2008/02/03

「冬の広東地方の郷土料理」(1)

 昨年の8月の「夏の広東地方の郷土料理」、11月の「秋の広東地方の郷土料理」に続いて、クリエイティヴ・プランナーでディレクター、デザイナーでもある青木保夫さん主宰の銀座・福臨門での「冬の広東地方の郷土料理」が実現。
 青木さんもさることながら、広東地方の郷土料理の取り憑かれたBMGの藤原君が、その実現になんとも熱心。今回は、藤原君の誘いで元EMIの斉藤正明さんもゲスト参加。
 その斉藤さん、東京でもコンサートでばったり、なんてこともありますが、それよりも香港や上海などで出くわして、会えば昔話に花が咲く、といった長年の知り合いです。ところが、食事を一緒するなんて機会がなくって、今回が初めてのことでした。

 さて、今回の「冬の広東地方の郷土料理」。これまで触れてきた香港の「冬の野味」をなんとか実現したかった。ですが、「蛇」、「果子狸」、「花錦鱔」、梧州産の「山瑞」、「羊腩煲」など、素材そのものが日本では調達、入手が不可能。
 梧州産の「山瑞」は日本産の「水魚」に、「羊腩煲」もマトンやラムに代えることも出来る。そういえば、この時期、フレンチ、イタリアンでは、ゲームを素材にした料理がメニューに並ぶ。そんなところから素材を調達し、広東料理の伝統的な手法、味付けで、ということも不可能ではないはず。

 とはいえ、まずは本場、広東地方で入手可能な素材に準じたものを使い、伝統的な調理方法、調味で実現、というのが東京、銀座、それに、丸の内、名古屋、大阪にある福臨門の基本方針。広東地方の素材の入手が不可能なら、出来る限り香港で使っている素材と同様、もしくは、近しいもの、なおかつ良質な素材のものを調達。しかも、調達した素材の資質、持ち味を見極め、それを最大限に生かす調理、調味を実践。
 そんな徹底的な追求の姿勢、方針の実践は、日本の中国料理店ではなかなか見られません。素材の持ち味、特質の吟味よりも、その種の素材を入手出来たことだけで、無条件にその種の素材を取り入れ、本場式、というか、広東料理の調理、味付けの手法で「らしきもの」を提供、というのがほとんどですから 。
 それが、福臨門の場合、例えば、日本で調達可能になった鳩。原種はフランス産で、日本での飼育状況、肉質、持ち味は、香港で使用しているそれとは異なる。という点を見極めて、調理。
 鳩に限らずスッポン等の類、それに、野菜などもそうです。それは、これまでにも触れてきた通り。ともあれ、あくまで素材重視。素材の持ち味、特質を見極め、それをいかに広東料理の伝統的な調理、調味で、料理を提供するか、という積極的かつ意欲的な姿勢、それこそ、私が福臨門を愛してやまない理由のひとつです。

 さて、今回、メインの料理となったのは、これまでにも紹介してきた大分、日田産の鹿肉の料理。それも、部位を使い分けた2品をメニューに組み入れました。それからもう一品、「秋の広東地方の郷土料理」のハイライトだった、鳩にふかひれを詰めて鮑汁で煮込んだ「仙鶴神針」が、再登場の預訂でした。
 というのも、「4人で一羽は食い足りない!」との青木さんの話もあったからです。確かに、「仙鶴神仙」は、昨年、私が出会った料理の中でもベスト・ワン、ナンバー・ワンの一品。もう一度味わいたい、とは思ったものの、他に鳩を素材にした料理が頭をよぎった。
 それは、鳩に糯米はじめ色々な詰め物を施して、蒸すか、煮込んで、とろみあんかけを施した「八寶鴿」。それが、銀座の福臨門でも実現可能だと知って、青木さんにもその話をもちかけた。それが、なんと、鳩ではなく、家鴨でもその料理が可能と知って、俄然、色めき立ちました。そう、「八寶鴿」じゃなくって「八寶鴨」です。
 福臨門で「八寶鴨」を食べたのは、かれこれ20年近く昔のこと、だったでしょうか。「PRIME GARDEN」誌の香港取材を手伝うことになった際、福臨門の徐維均さんに、「昔、福臨門が出張料理をやっていた頃の料理で、何か面白い物ありませんか?」とせっついて、作ってもらったのが「八寶鴨」。
 その「八寶鴨」、今でも伝統的な広東料理を看板にする店でありつけます。例えば、飲茶で有名ですが、夜の料理も見逃せない「蓮香樓」の看板メニューのひとつ。調理、味付けはいささか乱暴だったりしますが、試す価値はありますから。
 それに「懷舊菜」、昔懐かしい味、料理の再現がここ数年の最新ノトレンドのひとつである香港では、その料理を看板にしている店は他にいくつもあります。もっとも、たいていの場合、要予約、ってことですが。
 ともあれ、色々な店で「八寶鴨」を食べてきましたが、極めつけはやはり福臨門のそれ。「八寶鴨」を味わえる、というだけでも大いに盛り上がりました。
 画像はその「八寶鴨」。出来上がり。そして、切り分けた後のものです。