場にはうってつけ。さらに、漬物なんで乳酸の醗酵味が、旨味、コクを増すってこともあります。
もっとも、今回の「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」は「金針雲耳蒸鶏」に忠実。
「わ、これ、すごく美味しい!上品でしっかりした味ですね」。
「うん、確かに、すごいヒット! 旨いだけじゃなくて、味わいがあるし、風味もいいね! ほら、この「紅棗」の甘さもいいね。こくがある」と、私。
「これは?ほら、この黄色いの?」。
「うん、それは・・・アレレ?名前……思い出せない・・・・・」と、慌てふためく私。
ニンマリと笑うK2氏の顔には「歳はとりたくないね!」と書いてありました。
「金針菜、ですよね!」と担当氏がすかさずフォロー。
「そそ、金針菜。かんぞうですね!」と、私。
なんてワイワイ言いながら、二口目の鶏を噛み締めたら、爽やかな涼風が一瞬、口の中をすっと通り抜けました。
「アレ?」と、皿の中を見返してみると「香菜」と極細の「青葱」が。
まさか「香菜」?、でも、「香菜」じゃなかったなあ。念のため「香菜」を食べてみると、青緑の味、風味が強くって、さっき目の前を通り過ぎた爽快さとは違います。
そういえば、青さだけじゃなくってホロ苦さ、それに、えぐみと醗酵味が。
「そうだ、「陳皮」!」。
みかんの皮を干したやつです。後で譚さんに確かめたら、案の定、どんぴしゃで「陳皮」。
それも、香りがする、というぐらいに控え目な量。ということは、「陳皮」は風味付けの隠し味だけじゃなくって、「大頭菜」にとってかわる涼風の役目を担ってた、ってことですね。
「ねえ、さっきのスープもそうだったけど、これ、ご飯が欲しくなる!ご飯と一緒に食べたいね!」。
そんな話が出るのも無理はない。というのも、この「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」は、惣菜、おかずとしてもうってつけ。家庭料理の定番の一品です。けれど、家庭で作られるのと違って、なんだかひと味違います。それは、蒸した鶏から滲み出たジューシーな煮汁だけじゃなくって、「だし」のような味の濃さ、こくと厚みがあったからです。
「あのう」と、柏木さんと一緒に我々をアテンドしてくれた山下さん(その昔、京王プラザの「南園」時代ににお目かかったことがあったと判明!懐かしい話です!)に、「これ、「二湯(二番だし)」か、それともなんか「だし」、使ってます?」と、尋ねたら「少々お待ちください!」と、部屋から去って間もなく、「「二湯」は使ってないそうです。下拵えはチキン・コンソメ、オイスター・ソースなどで調味したそうです」と、いう返事。そうか!、チキン・コンソメ、オイスター・ソースの旨味が、プラスされたわけだ!と納得しました。
それにしてもこの「家郷蒸鶏/伊達鶏の田舎風蒸し物」、誰もが「これは旨い!」と絶賛。一口目の印象よりも、二口、三口と味わって、その旨さ、味わいがより鮮明に浮かび上がってくる、なんてところが素晴らしい。
食べ終えて、その余韻がしっかり残る味わい深い一品でした。