「夏の広東地方の郷土料理パート②」で紹介した青木さんからのリクエストをきっかけに実現することになった続編の「秋の広東地方の郷土料理」。
メインの料理は鳩にふかひれを詰め、鮑汁で煮込んだ「仙鶴神針」に決定。それに、本来のテーマである秋の素材の「栗」、「芋頭」を素材にした料理を考え、料理を考え、コースのプランを設定。 とはいうものの、そこで厄介な問題が持ち上がった。
実は「栗」にしろ「芋頭」にしろ、脂肪分はなし。その持ち味、素材を生かすには、油脂を使うか、肉や家禽類と一緒に調理して、その旨味、風味を煮含めて味わう。というのが広東人、多くの中国人が考えるところなのだそうで。
石川芋を蒸して、塩をまぶして食べる衣かつぎ、というのは日本人ならではの趣向なのですね。それに、昆布、鰹節のだしで里芋を煮込んだりしますが、それでは、中国の人にはなんだかひと味物足りないってことになるらしい。それを「寡」って言います。
そういえば、芋の煮っころがし。東京にやってきて、初めて芋の煮っころがしを食べた時、愕然としました。カルチャーショックを味わったものでした。
芋、って里芋ですが、それまでは蒸すか、だしで煮炊きしたものしか食べたことがなかったからです。煮た芋を、砂糖と醤油で甘辛く煎りつけ、絡めたもので、芋は芋の素朴な味だけ。それを甘辛まぶしにしただけのような物にしか、思えませんでしたから。
言わば、里芋の照り焼きという趣。野趣ではあるけれど、芋の滋味は感じられない。実は、今に至っても、苦手な食べ物のひとつです。やっぱ、芋は、昆布、かつお節のだしで煮含めたものじゃないと、、、関西人だからでしょう。
そんな私の頑な思考と似たものが、広東人、中国人にはあるらしい。
栗や芋の類を「瘦物」だと、香港、中国の人は言います。栗や芋だけでなく、茄子や青菜、茸の類について、そう呼ばれることが多い。中でも澱粉質を含んだ栗、芋、蓮根などの根菜類は、肉類、家禽類の肉と調理して、その味を煮含めて、素材の持ち味、風味を引き立てる、というのが、基本的、ごく当たり前の考え、思考だってところが面白いで。
なんてこと、日本で中国料理を紹介した料理本、書籍で語られているのを見かけたことはありません。
ともあれ、栗にしろ、芋にしろ、鶏、家鴨、豚の「五花腩(三枚肉)」や「排骨(スペアリブ)」と組み合わせた料理がほとんどです。「芋頭」や「荔芋甫」の場合には、蒸すなり、茹でるなどして、擂り潰し、鶏や家鴨に貼り付けたり、臘腸(腸詰)と料理したりなど、肉、家禽類との関係は密接です。
それからすると、青木さんのリクエストの「秋の広東地方の郷土料理」。、栗の料理といえば、やはり「栗子炆鶏」、栗と鶏肉の煮込みだ。「排骨」と煮込んだ「栗子炆排骨」というチョイスもあり。
となると、芋の「芋頭」をどうするか。
この季節、冬場を迎えて香港の街中にあふれるのが、家鴨を塩漬けにして干した「油鴨」。その「油鴨」とタロ芋の「荔芋」と煮込み「椰汁(ココナッツ・ミルク」で味付けした「荔芋椰汁油鴨煲」は、思わず涎がこぼれるほどの一品。
ところが、メイン・ディシュが鳩。栗を素材にした「栗子炆鶏」は鶏。そこで、芋を素材にした料理を「荔芋椰汁油鴨煲」にするとなると、コースで家禽類の料理が3種類も登場ってことになる。
しかも「荔芋椰汁油鴨煲」は、「油鴨」自体が塩漬けで、旨さ、風味は格別なものながら、味はしっかり濃くて、(塩味が)重い。
メニューの選択、コースの設定が思案のしどころ。食べたい料理ばかりを並べてコースを組み立てる、好き勝手に楽しめればいいんじゃないの? なんて声もきこえてきそうですが、実は、そこにこそ落とし穴がある。
中国料理を心地よく楽しむのには、やはり、無理なく、無駄なく、慎重にメニューを選び、コースを組み立てる。
ということで、次回からは、中国料理のメニュー選び、コースの作り方ってのをやってみようかな、と思っております。