2008/05/03

春の広東地方の郷土料理の2

 思いついた素材と言うのは野菜でも魚介でもありません。
 それは牛や豚、家禽類の内臓類。

 牛や豚の内臓類を素材にした料理は日本でも食べられます。
 たとえば、北京料理を看板にする店での牛の胃の「せんまい」を素材にした「塩爆散旦」は代表的な一品。「ハチノス」や、豚の胃の「ガツ」の炒めもの、揚げ物があります。
 豚のマメ、つまりは腎臓を使った炒め物などもありましたっけ。

 池袋で客家料理を看板にしていた「東江樓」では豚の腸の料理もありました。
 広東料理系の店では、やはり飲茶の点心に「ハチノス」はじめ、その種の料理を見かけることがあります。
 とはいえ、内臓を素材にした本格的な料理に関しては、日本ではほぼ絶望的。
 ことに広東料理系のものは飲茶の点心以外、ほとんどみかけたことがない。
 潮州料理系の料理もそうです。 もし、ご存知なら是非、ご教示を!

 そこで今回、豚の内臓を使った料理の実現を思い立ちました。
 むろん、素材の調達の目当てもあってのこと。
 その話、青木さんにしたら大乗り気!

 「甚だ勝手なリクエストで恐縮ですが、
 「モツ盛り合わせ下町風、香菜添え(3~5種/ミミ必 須/大盛り!)」
 の類いを、以前より丸福の技で食してみたいと思っておりました。
 丸福でのモツは、ハチノスしか見当たらず、どーも欲求不満ぎみでした。
 今回のメニューの構成上、バランスが悪くなる様でしたら次回に、
 若しくは次の日に持ち帰り…できるかな?などとも思っております。
 もし差し支えないようでしたら、何卒よろしくお願い致します。
 (豚足もかなり魅力的!)」

 と、熱いメールが到着。

 「丸福」というのは「丸福食堂」、福臨門の愛称です。
 香港でとりあえず一通り有名店を巡り歩いて後、落ち着いたのが福臨門。以来、連日通い詰めるようにもなって、丸福と称するようになりました。

 それにしても青木さんの「モツ盛り合わせ!」という熱い思いにうたれました。
 確かに、日本で内臓と言えば、通称はモツ。
 モツ鍋が流行、なんてこともありました。

 そういえば、dancyuの取材で、松阪を取材した際、松阪牛の内臓類を使った焼肉店の取材を敢行。たっぷりさしの入った「和田金」のロース肉さながら、内臓の各部位、ことに直腸の脂たっぷりのねっとりの脂の濃さ、甘さに驚いたもんです。

 ですが、日本でモツの料理と言えば、焼肉でのそれが物語るように、調理、味付けはシンプル。野生味があって豪快。塩焼きか、たれ仕込みのものを焼く、っていうのがほとんどのようです。
 それに焼いた素材を食べる「たれ」も勝負どころ。松阪でその種の店を何軒かはしごした際、名古屋などと同じく甘味のある八丁味噌がその基本でした。

 「もつ煮込み」は、私、あまり体験ありませんが、大体は臭み抜きのつもりか葱、生姜で湯がいたあとに、味噌で味付け。素朴で濃厚な味付け、ってのが基本じゃないでしょうか。
 それも悪くはありません。が、料理ってことでは、いささか粗野。時には雑で乱暴な趣も、という印象があります。

 それからすると香港の広東料理、潮州料理、客家料理における内臓の扱いは、下拵えもしっかりしてあって、調理、調味も多彩で幅広い。

 もちろん、香港でも「モツ!」のノリそのまま、シンプルな味付けの内臓料理を食べさせる店があります。
 「牛什」を看板に掲げ、牛の内臓類の煮込み専門にする街中の小食店がそれです。
 その多くは潮州系。その種の店の中でも「牛腩」の煮込みだけを扱う専門店もあります。
 ことに中環にある「九記」は、長年の歴史を誇る老舗の一店。
 電気道と湾仔にある「大利清湯牛腩」では「牛腩」だけでなく、牛の内臓各種もあり。

 その昔、牛頭角だったか工場街にあって、尖沙咀にも出店していたことのある「鍾記」では、普通の店ではお目にかかれない牛の部位が色々あり、なのに目を丸くしたものでした。
 もっとも、韓国の全州で食べた「チレ」、日本では「たちぎも」って呼ばれてる脾臓の料理は、香港でおめにかかったことがない。けど、どっかの店であるんでしょう。

 牛の内臓類とは対照的に豚の内臓類に出会ええることが多いのが、粥麵店。
 肝臓、心臓、腎臓、胃、十二指腸、子袋などまでが粥の具に。
 豚の内臓類を全てを織り込んだ「及第粥」などは、その最たるもの。
 どの店も、内臓の鮮度を売り物にしています。

 香港では牛よりも豚の需要、供給と消費が盛んってことに関係してるんでしょうが、粥麵店は豚の内臓類を扱う店が多い。中には腎臓などを「白灼」で提供、という店もありましたが、料理としての完成度は低い。

 実は、内臓を素材にした料理で、なんとか日本でも食べたいものがいくつかありました。
 そのひとつが豚の胃の「肚尖」を素材した各種の料理。
 日本でも豚の胃は「がつ」ってことで一般に流通。
 ですが「肚尖」は、豚の胃の尖端、つまり「食道」と「十二指腸」とがつながった柔らかい繊維を持つ部分をさすものです。

 その「肚尖」を素材にした料理、「魚翅」はじめ干貨素材の料理ととともに香港の福臨門で楽しみにしている一品です。
 以前は馴染み客だけがその存在を知るものでしたが、最近になってテーブルに置かれた「小菜」のメニューで紹介されるようにもなりました。
 とはいえ、品切れ、もしくは、今日はなし、なんてことがほとんどで、そう簡単にはありつけない。

 豚の消費が盛んな香港では、素材の調達も容易に思えますが、福臨門では新鮮というだけでなく、上質な素材でなければ提供しない、という方針があってのこと。

 福臨門では「肚尖」だけでなく、豚マメの腎臓、肝臓や心臓、それに豚足を素材にした料理にも出会えることがあります。といって、いずれもメニューにはありません。

 昨年の秋、香港に出かけたバードランドの和田さん。
 福臨門で運よくそうした料理のひとつ、豚足を新生姜と煮込んだ「豬脚姜醋蛋」にありつけたそうです。
 「あんなに旨い豚足、食ったことありませんよ。
 けど、量が多くって、もうそれだけでお腹一杯!」
 なんて言いながら、目尻は下がりっぱなしで自慢顔。

 「モツ盛り合わせ!」のリクエストのあった青木さんに、広東料理、潮洲料理、客家料理の豚の内臓を素材にした料理の数々を話したら
 「え!そうですか!なら、それで行きましょう!」 
 と、話はまとまりました。

 話はまとまったものの、いざ実現ということになるまでは、問題、山積みでした。

 で、画像。
 「ヘイフンテラス」では……あ、ちゃいました!
 豚の大腸の揚げ物です。 豚の脂身のこくや旨味を加味した「かっぱえびせん」といった趣です。
 揚げた大腸のパリパリの触感。噛み締めると、しっかりの歯応えありで、ぶりっとした腸の触感がたまりません!