2007/11/18

う~ん、これはやっぱり秋の味(その8)かな


炒飯です。米はインディカ米で、パラパラの状態。
その具ですが、生姜の微塵切りと卵白。
その名も「姜米蛋白炒飯」。
上海蟹を食べる時、体を冷やす性質を持つ上海蟹ですから、食後に、生姜と砂糖で甘味仕立てにしたものを飲んだりします。
それだけじゃ、ってことで、上海蟹を食べた後、念押しに食べるというのがこの炒飯。
生姜のひりひりがさりげなくその存在を主張、というのが実にニクい!
上海蟹を食べた後の締めくくりの炒飯、ってことですから、やっぱり、秋の味、ってことになりますね!

たまたま秋に食べた味(その3)


清炒豆苗、豆苗の炒めものです。豆苗というのはエンドウの若芽、というのが一般的。で、蝶々が羽を広げるように、軸に左右対称の葉っぱがついたもの。その軸が柔らかい部分だけを使って料理したもの。
 豆苗に限らず、青菜の炒めものは、素人には至難のワザ。日本の中国料理店で、これぞ!という青菜の炒めものには、滅多にお目にかかれない。熱した鍋に油を注ぎ入れ、煮立った油の沸点を見極めながら、青菜を放り込み、一瞬にして青菜に火を通す。さらに、上湯などのダシを注ぎ入れ、青菜にだしを煮含めて、素材の青菜の持ち味、風味を引き立てる。と、口でいうのは簡単ですが、油の沸点の見極め、しかも、青菜を放り入れ、一瞬、温度が下がる油の状態を見極めながら、青菜に火をとおす。その後にダシを煮含ませる作業がある。ということから、最初の炒め加減の按配も必要。行き過ぎると、こげちゃうし、温度が低いと、べたっとした油っこさが残る。
 ダシを入れるのは、味を引き立てるためじゃなくて、炒めすぎだったり、炒めた油の油っこさを洗い流す為、って思ってんじゃないの?というような、調理に出くわすこともあります。というか、日本の中国料理店の青菜の炒めものって、ほとんどがそんな感じで。そう思いませんか?
 ともあれ、青菜炒めは、青菜に火を通す油の種類、温度の見極めが肝心。火が入りすぎて、青菜の持ち味、風味を損なわないための、一瞬のワザ。それが、広東料理の炒めものの極意、「鑊氣」を生み出す。直訳すると「鍋の気」、ってことになります。
 油を媒介に、一瞬にして素材に火を通し、その持ち味、風味を引き出す。活気にあふれた味、風味を物語る表現です。ついでに、火の扱い、その調節、見極めを表現した言葉が「火路」。
 画像の「清炒豆苗」、有鑊氣、見事に活気にあふれ、素材の味、風味を引き出した一品でした。

2007/11/17

たまたま秋に食べた味(その2)


 これ、なんだと思います?油浸石頭魚。
 オニオコゼの唐揚げです。香港では石頭魚が好まれていますが、収穫量が少ないのか、稀少な魚ということで、店に石頭魚が入荷しているのを知れば、すぐさま注文する人が少なくない。
 一時、この石頭魚を常備し、各種の料理を看板にしていた海鮮料理店がありましたが、それ以外の料理は並。意表をついただけの料理がほとんどで、旨さも風味もいまいち、ということから、結局、その店には出かける気をなくし、試しませんでした。
 私が、食べたのは、魚の吟味で信用できる店でのことで、何回か食べたことがあります。稀少な素材らしく、入荷があると教えてくれるので、それを知ると即座に注文したものです。
 《清蒸》、つまりは蒸し物で食べるのもグッドなら、《椒鹽焗》、つまりは、塩、胡椒味の炒め蒸しもグッド。それに《油浸》の唐揚げがなかなか。根魚独特の泥臭さがありますが、その身、白身で、唇に触れ、舌を撫でる感じの柔らかさ、それでいて肉質は緻密。この種の根魚、シュワシュワの触感を特徴としていますが、それよりも身が締まってして、ホロリ、ハラリと身が崩れる感じ。ということでは、石斑の肉質に似ているかも。
 日本でも、オニオコゼ、ということで、収穫があるらしいのですが、場所が限られ、旬は夏、ってことらしい。
 実は香港の石頭魚は、ダルマオニオコゼ、だったか、まるでダルマのようなぼってりの感じ。日本のそれは、一応、魚に似て細長の感じ。肉質も、香港のものよりも緻密な感じ。
 久しぶりのオニオコゼとの再会。香港のそれとは肉質、味、風味は異なりましたが、再会にめちゃくちゃ感激!旨かった。稀少な魚ですから、それだけでも、盛り上がっちゃいます。
 そんなオニオコゼに出会って、感激の秋の一夜でした。

2007/11/16

たまたま秋に食べた味(その1)


なんだと思います?はぜ/沙魚です。はぜを使った酥炸沙魚。
 香港には九肚魚ってのがある。和名はテナガミズテング、だったはず。小ぶりの白身魚で、根魚独特の泥臭さがある。ということから、汽水域に生息、なのかもと思います。
 香港では潮州料理、それに、伝統的な順徳料理を看板にする店で、各種の料理があります。

 その九肚魚 日本にはないんで、似た魚はないだろうか。ということで、思い当たったのが、ハゼ。

 メゴチやキスの白身の肉、風味の感触もそれに近いが、もっと、身がシュワシュワとしていて、とろけるように柔らかい。生のメヒカリやゲロゲンゲなんか、近い線かな。

 ともあれ、ハゼを広東地方の海鮮料理風に、というのが、この一品。
 パリッとした揚がり具合で、サクっとした歯触り、噛み応え。が、身はシュワシュワ。
根魚独特の風味、味わいもグッドです。
 ってことは、このはぜ、冬菜などの漬物と一緒に蒸す、なんてのもいけるんじゃないか、っと思いました。
 次回、注文して、試してみます。

2007/11/15

秋の味(その7)


 やっぱり「秋の味」っていうと、これ、ですか?
毎年、この季節、この蟹が気になる。とはいっても、ワケアリで、しばらく遠ざかってましたが、誘われてついつい。もちろん、雄です。やっぱ上海蟹はこんぐらいの大きさじゃないと、食べた気がしない。茹で上がった上海蟹、褌を外して、カッパと腹を開き、ガニをとり、足をバキっとはずして、身をガキっと半分に割り、ミソにくらいつきました。旨かった。

2007/11/12

秋の味(その6)


この季節、冬に向かってまっしぐら。ということで、見逃せないが、生炒糯米飯。蝦米(干し蝦)、瑶柱(干し貝柱)などの乾貨素材に、、臘腸(腸詰)などを加えて具にした糯米の炒飯です。
 パラパラの糯米。その一粒、一粒が、モチモチの触感。そう、まるでお餅を食べてるみたい。(もち)米の一粒が「まるでお餅」!という寸法、です。
 作り方は、糯米を一晩水に浸し、水気を切って蒸します。だいたい20分ぐらい、ですかね。
 蒸しあがって、いい感じ、になったら、蒸し器から取り出し、水洗いして、糯米の粘り気をとってしまう。
 それから具材を用意。蝦米(干し蝦)、瑤柱(干し貝柱)はぬるま湯か水にひたして戻しておく。瑶柱は蒸して戻すと、さらなる美味と芳香が得られますから。
 そこに、私はスルメのもどしたのや、干し椎茸を戻したものも使います。それに、臘腸(腸詰)、あれば、潤腸(家鴨の血入りの肝臓の腸詰)。いずれも、きっちり丁寧にみじん切り。乱雑に切っちゃうと触感のよさをなくすのと、味がバラバラになる要因にもなりますから。
 そこで、葱頭(ベルギー・エシャロットがいいです)をみじん切りにし、落花生油で炒める。サラダ油は合成油がほとんどで、ケミカルな加工をほどこしたものもあり、また、沸点が低めで安定しない。ということから、油こく、べたつきやすい。ということでは純正の植物がベスト。
 そこに具材を混ぜ併せ、炒める。花彫酒で風味づけなども!炒めたら、別鍋か別皿かとる。
 そして、蒸して、水洗いして、水気を切った糯米を、落花生油で炒め、具材を併せ、さらに炒める。
 そこの上質のダシ(固形や顆粒の中華だしはダメです!入れないほうがいいぐらい)を適宜入れ、炒めて水気を飛ばす。で、出来上がりというわけです。
 糯米ですから、結構、腹持ちがよくって、少々でもお腹一杯。なのに、さらに食べたくなります。
 この季節ならではの糯米の炒飯です。

2007/11/11

秋の味(その6)




















 荔芋(タロ芋)を素材にした料理には、こんなのもある。これは「梅子荔芋排骨粉絲煲」
タロ芋とスペアリブ、春雨の梅子醤風味の炒め煮込み。みかけ、こってり濃厚味のようでいて、実はすっきり、さっぱり。というのも、梅子醤の酸味、それに、スペアリブって火を通すと脂がおっこちて、豚肉の旨味がしっかり味わえますから。美味です。それに実に香りが豊かです。

2007/11/10

秋の味(その5)



これは蓮藕餅。擂り潰した蓮根にひき肉を混ぜあわせ、煎り焼にした料理です。広東地方の家常菜、お惣菜の一種で、通年、食べますが、この時期、気候の変わり目に風邪を引くなどした時の解熱など、蓮根の薬効を活用します。あくまで蓮根が主体ですが、豚のひき肉だけでなく、淡水魚の綾魚、あるいは白身の魚、それに蝦米(干し蝦)などの乾貨素材を使うなど、具の組み合わせ、種類は豊富。おまけに、しっかり噛み応えのある硬い作りのもの、反対に柔らかいものなどもあります。しゃきしゃき、しゃりしゃりの蓮根の歯触り、触感が特徴です。

2007/11/09

秋の味(その4)


前出と同じく栗子炆鶏、栗と鶏肉の煮込み。季節料理、秋の味です。が、前出の料理と調理、味付けは同じですが、素材が違います。そうです、これは兵庫県の丹波産の栗(2L)を使ったもの。同じ料理でも、素材の産地、持ち味が違うと、出来栄えも印象も変わるもんなんだ、ということを改めて納得。詳細は後日!

2007/11/06

秋の味(その3)


またまた画像だけ、先にアップします。料理は栗子炆鶏、栗と鶏肉(龍崗鶏)の煮込み。私の大好きな広東料理の秋の味の一品です。澱粉質がとろけ出す栗。ですが、栗そのものの味は、ほくほくとしていて、しかも、噛み締めると、栗の風味が際立つ、という一品。ちなみにこのときの栗は、東松山の農業、加藤紀行さんのもの。ほかに、かの!丹波栗を使った同じ料理も味わいました。

2007/11/04

秋の味(その2)



とりあえず、画像だけ先にアップです。料理は京芋、唐芋の小芋と皮付きばら肉の南乳風味煮込みです。

2007/11/02

秋の味(その1)


わお!
2ヶ月もほったらかしで、すんません
と言うわけで、秋の味
なんていいながら、とりあえず、画像だけアップ
料理は鮑汁乳鴿醸生翅
鳩のふかひれ詰め、鮑汁煮込み
リッチ、ゴージャス、エレガント&ディープな一品でした
ちなみにこの料理、香港で食べた!
とおっしゃる方がいらっしゃるでしょうが、日本初デビューのはず、なんですが、、、、


2007/09/03

香港の料理店事情、あれこれ②


 高校卒業後、料理人として歩むべく廚藝學院の全日制コースで学び、現在は、四川料理店に勤める李文金さん。現在のポジションは、四鑊、つまりは、炒めものなどを担当する鍋ふりの4番手。
 VTRでは割愛されてたかもしれませんが、店の総料理長の話では「まだ、ちゃんとした料理は作れないので、今は炒飯などを担当」なんだそうです。 話としては、まだ調理、調味ができないので、店の看板の料理は作ってないってことなんでしょう。

 それにしても、四番手でもっぱら「炒飯担当」と言う話が面白い。いや、実は中国料理の厨房では、よくある話、よく聞く話。
 たとえば、dancyuの取材で赤坂璃宮の譚総料理長を取材した際「炒飯?おれなんかが作るより、3番鍋のやつのほうが上手いよ。だって、一日中、炒飯作ってるんだし、たまにびっくりするぐらい旨い炒飯を作るから!」、と。

 ところで、意外に知られていないのが、中国料理における厨房事情、その組織、職能分布のようです。ちょうど1年前、dancyu誌10月号で「香り立つ旨い中華は、「板」と「鍋」で成り立っている」でその一部を紹介しました。

 中国料理といえば、燃え上がる炎に鍋をかざし、油を注ぎ入れ、素材を放り込み、一気呵成に調味、調理、というイメージ、誰もが持ってます。火と油が織り成す一瞬の技の妙、なんてのもよく語られる話。TVで中国料理を特集するとなると、必ず目にする場面です。

 ですが、鍋を振る職人がその技を発揮するには、それなりの周到な準備が必要。
 つまり、中国料理の「炒」など、油脂を媒介にして、瞬時に調理、調味する料理です。それ以外に「蒸」、煮込み物の「炆」などありますが、その際も、素材の下拵えは重要な仕事です。
 ということでその役割を担うのが「板」、香港で言えば「砧板」です。

 今回のNHK-BSの「アジアクロスロード」での打ち合わせの際、

「香港の料理人事情ってことですが、海外への流失や、料理人のヘッドハンティング事情もそうですけど、厨房事情などについてはあまり知られてないんですが、それを紹介しなくていいんですか?」と私。

「というのも、中国料理では、鍋をふる料理人ばかり注目されますけど、そのための準備をする「板」というか、包丁仕事に専念する人、部門があって、実はその存在なしに「鍋」をふる人間も技量を発揮できないことがあるんですが」、とさらに私。

「エ!?、料理の下拵え?包丁仕事は、下っ端、新入りの仕事だって、聞きましたが」

「ン!? (と、一瞬の沈黙。をいをい!と言いたいのをこらえて、冷静に、丁重に)なこと、ありえないんですが」と続けて私。

「通訳の人がそういっていました!」と、きっぱり!
 後日、担当氏の再調査の結果、通訳の勝手な解釈による返答と判明。
 ま、食の分野での取材で通訳を介して料理人に質問しても、通訳が充分な知識を持っているというのは実に稀なことですから、その返事もたいていは、自分で勝手に解釈したり、自分の知ってる範囲の答えを返してくる、というのはよくあることです。特に香港、中国本土では。

 ともあれ、そんなやりとりから、ここ10年の香港の食事情を探る、という話は縮小され、香港における料理店、ことに広東料理店における一般的な職能分布を紹介、と相成ったわけです。

 なにしろ「麻婆豆腐に北京ダックというのが、TVをご覧の視聴者にとっては一般的な中華料理に対する認識ですから、その本場の料理が香港で食べられるってことを入り口に番組を始めたいんですけど」、と、なんだかトンチンカン!最初はそんな具合だったんですが、急転直下、いきなりの超マニアック、専門的展開になったのに、私自身、「エ!?」とばかり、驚きました。

「いや、ほとんどの方、そういう料理店の厨房事情、ご存知ないですし、それを紹介しましょう。みんなきっと驚きます、おもしろい話ですから!」と、担当氏。
 ま、確かにそうですが・・・・そうか、ニュース番組だし、知識欲も旺盛で、ということで納得。

 そんなことから番組で紹介したのが、以下のような香港の広東料理店における一般的な組織図、職能分布図です。

○炒鑊(埋便) 炒め物、煮込み物などの調理を担当 トップに位置するのは頭炒鑊(もしくは頭鑊)で、以下、二鑊、三鑊から尾鑊へと続く

○砧板(開便) 素材の用意、包丁による加工、素材の配合など、調理のための下拵えを担当。頭砧板、もしくは 頭砧を筆頭に、以下、二砧、三砧から尾砧へと続く。 なお、頭砧は、素材の仕入れなど、厨房での管理業務を担うこともある

○打荷  炒鑊と砧板、厨房とホールの橋渡し役を担当。 サービスから受け取った客からの注文をもとに、砧板に素配合、下拵えを伝え、炒鑊に渡すなど、厨房の司令塔にあたる。客に出す料理の調理、配菜の順番を決める役割も担う

○上什 蒸し物、土鍋煮込み担当。 干し鮑など、乾燥海鮮素材の戻し、また、調理の下拵えも担当する
○水台 海鮮の魚介の下拵えなどを担当。 干し鮑など、乾燥海鮮素材の戻しを担当することもある
以上が、いわば調理部門の主要な職能分担
さらに
○点心 飲茶の点心作りを担当 点心の料理長を筆頭に、以下の職能区分がある

  ○按板 各種の餡入りの点心作りを担当

  ○撈咸 点心の餡の下拵えを担当

  ○熟籠 点心の蒸し物の調理を担当

  ○煎炸-点心の煎り焼、揚げ物などを担当

○燒味 仔豚、家鴨、鵞鳥などの丸焼き、叉焼などの焼き物や、たれ仕込みによる鶏料理などを担当

といったような次第です。


あ、画像は本文とは関係なし、夏の郷土料理の一品、ということで、欖仁涼瓜炒蛋白蝦仁

2007/09/01

香港の料理店事情、あれこれ①

 この22日、NHK-BS1の夕方のニュース番組「アジアンクロスロード」に駆り出されました。
 現地在住の特派員、それに番組スタッフが取材した「アジア街角レポート」というコーナーがあって、そのゲスト・スピーカーの役目を仰せつかったもの。

 今回は香港の食事情、香港の料理人事情を探るというテーマ。「香港の飲食業界のこの10年の変化」ということで、特に97年の中国への回帰前後から目立って多くなった香港の料理人の海外流失、その現状を探るってことがそもそものきっかけだったようです。で、今回は、香港政府が後ろ盾になって開校した調理人育成の為の中華廚藝學院で学んでいる学生にスポットを当てたVTRを紹介。そして私が香港の料理人事情を紹介、というものでした。

 VTRでクローズアップされたのは李文金さん(23歳)。潮州の生まれ、育ちで、両親は彼と妹を潮州に残して先に香港に出稼ぎに。16歳の時、両親のいる香港へ移住。香港では高校に通いながら飲食店でアルバイト。その勤め先が四川料理店だったことから四川料理に興味を持ったとか。
 高校卒業後、厨藝學院の全日クラスで学び、卒業後、新派四川を看板にする「亮明居」に勤務しながら、現在も週一回、現役シェフ対象のクラスを受講中。将来ファイブ・スター・ランクのホテルのレストランのシェフになるのが夢、だそうです。

 そんな話を耳にしただけでも色々と興味をそそられる。話題に事欠かないテーマです。

 まず、香港における調理師専門学校の存在。
 香港の食に興味を持って入手した飲食関係の専門誌にその紹介や広告が掲載されていたことからその存在を知りましたが、地元の知人たちにその存在意義、認識を尋ねても、一般人にはむろん無縁な存在。料理人志望なら調理師学校に通うより、料理店で職を見つけて技術を覚えるんじゃないかな、ってことでした。
 とはいえ、料理人を目指し、料理店に就職したとしても、下働きからというのは日本の料理店での料理人修行とほぼ同じ。日本と少しばかり違うのは、よほどの小規模の店でもない限り皿洗いをはじめとする雑用係が存在することもあって、下働きはあくまで料理に関わることに限られるようです。

 私が香港に通い始めた80年代、香港の住民の中には97年の中国への回帰、返還を控え、海外への移民を真剣に考え、最大の関心事となっていたものです。
 海外への移民にはいくつかの方法があり、移民の手段や海外の国々のパスポートの入手方法を模索。そのひとつに特殊な技能、手に職を持った人を対称とした資格移民というのがありました。投資移民になるだけの資金力が無い人はその手段に頼るしかなかった。それには料理人も含まれていたそうで、技術を取得するには時間のかかる料理店への就職より、料理の心得があれば短期間に資格を得られることから、当時、にわかに注目されたのが料理人としての資格を得られる調理師養成の専門学校の存在。もっとも、料理学校の認定書がどれほどの効力を持っていたのか定かではありません。  

 実際、香港の中国への回帰、返還の時期、料理人の海外への流失が話題になったことがあります。もっとも、その後、海外に流失、とされた料理人が香港に戻るというようなこともあった。さらに、時を経て、中国本土で香港式の料理、ことに海鮮料理が話題を集めるようになって以来、香港の料理人が中国本土に進出。といった事情から、ここ最近香港の料理人の流失が再び話題になりつつある。それについては、また改めて触れたいと思います。

 それにしても、VTRで紹介された李文金さん、潮州出身なのに、バイト先が四川料理の店だったことから四川料理に関心を持ったというのが面白い。
 というのも、日本で四川料理といえば、中国料理のひとつという認識が大半でしょう。ところが、潮州を含めた広東人にとって四川料理は、遥か遠い北の国の外国料理、というのが一般的な認識だからです。
 それは、日本における関東、あるいは関西と、北海道、沖縄といった地域差、差異、存在認識などとは異なるものです。例えれば、日本と東南アジア各国との隔たり、つまりは和食とタイ料理の間の差異を思い浮かべてもらうのが格好かもしれません。

 そうした中国の地方料理に対する認識は、香港のフードガイドにおけるカテゴリー分類からも明らかです。中国料理としてまとめられることはなく、地元の代表的な料理である広東を筆頭に、上海、北京、四川など、地方の主要な料理ごとに区分されているのが実情です。
 それに、同じ広東省でも、潮州料理は広東料理とは別個に紹介されているのが一般的。また、上海料理の源流のひとつである杭州料理店なども上海料理とは別個に紹介されているが普通です。
 次いで、日本、韓国などを筆頭にアジア各国の料理店、さらに、フレンチ、イタリアン、といった按配です。

2007/08/27

不時不食、素材がすべての中国料理、その④



「加茂茄子」は収穫の端境期だったために呉さんは試食、賞味できず。その代わり、運よく呉さんの手元に届けることができたのが「はぐら瓜」。

 7月7日に紹介した加藤さんの「夏野菜」の画像の中央、「青茄子」と「加茂茄子」にはさまれて横に寝そべっているのが「はぐら瓜」。

 ネットでいろいろ検索してみましたが、どうやら白瓜の一種。ところが、加藤さんのはネットで見つけた白瓜、はぐら瓜をうんと生育させたもの。最低でも25センチ、時には30センチ程の大きさ。

 薄緑の皮をむき、中の種をとってかぶりつくと、水気あり。なのに、噛み締めると水っぽくなく、清廉で無垢な青い甘味がある。

 小ぶりの白瓜なら、子供の頃、さかんに食べたものですが、それよりもでかい。なのに、果肉が甘く、噛み締めるとジューシー。生のまま、なんもつけずにポリポリ食べちゃいました。

 なんでも、もともとは収穫してお漬物に、というのが伝来の調理方法で、ネットで調べると「はぐら瓜」を使った漬物はわんさか出てきます。そういえば、奈良漬にも使われるらしい。
 そんなことを知って塩を振り、一晩寝かせて、浅漬けにしました。甘さと清涼感があって、なおかつ旨味がうんと引き締まった感じだ。さらに、冬瓜同様、和風、中国料理風、いろいろ試してみましたが、火を通すと、何といってもつるんと滑らかな触感が堪らない。

 この「はぐら瓜」こそ、広東料理の手法で、いろいろ調理できるのではないか!との狙いもあって、呉さんにそれを依頼しました。
 私の狙いは、冬瓜の早生の「節瓜」に似ている様子なので、「節瓜」の料理の数々は?と、呉さんに提案、というか、願い出た次第。ただ、果肉の肉質は「節瓜」に似ていても「はぐら瓜」の味、風味は「節瓜」に比べ、青臭さはともかく、甘い。そこが工夫のしどころかも。

 はたせるかな、呉さんが用意してくれたのは「勝瓜雲耳炒圍蝦」の「勝瓜」を「はぐら瓜」に置き換えた「白瓜雲耳炒圍蝦」。はぐら瓜、きくらげと蝦の炒め物、です。

 それが実に素晴らしかった。ことに「はぐら瓜」が素晴らしかった。
 火を通した5ミリほどの薄さのはぐら瓜は、半透明の薄緑。つるんと滑らかで、まるでビロードのような歯触り、舌触り。その質感、洋梨のスライスをバターでソテーした時の感じにも似ている。が、それよりも粘着的な歯触り、弾力があって、噛み応えもある。
 しかも、噛み締めれば、フルーティーな青い酸味、潤いのある自然な甘さが、じんわりと浮かび上がる。繊細で、きめ細かで、気品のある甘味、旨味が頭をもたげ、清涼感あふれる香りが口中に漂う。おまけに、しなやかで力強い。
 加藤さんの「はぐら瓜」も凄い。その持ち味を最大限に引き出した呉さんの手腕も素晴らしい。

 「白瓜雲耳炒圍蝦」は、今年食べた料理の中で、だんとつの旨さ、風味でした。
 先にもふれてきた「茄子炆紅斑」、さらには「梅辣青茄子粉絲煲」の加藤さんの「青茄子」の美味もさることながら、それを超えてました。
 
 その「はぐら瓜」、収穫期は7月半ばから8月半ばにかけて。9月前、名残りの最後の収穫があるかもしれない、とのこと。なんとかゲットしたいと願ってます。

 画像は「白瓜雲耳炒圍蝦」。その美味と再び出会うには、来年まで待つしかない。
 いや、加藤さんの野菜は、毎年、味、風味が微妙に異なります。
 そう、加藤さんの野菜だけに限らず、野菜も生き物。その年の天候に左右されますから。
 ということでは、今回の「白瓜雲耳炒圍蝦」は、まさに一期一会の味、風味。
 その美味、風味、旨さ、一生忘れません。

不時不食、素材がすべての中国料理、その③


 加藤さんの「青茄子」を、揚げたはたと煮込んだ「茄子炆紅斑」は、ほろり、はらりと身が崩れる紅はたとは対照的に、青茄子はだしをしっかり吸い込みながら、煮崩れず、しっとりとした舌触りと優しい歯応え。そんな両者の触感の対比が面白い。

 さらに「青茄子」は、だしを含みながら、フルーティーな酸味、甘味があって、持ち味、個性をしっかりと主張。

紅はた、青茄子のだしを含んだ甘味、旨味に加えて、隠し味の「陳皮」のほろ苦さと醗酵味がこくを生み出す。そんな重層的構造による、旨さ、風味こそが味わいどころ。しかも、優しくて気品があり、穏やかで軽く洗練された福臨門ならではの味、豊かな風味が特徴です。

 調理を担当したのは張漢華料理長。めりはりの利いた明解な味付け、ぎりぎりの塩加減、張りのある味わいは、張さんの個性、そのままを物語る。同時に、料理方法、味付け、風味など、香港島の福臨門ならではの手法、持ち味、スタイルを踏襲したものだったこともわかります。

 一方の「梅辣青茄子粉絲煲」。
 青茄子、豚ひき肉を炒め合わせ、春雨を加え、梅子醬、豆板醬で調味し、二湯を足して煮含めたもの。だしの旨さを含みながら、「青茄子」そのものの旨さ、しっとりした触感など、青茄子の持ち味、特性が際立った一品です。 何よりも青茄子の旨さ、風味、と同時、力強さ、しなやかを感じます。

 みかけは無骨でも、根は頑丈。大地の恵みの味、風味がする加藤さんの野菜の特徴、持ち味をそのままに物語る収穫物のひとつ、ですから。

 調理したのは総料理長の呉さん。優しくて、気品があって奥床しく、洗練された味、風味は、呉さんの人柄がそのまま滲み出たもの。

 さて、今回、呉さんに加藤さんの野菜の調理をお願いしたものの、「加茂茄子」だけは収穫の端境期だったことから、呉さんは味わえず。
 そんなこともあって、呉さんの調理した「加茂茄子」の料理が味わえなかったのは残念。その代わりに
と、徐さんが加藤さんの「加茂茄子」の緻密な肉質、スムーズな歯触り、舌触りから思いついたという「金銀蒜蒸茄子」を、「真黒茄子」で。

 茄子を柔らかくなるまで蒸し、揚げたニンニクのスライス、みじん切りを載せ、醬油、熱した油をかけて仕上た一品。小口切りの葱がのっけられてます。

 冷の性質を持った茄子に熱の性質をもった生姜を組み合わせる、というのは、和食にもあるごく自然で、あたり前の組み合わせ。冷と熱のバランスを考慮したもの。その生姜をニンニクに置き換え、醬油味のだし、熱した油を一気にかけまわす。その最後の仕上げの際の「ジャ~!」って音が、思い浮かぶような一品です。
 酒のつまみ、惣菜としても格好です。ご飯の上にのっけて、かっこみたくなる。
 熱いだしを注いで、上湯茶漬け仕立てというのも、ありかもですね。

 ですが、正直に感想を述べれば、「加茂茄子」の肉質の緻密さ、甘さ、風味があってこその一品らしく、「真黒茄子」では、醬油ベースのだし、かける油の加減、按配が難しい、というのが現実。
 そう、少しばかり、醬油と油の分量が茄子に対して多すぎ、私には、味が濃かった。
 けど、若い人なら、また、この濃い味こそが、受けるかも。 なんせ、私は塩分控えめ、薄味好みの少数派(オヤヂ)、ですから!

 それより、驚いたのが「青瓜炒滑牛肉」の、四葉胡瓜の旨さ、呉さんの調理の技。
 四葉胡瓜は、もともとは華北産のものだとか。前出、加藤さんの夏野菜の項目で、それが見られますが、その色は深緑。白い棘が噴き出していて、かなり胴長。

 日頃親しんだ浅緑で表面がつるんとした胡瓜とは、見かけがまるで異なる。 水気が少なく、果肉は頑丈で、バリ、ボリっといったしっかりした噛み応え。ほろ苦さ、甘さがあって、何よりも瑞々しさがほとばしる。
 かなりの長期保存も可能で、その瑞々しさを保ち続ける根性の座った胡瓜です。

 その見かけは、香港の市場で見かける2種ある糸瓜(へちま)のうち、深緑色で、線状の突起のある細長い勝瓜/絲瓜に似ています。が、勝瓜/絲瓜に比べると、ほろ苦さと甘味、爽やかさ、それに旨味がある。味、風味が異なります。 
 
 もっとも、四葉胡瓜、もしかして、広東地方の郷土料理、それもお惣菜としてふんだんに使われる勝瓜/絲瓜の各種の料理に置き換えられるのでは?
 というのは、加藤さんの四葉胡瓜を入手した何年も前から狙っていたこと。そういえば、酢豚に胡瓜ってありますよね!あれも試しましたが、それもなかなかのもんで、油との相性もぴたりです。

 ともあれ、徐さんが教えてくれたメニューに、勝瓜/絲瓜を四葉胡瓜に置き換えた「洋蔥青瓜木耳炒圍蝦」というのがあって、私の着眼は間違いなし、思わずほくそ笑んだものです。
 ところが、加藤さんの「四葉胡瓜」を手にし、味見した呉さんが用意してくれたのは「青瓜炒滑牛肉」。米沢牛のフィレ肉との炒めものです。

 「四葉胡瓜」を5~6ミリ程にスライス。それを油泡、油通ししたものですが、油で火を入れてあるにもかかわらず、「四葉胡瓜」のフレッシュな味、風味。バリ、ボリ、ではなく、パリ、サクの噛み応え。

 で、噛み締めると「四葉胡瓜」のほろ苦さ、甘味、旨味、風味、清涼感が、見事に浮かびあがる!
 素材の持ち味、風味を生かした、抜群の調理、その見事な技に、ぐうの音もでず。

 新鮮な「四葉胡瓜」のバリ、ボリの歯応えのある瑞々しい旨さもさることながら、素材に火を一瞬、通しただけで、その新鮮さはもとより、「四葉胡瓜」の持ち味、旨味、風味を見事に凝縮した「四葉胡瓜」の旨さ、風味。そして、呉さんの技の凄さに、参りました!

2007/08/26

不時不食、素材がすべての中国料理、その②


 広東料理だけに限らず、中国料理はそもそもは素材ありきなのだってことを改めて認識させられる出来事がありました。
 そもそのも発端は以前、ここで紹介した過日の斎木さんとのファミリー・ディナー、夏の広東地方の郷土料理のパート①でのこと。

 私の提案で「豉汁涼瓜炆紅斑」をメニューに組み込んだところ、それを知った福臨門の徐さんから「涼瓜もいいけど、揚げた魚の煮込と茄子の料理もいいもんだよ!」との話が伝わってきた。その話に俄然興味を持って、なんとしてでもそれを実現したかった。

 そして、茄子といえば「夏野菜」で紹介した埼玉県東松山で農業を営む加藤紀行さんの茄子三種の「真黒茄子」、「加茂茄子」、「青茄子」。

 ことに「青茄子」は、フルーティな酸味、甘味があり、なおかつ、繊細で緻密な肉質ながら、煮崩れない頑丈さがある。それは私自身、他の料理でもいろいろ試し済み。加藤さんの「青茄子」なら間違いないく揚げた紅はたの煮込みの「紅炆紅斑」にはうってつけなのに違いない。
 ということで、青木氏との夏の広東地方の郷土料理のパート②で、それを実現。これがなんとも美味でした。
 あわせて、大阪の福臨門が場所を移し、そのオーニングの為に日本にやってきた徐維均さんが、東京に立ち寄って香港に帰る、という話を聞きつけ、徐さんに加藤さんの夏野菜をプレゼント。加藤さんの茄子、それに夏野菜の数々を試食してもらい、その印象を尋ね、また、広東料理の手法で、どんな料理が可能かを伺うことにした次第。

 はたせるかな徐さんは加藤さんの夏野菜の数々を絶賛し、その出来栄え、美味、風味の豊かさを高く評価。
 中でも徐さんが注目したのは「加茂茄子」。舌触りがスムースで、緻密な果肉、芳醇な味わい、甘さがある、とのこと。それに「青茄子」は、果肉の繊細でフルーティでありながら、煮込んでも煮崩れせず、ダシなどの旨味をしっかり吸い込みながら、青茄子本来の持ち味を失わない力強さ、しなやかな個性があるのに驚いた、ってことでした。

 茄子3種以外にも、、四葉胡瓜、万願寺唐辛子、日光青唐辛子を試食し、広東料理の伝統、手法に倣ってどんな料理方法があるか、即座にその数々を挙げ、教えてくれました。
以下がその料理の数々です
まずは茄子3種
涼拌茄子、茄子の蒸し物、ごまたれ風味

金銀蒜蒸茄子、茄子の蒸し物、揚げた薄切りにんにく、醬油たれ風味

咸魚雞粒茄子豆腐煲、塩漬け醗酵魚、賽の目切りの鶏肉、茄子の炒め煮込み

梅辣茄子煲、茄子の炒め煮込み、梅子醬、豆板醬風味

煎釀茄子 豚挽き肉はさみの茄子の煎り焼海味粉絲煲 野菜と春雨の炒め煮込み

茄子炆紅斑 茄子と揚げ魚の煮込み
四葉胡瓜については
洋蔥青瓜木耳炒圍蝦、胡瓜、たまねぎ、きくらげと海老炒め
万願寺唐辛子、青唐辛子については
新鮮な魚介(海老、貝柱、伊勢海老)もしくは鶏肉、牛肉とともに、豉椒、つまりは、醗酵黒大豆を使った豉汁風味で炒める

 たとえば、茄子。中国料理で茄子を使った料理といえば、即座に思い浮かべるのが麻婆茄子。
 それに、茄子は油との相性がいいし、たっぷりの油で下拵えしたあとに、干海老や咸魚で風味をつけて、炒めて仕上る。それとも、中華風味のタレ、あんかけにする。

 加茂茄子などは、しっかり油で揚げてから、和食の田楽風、あるいは、揚げ出し風にして中華風の味で仕上る、ってのが日本の中華料理、中国料理における茄子の料理方法ではないかと思います。
 そう、中華、中国料理の茄子の調理方法、様式は、あらかじめ決まっていて、それに即して調理。
 あるいは和の手法を取り入れてアレンジ。
 ところが、徐さんの教示してくれた広東料理の伝統、手法に倣った茄子の料理。まず、素材そのものの持ち味、特徴、性質を見極めてから、調理、調味をする、という料理のプロセスが明確に汲み取れる。
 まさに、目うろこ!
 そのことをつくづく思いしらされました。

 加藤さんの「真黒茄子」や「加茂茄子」の、果肉の繊細で芳醇な甘さを生かすには、揚げるよりも蒸す。持ち味、資質を損ねない最良の調理手段です。
 それに、「青茄子」。その緻密な肉質、フルーティーな風味、油で揚げてもへこたれない頑丈さがあって、だし、旨味を吸い取りながら、自己の味を主張ということから、煮込み料理が最適、という見極めがあってのこと。

 実は、四川料理には、茄子椒麻だったか、蒸した茄子に、花椒をふんだんに使って醬油などをあわせて作ったたれをかける料理があります。茄子を蒸すっていうのは他の地方でも惣菜的な料理に活用されることが多い。蒸して、冷やすってわけです。

 そういえば、日本だと焼茄子がある。焼いた茄子を冷水につけるか、冷まして、生姜仕立ての醬油たれで食べる。が、焼くとやはり、焦げの味がつく。それが、風味を増すのも事実だが、素材の生かし方が少しばかり、違ってくる。

 ともあれ、中国料理では、茄子は揚げるだけでなく、蒸して、いろいろ活用する。しかも、徐さんはそれぞれの茄子の持ち味、資質を見極めて、調理、調味を工夫、ということに感心しました。

 そう、まずは素材ありき、なのだと。
 なんて、いわれても、実際に食べてみないことには、って思いますよね?

 ということで、呉総料理長に御願いして、料理してもらった一品が、加藤さんの「青茄子」を使った「梅辣粉絲煲」。

 青茄子のぶつ切りを豚のひき肉と炒め、「梅子醬」という甘味もあるみそ、辛味のある豆板醬で調味し、戻した春雨を加えて、2番だしで炒め煮込みした煲仔料理。くたっとした茄子を噛み締めると、だしの旨味、だけでなく、青茄子のフルーティな風味、酸味、甘味が、じんわりにじみ出てくる。

  梅子醬の酸味、甘味、上品なこく、豆板醬のピリ辛の風味。加藤さんの「青茄子」の旨さ、その持ち味、風味を生かした呉総料理長の手になる「梅辣茄子粉絲煲」の穏やかで洗練された優しい味、風味に、うっとりとなったのであります

2007/08/14

不時不食、素材がすべての中国料理、その①

「日本で広東料理のフェアーをやるんで、招待されてるんだ」
なんて話、香港で知り合った著名な料理人、取材で訪れた店から聞かされたことが何度もあります。 日頃、香港で評判の腕、味、料理を日本で紹介できると大張り切り。

 そうした話を耳にする度
「お、いいじゃない、頑張って、香港の味を紹介してね」
と、口では言いながら、暗雲立ち込める思いに陥った。
というのも、はたして香港と同じような素材が日本で入手できるかどうか。
他人事ながら気になり、親しい料理人は日本での素材事情について説明もしました。

 ことに80年代後半から90年代はじめにかけて、広東料理のだし作りに欠かせない中華ハムの「火腿」の調達が日本では不可能だった。
なにせ、80年代には日本の中国料理の料理人がだし作りに「火腿」を使うってことはほとんどなかった。その証となる雑誌の記事もあります。

 その後「火腿」は、まずは台湾産、ついで本土産のものが日本でも入手出来るようになり、今では中国料理におけるだし作りの必須の材料のように語られています。
 その突破口になったのが、福臨門の日本への進出がきっかけだったのは明らかですが、日本の中国料理人はそれをなかなか認めたがらない。

 それより日本の中国料理界で「火腿」の使用が当たり前、一般化するようにはなったものの、その使い方、使用方法については、まだまだというのが現状です。
 が、それについてはまたの機会に。

 ところで、日本から招待を受けた香港の料理人から
「これってどういうことなんだろ?」
と尋ねられた興味深いことがあります。
それは招待した側のコーディネイター、仲介らしき人物からの連絡で
「素材は日本で調達できます。ただ、広東料理に使う調味料は日本での調達は難しいことと思いますので、その手配、準備、どのようにすればよいのかお知らせください」
といった内容のもの。

「これってどういうこと?」
と、香港の料理人。なんて、私に質問されてもわかりません。
が、ふと、思いついたことがありました。
 ある時期、意欲に燃える若い料理人と知り合った際、四川料理店に勤める若い料理人から、
「広東料理って、調味料の組み合わせとその扱いが特別なんですよね。
あわせ調味料をあらかじめ作っておいて、仕上げにそれを使うんでしょ?」
との話に、私はン!? 
その話に疑問を覚えたのは、香港で取材した広東料理店で目撃してきた事情と大いに違ったからです。

 四川料理店で修行中だった若い料理人の話によれば、日本の四川、北京、上海では、それぞれに特有、独特の調味料の組み合わせがあって、それが各地方の料理を特徴づけている。
 ことに広東料理には広東料理独特の調味料があり、日本では入手不可能がものがほとんで、それがなければ広東料理たりえない、というような話でした。

 言われればなるほど、広東料理には独特、特有の調味料があるのは事実。 蝦醬や咸魚などがそう。他にも探せばいくらだってある。
 さらに、広東料理の一端を担う潮州料理では、広東料理の系列に属しながら、広東料理には使われない調味料の数々が存在する。潮州地方独特の漬物などもその最たるもの。

 が、先の若い料理人はそこまでの知識もなく、広東料理といえば、独特のあわせ調味を使って仕上るもの、という程度に認識しかないことも、その時に知りました。

 どうやら、香港の料理人を日本に招待するコーディネイター、仲介の役目を担った人も広東料理についてその若い料理人同様の知識しかなかったようです。
 それとも、日本に存在し、一般的に認知されている日本式の広東料理をもとに、先のようなことを香港の料理人に伝えたのかもしれない。
 そんなことについて触れた、つまり香港の料理人との仲介を買って出た経験のある人の体験談を記した著作を読んだ覚えもあります。

 そんな話を私に持ちかけた香港の料理人は
広東料理に特有な調味料の調達よりも、日本で入手できる素材を見なければ
調理方法も決められない。それにどんな調味料が必要なのかもわからない
というのが言い分で、なんで調味料のことを先に尋ねてくるのか
とまあ本末転倒とでもいいたげな口ぶりでした。

 つまり、日本に行って、素材を手にして見なければ、何も始まらない、と。
 その香港の料理人、日本に来てみて、香港で入手できる素材の質とは
まったく異なるのに愕然とし、どうやって処置しすべきかと、思い悩んだそうです。

 まず、文句なしに使えると思ったのは牛肉。
水牛系の硬い肉とはいわないでも、中国産の牛肉は貧弱で、へたすると輸入物に頼らざるをえない。そんな香港の牛肉事情からすれば、はるかに質が高くて、種類も豊富。

 ところが、料理の基本のだし作りに欠かせない鶏肉、さらに、豚肉の赤身などに関しては、味が無くって、香りがしない。
 仔細を尋ねれば、どうやら、水っぽくって味がしない。香りは皆無ということでした。

 「火腿」の調達以前の問題だ、とのことで、頭を抱えてしまったそうです。
それに、日本の中国料理では、鶏がらでだしを作る、というが一般的だと知って、驚いたとも。
 彼にとって、だしをとるには鶏を丸ごと一羽、というのはあたりまえだったのですから。

「なこと、ないよ。日本にだって良質の豚肉や地鶏だってあるから」
と、その料理人をけしかけ、いろいろ情報を伝えました。
もっとも、仕入れ値段の点で折り合わず、その入手は難しい、
ってきっぱり伝えられたり、
それ以前に、豚肉はともかく、生きた鶏を入手できない、ということに驚いた
ってことでした。

 鶏や豚肉だけでなく、野菜類なども、全体、水っぽくて、味がしない。香りがない。
 ともかく、調味料の調達以前に、優れた素材を入手出来ず、入手できる範囲の素材をいかに活用するか、頭を悩ませた、という話でした。

 そう、広東料理、だけに限らず、中国料理は、そもそもは素材ありきなのです。それからすべてが始まったってことを端的に物語る話、ではないかと思いました。

2007/08/11

夏の広東地方の郷土料理のパート②の④


 さて、鳩料理とともに当夜のメイン、ハイライトとなったのが「茄子炆紅斑」。この料理に決定するまでに、色々とわけがありました。
 過日の斎木さんとのファミリー・ディナー、夏の広東地方の郷土料理のパート①で、私の提案で「豉汁涼瓜炆紅斑」をメニューに組み込んだ。それを知った福臨門の徐さんから
「涼瓜もいいけど、茄子と一緒に料理するのもいいもんだよ!」
との話が伝わってきた。その話に俄然興味を持ったわたしは、なんとしてでもそれを実現したかった。
  ン!? そうだ!茄子といえば、「夏野菜」で紹介した埼玉県東松山で農業を営む加藤紀行さんの茄子三種「真黒茄子」、「加茂茄子」、「青茄子」だ! ことに「青茄子」は、フルーティな酸味、甘味があり、なおかつ、繊細で緻密な肉質ながら、煮崩れない頑丈さがある。
 実は、タイ、及び、インディアン・スタイルで茄子のカレーというのも旨いし、にんにく、赤唐辛子の香りをつけたオリーヴ・オイル、もしくは塩漬けの豚のあばらにく(なんちゃってパンチェッタ!)でソテーし、しんなりさせてから、アンチョビ・ペーストもしくは蝦醬で味、風味をつけて、チキン・スープ・ストックで煮込んで、パスタの具に、なんてのは試し済みで、いずれも大成功。
 なら、加藤さんの「青茄子」で「揚げ紅はたと茄子の煮込み」を!と、考えた次第。
 併せて、大阪の福臨門の移転新装開店の帰りに、徐さんが東京に立ち寄ると知って、徐さんに。加藤さんの茄子や野菜をプレゼントし、試食してもらおうとも思い立った。
 そして、登場したのが「茄子炆紅斑」。
 それにしても、どうやって茄子を調理?その味付けは?と、あれこれ想像。
 苦瓜の時のように醗酵黒大豆の「豆豉」をベースにした調味料の「豉汁」で?
 いや、どうもそうではないらしい。
 目の前に現れた「茄子炆紅斑」、表面には白髪葱、
 というには少々太めだが、葱の細切りがひと山たっぷり。
 
 その周りに「青茄子」が煮崩れないままにある。そして、紅はたの頭と尻尾。
 見かけからすると揚げた紅はたを煮込んだ「紅炆紅斑」を基本に、茄子を加え、葱の細切りをたっぷり。
 で、食べました。揚げた魚に、別途、炒めた野菜、今回は茄子が中心で、二番だしの「二湯」を加え、醬油、オイスター・ソースなどで味付けをしたもの。甘味が利いた、煮込み料理の特有の味付けだ。
 で、茄子を食べます。しんなり、くたっとした茄子は、だしを含んでいる。味付けと、茄子自体のもつ甘さが2重構造になっている。それに、ひりからの葱の細きり。
 ン!? と思ったのは、ほろ苦さが口内に!その、ほろ苦さ、直接的ではなく、まろかやさと、醗酵味のような酸味、旨味がある。
 なんと、蜜柑を干した「陳皮」でした。「陳皮」の苦さ、「涼瓜」つまりは「苦瓜」の苦さの代わりですね。
 ところが、「涼瓜」のような青くささがなく、旨味、こくを醸しだす雰囲気。そこに葱のひり辛、また、味付けと「茄子」の甘さが入り混じる。
 さらには、火を通せば、はらりと身がくずれる紅はたの、ゆる~くで滑らかで、柔らかな触感。ダシ、味を含んだ身の旨さも格別だ。そんな旨さ、風味、五味の重層構造と見事な一体化状態に
「こんなの、あり?」、
という以外に、旨さ、風味の素晴らしさを語れない。
「あり、ありです、現にここにあり、なんだから!」と。
 揚げた紅はたと、青い苦味のある「涼瓜」の組み合わせの、直球勝負の爽快な旨さ、風味。
 「涼瓜」が「青茄子」に代わると、茄子と紅はたの触感の変化、甘味、旨味、隠し味の「陳皮」の苦さ、こくがうみだす、重層的構造による、旨さ、風味。
 ほんとの話、紅はたもさることながら、「青茄子」の旨さ、紅はた以上に際立ってました。加藤さんの「青茄子」は、旨い。タフでがっしりしていて、旨くて、すごい。
 そして、締めくくりはレタスの細切りと塩漬け醗酵魚の「咸魚」の「生菜絲咸魚炒飯」。
 「鳩や肉などいろいろ食べたし、塩漬け魚の「咸魚」だけで」
 と青木さんのたってのリクエスト。
 「咸魚」の塩辛さもあって、レタスの細切りがふんだんに使われている。
 張さんの炒飯、火の勢いがあって、香りが豊か。まさに「鑊氣」があります。
 とはいえ「咸魚」がたっぷりで、レタスがあっても、少々塩辛かった。
 最後のデザート。これがなんと、冷たいキッズ・デザート、でも、温かいアダルト・ディザートでもなくて、青木さんご持参のソーテルヌ。
 甘美で濃密でフレイヴァー豊かなスュデュイローを味わいました。

夏の広東地方の郷土料理のパート②の③




 
 
 さて、いよいよ鳩料理の登場。
「鳩は香港で食べたことがあるけど、東京ではまだ。香港で食べてるのも、ほら、dancyuに載ってた「豉油皇乳鴿」。あんな風に煮込んだ鳩なんですけど」と青木さん。
「なるほど、なら、鶏もいいですけど、鳩ってことで!
フランス原種で日本で飼育した鳩が入手出来るようになったし。
香港の鳩とは肉質、肉の味が濃い。その比較ってのも面白いし。
それに総料理長の呉さんは、今、大阪で、料理するのは張さんなんですが、
張さんは揚げ物が得意だし、今回は「脆皮焼乳鴿」でどうですか?」、
とますます強引な私です。というのが、当日までのやりとり。
「これって、しっかり下拵えの塩味、利いてるんですね」と青木さん。
「あ、それならこのレモン・ソルトを適宜。それでも、濃く感じるなら、たっぷり。肉の味、風味自体、香港の鳩に比べて味が濃くて、濃密な感じがしませんか。
香港の鳩もいいけど、鳩の好きな私には、嬉しくてたまらない」と ワインを一口。
 私が用意したのはローヌのグラムノン。が、なんだか、「脆皮焼乳鴿」には少々軽い。
そして、鳩を食べましょうとの私の言葉にジビエというイメージが頭の中を駆け巡ったという青木さんが用意したのは、ラ・ミション=オ=ブリオン。
 しっかり、がっしりの血の気の多い濃厚な味、風味で「脆皮焼乳鴿」との相性が良い。
しかも、香港産よりも濃い血の味がする鳩にぴたりとはまり、塩味の利いた調理にもあっている。
 ついで登場したのが「榨菜蒸肉餅」。
 これは、揚げ物のあとで、料理の流れ、口の中の味を変えたいってことから
「何か、蒸し物を」
 というのが私のプラン。
 鶏肉と金華火腿の蓮の葉包み蒸しを思い浮かべたものの、ありきたりだし、日本では鶏肉を蛙の腿肉の田腿に代えることもできない。
 なら、張さんにおまかせ。ということで登場。
 叩き潰した豚肉の包丁技の見事さ、はらりと崩れる肉質。
それでいてジューシーで、しかも、上品な味付けだ。
 ポイントはやはり榨菜。僕の好みは、豚肉のきめ細かさとのバランス、肉餅の舌触りなどからすれば榨菜がも少し細かな微塵切りのほうが良い。
 それでも、榨菜の爽やかな酸味、醗酵味の旨さが光る。ことに酸味の爽やかさもあって、夏向けの味、料理、というのがよくわかる。
 そのあたりが、張さんの狙い目だったのは、明らかです。
 そして、「海味雑菜粉絲煲」。
 これは野菜料理を何か一品ということから。
 今の時期、夏野菜が旨い。当然、旬の野菜を考えました。
 ですが、塩味炒めの「清炒」では、なんだか味気がない。
 かといって、腐乳や蝦醬で味をつけて、となると、今度は野菜の種類が限られてくる。
 香港なら、芥菜の茎の芥胆を蟹肉のとろみあんかけの「蟹肉扒芥胆」ってことも可能だが、それはないものねだり。
 青菜の炒めものではなく、上湯で煮浸す「上湯浸」という料理方法もあるが、これまた野菜の種類が限定される。
 ということから思い立ったのは、野菜の炒め煮込みか具の中味、組み合わせに工夫を凝らした春雨の炒め煮込み。
 「温公斎煲」という野菜ばかりの精進の炒め煮込みという手もある。
 紅麹で漬け込んだ南乳を風味に使うこともある。
 だしを多目にして煮込み仕立てにすることもある。
 自分では決められずに、野菜入りの春雨炒め煮込みを張さんにリクエスト。
 そして登場してきたのが「海味雑菜粉絲煲」。
 広東白菜などの野菜に、えのき茸など茸類の炒め煮込み。
 しかもその味付け、なんと戻した干し貝柱の「瑶柱」。
 贅沢な五百野菜炒め煮込みになりました。
 「瑶柱」の旨味、風味、それに、醬油味ベースだが、オイスター・ソースの蠔油が隠し味に忍ばせてあって、甘味とこくが、ほんのり、じんわりと浮かび上がってくる、というのが見事なプロフェッショナルの技。
 「これ、おかず、惣菜なんでしょ?けど、ご飯のいらない上品なおかずだね!」とまたまた関心しきりの青木さんでした。
 画像は「榨菜蒸肉餅」と、「海味雑菜粉絲煲」。「脆皮焼乳鴿」は先に紹介済みなんで、今回はパスです。