2008/05/26

春の広東地方の郷土料理の10~油泡欖仁肚尖の2

 「ほら、これ!なかなか乙な味だね。この料理のアクセントになってるじゃない!」
 と「欖仁」をつまみあげ、口に放り込んで、斉藤さん。
 「そそ、この「欖仁」、って中国オリーヴの実ですけど、えび炒めとか、案外、色々使われてね。特に順徳地方の料理に多いんです。ミルクの揚げ物のなんかにもまぶしてありますから。
 木の実の香ばしさ、油性分もあって、こくのある甘さ、旨さがありますから。鋭いですね、斉藤さん!」
 と、私。

 「いや~、だって、俺もたまに気の利いたこと言わんと、この宴に参加してる意味も立場もないからね!」、と斉藤さん。
 な、ことないです、斉藤さん。
 料理が出てくる度、鋭い質問、つっこみ「あ、いけね、なんだっけ!」 と、あたふたしたりする私でありました。
 そう、今回、料理内容の説明は八尾さんにまかせてばっかりです。

 とはいえ「肚尖」については思わず熱くなり、熱弁を奮いました。
 香港の福臨門で「肚尖」を知り、その独特の触感、風味に魅せられて以来、日本でなんとか食べたい、そう思い続けた執念が、今回やっと実現。
 その道のりは長かった。

 日本で「ガツ」が流通しているなら「肚尖」だってあるはず。そんなことから「ガツ」を扱う中国料理店の料理人に尋ねても、北方系統の店の料理人だったせいか、日本在住、もしくは日本人の中国料理人だったせいか
 「肚尖? 何ですかそれ?」 
 と、逆に尋ねられるのがほとんどでした。焼肉関係の人に尋ねても、その答えは同じようなもの。

 今回お世話になった川越の「はぎちく」の岸さんにも、機会があれば相談を持ちかけたものの
 「う~ん「肚尖」って言われても、ねえ。心当たりがないなあ。部位の呼称の違いなのかな~」
 なんてやりとりがなんどかあって、一旦、話も頓挫。

 それが今回、豚の内臓の調達を岸さんに依頼することになって、またもや「肚尖」話が再燃。
 改めて福臨門に「肚尖」の詳細、豚の胃のどの部分なのかを再確認。
 そのやりとりは「春の広東地方の郷土料理の4」で紹介して来た通りです。

 福臨門に「肚尖」の部位を確認し、豚の胃が食道、十二指腸つながる連結部分が必要、と判明したものの、いったいどのくらいの長さが必要なのか。そんなやりとりの最中に、岸さんから部位の処理、検査官がやるってことが判明。
 
 つまり、日本では検査官が胃をばっさり。
 ってことは「肚尖」という部位の存在せず、その認識もなく、その一部が胃についたまま、「ガツ」の一部として扱われていたか、それとも、「ガツ」に比べて身が薄いことから、処理されてしまっていたか。

 あ~あ、もったいない!

 ともあれ、岸さんの努力と熱意の甲斐があって、希望する部位をゲット。
 とりあえずそのサンプルを福臨門のキッチンへ。
 はたして希望通りの部位かどうか。それに「肚尖」としての料理が可能かどうかの返事待ち。

 そしたら、八尾さんからOKの返事!
 それがなんと「「梘水(かんすい)」で1時間、流水で3時間」かけて、掃除、下拵え。 そうです、内臓ってのは掃除、下拵えに手間がかかるもの。
 福臨門のキッチンの皆さんご苦労様!手間をかけてすんません。
 ともあれ、サンプルはOKってことで、「青木宴」を目指して、GOいん「ぐ~!」

 さて、その「肚尖」、料理方法はいくつかありますが、基本は「油泡」か「炒」。 今回は「油泡」した「肚尖」に「欖仁」も追加。

 










つるんと滑らかな舌触り。最初はむっちり。なのに、ぱりっとした噛み応えがあって、ぽりぽり噛み締めれば、甘味を含んだ味、独特の風味が滲み出る。
 その触感、むっちり感のある舌触り、ぱりぽりの爽快感のある歯応え、といった触感の妙。
 内臓特有の脂肪分を含んだ味わい、風味が格別です。

 しかも、上品で、洗練された調理、味付け。「焼き肉」、「もつ煮込み」とは、まさに対極の位置にある見事な美味、です。
 内臓の部位をこれだけ上品で洗練させ美味に仕立て上げる技の見事さ。
 やはり、それは福臨門ならでは。

 こくのある旨味たっぷりのオイスターソース、塩気の利いた醗酵味の蝦醬を少しばかり付けて食べればが、味わい、風味が一層増します。
「まさか、日本でこの「肚尖」が食べられるとは!」 、という感激を差し引いての話です。

 実際、「肚尖」に初めて出会った他のメンバー、口にして、「う~ん!」と唸ったまま、しばし絶句状態。
 一呼吸も、二呼吸も置いてから
 「これはいいや、旨いねえ!」
 というため息混じりの感嘆の言葉が、次から次へ。

 こうなれば、今後は、銀座の福臨門の知る人ぞ知るメニューのひとつの仲間入り?
 なんて、ほくそえんだものです。
 ですか、後日、課題もありという話を福臨門のスタッフから教えられました。

 岸さんから届いた内臓の類、そのすべての鮮度、質の高さは申し分なし。
 香港のそれにひけをとらないどころか、「肚尖」の質の良さは、香港でもそう簡単には入手できないほどのもの、だったとか。

 ところがです。問題はそのサイズ。
 香港で入手可能な食道、十二指腸と連結した部分の胃に比べれば、いささか小さい。
 香港だとひとつの部位から6枚取れるところ、岸さん提供のその部位からだと4枚しか取れない。

 おそらく岸さんの扱う豚、ことに良質のそれはバークシャー系、もしくは、バークシャー系の掛け合わせで、豚そのものが小ぶり、なんてことにも関係してるんじゃないでしょうか。

 実は「肚尖」だけでなく、豚まめの「腎臓」も、そのサイズがキッチンのスタッフが予想していたものよりも小さかった。なんてことや、他諸々のこともあって、しばし、検討課題となったそうで。それが残念です。

 なんとか、銀座店だけに限らず、日本の福臨門各店で、食べられるようになればいいんですが。
 この美味を、多くの人と分かち合いたい!