「それでは八尾さん、料理の説明を!」
「はい、かしこまりました。
え、この「豬肺杏仁湯」ですが、まず、豚の肺を流水に1時間ほど晒しまして
下準備をしてから「煲」という方法で4時間あまり煮込みまして、
それから2時間かけて「燉(湯煎蒸し)」に致しました」
八尾さんの話に、テーブルの一同が、いっせいに驚きの声。
「え~! そんなに手間隙、かかってんの!
すごいな、信じられない!
っていうより、そんなの普通、考えられませんね」 と、感嘆しきり。
そんな声を耳にしながら、せっせと匙でスープを口に運ぶ私。
滑らかで、緻密な舌触り。
ン!? と思ったのは、味にしっかりとしたこくがある。だし入りの感じがする。
「豬肺杏仁湯」といえば「陸羽茶室」のそれが有名です。
他にも試したことが何度があります。
で、「陸羽茶室」の「豬肺杏仁湯」、乳白色で、味は素朴で清楚。
滑らかながらも、ざらっとした感触が舌に残ります。
ところが今回の「豬肺杏仁湯」、黄色がかっていてクリーミー。
しっとり潤んだような滑らかさで、優しく舌を撫でていく。
そして、かすかな渋味、ほろ苦さ。杏仁の味、風味でしょう。
それとともに、ふくよかなこくのある芳醇な味わい、風味がありました。
「あの「豬肺杏仁湯」ですが、「煲」にしますか?それとも「燉」で?」
と、八尾さんから連絡があったのは、素材の調達が可能とわかり、コースのメニューの最終決定でのことでした。
そう尋ねられ、一瞬、答えに詰りました。
私が知る限り、というか、私がこれまで出会った「豬肺杏仁湯」、ほとんどが「煲」のはずで、私にとっては「湯」に関してバイブルともいうべき某著(ふふ、教えたくな~い!)でも、昔ながらの調理方法では基本は鍋でじっくり煮込む「煲」のはず。
湯煎蒸しの「燉」って方法がある、というのは耳にしたことがありませんでした。
「そうか「燉」というのもあるんだ。
う~ん、じゃ、今回は、おまかせします!
でも、もし今回「煲」にするなら、今度は「燉」でね!」
とまあ、その辺は、強引であつかましい小言ぢぢい(って私)です。
その結果が、4時間の「煲」と2時間の「燉」。
そのプロセス、調理や味付け、改めて八尾さん、キッチンに確認の要ありですが、思うに「陸羽茶室」のそれとは違ったのは、やはり2時間の「燉」に鍵がありそうで。
クリーミーで、しっとり潤んでいて、優しく舌を撫でる滑らかさ、こくのある奥深い味わい、滋味豊かと言う以上に旨味がある、ってことの秘密はそこにありそうです。
もしくは、こくを生む肉類が、素材に含まれていたのかも。
福臨門で初めて食べた「豬肺杏仁湯」。
紛れもなく福臨門スタイルのそれ。
上品で、洗練されたものでした。
「参りました!」
肝心の「肺」は、画像でご覧の通り。
その触感、噛み応えは、じゅわじゅわ。火を通し気味なねっとり感を抜いた白子のようだし、少々繊維の立ったマシュマロ風の柔らかさ。たっぷり味を含んでいて、噛み締めるとジュシーな味が弾ける、といった趣です。
肺、といえば、吸い込んだ空気を送り込む気管と血管で形成。つまり、下拵えの水晒しというのは、水を吸わせて、気管と血管を清浄。水を吸わせて、水を押し出す作業が必要。という話からも明らかなように、ま、スポンジ状態なわけです。
後で「はぎちく」の岸さんに「豬肺杏仁湯」について御報告。
「あ、その触感、想像がつきます!
けど、味はわかんないな。想像もつきませんね。
それ、食べたみたないな!
それより、下拵えの手間隙のかけ方、すごいですね。
そこまでやるとは思ってもみませんでした」
とのことでした。