2007/11/27

中国料理におけるメニューの選択、コースの組み立て(その4)

 たとえば、私が出会った香港人(主に広東系、潮州系、上海系、客家系、福建系の中国人ですが)と一緒に食事をってことになった時、それも、宴会料理なんかじゃなくて、普段の食事のまんまのスタイルでなんて時、それぞれメニューの選択、その方法が違ったのが面白かった。
 人数は4人から6人ぐらい。コースを組むというほどの皿数、品数が並ぶわけでもない。中でも念入りなのは、食べることにうるさい広東人。私は彼らから多くのことを学びました。

 メニュー選びの面倒を避けるのなら、店が用意した少人数用のコースをとるのが一番。のはずですが、食べることにうるさい人、いや、そうでなくっても、店が用意したコースには目もくれない。一瞥をくれるどころか、さっさとテーブルの脇に寄せてしまいます。メニューを手にするとしても、季節、旬の素材の料理を並べた「小菜」のものぐらい。それもざっと目を通すだけ。いや、メニューには目もくれず、いきなり、店の人に注文、ってのがほとんどでした。とはいえ、そんな人たちのメニューの決め方、コースの組み方っていうのは、ほぼ同じ。

 まず最初の選択は「湯」、スープです。「有冇例湯?」(例湯は、有や無しや?有なら、何?)と尋ねる。
「例湯」というのは、いわば日替わりのスープ。淡水の魚、豚肉や内臓類、家禽類、その内臓類を、青菜か根菜などと煮込んだもの。そこに、「准山」と呼ばれる干した山芋や、干した広東白菜が使われることもある。

「杏仁(中国アーモンド)」、北方か南方の「棗」などの漢方素材なども加えられていることもある。季節に応じて、滋養にとみ、体にもいい「湯」が用意されている。といって、よほど食べることにうるさい人じゃない限り、店の人の説明を受けても「?」だったりしますが、それでも、ほぼ無条件に「例湯」を選ぶ。

 ふかひれのスープは選らばないにしても、「韮黄瑶柱羹」や「西湖牛肉羹」なんて、しっかりした「湯」がある。が、それも宴会のコース用のもの。第一、葛引きがかかってるし、というのが彼らの言い分。
 なるほど「例湯」のほとんどは、鍋に素材を入れて長時間ぐつぐつと煮込んだだけのもの。スープが濁っていたりすることもありますが「打獻」、つまりはとろみ付けなんかしないままの「素」の味わいのもの。澄まし仕立てではありませんが、とろみつきじゃないスープもの、ってことです。

 それに「例湯」には、具を掬い取って別皿にそれを並べるというものもある。つまり、素材のエキスをたっぷり含んだ「湯」と、その素材、具を別皿にわける。で、まずは「湯」を味わい、その一方で、別皿に取り分けた素材の具は、老抽(たまり醤油)などをつけながら食べる。といったように「例湯」をとれば、そこで2品、ってことにもなるわけです。

 「湯」を決めた後は、選択が分かれるところです。
 女性の場合に多いのは「有冇菜?(野菜は有や無しや、有るなら、何?)」というわけで、野菜の有無と種類を尋ねる。
 その場合「菜」ってのは、青菜系のそれ、ってことが多いようです。

 え!?、食べることにうるさいのなら、旬の野菜は把握してるはずなのに、どんな野菜があるか尋ねるのは変だって? でも、それが店においてあるかどうかは、わかりませんから。

 ともあれ、どんな野菜、ことに青菜の類があるかを尋ねる。素材によって、それを単品の料理にして頼むか、その場合、どんな調理方法にするか、また、どんな味付け、他の香味野菜や調味料と組み合わせるかを考える。
 それとも、素材によっては、他の素材との組み合わせにするか考える。そこで、他の素材を使った料理を思い浮かべる。野菜と組みあわせるか、それとも、他の素材は別の料理にするか、といった按配で。

 そこで、女性の場合、やはり、選択は海鮮の魚介類、となるようです。それも、海鮮の魚介というのは、ほとんどが時価。無難なところで、蝦や貝柱を素材にした料理ってとこでしょうか。
 さらにもう一品となると、肉ではなくて、やはり、家禽類を選びます。
 しかし、家鴨の料理は選ばない。やはり、鶏か鳩。潮州料理の店なら、鵞鳥のタレ汁煮込みを頼むかもしれない。

 私の出会った香港人、それも広東系の女性の場合、昼の弁当でたまにローストした「焼鴨飯」を食べることはあっても、普段の食事で「家鴨」を選ぶなんてことはない、とほとんどキッパリ意見でした。
 ま、それには理由もあるのですが、それは後日。

 「湯」、それに「野菜料理」を思案し、蝦や貝類の料理。肉なら家禽。それとも、魚介か家禽に旬の野菜を組み合わせ、炒め煮込みにした「煲仔」。そこに春雨の「粉絲」を加えた「粉絲煲」を選ぶ、なんてのが多い。

 そこで、食事に男性が同席、となると香港では余程の例外でもない限り勘定は男性持ちですから、そこで海鮮の魚料理を注文ってことになる。高価な「石斑」とはいかないにしても、海鮮の魚の種類は案外豊富ですから、そこそこの魚を「清蒸」で、つまりは蒸し魚、って展開も有り得る。

 以上のようなメニューの選択、コースの組み立ても、男性の場合には事情も違ってくる。
 「湯」を決めたあと、海鮮の魚介あり、肉、家禽の料理あり、いろいろ選んだ最後に「野菜、食べなきゃ!」ということになって、シンプルな炒めものを注文。というのが、これまで私が出会った人々の典型的なメニューの選択、コースの組み立てでした。

 女性主体、男性主体では、メニューの選択も変わります。ですが、共通しているのは、素材、調理、味付けが、重なることがない。料理をあれこれ検討しながら、そうしたことへの目配りを怠らない。ある料理を思い浮かべて、次に別の料理を思い浮かべた時、素材、調理、味付けが重なっているかどうか瞬時に把握。おそらく、体験、経験で蓄積されたものだと思いますが、その辺の瞬時の判断、決定の手際のよさは、見事というよりほかない。そんなメニューの選択を目の当たりにし、学んできました。

 けど、連中の店の人への注文は、実にいい加減。キチンと料理名なんか覚えてやしない。
「ほら、蝦、醤油で炒めたやつ。え?煎り焼き? あ、それそれ!
 それから小魚、蒸したやつ、ほら、漬物と一緒に。塩味炒めのやつじゃないよ。
 で、鶏肉。ほら、蝦醤で炒めたのあったでしょ。
 それに、豆腐の煮込み。えと、蝦子のやつ」
 なんて具合です