2008/06/01

春の春の広東地方の郷土料理の14

「青木宴《春編》」もいよいよ大詰め。
 本格的な宴席なら魚料理で《結》ですが、気の置けない仲間同志の食事ですから、食べたいもの、美味しいものはコースのど真ん中までに。

 そういえば、今回、魚介は「えび」も「魚」もなし。「蛤」だけでした。「えび」はあっても、すり身で鶏との組み合わせ。小魚や根魚などがあれば「椒鹽焗」、「蒜茸蒸」、あるいは「油浸」などの料理を組み入れたのですが。なら、口も変わって別の展開になったかも。

 地方に行けば、土地ごとに面白い地魚があって、そういうのに出会うたび「これ、広東地方の郷土料理、家庭料理の調理、味付けで!」なんて思うことが、しばしばです。しかし、東京での調達は難しい。
 東京に集まる魚のほとんどは、一般的に親しまれた高級魚や大衆魚が中心です。いや、築地に行けば、地方の魚も探せばあるそうで。 今度、張さん、袁さんと築地ツアーを敢行してみようかしらん。

 その代わり、今回は、豚の内臓料理が充実。川越の「はぎちく」の岸さん、福臨門のキッチン・スタップのおかげです。 ほんとにお手数かけました。なんでも、このブログ、ご覧の方から、内臓を使った料理についての問い合わせもあったそう。内臓を使った料理がお好きな方、案外、多そうで、皆、その登場を待ってらした様子ですね。

 そんな話を耳にすると嬉しくなります。 もっとも、今回はともかく試し、ってことで福臨門のキッチン・スタッフに無理をお願いしました。日本ではお目にかかれなかった料理にも出会えましたが、解決が必要な課題も続出。そんなことから、お勧めの料理として紹介されるのには、しばし時間がかかりそう。 広東地方の内臓を素材にした料理の数々の美味、早く多くの人と分かち合えるようになればと、願ってます。

 そして、締めくくり。麵か飯。
 今回は豚の内臓類が豊富にあり、ってことから豚のレバ、ハツ、ガツ、十二指腸、子袋など、内臓類をふんだんに具にした「及第粥」はいかがでしょう?という提案もありました。

 「え!福臨門で「粥」?」なんて言われそうですが、あります。
 香港の九龍店ではメニューにちゃんと5種、紹介されています。
 それ以外の「粥」、どんな内容のリクエストも可能です。
 もちろん、「白粥」だけの注文でもOKです。

 お昼時、新界の大哺あたりに工場があって、九龍店にお昼を食べにやってくるお偉いさんのほとんどは、飲茶の点心などには目もくれず、例湯、小菜何品に、「粥」なんて組み合わせ、珍しくありません。
  残念ながら、日本の福臨門の各店では事前の予約が必要なようですが、頼めば「粥」を作ってもらえます。

 そんなことから「及第粥」には大乗り気。今回のコース内容の締めくくり、最後の「決め打ち!」にはうってつけ。
 ところが、青木さん経由で、新参加の海津さん 「カレー味がことのほかお好き。カレーの炒飯などありますか?」 というリクエスト。
 その話に、私もぐらっと気持が傾きました。
 カレー味の炒飯、といえば、一昨年の秋ぐらいから銀座店はじめ、日本の福臨門の各店で、お勧めの炒飯として紹介されるようになった「香港風カレー炒飯」。機会を逃して食べ損ねていたからです。

 「香港風カレー炒飯」、中国語の表記は「摩囉鶏粒炒飯」。
 「摩囉」というのは、唐の時代、交流のあった北アフリカの回教徒のムーア人に端を発し、他方、かつての広州人がインド人を「摩囉」と称していたことにちなんでのこと。つまりは「インド風」ということですね。カレー味だからインド風。

 福臨門のブログによれば福臨門の徐維均さんがケイタリングをやっていた時代、顧客からドライカレーを食べたいとリクエストがあったそうな。
 「中華料理しか作ったことのない社長は考えた末、あるホテルのビュッフェでだされていたドライカレーをもとにこのカレー炒飯を考案。レーズンやアーモンド、パンが入った独特の食感と食欲をそそるカレーの香りが今でも沢山のお客様に好まれています」と紹介されてます。

 「今でも沢山のお客様に好まれてます」って、一昨年の秋、銀座のメニューで見つけるまで、私、その存在を知りませんでした。
 ほんと、世の中、知らない事だらけです。歳をとれば取るほど、それを実感。
 って、また話がずれそうで。

 この「摩囉鶏粒炒飯」、かなりのもんです!
 美味、それに、風味が豊か!
 まずはカレー味、風味が興をそそります。 初めて食べるのに、なんだか懐かしい味!
 カレー味のせい、ですね。
 そればかりか、ドライ・レーズンの甘さ、アーモンド・スライスの香ばしさ、風味が、エキゾチックな雰囲気を倍増する。














「あ、そうだ!」と、突然思い出したのは、赤坂、TBS会館の地下にあった「TOPS」のレーズン、ナッツ入りのライスで食べるカレー。
 カレーそのものは、食後にはもたれる感じの重さ、くどさだったのに、レーズン、ナッツ入りのライスで食べてる時は、なんだか爽快な美味。
 あれをドライ・カレーにしたら、こんな感じ?なんて、思いました。

 くどさ、しつこさがなくって、重くもない。(ついでに「みかけと違って、食べるとさっぱり!」なんて書こうものなら、ほらほらTVのグルメ番組、ワイドショーのグルメ案内の「食べタレ」こと「○○タレ」と、同じになっちゃいますが、うん、そんな感じ!  あ、いけない、私も似たようなもんか!)

 徐社長がケイタリング時代に考案、という話にもくすぐられます。
 実は、今回のみならずこれまでの「青木宴」に登場してきた料理の多くは、「福記」をきっかけに、主に上流階層の顧客を抱えるケイタリングの専門店として始まった福臨門の歴史で、伝統的な広東料理を継承すると同時に、顧客からのリクエストに応じ、独自の創意、工夫を凝らしたもの。

 その背景に、香港の、それも戦後の香港の歴史が覗いて見える、ということに興奮を覚えずにはいられません。