2008/05/24
春の広東地方の郷土料理の9~油泡欖仁肚尖の1
「油泡欖仁肚尖」。
この「肚尖」を素材にした料理が日本で食べられる日を、どれだけ待ち望んでいたことか。
今回、それがようやく実現しました。そのことだけでもうるうると感涙にむせび泣いたほど。いや、ほんとです!
「肚尖」とは豚の胃の尖端部分。胃の端、胃が食道、十二指腸とつながる部分のことです。
豚の胃といえば「ガツ」。日本じゃ中国料理店にもありますが、それよりも焼き肉屋、ホルモン専門料理店のメニューで馴染みのはず。
「ガツ」は、胃の部分そのもの。肉厚で、しっかりの噛み応えあり。
ネットで調べたら生で食べる「ガツの刺身」ってのもあるそうで。
牛の胃の「センマイの刺身」は食べたことがありますが「ガツの刺身」は未体験。
「肚尖」は、豚の胃でも食道、十二指腸につながった部分で、「ガツ」本体に比べれば身が薄く、肉質も柔らかい。ぷりっとした舌触りで、噛み締めるとこりっとした歯応えがある。調理するにはそれなりの下拵えが施されています。
「肚尖」を食べるたびに思い浮かべるものがある。海鮮素材のひとつ、法螺貝がそれです。
大型のものは「响螺」。 村上龍のエッセイに香港の福臨門話があって、その好物がほら貝。それを食べるためだけにでかけたいとか、なんとか、そんなのを読んだ覚えがあります。
「响螺」の値の高さは、ウルトラ級。直径5~6センチほどの「响螺」のスライス、厚さ5ミリ程。90年の段階で1枚の単価を計算したら、5千円程でした。ですから、今の値段、推して知るべし。
そのスライス、味わうのに30秒程しかからない。それでいて、その値段、5千円!
という驚愕の事実に衝撃を受けたのが、これまでに紹介してきた「GULIVER」誌の取材で編集を担当したフリー・エディターの松木君。同誌で、そのことをきっちり報告。
そして、村上龍さん、そんなのをぱくぱく、じゃなくて、ぽりぱりたらふく喰って、福臨門の美味を堪能してたってわけですね!
もっとも、小ぶりの法螺貝は「響螺」ということで、その身を取り出し、「葡汁」と称されるカレー風味、もしくは、ホワイト・ソース仕立てのソースであえてオーヴンで焼いたグラタン仕立て風の「葡汁焗響螺」、それとも、スープに使われます。「響螺」を使ったスープは、「例湯」の一品として出会えることがあります。
ともあれ「肚尖」、その大振りの法螺貝のスライスに似た触感。
「肚尖」を油通しの「油泡」で調理した時には「油泡响螺片」を食べる時と同じく、オイスターソースの「蠔油」、えび(あみ)の醗酵みその「蝦醬」が添えられる。
言ってみれば、貧乏人に「响螺」と言った趣も。とはいうものの、新鮮で良質な「肚尖」の入手は、香港でも難しく、値段もそれなりです。
そういえば、ネットで「ガツ刺身」を検索した際、魚の刺身のよう!
なんて、書き込まれてるのを見つけましたが、その表現に納得。
私、生の「肚尖」に出会ったことはありませんが、その触感、みる貝の薄切りを湯通し、もしくは、油通したに時のそれに通じるところがあります。
むっちりとしていて、ぷり、こりとした「ぽりぱり」の触感です。
もっとも「肚尖」には、当然、海の味、礒の味の濃さはなし。それよりも、豚の脂の旨味、甘味がじんわり滲み出てきます。
香港の福臨門に出かけた時には、まず尋ねるのが「肚尖」の有無。
ふかひれ、燕、干し鮑は常備している福臨門でも、「肚尖」の入荷が無かったりすることがあります。
ということでは知る人ぞ知る稀少品。
その「肚尖」を油通しの「油泡」で調理し、「欖仁」、中国オリーヴの実と炒めあわせたものです。