ところで、この日のお酒。 口開けはピペール=エドシックのロゼ。
かなり赤味がかった色合いで、果実のような甘さ。 前菜の「千層峰」の豚耳のねっとり系のゼラチン質、や豚脂の甘味、「炸大腸」の豚脂のこくのある甘味との相性はぴったり。
そんな前菜の登場の前後から、ワイン通の青木、景山、海津の3人が、ワインの順番をどうするか、なんてことで鳩首会談。
今では季節ごとに恒例化と相成った「青木宴」では、中国料理、ことに伝統的な広東料理を継承、踏襲し、上品で洗練された独自の味、風味を特徴にする福臨門の料理の数々にふさわしいワインは何か、というのがのテーマのひとつにもなってきました。
なんて、大げさな話ではなく、料理にふさわしい、料理と相性のいいワインをあれこれ試し、飲みながら、楽しみましょう、っていうのがその基本。
しかも、まずは料理ありてワインあり、とまあ、あくまで料理が主人公というのも基本です。
そんなところで問題となるのが、中国料理のコースの組み立てと流れ。
ひとつひとつの料理にあったワインはあらかた想像がつく。想像を逞しくもできます。
ところが、中国料理のコースの流れ、組み立ては独特。
本格的な宴会料理では、たいていの場合、前菜のあと、いきなりその日の主菜、主に干貨素材による料理が登場。さらには干貨素材によるしっかりした煮込みものなども登場します。それから、炒め物や揚げ物、さには蒸し物といったように、穏やかな優しい味になって、淡白なもので締めくくり、といったコースの変化、流れがほとんどです。
家族や友人、知人とのくだけた仲間でコースを組み立てるにしても、前菜があったりなかったり。「湯(スープ)」から、なんてのも珍しくない。ですが、その日のメイン、楽しみな美味しい御馳走は、「湯」の後や、少なくとも半ばあたりまでに登場、というのが一般的。
それからするとフレンチなどでは、さっぱりとした前菜からはじまり、イタリアンではさらにパスタなんぞをはさみながら、メインディッシュへ。しかも、しっかりした味、時には濃厚な味付けの料理がほとんどで、ワインもその流れに合わせて選んでいくのが一般的、じゃないでしょうか。
もちろん、幕開けはしっかりフォアグラのパテ。なら、やっぱり甘美で濃密なソーテルヌ!なんてこともありうるわけで、私はそういうのも大好きです!
あ、いっちゃんすきかも!
ということからも明らかなように、ま、概しての話ってことになりますが、料理の構成、味わいの変化、その流れ、中国料理とフレンチ、イタリアンとは対照的。
フレンチ、イタリアンは、概して裾広がりの三角形。
それからすると、中国料理は逆三角形、ってことにもなります。
かつて「男の食彩」という料理番組のキャスターを担当していた当時、春と秋の時期、月に一度は、田崎真也さんのワイン講座がありました。 その中で、中国料理が取り上げられたことがあります。その時には、中国料理のコースのすべての紹介は番組では難しい。ってことから、取り上げたのは「ふかひれの醤油煮込み」などいくつかの品でした。
取り上げた「ふかひれの醬油煮込み」は新世界菜館のもので、社長の傳さんもゲスト出演し、解説、紹介していただきました。
そん時の田崎さん、中国料理の「ふかひれの姿煮」には、ワインなどもよりも吟味したポルト酒がぴったりなのでは、と提案。
なるほど、面白い。
新世界菜館の「ふかひれの姿煮」には、ぴったりかも。
しかしながら、その提案の背景に、田崎さんの中国料理、さらには「ふかひれの姿煮」、そして、中国料理における酒の組み合わせに対する固定的な概念、イメージがあって、それに導かれてのものじゃないんだろうか?との素朴な疑問を覚えたものです。
というのも、新世界菜館の「ふかひれの醬油煮込み」は、上海式のそれを下敷きにしたもの。
傳さんから詳しく聞いたわけではありませんが、私にとって新世界菜館の料理の数々は、上海というよりも、寧波風味といった印象を受けます。
もっとも「ふかひれの姿煮」に関しては、だしとともに醬油味、それに旨味だけではなく特有の甘味がありました。言わば、日本に定着した上海式それの印象が濃厚。しかも、日本で「ふかひれの姿煮」として広く一般に浸透し、親しまれているものに通じます。
そして、田崎さんが提案したポルト酒。
それから私がイメージしたのは、紹興酒に他なりません。
そうか、田崎さんも、やはり、中国料理と言えば、紹興酒。「ふかひれの姿煮」には、紹興酒というイメージ、固定概念から逃れられないのかなあ、なんて思いました。
確かに、上海系の料理には、それも、上海系の「ふかひれの姿煮」には紹興酒がぴったりかも。
それに、日本で一般に定着している広東料理には、あてはまるかもしれない。
ですが、香港のそれ、ことに、ふかひれの料理には………………
紹興酒、という組み合わせは、あてはまりません。
それについては、いずれまた。
もっとも、田崎さんの「ふかひれの姿煮」にはポルト酒を!という提案。
ちゃっかり戴いちゃって、時にはそれを楽しんでます。
その後、田崎さんとは「裸の少年」のロケの収録中だった浅草の「龍圓」で再会!
「ね、ね、小倉さん、これ「ハモン・イベリコ」を使った上湯だって!」 と、龍圓ご自慢の「龍圓特製チャーハン(上湯【スープ】添え)」の「上湯」を、いきなり薦められました。
「いや、田崎さんって凄いですワ。一口味わって「これ、どんぐりの味がする!」なんて、見破られちゃいましたから!」、と栖原さん。
栖原さん、もともとは上海料理畑の出身。甘味と醬油の使い方、その工夫やセンスがその経歴を物語ってます。
ですが、ここ最近、香港の広東料理にも関心を持って、機会を見つけては香港行脚。だし作りでは広東料理の手法も取り入れて、という意欲あふれる料理人。
そういえば、あん時、田崎さんに、火腿を素材にしただしを使った料理にふさわしいワインの組み合わせ、聞けばよかった。
今度、田崎さんに出会う機会があったら、尋ねてみます。
ところで、中国料理、それも広東料理におけるコースの組み立て、味の変化、流れ(って、私の勝手な解釈によるアレンジもありますけど)、料理のクライマックス、宴がはじまってすぐにありと察知した青木さん。
ワインの開栓、宴の始まる時刻では遅すぎるってことで、秋や冬の宴には、選んだワインを昼から開栓。今回の宴では、前日から開栓、と相成った次第らしい。その周到さには、おそれいります!