2008/05/01

春の広東地方の郷土料理の1

これは見事。実に見事な「千層峰」でした。
豚耳のよせ物の冷製です。
 これまでいろんなところで豚耳のよせ物の冷製を食べてきましたが、こんな素晴らしいのには出会ったことがない。

 つるんと滑らかな舌ざわりのよさ。噛み締めると、ぷるんとしていてぷちっとはじける弾力、噛み応え。そして、じゅわーと旨味が広がっていく。
 洗練された気品と深みのある味わい。
 それだけでなく、口中に広がり、のど奥から鼻にぬけていく香り、風味の豊かさ、その芳醇にうっとり!

 画像でその触感、味、風味、、、、いや、そそられるはずです!
 
 こうして「春の広東地方の郷土料理」は幕を開けたのでありました。

 「エージ様 お元気ですか?
 いつのまにか、桜も咲き始めましたね。
 さて、春の宴ですが、青木さんから○○日が良いと連絡を貰いましたが、エージさんのご都合は如何でしょうか?
 献立の段取りもあるかと存じますので、ご返事をお待ちして皆様へご案内をしようと思います。

 BMGのちょいわる親父、藤原君からメールが届いたのは3月の20日過ぎ。
 昨年の夏にはじまり、秋、今年に入ってから冬と3回続いた季節ごとの青木さん、藤原君との宴「広東地方の郷土料理」シリーズ、通称《青木宴》の春の巻。
 幹事役の藤原君から連絡貰って以来、気もそぞろ。早速、メニューのプランを立て始めました。

 香港で「春の宴」といえば、大体が春節、旧正月が開けてからしばらくの時期のもの。
 縁起担ぎの料理名による大菜がずらりと並びます。
 そして、冷たい雨が降ったりする2月を過ぎれば、香港の気温は一気に上がりはじめ、3月には日本の初夏の暑さほどにも。
 もっとも、4月初めの清明節の前後には、再び冷たい雨が降り、しばし気温の低い日々が。
 その時期を越えれば一気に夏。

 そんなことから、4月、香港で旬のものは、野菜なら通菜(空芯菜)、莧菜、芥菜、芥菜の葉を落として太い軸を食べる芥胆ってことになります。花つきの韮の韮菜花なんかもそう。
 それに節瓜、勝瓜、絲瓜、黄瓜、水瓜など、瓜の類も出回り始める。
 そうです、春というより初夏の趣。

 魚介でも、春らしいものが登場。
 囲い育ちの蝦が旨くなります。小ぶりで身が締まっていて、甘味と旨味のあるこの時期の基圍蝦は  「白灼」で食べるのが格別です。
 それに、地場物の小ぶりの蝦蛄などもそう。
 透明な殻を身にまとった小ぶりの蝦蛄は、唐揚げにして塩・胡椒風味で食べるか、それとも「魚露」で漬け込むか。

 とはいっても、以上の内、日本で、東京で、調達可能な素材、野菜に限って言えば通菜と韮花菜ぐらいなもの。莧菜はほとんど手に入らず。
 芥菜はあるにはあるが、日本では軸が細いものが多く、芥胆には不向きです。

 去年の夏以来、銀座、丸の内など日本の福臨門の各支店に瓜や茄子を供給してきたお馴染み東松山の農業、加藤紀行さんに、はっぱをかけ、というより脅し半分「芥菜」を栽培してもらいましたが、種が日本化されたものだったせいか、初めての試みだったこともあってか、辛味、ほろ苦さが旨味よりも立つ感じで、さすがの加藤さんもお手上げ。

 やはり、日本の芥菜、漬物に使うのがほとんどってことも関係あるんでしょう。
 それに、育った芥菜、送ってもらって私も食べましたが、なんでだか香菜、バジル、ルッコラなど、日本の土壌に根ざしたハーブ類などと同様、素材の特徴的な持ち味である香り、味、風味は傑出しているものの、優しく温和な味、風味がいまひとつな感じ。

 それより、福臨門に連絡して、春、4月の素材、それに、料理を尋ねるのが先決。
 そしたら野菜は「韮菜花」、「通菜」、に「白露筝(白アスパラガス)」。
 春の魚介は「白飯魚」、つまりは白魚、それに、はまぐりを用意するとのことでした。

 野菜類は肉類、魚介とあわせて炒め物。
 通菜なら「蝦醬」や「腐乳」など、くせのある調味料と炒め合わせるか、煮浸しにするって方法がある。

 が、それにしても「白飯魚」はどうするんだろ。
 はまぐりなら茶碗蒸し仕立ての「蛤蜊燉蛋」なんか食べてみたいけど、上海料理だし、やってもらえるんだろうか。
 ってことで、再度、問い合わせました。

 そしたら「白飯魚」は揚げて、塩・胡椒風味にした「椒鹽白飯魚」か、卵との煎り焼きの「白飯魚菜粒煎蛋」。
 それに、はまぐりは「蛤蜊燉蛋」が可能。それ以外にはまぐりと春雨のガーリック風味蒸し煮込みの「金銀蒜粉絲蒸蛤蜊」も可能、という返事が返ってきました。

 なんといっても胸がときめいたのは「蛤蜊燉蛋」。
 上海式、じゃなくって、間違いなく広東式になるはず。それも、福臨門式。
 となると、これを逃す手はない。

 とはいえ「白飯魚」は、香港のならともかく、日本だと、味の濃さ、それに、肉質などどうなんだろうか?  とすれば、もしかして産地次第? なんてことを考えて、いささか躊躇。

 どっかにあった「ヘイフンテラス」の紹介ではないですが、日本の四季折々の素材を用いながら、伝統的な広東料理の手法を下敷きにした料理を、というのも「広東地方の郷土料理」シリーズ、通称《青木宴》のテーマのひとつです。

 日本で、東京で調達できる素材を探さないとなあ。

 ともあれ、4月に入ってから福臨門のサイトでランチ、ディナー、今月のお勧め料理をチェックしてから、メニューを検討、ということになりました。

 で、見つけ出したのが「白魚と卵の煎り焼き」。
 ン? そか「白飯魚菜粒煎蛋」ね!
 「ホワイトアスパラとハトの炒め」
 ってことは「白露筝炒鴿片」?
 「季節野菜と発酵豆腐の炒め」、ってのは「腐乳炒時菜」だね。

 さて、どうしようか「広東地方の郷土料理」シリーズの春の巻。

 野菜に関しては、韮菜花か通菜。
 で、魚。
 この時期、平目、それに、星が目板のかれいってことになると、「清蒸」ってことになりますかね。
 もしかして唐揚げで塩・胡椒風味の「椒鹽」や、「油浸」って、方法もある。

 それよりも、きす、こちなどに特徴的なある種の泥臭さ、しゅわっとした身の緻密さは、あの「九肚魚」に通じるところがないでもない。煎り焼きや唐揚げにして、塩・胡椒風味の「椒鹽」にするか、油で揚げる「油浸」なんて方法もある。
 ことによっちゃ漬物の「冬菜」と一緒に蒸し物にするって方法もあるはずだ。

 なんて、想像をめぐらせてはみたものの、福臨門ではその種の魚の扱いはなし。
 って、ところに、思いついた素材があったのでした。