2008/02/21

ヘイフンテラスの謎と不思議の4

 モエのロゼで唇を湿らせ、喉を潤していた我らがテーブルの前に、前菜が登場。
 焼き物2品と「くらげ」です。

 「くらげ」は厚みがあって、幅も1センチほど。切り方、つまりは「板」の仕事はざっくばらんな感じ。ですが、バリボリの触感、噛み応え。「くらげを食った!」という質感、物量感が味わえるのが嬉しい。

 「くらげ」は、その処理、下拵えだけでなく、くらげの切り方、その厚み、幅次第で、歯触り、舌触り、噛み応えなど、味わい、風味がぐんと違ってきます。
 切り幅を細くすれば、パリサクの触感が味わえる。その分、味付けも切り幅の細さに合わせ、調味、味付けが過ぎないような控えめな感じが好ましい。それが、繊細かつ洗練の美味を生み出しますから。
 
 反対に、クラゲに厚みがあれば、むしろ切り幅を広くして、バリボリの噛み応え、食べ応えのある質感、物量感が欲しいもの。なんてことで「くらげ」の味付けについては並、ってか普通でしたが、一応は「グッド!」の及第点。

 家禽の焼き物、実は楽しみでした。
 普段、前菜にとるのは牛や豚の脛肉の寄せものがほとんどです。
 ヘイフンテラスでは家禽の焼き物が食べてみたかった。
 「焼きもの専用の釜」があって、焼きものはすべて自家製、と耳にしていたからです。

 ネットで検索した某サイトにも紹介されてます。
 曰く「自家製釜で仕上る焼き物はイチオシのメニュー」ってことで、「「鳩のロースト”キンモクセイ”の香り」「釜焼きローストダック」など、多数の前菜が」ってことですから。「中でも絶品なのが「釜焼きチャーシュー」」だというし、「「本格釜焼き北京ダック」も人気」だそうで。

 ふかひれ料理の「気仙沼産」の実態、正体が把握出来て、「例湯」ありなら(って、しつこいか!)前菜に焼き物は選ばず、「「鳩のロースト”キンモクセイ”の香り」」という選択もありでした。
 しかし、鳩の素材、その正体が掴めない。「新會」か「中山」産なのか、それとも、フランス種で日本で飼育したものか、それとも、中国、欧米からの輸入の冷凍ものか。
 それについては聞きそびれました。

 「北京ダック」も選びません。
 もともと私、「北京ダック」にはそんなに執着はなし。
 広東料理店なら「ダック」、つまり「家鴨」を「鶏」に代えて釜で焼き上げ、皮の美味を味わう「片皮鶏」がいい。仔豚の丸焼きの「乳豬全體」なら文句なし。
 それにテーブルを囲んでいた人数のこともあって、その日、「北京ダック」はハナっから無視。そんなわけで「北京ダック」の素材の「家鴨」について聞きそびれました。むろん、日本産の「合鴨」使ってるとは思いませんが。

 さて、焼き物2品。
 そのうち1品、焦げ茶色の焼き色の焼き色、肉の色あいから、てっきり「焼鵞?」。しかも「梅醬」まで添えられてましたから、そう思いこんだりして。

 焦げ茶の皮の焼き色は、濃い。けど、なんだか、照りに深みがない。もしかして、焼き上げたばかりじゃなく、昨日、焼いて、キッチンにぶら下がっていたものをリヒートしたのかも。

 甘い梅醬をつけ、口に運ぶと、皮はパリサク、というよりもしっとり。噛み締めて歯がスっと入る、わけでもなく、皮がしっとりな分、ぐぐぐ~いと歯を押し込んで、噛み締められるといった按配。その割に、肉はしっかり、ガッシリの噛み応え。とはいっても、肉汁がほとばしる、と思いきや、すんなり肉が裂け、ほぐれていく。要は、噛み応えがあっても、いささかぱさつき、乾き感あり。

 「そうか、これ「焼鴨」だったんだ!」と、気がつきました。同時に「待てよ、この味、焼き方、味付け。「梅醬」の按配といい、どっかで食べたことがある!」と、頭の隅っこに潜んでいた記憶が、もぞもぞと這い出し、甦りはじめました。
 「どこで食べたんだっけ」と、記憶を辿ってみても、即座に答えはみつからない、思い出せない。「嘉麟樓」じゃないのは間違いない。調味、焼き加減、それも火の通し、皮の張り具合、肉質が違いますから。

 そういえば「ヘイフンテラス」、総料理長、点心の師傳を香港から招聘って聞きましたが、「焼味」の職人も香港から呼び寄せたのだろうか?
(と、この点を後日、店に電話で確認したところ、香港からやってきたスタッフは、料理人二人、点心師が一人とのことでした)。

 「焼鴨」を食べていても、焼き加減、調味が香港の「焼味」の専門職のそれではないような感じ、などと「焼鴨」をもぐもぐ、心のなかではあれこれぶつぶつ。
 その疑問、答えは、やがて、友人のひとことで氷解、納得と相成りました。
 それは後ほど!

 もう一品の焼き物、浅い茶色でキャメル・カラーっていうのか、キャラメル色。けど、しっとり感はあっても、照りがない。
 「あ、そうだ、これって「鶏」だったんだ」と気づきました。
 焼き物の前菜を選ぶにあたっては「以下の中から2品お選びください」なんてメニューに記されていたはず。
 
 まず選んだのは「焼鴨」。それから、もう一品ってことになって「叉焼」はパス。
 で、選んだのは「地鶏の醬油煮込み」(だったか、日本名について記憶はさだかではありませんが、ともかく)「豉油王鶏」(だったか、中国名についての記憶はさだかではありません)。

 その鶏を食べたときの触感、舌触り、歯触り、味、風味は、今も忘れられません。
 塩蒸し焼きの「鹽焗鶏」にも似たその色合い。「鹽焗鶏」なら、皮はしっとり潤んでいながら、張りがある。
 ところが、その鶏、しっとりなのは変わらないものの、唇にふれた触感は「ヌメッ!」。
 噛み締めようとしても、歯がスッと入らずに「グニョ!」。

 肉質もしっとり。とはいっても、歯がすっと入り、歯を押し返すしなやかな弾力もない。肉汁がほとばしる、ってわけでもない。ぐちょっと、へたれな感じ。
 もっとも、押しつぶすようにぐっと噛み締めれば、確かに鶏肉、なんですが、なんだか頼りない。

 「これが、地鶏? 一体、どういう地鶏?」と、「?」マークが、いくつもいくつも頭上を飛びかったものでした。

「素材の吟味が、曖昧だなあ。調味、味付けはそれなり、なのに、素材よりも調味が目立ってるし、素材の下拵えがしっかりしてないし、調味してあっても、料理としての風味、香りがない、そう「冇香」ってやつだ!」などと、またもやもぐもぐ、ぶつぶつ。

 そんなことから 「ヘイフンテラスの焼味はもしかして日本人の料理人が担当? それらしい気配、いくらだってあるもの」などと、ますます謎と不思議の迷宮入り、ラビリンス的世界に突入していったのでありました。

 モエのロゼは、美味しいです。

 画像は(くりかえししつこいですけど)「あの~、お客様」と、ヘイフンテラスでは料理の撮影は禁止。
 ということで、探し出したのは、香港の「鏞記」の「焼鵞」と「叉焼」。