2008/02/08

「冬の広東地方の郷土料理」(4)



 さて、「冬の広東地方の郷土料理」、当日のメニューは以下の通りとなりました。


①例湯(青紅蘿蔔牛尾湯、大根と人参、牛テールの煮込みスープ)

②焼雲腿炒梨子鹿片(鹿のフィレ肉、火腿の揚げ物添え)

③椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)

④紅炆梨子鹿肉双冬煲菠菜(鹿鞍下肉の煮込み、日本ほうれん草添え)

⑤豉油王百花蒸釀豆腐(えびのすり身のせ豆腐の蒸し物、たまり醬油風味)

⑥八寶鴨(八種の具材入り、家鴨の煮込み)

⑦腿茸鴿蛋扒芥胆(鳩の卵の油通しと芥胆、火腿の微塵入りとろみあんかけ)


 ①は埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんのビタミン大根と人参、それに牛のテールを煮込んだもの。ビタミン大根の滋味、人参の自然な甘さがしっかりと生きた煲湯です。
 以前、同じビタミン大根と人参に、牛の脛肉を組み合わせたスープを試したことがありますが、牛尾になると、牛の脂分も増えて味も濃厚。その人参と牛の脂の甘さもあって、本来ひつような棗は入れないでおいた、というのもうなずけます。

 ②の「梨子鹿」のフィレ。緻密で繊細な肉質、フルーティな味わいと、衣をつけて揚げた火腿のしっかりした塩味、醗酵味、旨味が織り成す美味は、見事でした。青木さんご持参のリシュブールとの相性もぴったり。

 ③は、狙いが当たって、目の前に運ばれてきた途端、蝦の殻の香ばしさが鼻腔をくすぐり、②の官能的な甘い濃密な余韻を瞬時に忘れさせる。

 殻付ききのままの蝦にむしゃぶりつくと、しっかりの塩味。同時に、ヒリっとした辛味。パリサクの殻も食べたくなる。で、殻を噛み締めると、すっと歯が入るえびの肉はレア。噛み締めると、甘味、ジューシーな味わいがほとばしる。きりりと味を引き締める、塩味、辛味との対比、バランスにうっとりとなしました。

  この手の料理には、やはり、シャンパーニュのピンク。
  実は青木さん、今回の宴の幕開けに用意してくれたのがシャンパーニューのロゼです。それをこの一皿のために残しておきましたが、大正解! 文句なしの組み合わせでした。


 そして④。「野味」を素材した広東料理の伝統的な料理手法では、もっともオーソドックスな柱候醬の味付けで、二湯で煮込んだ料理。腐乳にレモンの葉の千切りを沿えたたれも登場。先に「野味宴」でも味わってきたのと同じ料理。

 ですが、噛み締め、頬張った肉の様子からすると、「野味宴」の時の「梨仔鹿」よりも、いささか成長した仔鹿の様子。噛み締めた時の、歯が肉にはいる感触が違いました。きめ細かで繊細な柔らかい肉質ですが、味は濃密。少しばかり野味がかった印象。

 そんな「梨子鹿」の鞍下肉、なんだか、旨いラムの鞍下肉を食べたときの、触感、味、風味が思い浮かぶ。もっとも、鹿肉、ですから清廉。それにこれまで私が食べてきた蝦夷鹿の、濃密さ、コク、クセとも異なる。それでいて、腐乳のたれをつけてしっかり鹿肉としての味わいを主張。この料理にも、リシュブールはぴったり。


 それに続いたのが⑤。
 豆腐、もしくは、魚介の蒸し物か揚げ物、というリクエストに応えて登場したえびのすり身のせ豆腐の蒸し物、たまり醬油風味。 口代わり、というよりもなんだか心和む一品。結構、我家でも作ったりしますから。ですが、だしの按配、それに豆腐の蒸し加減が違いました。

 なんてことないシンプルな料理ですが、シンプルさに秘めた奥深さ、っていうのが、やはり福臨門ならではの調理と調味。


 そして「梨子鹿」の2品と並ぶ、当夜のハイライトの「八寶鴨」について、前述の通り。
 それに続いて、おまかせにした野菜。
 これがなんと、当夜のビッグ・サプライズ。予想もしてませんでした。

 素材のひとつは加藤紀行さんが栽培した芥胆。それに、なんと、鳩の卵の鴿蛋。衣をつけて油通ししたようすで、卵の表面はパリサクの状態。そこに、火腿の微塵をまぶしたくずひきのとろみ。

 鳩の卵の白身は、半透明。
 火の通った黄身は、菜の花に似た色あい。
 噛み締めると半透明の白身がぷるんと弾け、ねっとりとしてぬめりがあるコクが顔を覗かせる。
 鳩の卵は美味です。

 そして、芥胆。まだ若いせいか、芥子菜の辛味、よりも、ほろ苦さが。
 そのほろ苦さ「春遠からじ」、のあのほろ苦さ。

 画像は「椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)」と、「腿茸鴿蛋扒芥胆(鳩の卵の油通しと芥胆、火腿の微塵入りとろみあんかけ)」。