2007/08/27
不時不食、素材がすべての中国料理、その③
加藤さんの「青茄子」を、揚げたはたと煮込んだ「茄子炆紅斑」は、ほろり、はらりと身が崩れる紅はたとは対照的に、青茄子はだしをしっかり吸い込みながら、煮崩れず、しっとりとした舌触りと優しい歯応え。そんな両者の触感の対比が面白い。
さらに「青茄子」は、だしを含みながら、フルーティーな酸味、甘味があって、持ち味、個性をしっかりと主張。
紅はた、青茄子のだしを含んだ甘味、旨味に加えて、隠し味の「陳皮」のほろ苦さと醗酵味がこくを生み出す。そんな重層的構造による、旨さ、風味こそが味わいどころ。しかも、優しくて気品があり、穏やかで軽く洗練された福臨門ならではの味、豊かな風味が特徴です。
調理を担当したのは張漢華料理長。めりはりの利いた明解な味付け、ぎりぎりの塩加減、張りのある味わいは、張さんの個性、そのままを物語る。同時に、料理方法、味付け、風味など、香港島の福臨門ならではの手法、持ち味、スタイルを踏襲したものだったこともわかります。
一方の「梅辣青茄子粉絲煲」。
青茄子、豚ひき肉を炒め合わせ、春雨を加え、梅子醬、豆板醬で調味し、二湯を足して煮含めたもの。だしの旨さを含みながら、「青茄子」そのものの旨さ、しっとりした触感など、青茄子の持ち味、特性が際立った一品です。 何よりも青茄子の旨さ、風味、と同時、力強さ、しなやかを感じます。
みかけは無骨でも、根は頑丈。大地の恵みの味、風味がする加藤さんの野菜の特徴、持ち味をそのままに物語る収穫物のひとつ、ですから。
調理したのは総料理長の呉さん。優しくて、気品があって奥床しく、洗練された味、風味は、呉さんの人柄がそのまま滲み出たもの。
さて、今回、呉さんに加藤さんの野菜の調理をお願いしたものの、「加茂茄子」だけは収穫の端境期だったことから、呉さんは味わえず。
そんなこともあって、呉さんの調理した「加茂茄子」の料理が味わえなかったのは残念。その代わりに
と、徐さんが加藤さんの「加茂茄子」の緻密な肉質、スムーズな歯触り、舌触りから思いついたという「金銀蒜蒸茄子」を、「真黒茄子」で。
茄子を柔らかくなるまで蒸し、揚げたニンニクのスライス、みじん切りを載せ、醬油、熱した油をかけて仕上た一品。小口切りの葱がのっけられてます。
冷の性質を持った茄子に熱の性質をもった生姜を組み合わせる、というのは、和食にもあるごく自然で、あたり前の組み合わせ。冷と熱のバランスを考慮したもの。その生姜をニンニクに置き換え、醬油味のだし、熱した油を一気にかけまわす。その最後の仕上げの際の「ジャ~!」って音が、思い浮かぶような一品です。
酒のつまみ、惣菜としても格好です。ご飯の上にのっけて、かっこみたくなる。
熱いだしを注いで、上湯茶漬け仕立てというのも、ありかもですね。
ですが、正直に感想を述べれば、「加茂茄子」の肉質の緻密さ、甘さ、風味があってこその一品らしく、「真黒茄子」では、醬油ベースのだし、かける油の加減、按配が難しい、というのが現実。
そう、少しばかり、醬油と油の分量が茄子に対して多すぎ、私には、味が濃かった。
けど、若い人なら、また、この濃い味こそが、受けるかも。 なんせ、私は塩分控えめ、薄味好みの少数派(オヤヂ)、ですから!
それより、驚いたのが「青瓜炒滑牛肉」の、四葉胡瓜の旨さ、呉さんの調理の技。
四葉胡瓜は、もともとは華北産のものだとか。前出、加藤さんの夏野菜の項目で、それが見られますが、その色は深緑。白い棘が噴き出していて、かなり胴長。
日頃親しんだ浅緑で表面がつるんとした胡瓜とは、見かけがまるで異なる。 水気が少なく、果肉は頑丈で、バリ、ボリっといったしっかりした噛み応え。ほろ苦さ、甘さがあって、何よりも瑞々しさがほとばしる。
かなりの長期保存も可能で、その瑞々しさを保ち続ける根性の座った胡瓜です。
その見かけは、香港の市場で見かける2種ある糸瓜(へちま)のうち、深緑色で、線状の突起のある細長い勝瓜/絲瓜に似ています。が、勝瓜/絲瓜に比べると、ほろ苦さと甘味、爽やかさ、それに旨味がある。味、風味が異なります。
もっとも、四葉胡瓜、もしかして、広東地方の郷土料理、それもお惣菜としてふんだんに使われる勝瓜/絲瓜の各種の料理に置き換えられるのでは?
というのは、加藤さんの四葉胡瓜を入手した何年も前から狙っていたこと。そういえば、酢豚に胡瓜ってありますよね!あれも試しましたが、それもなかなかのもんで、油との相性もぴたりです。
ともあれ、徐さんが教えてくれたメニューに、勝瓜/絲瓜を四葉胡瓜に置き換えた「洋蔥青瓜木耳炒圍蝦」というのがあって、私の着眼は間違いなし、思わずほくそ笑んだものです。
ところが、加藤さんの「四葉胡瓜」を手にし、味見した呉さんが用意してくれたのは「青瓜炒滑牛肉」。米沢牛のフィレ肉との炒めものです。
「四葉胡瓜」を5~6ミリ程にスライス。それを油泡、油通ししたものですが、油で火を入れてあるにもかかわらず、「四葉胡瓜」のフレッシュな味、風味。バリ、ボリ、ではなく、パリ、サクの噛み応え。
で、噛み締めると「四葉胡瓜」のほろ苦さ、甘味、旨味、風味、清涼感が、見事に浮かびあがる!
素材の持ち味、風味を生かした、抜群の調理、その見事な技に、ぐうの音もでず。
新鮮な「四葉胡瓜」のバリ、ボリの歯応えのある瑞々しい旨さもさることながら、素材に火を一瞬、通しただけで、その新鮮さはもとより、「四葉胡瓜」の持ち味、旨味、風味を見事に凝縮した「四葉胡瓜」の旨さ、風味。そして、呉さんの技の凄さに、参りました!