2008/02/05

「冬の広東地方の郷土料理」(3)


 「冬の広東地方の郷土料理」とはいうものの、香港で冬に味わえる料理の素材、日本での調達は難しい。
 そんなことからまず大分、日田産の鹿肉、それも異なる部位を素材した料理を2品。それに「八寶鴿」に代えて、銀座の福臨門でOKということになった「八寶鴨」が、今回のハイライト。
 しかし「八寶鴨」は、本来は最低でも6人、普通は8人から10人用で、プライベートな宴会でなく、本格的な宴席にも通用する料理。それらをメインに据えて、他のメニュー、コースの設定はどうするか。
  本格的な宴席、宴会料理ということであれば、やはり干貨素材を使った大菜がないと格好がつかない。干し鮑、それに近頃値段が高騰気味な魚の浮袋はさておくとして、ふかひれ、なまこ、干貝柱を素材にした料理、ってことになる。
 「そうだ!」と思いついたのが、ここんとこ「懷舊菜」、昔懐かしい料理の復活が話題の香港で、再脚光を浴びつつある昔ながらのふかひれのスープの魚翅湯。それも、鶏の細切りと煮込んだ「鶏絲魚翅湯」にするのも一興だ。
 もしくは、干し貝柱の「瑶柱」、魚の浮き袋の「花膠」の細切りに、黄韮を加えた羹仕立ての「韮黄瑶柱花膠羹」と言う選択も、案外渋い選択。それもまた香港じゃ、近頃、人気再燃の様子。
 それに旧正月、香港の春節に必ず料理店のメニュー並ぶ縁起を担いだ料理のいくつか、例えば干した牡蠣と髪菜の煮込みの「發財好市」、丸ごとの大蒜と干し貝柱の煮込み料理の「蒜子瑶柱脯」なんてのもある。大菜としてもうってつけ。
 実にディープでマニアックな伝統的な広東料理の数々、紛れもなく「本地菜」の数々です。

 が、まてよ、青木さんはともかく、そこまでディープな選択だと、他のメンバーにウけるかどうか。
 それに「八寶鴨」が今回のハイライト。
 なら、煮込み風の味付けの料理が重複しかねない、ってことから考慮の余地、必要もありだ。
 そう、コースの設定で肝心なのは、素材、味付けが重ならない。それに、味、風味、香り、触感の変化というのも重要な課題、テーマです。
 そこで思い立ったのは、この時期の旬の野菜、冬野菜。
 埼玉、東松山、加藤紀行さんの野菜です。
 冬場に入ってからの青菜、ことにひと霜が降りたあとのほうれん草が旨い。それも、在来種の日本ほうれん草。刃先がとがり気味の剣葉で、ピンク色した根っ子がほくほくとしていて旨い。特に「梨子鹿」の鞍下肉の煮込みの付け合せにはうってつけ。

 それから根菜。大根と人参がある。
 加藤さんのこの時期の大根は、大蔵、ビタミン、沖縄と3種ある。大蔵は煮込み、ビタミン大根はスープの煲湯の具材向き。人参と一緒に煮込むと実に美味。
 もっとも、大根と人参だけでは旨味が不足。ということで、牛の脛肉、筋肉、テール、もしくは、豚の脛肉、スペアリブを組み合わせるか。
 それは、福臨門にまかせて、ともかく、老火湯、煲湯を考えた。
 さらに、加藤さんが初めて試みた芥菜がいい感じに育っている。芥菜の茎、つまりは芥胆を使った料理も可能だ。

 以上のことから組み立てたコースは以下の通り。
①例湯(青紅蘿蔔湯、大根と人参の煮込みスープ)
②焼雲腿炒梨子鹿片(鹿のフィレ肉、火腿の揚げ物添え)
③椒鹽焗圍蝦(殻つきえびの塩、唐辛子風味)
④紅炆梨子鹿肉双冬煲菠菜(鹿鞍下肉の煮込み、ほうれん草添え)
⑤豆腐料理、蒸し物か煎り焼きか揚げ物
⑥八寶鴨(八種の具材いり、家鴨の煮込み)
⑦清炒芥胆菜
⑧麵/飯
 ②の焼雲腿(火腿の揚げ物)添え。先に大分、日田産の「梨子鹿」のフィレ肉をたべて、その柔らかさ、フルーティな肉質、持ち味から、もしかしてこれは塩味がしっかりで、醗酵味、旨味のある焼雲腿(火腿の揚げ物)を添えて、鹿肉と一緒に食べ合わせると、グッドかも、という発想から。後で知ったことですが、福臨門の冬のコース料理の一品に組み入れられてました。
 ③は海鮮を、ということから素材としては、えび、たいらぎ/貝柱、小魚などを考えた。で、素材をえびにして、調理方法、調味は先に「梨子鹿」の炒め物があることから、触感、味、風味を変え、「煎」、「炸/油浸」、もしくは「蒸」、それに、めりはりの利いた味付けで。しかも、中えび、小えびの殻付きなら一層、風味が増す。
 ②の味、風味の余韻を楽しみながら、ガラリと味、風味の変化を楽しむにはうってつけ。素材のえびへの親しみ、なじみやすさも効果的。おまけに、続いて「梨子鹿」のしっかりした煮込みが登場。といったことから「椒鹽焗」、塩、生唐辛子風味の揚げ物で。
 そして、煮込みの料理の「紅炆梨子鹿肉双冬煲」で、「梨子鹿」の旨さ、伝統的な手法による調理、味付けをしっかり味わった後で、⑤はいわば口直し。それには「豆腐」か、②同様に素材、調理、味付けの海鮮の魚介も良い。
 が、続いて、煮込みのしっかり味の「八寶鴨」が登場。しかも、ヴォリュームたっぷり。ってことからすると、やはり豆腐。蒸し物か、煎り焼きってことで、料理内容は総料理長におまかせ。
 それから野菜。
 締めくくりは、麵か飯。
 画像は、②の「焼雲腿炒梨子鹿片」。
 柔らかくてクセがなく、淡白でフルーティーな味わいの「梨子鹿」のフィレ。「火腿」の極上の部位に衣をつけて揚げた「焼雲腿」の組み合わせは、絶妙でした。
 仔鳩肉に「焼雲腿」を組み合わせた陸羽茶室の「焼雲腿鴿片」を思い出したりしました。
 しかし、大分、日田市産の「梨子鹿」のフィレの肉質は、仔鳩よりも緻密で繊細でした。