2007/11/28

中国料理におけるメニューの選択、コースの組み立て(その5)


 中国料理のメニューの選択、コースの組み立ては難しい。ですが、とっくに日頃、意外なところでそれを実践していたりするものです。
 昼時の中国料理店のランチがそれ。小ぢんまりした店なら、一人用の定食ランチ・セットがある。それに、本格的な中国料理店などでも、1品か2品で、スープ、ご飯付き。ご飯のお代わり自由っていうのもある。

 話がちょっとずれますが、そのランチの定食コースでおもしろく、興味深い話がある。 我が兄弟(広東語ではへんたい、といいますが)の周中師傳が、日本のホテルの中国料理店に招聘され、フェアーをやったときの話です。夜には周中のスペシャリティを何品も織り込んだいくつかのコース料理を用意。で、昼にもランチ・コースを作成。

 同時に、1人用のセット・メニューのプランの要請もあった。なにしろ、香港で他の誰よりも早く、ホテルの料理店で、1人用のコースを提供してきた人物です。周中スペシャリティを織り込んだ一人用のランチ・セットを考えた。
 ところがです。そこで、日本側から注文があった。料理はおまかせします。しかし、生野菜を使ったサラダを必ず付け加えて下さい、というのものです。「野菜?肉や家禽に組み合わせれば、いいんじゃないの?だめ?単品で? それなら、青菜の炒め物か、煮浸しで!」というのが周中の考え、提案でした。が、それは日本側から見事に却下。サラダはランチ・セットでは必須のメニュー。それも、生野菜のサラダじゃないと、ダメ!というのが日本側の言い分。結局。周中は匙を投げ、生野菜のサラダは日本側にまかせた。

 という話は、周中に呼び出されてそのフェアーの昼食に行った際 「生野菜のサラダ付き? すご~く、変。なんで?他の料理と全然あってないし、セットにあるのが変!」と率直に私が質問したところ、周中が苦虫を噛み潰したような表情で、明かしてくれたことでした。さらに、付け加えて「生野菜のサラダがないと、女性に受けないし、ランチが出ないんだって!」、と。 生野菜のサラダよりも青菜の炒め物、煮浸しの方が、たっぷり野菜もとれて、栄養分があるのに。なんてことは、ランチを求める人には、無関係な話なのですね。

 話、戻して、日本の中国料理店での昼のセット・メニュー。料理を1品か2品選べて、スープ、ご飯付き。それに、箸休めの漬物も、ですか。
 その1品か2品、頭数が揃ってれば、目の前に色んな料理を並べて、ミニ・コース的な展開も可能。そそ、ポイントはそこにあります。

 昼食ってことで、中心は、案外ご飯だったりする。エネルギーの確保です。で、選ぶ料理は、ご飯のおかずにうってつけなもの、ってことじゃないですか? とはいっても、一応は名の通った中国料理店でのランチなら、家で食べる時のおかず、お惣菜とは違った、よそ行き気分織り込まれ、その期待もあるはず。

 ところがです。私もその種のランチ・メニューを試したことがありますが、昼と夜では同じメニューでも、味付け、風味が違う、異なるってことが少なくない。昼でも夜でも、おなじ味付け、風味がある料理を食べられる店、というのは高級料理店しかない。それも、ランチに用意されたものではなく、アラカルト・メニューから選んだ物に限られる、というのが、ほとんど。というのは紛れもない事実のようです。

 それは店が手を抜いている、ということでも、客の足元を見ているわけでもない。むろん、営業方針、政策によるものなのは明らかですが、多くの場合、ランチ・タイムに用意される料理のは、より幅広い万人の「口」にあわせる、ということに由来するようです。という話は、これまでそうした店に取材した際、料理店から聞いた話です。

 ネットの食ガイドの一般投稿、批評に多いのが、というよりもほとんど占めるのは、ランチ・メニューの体験、その評価に基づく物。評判の店、噂の店にランチに行ってみたものの、がっかりってやつです。そんな人は、おそらくは先のような事情をご存知ないのでしょう。昼、それも、アラカルトは別ですが、昼食向けの料理、コースで、その店の評価は下せない。

 またもや話が脱線。
 そう、昼のランチ・セット、コースで、お惣菜感覚で何品か、という方法、スタイルこそは、夜の食事でのメニューの選択、コースの組み立ての基本、あるいは、その入り口になるものです。

 とはいうものの、昼じゃなくて、夜。それも、しっかりした食事を楽しみたい、ってことなら、ランチのセットに登場するような惣菜的なメニューはパス。もしそうなら、たとえば「麻婆豆腐」は、牛肉仕立てで花椒の痺れ味が利いたやつ。それにエビチリの「干焼明蝦」も、ケチャップじゃなくて、蝦のみそ、それに葱の甘味、風味を生かした本場風じゃないと、ってことになるんじゃないでしょうか? それが、正解。

 ところがですね、宴会でもなく、気の置けない仲間同士での食事でも、しっかり味わいたい、楽しみたいって時には、ランチにはなくってちょい豪華な料理を、ってことになるはず。

 たとえば「ふかひれ?う~ん、いや、それはパス。けど、なまこの料理ぐらいは食べたいな。それよりも、北京ダックかな?でもま、とりあえずは「前菜」!」ってことになる。

 ほら、ほら、いつもの習慣が頭をもたげます。
 で、北京ダック以外の料理ってことになると、メニューをあれこれ見ても、美味しそう、食べたい。けど、どうしようかな?と優柔不断。

 同席の人たちのリクエストに応じながら、メニューを決定。で、すべてを食べ終えても、満足したような、してないような。

 そこで、締めくくりは、やっぱり炒飯ですか? 
 それとも、麵とデザートは別腹ってことで、麵。

 とまあ、それもまた、いつもの習慣が再び頭をもたげてくる。

 そうです、前菜と、締めくくりの炒飯、もしくは、麵。そいつが鍵を握る。中国料理のメニュー選び、コースを組み立てるときには、宴会でもない限り、前菜と、締めくくりの炒飯、麵の料理のことは、いっそのこと忘れちゃう、捨てちゃったら? というのが私の提案です。

画像は豚と牛の脛肉の前菜。ま、こんな前菜なら、グッド。
まさにアミューズって感じで、量も少なく、食欲をそそり、メインの料理への期待が膨らみます