2007/08/11

夏の広東地方の郷土料理のパート②の③




 
 
 さて、いよいよ鳩料理の登場。
「鳩は香港で食べたことがあるけど、東京ではまだ。香港で食べてるのも、ほら、dancyuに載ってた「豉油皇乳鴿」。あんな風に煮込んだ鳩なんですけど」と青木さん。
「なるほど、なら、鶏もいいですけど、鳩ってことで!
フランス原種で日本で飼育した鳩が入手出来るようになったし。
香港の鳩とは肉質、肉の味が濃い。その比較ってのも面白いし。
それに総料理長の呉さんは、今、大阪で、料理するのは張さんなんですが、
張さんは揚げ物が得意だし、今回は「脆皮焼乳鴿」でどうですか?」、
とますます強引な私です。というのが、当日までのやりとり。
「これって、しっかり下拵えの塩味、利いてるんですね」と青木さん。
「あ、それならこのレモン・ソルトを適宜。それでも、濃く感じるなら、たっぷり。肉の味、風味自体、香港の鳩に比べて味が濃くて、濃密な感じがしませんか。
香港の鳩もいいけど、鳩の好きな私には、嬉しくてたまらない」と ワインを一口。
 私が用意したのはローヌのグラムノン。が、なんだか、「脆皮焼乳鴿」には少々軽い。
そして、鳩を食べましょうとの私の言葉にジビエというイメージが頭の中を駆け巡ったという青木さんが用意したのは、ラ・ミション=オ=ブリオン。
 しっかり、がっしりの血の気の多い濃厚な味、風味で「脆皮焼乳鴿」との相性が良い。
しかも、香港産よりも濃い血の味がする鳩にぴたりとはまり、塩味の利いた調理にもあっている。
 ついで登場したのが「榨菜蒸肉餅」。
 これは、揚げ物のあとで、料理の流れ、口の中の味を変えたいってことから
「何か、蒸し物を」
 というのが私のプラン。
 鶏肉と金華火腿の蓮の葉包み蒸しを思い浮かべたものの、ありきたりだし、日本では鶏肉を蛙の腿肉の田腿に代えることもできない。
 なら、張さんにおまかせ。ということで登場。
 叩き潰した豚肉の包丁技の見事さ、はらりと崩れる肉質。
それでいてジューシーで、しかも、上品な味付けだ。
 ポイントはやはり榨菜。僕の好みは、豚肉のきめ細かさとのバランス、肉餅の舌触りなどからすれば榨菜がも少し細かな微塵切りのほうが良い。
 それでも、榨菜の爽やかな酸味、醗酵味の旨さが光る。ことに酸味の爽やかさもあって、夏向けの味、料理、というのがよくわかる。
 そのあたりが、張さんの狙い目だったのは、明らかです。
 そして、「海味雑菜粉絲煲」。
 これは野菜料理を何か一品ということから。
 今の時期、夏野菜が旨い。当然、旬の野菜を考えました。
 ですが、塩味炒めの「清炒」では、なんだか味気がない。
 かといって、腐乳や蝦醬で味をつけて、となると、今度は野菜の種類が限られてくる。
 香港なら、芥菜の茎の芥胆を蟹肉のとろみあんかけの「蟹肉扒芥胆」ってことも可能だが、それはないものねだり。
 青菜の炒めものではなく、上湯で煮浸す「上湯浸」という料理方法もあるが、これまた野菜の種類が限定される。
 ということから思い立ったのは、野菜の炒め煮込みか具の中味、組み合わせに工夫を凝らした春雨の炒め煮込み。
 「温公斎煲」という野菜ばかりの精進の炒め煮込みという手もある。
 紅麹で漬け込んだ南乳を風味に使うこともある。
 だしを多目にして煮込み仕立てにすることもある。
 自分では決められずに、野菜入りの春雨炒め煮込みを張さんにリクエスト。
 そして登場してきたのが「海味雑菜粉絲煲」。
 広東白菜などの野菜に、えのき茸など茸類の炒め煮込み。
 しかもその味付け、なんと戻した干し貝柱の「瑶柱」。
 贅沢な五百野菜炒め煮込みになりました。
 「瑶柱」の旨味、風味、それに、醬油味ベースだが、オイスター・ソースの蠔油が隠し味に忍ばせてあって、甘味とこくが、ほんのり、じんわりと浮かび上がってくる、というのが見事なプロフェッショナルの技。
 「これ、おかず、惣菜なんでしょ?けど、ご飯のいらない上品なおかずだね!」とまたまた関心しきりの青木さんでした。
 画像は「榨菜蒸肉餅」と、「海味雑菜粉絲煲」。「脆皮焼乳鴿」は先に紹介済みなんで、今回はパスです。