2008/05/07

春の広東地方の郷土料理の4

 豚の内臓の各部位の調達、福臨門の希望通り入手が可能だと岸さんのからの返事が戻ってきたところで、今回の「青木宴《春編》」の料理内容、コースの内容を再検討。

 今回は、これまでの青木、藤原の両氏に、前回以来の元EMIの斉藤さん、それにEMIに出戻った景山富士夫氏、雲母社からロッッキン・オン社に移った海津亮氏も参加。
 そのふたり、青木さん、斉藤さんなどと某ワインの会のメンバーだそうで、ワインにはことのほか詳しく、一家言お持ちとのこと。

 さて、福臨門でコースを組み立てるとなると、看板の魚翅はじめ干貨素材を素材にした料理が組み込まれていないと、その意味もなければ価値もない。
 旬の素材をメインに郷土料理、家庭料理を楽しむにしても、宴会の花となる「大菜」があってこそそれぞれの持ち味、妙の対比も楽しめるというもの。

 今回、初参加の景山、海津の両氏、前回以来の斉藤さんも、すでに福臨門で主要な料理は一通り体験済とのことだったので、少しばかりひねりを加えたふかひれの料理を。
 そこで思いついたのが「婆参荷包翅」。

 「婆参荷包翅」、06年暮れの「家庭画報」の中国料理特集でも紹介しましたが、もとはといえば銀座の福臨門の長年の顧客のリクエストから総料理長の呉さんが工夫し、考案というスペシャリティでメニューにはない一品。「家庭画報」の取材時に味見して、あ、これはそのうち!と、狙いを定めていた一品です。

 もう一品の「大菜」は、「江南百花鶏」。 今年に入ってだったか、その料理、丸の内の福臨門で実現、という話をスタッフから耳して以来、なんとかして食べたいと願っていた一品です。

 昔、そう、18年前のことになりますが「GULIVER」というトラベル・マガジンの香港特集を手伝った際、福臨門に出向けばいつもテーブルが隣あわせだったジェイムス・ウォンと、福臨門の広東料理について対談。

 そのジェイムス、子供の頃、李香蘭のレコーディング・セッションにハーモニカで参加、という経歴がご自慢。香港大学出身の頭脳明晰なエリートで、当時、香港には皆無だったというPR会社を設立する一方、作詞、作曲、コラムニスト、歌手、俳優として活動し、香港のマスコミでも一目置かれていた人物。ジェイムスは叔父が何かと言えば福臨門の出張料理を依頼、なんてことから、子供の頃から福臨門の味になじんできたそうです。

 ともあれ、ジェイムスに色々昔話を聞いた際、福臨門が用意してくれた料理のひとつが「江南百花鶏」。 その美味は今だに忘れ難い。 それ以後も、他の店で同じ料理を食べてきましたが、福臨門でのそれを越えるものには出会えなかった。

 そんな「江南百花鶏」が、丸の内の福臨門で実現!
 なんて話を耳にして、今回の「青木宴《春編》」、場所を銀座店から丸の内店に移そうかと思い悩んだほどでした。
 そしたら銀座の福臨門でも可能だという話。
 その話を聞いて盛り上がったことは言うまでもありません。

 それに、春の味、郷土料理、家庭料理的な趣向のもので、はまぐりを素材にした「蛤蜊燉蛋」がある。

 以上、3品をメインに据えて、組み立てたのが以下のようなメニュー。

○千層峰(豚耳のよせ物の冷製
○炸大腸(大腸の揚げもの)
○豬肺杏仁湯(豚の肺と杏の実のスープ)
○婆参荷包翅(なまことふかひれ(荷包翅)の煮込み
○白灼腰花(豚の腎臓の湯引き)
○江南百花鶏(蝦のすり身のせ、鶏(一羽)の蒸し物
○油泡肚尖欖仁(豚の胃と中国オリーブの身の油通し)
○韮菜銀芽炒心肝(豚の心臓、肝臓と韮、もやしの炒め物)
○蛤蜊燉蛋(ハマグリの卵蒸し)
○蝦醬炒通菜(空心菜のえび味噌炒め)


 なまことふかひれの「婆参荷包翅」、「懷舊菜」というにふさわしい「江南百花鶏」に、春らしいはまぐりの「蛤蜊燉蛋」。
 前後して、前菜、スープ、油通しに炒めものなど、内臓類の料理がどうしても目立ちます。

 素材、舌触り、歯応えなどの触感、調理、味つけ、味わい、風味などの変化を考慮しながら、あれこれ考えを巡らせ、味付け、調理を他のものに置き換え、入れ替えを繰り返しんがら、辿りついたプランです。

 いつものミッシェルに相談してみたら
 「とっても、おもしろい」
 という言葉に次いで
 「香港でも滅多にないコースの組み立て方ね!」 
 との返事。

 私もそう思いました。
 内臓を素材にした多種、多様な料理が、こんな風にして組み入れられるのは、滅多にない。
 かつて香港では家畜、家禽の内臓類は貴重なものとされ、内臓類を中心にした前菜や、内臓にふかひれを詰めるなど、工夫を凝らした「大菜」などもあって、いわば内臓宴などもあったそうで。

 下拵えして臭みを取って、香辛料や調味料で味付け。
 そんな簡素で素朴な「もつ煮込み」的なものではなく、念入りな下拵え、調理による内臓の料理が存在し、その伝統が受け継がれている、というわけです。伝統的な広東料理の手法を受け継ぐ店だからこそ、可能なこと。

 締めくくりの面か飯については、福臨門から「腊味煲仔飯」という提案もありましたが、「カレー味の炒飯」という青木さんからのリクエストもあって「摩囉鶏粒炒飯」に変更。
 さらに、当初、青木さんからのリクエストだった甜品の準備が難しいとのことから、別途、2品の甜品(デザート)を用意、とのこと。

 実は、以上のメニューに以外に、コースを構成する品数の勘定あわせ、それに、ワイン好きが集まって、しっかりした味の赤ワインを!なんて、ワインとの相性を考え、血の濃い鳩の料理を加えるかどうかも検討。
 しかし、全体の構成と分量を考えて鳩の料理は、今回はパス。

 それでなくとも春の旬の味、それに内臓類の料理など、食べたいものがまだまだ残っていて、1回の宴会では到底収まらない。

 そんなやりとりを繰り返しながら、岸さんに内臓を発注。
 先の「白灼腰花」の下拵えの話からも明らかなように、内臓類はいずれもその処理、下拵えに時間がかかります。
 まずはサンプルを発送してテスト調理。
 その按配を見てから「青木宴《春編》」の料理内容と、素材の発注を最終決定し、発送ということになりました。

 ふ~。

 って、大変だったのは、私なんかより岸さん、福臨門のキッチンのスタッフ。

 そして、登場したのが画像、4品目の料理の「豬肺杏仁湯」。
 まさか、この料理が日本で食べられるとは!
 それだけでも、感極まったのでありました!