2008/05/05

春の広東地方の郷土料理の3

 豚肉の内臓の調達をお願いしたのは、川越の「はぎちく」の岸健二さん。
 05年11月発売のクロワッサンの「本物のお取り寄せ」の特集号で、ここではおなじみ、東松山の農業、加藤紀行さんとともに、紹介したことがあります。

 岸さんは若くして家畜の卸、販売に携わり、以来、養豚家とタッグを組んで美味しい豚肉の開発と紹介に余念のない熱血漢。
 私が豚肉の目利きとして全幅の信頼を置いている人物です。
 岸さんから学んだことは数知れず、目うろこなことが沢山ありました。

 ことに、感心したのはブランドにとらわれず、実質を追求というその姿勢。
 岸さんが選んだ「はぎちくセレクト」は、文句なしに旨くて、風味があります。
 さっぱりした味の豚もあれば、豚の野生味を感じさせる豚もある。
 その熱心なファンは少なくありません。

 その岸さんから
 「ウチが扱ってる内臓も、自信ありますから!」
 と、かねてから聞かされ、そそられてはいたものの、機会を逸してました。

 日頃、岸さんからは、ロース、肩ロース、バラ肉をブロックでゲット。
 ですが、肝臓、心臓、肺臓、腎臓などの内臓類を丸ごと頼んでも、その扱いに自信がない。 
 焼肉にして食っちゃえば? なんてツッコミがありそうですが、素材が上質で新鮮だからこそ、本格的な料理を試してみたい。
 とはいうものの、そのゆとりはなし。
 そうか、今回は、岸さんが扱う内臓を福臨門に届ければ、いろいろな料理が可能かも。
 そう思い立って、早速、岸さんに連絡をとり、調達可能な素材を確認しました。

 そうしたら、内臓のほとんどは入手可能と判明。
 そんな内臓調達可能リストとともに、私が食べたい料理も含め、どんな料理の実現が可能か、福臨門に尋ねました。
 戻ってきた料理のリストを見て、驚きました。
 私がリクエストした料理を含め、部位ごとに異なる料理の総数、その数、20品を越えていたからです。
 さすが、福臨門。
 中には懐かしい料理もある。
 「今日、○○があるけど、食べてみる?」
 「え! そんなの福臨門にありなの?」
 と、今や九龍店の総経理人である梁保に教えられ、病み付きになったものの、日本ではありつけない料理もありました。
 知ってはいても、食べたことがない料理もありました!

 全部食べたい!

 そんな思いにかられながら、すでに春の料理を何品か、それに「大菜」というにふさわしい今回の「宴」のための特別料理を3品ほど考慮済。
 それを無視するわけにはいきません。

 となると、コースを8品構成にすれば、豚の内臓を素材にした料理は、わずが2品か3品ということになる。
 こうなりゃ、10品か12品構成にするしかありません。
 幸い、今回の「青木宴」の「春篇」、人数が6人になるかも、と幹事役の藤原君から連絡が入ったこともあって、10品、12品構成で、コースの内容を検討。

 で、とりあえずは仮プランを作成。
 それを福臨門に送り、その返事次第で、素材を岸さんに依頼し、福臨門に送ってもらうだけ。
 そう決め込んでいたところが、コトはそう簡単に運ばず、なのでした。

 というのも、福臨門から戻ってきた料理可能なリストから、素材の調達を岸さんに連絡。
  岸さんに連絡を取ったところ
 「素材の扱い、普段のままでいいでしょうかね?
 例えば「肺」は、ボイルしちゃっていいのか?
 それに「腸」ですけど、割いて、中を取り出して、送るのがいんでしょうか?」
 と、尋ねられ、
 「あ! もしかして、その点、(福臨門に)確認の要あり!」 と、気づいた次第。
 
 「それにこの「肚尖」って、「胃袋」のことなんですが、「胃袋」の前後が少々必要って、どんくらいなんでしょう。実は、部位の処理、検査官がやるんで、ご希望通りにいくかどうか……」
 なんて話を聞かされて、驚きました。

 「ちょ、ちょっと待って岸さん。じゃ、詳細を確認してから、連絡しますから」
 ということになり、福臨門に再度確認したら、戻ってきたのがそれぞれの部位の扱い。
 それに、「胃袋」の「肚尖」に必要な範囲の詳細。

 それを岸さんに返して、連絡したら
 「了解しました!」
 と、いつもながらの男気に溢れたキッパリとした返事。
 
 「ですけど、「胃袋」の処理、ご希望通りにいくかどうか。
 それより、日本とは全然、取り扱いとか、処理の仕方、違うんですね!」
 と、さすがの岸さんも驚いた様子。

 仲介役の私、最初は、何がなんだかさっぱりわからず。
 ですが、岸さん、福臨門の間に立って、色々話すううち、しっかり見えてきたのが日本と香港における内臓の扱い、処理の差異。

 日本では、肝臓、心臓、腎臓などはともかく、胃や腸は割くなど下処理をした上で市場へ、というのが一般的だそうです。どうやら「焼き肉」、「モツ料理」という市場のニーズに応えたもの。
 ところが香港では事情が異なり、「モツ料理」としてだけでなく、本格的な料理素材としてのニーズがあり、それには、なりよりもフレッシュなのが第一義、なんて事情が、よーくわかりました。
 食文化の違いを体験、ということになった次第です。

 で、画像。
 「これまでが前菜で、3品目の「白灼腰花」です!」
 と、総支配人の八尾さん。

 豚マメの腎臓をさっと湯通ししたもの。
 ぷくっと膨らんだ腎臓はぷりっとした歯応え。
 腎臓の独特の風味を残した上品な味わい。

 その一個、食べるのに、30秒はかかりません。
 ですが、腎臓を流水にさらすこと4時間。
 腎臓特有の臭みを抜いて、旨味にかわるあたりを見届け、それを「白灼」、湯通しで調理、
 という、実に手間隙のかかった一品です。