2007/08/26

不時不食、素材がすべての中国料理、その②


 広東料理だけに限らず、中国料理はそもそもは素材ありきなのだってことを改めて認識させられる出来事がありました。
 そもそのも発端は以前、ここで紹介した過日の斎木さんとのファミリー・ディナー、夏の広東地方の郷土料理のパート①でのこと。

 私の提案で「豉汁涼瓜炆紅斑」をメニューに組み込んだところ、それを知った福臨門の徐さんから「涼瓜もいいけど、揚げた魚の煮込と茄子の料理もいいもんだよ!」との話が伝わってきた。その話に俄然興味を持って、なんとしてでもそれを実現したかった。

 そして、茄子といえば「夏野菜」で紹介した埼玉県東松山で農業を営む加藤紀行さんの茄子三種の「真黒茄子」、「加茂茄子」、「青茄子」。

 ことに「青茄子」は、フルーティな酸味、甘味があり、なおかつ、繊細で緻密な肉質ながら、煮崩れない頑丈さがある。それは私自身、他の料理でもいろいろ試し済み。加藤さんの「青茄子」なら間違いないく揚げた紅はたの煮込みの「紅炆紅斑」にはうってつけなのに違いない。
 ということで、青木氏との夏の広東地方の郷土料理のパート②で、それを実現。これがなんとも美味でした。
 あわせて、大阪の福臨門が場所を移し、そのオーニングの為に日本にやってきた徐維均さんが、東京に立ち寄って香港に帰る、という話を聞きつけ、徐さんに加藤さんの夏野菜をプレゼント。加藤さんの茄子、それに夏野菜の数々を試食してもらい、その印象を尋ね、また、広東料理の手法で、どんな料理が可能かを伺うことにした次第。

 はたせるかな徐さんは加藤さんの夏野菜の数々を絶賛し、その出来栄え、美味、風味の豊かさを高く評価。
 中でも徐さんが注目したのは「加茂茄子」。舌触りがスムースで、緻密な果肉、芳醇な味わい、甘さがある、とのこと。それに「青茄子」は、果肉の繊細でフルーティでありながら、煮込んでも煮崩れせず、ダシなどの旨味をしっかり吸い込みながら、青茄子本来の持ち味を失わない力強さ、しなやかな個性があるのに驚いた、ってことでした。

 茄子3種以外にも、、四葉胡瓜、万願寺唐辛子、日光青唐辛子を試食し、広東料理の伝統、手法に倣ってどんな料理方法があるか、即座にその数々を挙げ、教えてくれました。
以下がその料理の数々です
まずは茄子3種
涼拌茄子、茄子の蒸し物、ごまたれ風味

金銀蒜蒸茄子、茄子の蒸し物、揚げた薄切りにんにく、醬油たれ風味

咸魚雞粒茄子豆腐煲、塩漬け醗酵魚、賽の目切りの鶏肉、茄子の炒め煮込み

梅辣茄子煲、茄子の炒め煮込み、梅子醬、豆板醬風味

煎釀茄子 豚挽き肉はさみの茄子の煎り焼海味粉絲煲 野菜と春雨の炒め煮込み

茄子炆紅斑 茄子と揚げ魚の煮込み
四葉胡瓜については
洋蔥青瓜木耳炒圍蝦、胡瓜、たまねぎ、きくらげと海老炒め
万願寺唐辛子、青唐辛子については
新鮮な魚介(海老、貝柱、伊勢海老)もしくは鶏肉、牛肉とともに、豉椒、つまりは、醗酵黒大豆を使った豉汁風味で炒める

 たとえば、茄子。中国料理で茄子を使った料理といえば、即座に思い浮かべるのが麻婆茄子。
 それに、茄子は油との相性がいいし、たっぷりの油で下拵えしたあとに、干海老や咸魚で風味をつけて、炒めて仕上る。それとも、中華風味のタレ、あんかけにする。

 加茂茄子などは、しっかり油で揚げてから、和食の田楽風、あるいは、揚げ出し風にして中華風の味で仕上る、ってのが日本の中華料理、中国料理における茄子の料理方法ではないかと思います。
 そう、中華、中国料理の茄子の調理方法、様式は、あらかじめ決まっていて、それに即して調理。
 あるいは和の手法を取り入れてアレンジ。
 ところが、徐さんの教示してくれた広東料理の伝統、手法に倣った茄子の料理。まず、素材そのものの持ち味、特徴、性質を見極めてから、調理、調味をする、という料理のプロセスが明確に汲み取れる。
 まさに、目うろこ!
 そのことをつくづく思いしらされました。

 加藤さんの「真黒茄子」や「加茂茄子」の、果肉の繊細で芳醇な甘さを生かすには、揚げるよりも蒸す。持ち味、資質を損ねない最良の調理手段です。
 それに、「青茄子」。その緻密な肉質、フルーティーな風味、油で揚げてもへこたれない頑丈さがあって、だし、旨味を吸い取りながら、自己の味を主張ということから、煮込み料理が最適、という見極めがあってのこと。

 実は、四川料理には、茄子椒麻だったか、蒸した茄子に、花椒をふんだんに使って醬油などをあわせて作ったたれをかける料理があります。茄子を蒸すっていうのは他の地方でも惣菜的な料理に活用されることが多い。蒸して、冷やすってわけです。

 そういえば、日本だと焼茄子がある。焼いた茄子を冷水につけるか、冷まして、生姜仕立ての醬油たれで食べる。が、焼くとやはり、焦げの味がつく。それが、風味を増すのも事実だが、素材の生かし方が少しばかり、違ってくる。

 ともあれ、中国料理では、茄子は揚げるだけでなく、蒸して、いろいろ活用する。しかも、徐さんはそれぞれの茄子の持ち味、資質を見極めて、調理、調味を工夫、ということに感心しました。

 そう、まずは素材ありき、なのだと。
 なんて、いわれても、実際に食べてみないことには、って思いますよね?

 ということで、呉総料理長に御願いして、料理してもらった一品が、加藤さんの「青茄子」を使った「梅辣粉絲煲」。

 青茄子のぶつ切りを豚のひき肉と炒め、「梅子醬」という甘味もあるみそ、辛味のある豆板醬で調味し、戻した春雨を加えて、2番だしで炒め煮込みした煲仔料理。くたっとした茄子を噛み締めると、だしの旨味、だけでなく、青茄子のフルーティな風味、酸味、甘味が、じんわりにじみ出てくる。

  梅子醬の酸味、甘味、上品なこく、豆板醬のピリ辛の風味。加藤さんの「青茄子」の旨さ、その持ち味、風味を生かした呉総料理長の手になる「梅辣茄子粉絲煲」の穏やかで洗練された優しい味、風味に、うっとりとなったのであります