「蝦膏」と知って、まず思い浮かべたのは瓶詰めになった「蝦醬」ではなく、「蝦醬」を固形状に固めたもの。瓶詰めのしっとり系の「蝦醬」よりも、味も風味も濃厚。それだけ、より「くせ」を感じます。
ところが、大藤さんのメールにあった「シュリンプ・イン・オイル」という注釈に「はて、一体何だろう?」。
ネットで検索したところ、もっぱらタイ料理で使われるオイル漬けの「蝦醬」だと判明。
実はタイ料理でも「蝦醬」は不可欠な調味料のひとつ。その種類も豊富で、いろんなタイプのものがある。そのひとつ「蝦醬」のオイル漬け、ということで成る程と納得。
それにしても、タイの調味料理を起用、なんてところが興味深い。
そういえば、今回の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」で、もうひとつさりげなく効果を発揮していたのが生姜です。香り、風味づけに使われていたものですが、その生姜、きっちり、5~6ミリ角ほどの大きさに切り揃えてありました。
その細やかな技、素材の切り揃え、下拵え、つまりは「板」の仕事をおろそかにしない袁さんの料理に対する心構えが汲み取れました。
ちなみに「板」の担当、大藤さんの話によれば、日本人の料理人だそうです。今度名前を聞いとかなきゃ。この板の人、袁さんの要求に応えて、いつも緻密で細やかな仕事ぶり。にいつも関心させられます。その仕事ぶりから、この人、絶対に腕っ利きの良い料理人になること間違いなし、と私は確信します。
そうです。
「板」をおろそかにしては「鍋」も腕の奮いようがありませんから。
これまで何度もふれてきたように、中国料理で「鍋」担当の料理人が腕を奮うには、細やかな包丁仕事、下拵えに専念する「板」の存在、役割が不可欠です。
一般に、素材の切り揃えなど、下拵えは新入りの仕事、なんて思われがちですが、実際には経験に培われた技量を要するプロフェッショナルな存在。そこんとこ、実は見逃されることが多い。
ホテルや大きな店では、人材も豊富。「鍋」、「板」の役割分担が明確に分かれています。それにオーナー&シェフの店として先鞭をつけた「吉華」の久田大吉さん、「文琳」の河田吉巧さん、「竹爐山房」の山本豊さんなどは、目配りが行き届いてました。
ところが、近頃話題のオーナー・シェフの店では、「鍋」を振るオーナー・シェフを確実にサポートする「板」の存在を、滅多に見かけない。あの店もこの店も、「板」を充実させれば、「鍋」の力量、もっと発揮できるんじゃないの? なんて思うことがしばしばです。
中国料理の料理人を目指す若い人たちも「板」の仕事は、あてがわれた修行仕事だと思いがち。それよりも、先急いで見映えの派手な「鍋」ばかりに気をとられ、「鍋」を振りたくてたまんなくて、「板」の仕事はうとんじれられがち、なんて話しも耳にします。 そうしたことが解決されれば、日本の中国料理の未来も明るい!なんて、決してオーバーな話、なんかじゃないんですが。
ともあれ、「赤坂璃宮」銀座店の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。ほのぼのとしていて心が和みます。 ご飯と一緒に食べたくなるお惣菜。広東地方の郷土料理ならではの一品です。
本来はお袋の味的な素朴さが魅力の一品。それを料理として上品で洗練された味、風味に仕上げたもの。そこんとこも、見逃せません。
この「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、「赤坂璃宮」銀座店の、知る人ぞ知るメニューのひとつになること、間違いありません。

頬ばるとマテ貝は「こり」、「ぱり」っとした触感。クセがないものの、やはり、貝の味、磯の香り、甘味、マテ貝の純な味がします。それに「豆豉」や微塵の香味野菜、唐辛子が一体となって織り成す味は、ぴり辛で、爽快。

先月は「しゃこ」と揚げた「琵琶豆腐」という組み合わせでしたが、今月は、「穴子」に、春らしく「筍」の揚げ物が添えてある。それも、香味野菜の微塵を揚げたチップスをまぶした「避風塘」スタイル。
そういえば、一緒に出た筍の揚げ物。これは「ぽりはり」の弾力のある歯ざわりが快感。ってことでは「穴子」、それに、先月「しゃこ」と一緒だった「琵琶豆腐」の揚げ物の触感とは対照的。もちろん、味、風味もです。
「焼鴨(家鴨の焼き物)」、「焼肉(皮付き豚バラ肉の焼き物)」、「叉焼」の焼き物三種は絶好調。いつもなら4品並ぶはずが3品。その左横に初めての「腐皮巻」。人参、アスパラガスの湯葉巻きです。さらに、その上には春らしい3品。
ホロホロの感じの煮込んだ肉が旨い。もっとも、だしがちょいと弱い。けど、ぎりぎりのところで踏ん張ってるのと、味付け、調味の加減が実に慎重。もっと、大胆にメリハリつけていいんだよ、千脇君。なんてこれまた余計なお節介ですけど、その姿勢が頼もしい。嬉しくなっちゃいます。なんせ、ガキの頃から知ってますから、応援したくなるのも当然でしょう。
そしてご飯は「彩雲瑞」の名物のひとつともいえる中華風の「菜飯」。
う~ん「菜飯」のお代わりもいいけど、もうひと品食べたい。
我家で作る最もシンプルな和え面は、葱と生姜の「姜葱撈面」。香港の粥麵店のように茹でた面に葱と生姜の細切りをのっけて、胡麻油を少々かけて和え、さらにオイスター・ソースで味をつけて、混ぜ合わせて食べるだけ、なんて代物です。
千脇君、頑張ってます。おかみさんも頑張ってます!
つるん、とろんの舌を撫でるきめ細かで滑らかな触感、優しくて穏やかな味わいがいいです。
これは可もなく不可もなくの一品。「蟹の爪」の贅沢感が嬉しいですが、下味の付けから、衣つけ、揚げ方がいまひとつで、素材を生かしきれてないのが課題。それに具材のすべてを炒め合わせた時の「鑊気」、鍋の気力がいまひとつで、香りに乏しい、なんていうのが課題かも。なんてまた、オヤジの余計なお節介ですね。
冬場らしい一品で、広東地方の正月料理に出てきそう。

味が染み込んだ表面は「ざら」っとしていて「じゅわ」と味が滲み出る。噛み締めると弾力のある歯応え。「ハチノス」ならではのもんです。で、濃くてメリハリの利いた味付け、それも爽快な辛味が「後引き」で、すぐさま箸がのびます。

炊き込みご飯をたっぷり味わったあとは、鍋にこびりついた焦げに「だし」を加え、焦げが柔らかくなる感じに炊いた「お焦げの雑炊風仕立て」というのがあります。タレで味をつけたもので、これがなかなかに旨い。焦げとタレの味、風味があいまって、舌だけでなく喉元から鼻筋を刺激。

「蕾菜」って、結構いけますね。みかけ、それに、最初口にした時には「芽きゃべつ」みたいなのに、口にすれば、味、風味、香りが違う。初対面だった「蕾菜」は実にグッド。 いや、正直にいえば、辛味、ほろ苦さはあっても、青臭さ以外、香り、というか風味が今ひとつ。言ってみれば、温室育ちで、やわな感じ。強い主張がなくって、よく言えば奥床しくて上品。
「鮮文蛤水蛋」。蒸した卵のとろんととろける滑らかな舌触り。そして「蛤」に火を通せば滲み出るだしの旨味、馥郁とした香リ、風味がじんわりと浮かび上がる。「蛤」から出るだしの味を巧みに生かした料理です。しかも、塩加減、その塩梅が絶妙。
その味付けは、だし(「上湯」)が利いたもので、干し貝柱の「瑶柱」を戻した際に出るだし、あの旨味、甘味、こくも加味されたもの。それに「蠔油」、つまりはオイスターソースらしき味、風味、甘味、こくなども。もっとも、これみよがしじゃなく、手前の加減でほのかな感じ、なのがいかにも袁さんの「腕」と「技」らしいところです。軽く、すっきり、穏やかで、上品で洗練された味、風味。それに、適度なとろみがついている。そのとろみの付け方の加減、按配がまた見事。
それより、キスやメゴチなどの手に入りやすい素材でお願いしたのに?
支配人の大藤さんに聞いた話では「赤坂璃宮」銀座店の焼き物担当は赤坂の本店で腕を振るう梁さんに学んだ金山さん、だそうで、素材の持ち味を見極めた焼き方の工夫に努力あり、なんてことから皮はパリパリ、あるいはさくさく。そして、中の身ははしっとり。噛み締めた後に「ン!?」と思う味わい、風味があります。
はたせるかな、袁さん、その問題点を見事にクリアー!