2007/11/21

秋の味(その8)

 ようやく、ややこしい仕事がひと段落。画像を掲載し、料理を紹介ということでお茶を濁してきましたが、手抜きはやめろ!との非難、ご批判メールを頂戴し、本格復活です。
 コメントへの書き込み、メールを頂戴し、有難く思っております。ですが、コメント、ハンドルネームだけでなくメールアドもご一緒にお願いできれば、有難く存じます。
 戴いたメールで最も反応があったのが、11月2日に画像を紹介した「鮑汁乳鴿醸生翅」、鳩のふかひれ詰めの鮑汁の煮込み。 「仙鶴神針」という料理名で、一時、香港で流行していたことがある。香港で出会った、という方もいらっしゃるでしょう。それが、日本デビュー(のはずなのですが)を果たすに至ったのには、裏話もある。

 そもそもは、この8月、「夏の広東地方の郷土料理パート②」を紹介するきっかけになったクリエイティヴ・プランナーでディレクター、デザイナーでもある青木保夫さんからその続編の「秋の広東地方の郷土料理」のリクエストがあった。
 「夏の広東地方の郷土料理」のテーマになった素材に「冬瓜」に「苦瓜」の2種の「瓜」と「青茄子」。そんなことから思いついたのは、秋ならではの素材の「栗」と「芋頭」。

 「芋頭」は基本的には里芋のことですが、タロ芋の「荔芋甫」を含めて語ることがある。それも香港では中秋の名月の夜に、月餅とともに「芋頭」を食べるのは昔からの慣わしだ。私も子供の頃、お月見の日は、月見団子と里芋、それも衣かつぎを食べた思い出がある。
 「栗」の料理なら「栗子炆鶏(鶏と栗の煮込み)」か「栗子排骨(栗とスペアリブの煮込み)」ってことになる。「芋頭」の料理もいろいろある。そういえば「蓮藕(れんこん)」が旬の時期だ。しかし、その3種、野菜でも根菜類で、澱粉質がたっぷりだ。なら、青菜を何か入れるのがいいのだが、あれば豆苗だろうか。
 季節の旬の素材を使った広東地方の郷土料理、家庭料理、いわゆる「小菜」を思い浮かべながら、コースを組み立てるのに何か「大菜」的なものはないだろうかと思案した。
「夏の広東地方の郷土料理」の時には鳩料理の「脆皮焼乳鴿(鳩の丸揚げ)」と魚料理の「茄子炆紅斑(青茄子と揚げた紅はたの煮込み)」があった。
 もっとも「大菜」となるとやはり鮑翅燕参肚(干し鮑、ふかひれ、燕の巣、干しなまこ、魚の浮き袋)といった干貨海鮮素材を使った料理ということになる。
 かつては「瑶柱(干し貝柱)」もその仲間に加えられたが、最近ではいささか見劣りもする。が、春節になると、その時期ならではの伝統の一品の重要な素材になる。
 それに、家禽類をどうするか。
 「栗」の料理は「栗子炆鶏」にすると「鶏」の重複はまずいから、鶏料理はその一品だけ。残るは「鳩」か「家鴨」。「家鴨」の「小菜」も色々ある。しかも、一羽丸ごとを使った料理であれば「大菜」とはいわないまでも、コースのハイライトにもなる。
  しかし、今回の会食のメンバーは4人。
 ということでは「家鴨」一羽の料理は、量が多すぎる。人数から言えば「鳩」の料理。
 前回の「脆皮乳鴿」以外に、鳩の料理は各種あるから、それにしようか。
 「いや、まてよ!」と思い立ったが、かつて潮州料理の店で何度か食べた「鴿呑燉翅」に「鴿呑燉燕」。鳩にふかひれ、もしくは燕の巣を詰め、「燉」、つまりは湯煎蒸しにした料理である。贅沢な料理。が、香港の潮州料理店で食べたそれらは、田舎っぽい素朴さをむき出しにしたものだった。おまけにだしの「上湯」が貧弱な上に、化学調味料がふんだんに使われていたのである。

 「そうだ、福臨門なら出来る!ふかひれを詰めた鳩のスープ仕立てが!」と、「上湯」のだしの旨さ、風味豊かな香りを思い浮かべながら、そのアイデアを福臨門のスタッフに持ちかけた。
 その話が、香港の徐社長にまで伝わった。ところが、社長曰く、日本で入手できる鳩の質、持ち味からすれば、スープ仕立てはあわないだろう、と。
 社長の提案は、日本で入手できる鳩のしっかりした肉質、野生味のある濃厚な味、風味からすれば、「鮑汁」(、干し鮑の戻し汁である)を使って、ふかひれを詰めた鳩を煮込むのがいいのでは、とのことだった。
 その話に、乗りました。日本の福臨門ではやったことのない料理である。
 その出来栄えは素晴らしかった。実に見事な一品でした。
 旨味、コクのある濃厚な「鮑汁」が、野生味があり、しっかりした鳩の肉に染み込み、しかも、鳩肉の旨味、風味、ことに野生味を引き立てる。
 さらに、ふかひれ(生翅(海虎翅、いたちざめの胸びれ)も、よりブラウンがかった濃いあめ色で、鮑汁の旨味、風味をたっぷり吸い込んでいる。澄まししたての「清湯」、醤油煮込みの「紅焼」などよりも、一層、旨味、コクがある。

 リッチでゴージャスな一品です。中国料理、広東料理の干貨海鮮料理の奥深さ思わずにはいられない。旨味、コクがあり、それでいて、洗練されていて、上品な味わい、豊かな風味がある。
 フランス料理の鳩の煮込み料理、といっても、おかしくはないほど。と言うよりも、中国料理、フランス料理といったジャンル、カテゴリーをはるかに超越した極上の料理、至福の美味。
「鳩一羽、4人で分けただけの量じゃ、(物)足りない!もっと食べたい! 鳩一羽、二人で分けるのが、ちょうどいいぐらいだ!」、と青木さん。
「一期一会」を気取るわけではないですが、美味しい料理に出会っても、滅多にもう一度食べたい、という気分にはならないこの私も、「もう一皿、食べ直したい、もっともっと、永遠に食べ続けていたい」と、心底思いましたから。
 
 で、画像は再び「仙鶴神針」です!