2008/02/04

「冬の広東地方の郷土料理」(2)


 それにしても「八寶鴨」、その量はたっぷり。
 鳩にふかひれを詰めて鮑汁で煮込んだ「仙鶴神針」を「あの量では、食べ足りない!」と言ってた青木さんも、さすがに4人で分けた「八寶鴨」の分量には驚いた様子。本来は6~8人用で、宴会料理の一品として登場する料理ですから。

 実は今回、当初、6人が参加、という話もあった。そんなことも「八寶鴿」を「八寶鴨」に変更した理由のひとつ。それ以前に、「八寶鴿」もさることながら、なんとかして日本で「八寶鴨」を食べられないものか、とはかねてからの念願、懸案事項としてその実現を銀座の福臨門にリクエスト。

 ところが「八寶鴨」を実現するのにふさわしい「家鴨」が日本では見つからない、見つけ難い、というのが最大の課題、テーマでした。
 「え? 家鴨って、日本にもあるでしょうが? だって、北京ダックってそうでしょ?」と「八寶鴨」にふさわしい「家鴨」を探し始めた私に、親切に教えてくれた人もいます。
 「ン!?、いや、あの~、探してるのは北京ダックや焼鴨、ほら、ロースト・ダックね、そいうのに使われてる「家鴨」じゃなくて、それよりも若くて、身が柔らかくって、肉質も濃くなくて、淡白なやつ。言ってみれば、ひな鴨ってとこかな。
 あ、そうだ、以前は、中国本土から北京ダック用の家鴨が輸入されてたんだけど、日本への輸入禁止品目になったり、その後、例のSARSの一件もあって、日本にはこなくなっちゃったみたい。最近はどうなんだろ?って、知らないんだけど。一羽丸ごとの冷凍物、ね。それ以前には、北京ダックだけじゃなくて、「樟茶鴨」、スモーク・ダックね、製品化されたのが日本にも来てたんだけど、硝石かなんか使ってるらしくて、肉の色が濃いの。味もそこそこでね」と、訳知り顔、知ったかぶりで話す私です。

 なんて書きながら、はて、誰もが好きな北京ダック、ですけど、今、日本の中国料理店で供されてる北京ダック、その素材の実態と実状、現状をつゆも知らない、ってことに愕然。こいつは調査の必要、ありですね。そ、冷凍の「餃子」の一件もあったことだし。
 もともと私自身、北京ダックにはさほど執着はない。食べるとしたら新宿の全聚徳にでかけるぐらいのもの。胸下のみぞおちの皮だけの部分を砂糖で食べる全聚徳の北京ダックの美味はたまらない。そんな全聚徳の北京ダックの「家鴨」は、北京ダックのためにだけに飼育されたもの、だったはず。(今度行ったら、再確認しておきます)。
 つまり、中国料理の「家鴨」、料理方法によって使いわける、というのが中国本土や香港では一般的。しかも、北方と南方では品種、飼育環境から、その差あり、ってことらしい。
 ところが、日本では「家鴨」そのものの需要が少なく、一般には広く流通はしていない、というのが現状、だそうで。ということから中国産の輸入が途絶えて以後、盛んに輸入されるようになったのが、台湾産のそれ。しかも、北京ダックだけでなく「焼鴨」の素材にしている店もあるようです。
 それ以外は、日本で一般に「鴨」として流通している「合鴨」で代用、という店も少なくない。それも、代用ってことじゃなく「家鴨」そのものへの認識の低さ、馴染みのなさから「家鴨」として調理という料理人も少なくないようです。私の知り合いの料理人もいましたから。
 
 ところが、日本で流通している「鴨」こと「合鴨」というのは、北京ダックには不向き、のはずなのですが、素材の持ち味、資質にはこだわらず、調理、調味で勝負、というのがほとんどの日本の中国料理店、料理人は、そんなことはおかまいなし、のようです。
 もちろん、素材の吟味にうるさい料理人もいて、そういう人たちは、台湾産、あるいは、イギリス、フランス、カナダなど、海外で飼育されている「家鴨」を使用。ところが、、欧米の「家鴨」の大半は、「北京ダック」、「焼鴨」のために飼育されている中国、台湾産のものに比べ、「鴨」に近く、肉質がしっかりで、味も濃い。
 
 そう、中国、香港、台湾の「家鴨」は、肉質はしっかりでも、味はいささか淡白。ともあれ、欧米の「家鴨」の資質、持ち味を見計らって、調理、味付けを施す、ってことになる。日本にもいます、そんな姿勢を貫く意欲あふれる料理人が。頼もしい限りです。

 話戻って、銀座・福臨門、青木さん主宰の「冬の広東地方の郷土料理」に登場した「八寶鴨」。それにふさわしい素材が見つかった、という話を聞いてみると、これがなんとフランス産の「家鴨」。それも小ぶりの物でした。どうやら、バリバリー種のものらしい。

 それを物語るように、調理、味付けは広東料理の「八寶鴨」を踏襲。しかし、肉質がしっかりで、味が濃い。その按配をしっかり見計らい、資質に合わせて、しっかりした味付け。それでいて、上品で洗練されている。
 かつて福臨門の香港島店で食べた「八寶鴨」とは「家鴨」の資質、持ち味は違いました。けど、調理、味付けは抜群、文句なし。97年のグラムノン、シラー種ですが、これが案外ぴったりでした。
 ちなみに、詰め物は、糯米、はと麦、干椎茸、蓮の実など。呉さんからその中味を聞くのを忘れてしまったので、今度、改めて尋ねておきます。
 で、画像は、切り分けた「八寶鴨」のひとり分。みなさん、しっかり平らげました。