2008/01/30

冬の風物、野味宴(6)


 さて、福臨門の猪肉の料理。それより、香港で猪を食べるのかどうか。その点を香港生まれのミッシェルに尋ねたら、彼女、これまで一回も食べたことがない、話にも聞いたことがないという。
 ネットで調べてみたところ、雲南あたりでは猪を食べ、ことに頭が好まれる、なんてのを見つけました。ところが香港では、新界に野豬が出没し、農産物に被害をもたらす、なんてニュースがほとんどで、料理に関することは見つけられない。
 日本の福臨門の総料理長の呉さんも、猪を料理にするのは初めだそうで、思案にくれた様子です。
 料理方法として考えられるのは「果子狸」や今回の「梨子鹿」の胸肉の部位の料理と同じく、柱候醬で調味し、二湯(二番だし)で煮込む野味素材特有の伝統的な料理手法と味付け。ことに赤身のこくのある肉質はそれ向き。ですが、先に「梨子鹿」をその料理方法でと決めていたので、今回はパス。
 となると豚の料理から猪向きにアレンジ。ということで、提案があったのが、大根と人参、もしくは、タロ芋との炒め煮込み鍋。それとも、漬物の「梅菜」を使って「梅菜扣肉」風に、というアイデアもあり。
 その「梅菜扣肉」風に俄然興味を覚え、リクエスト。
 というのも、猪肉の味、風味の魅力のひとつは脂にあり。そう、牛、豚、羊、子羊の料理では、それぞれが持つ脂こそが、味、風味を引き立てる。それぞれがもつ脂をどうやって生かすかが料理の決め手、出来栄えを決めるからです。呉さん、まずは猪の肉を「煎」、つまりは焼付け、紹興酒などを調味料に、二湯で煮込んだそうな。ともあれ、猪の脂と赤身、その持ち味、資質をどうやって生かすか、ってことが課題になった様子。
 さて、仕上がった「梅菜扣野豬」、猪の脂、それに赤身の味、風味を巧みにいかしたものでした。おまけに「梅菜」の甘味、醗酵味の酸味、旨味も効果的。「牡丹鍋」もいいですけど、味噌味仕立てでは途中で飽きる。そんな鍋仕立てとはまったく発想のことなる広東料理の伝統的な料理手法を踏襲した一品。お代わりしたくなるほどでした。
 これなら、猪を豚肉同様に、蒸したり、煮込んだりもできるはず。しかも、広東料理ならではの料理手法、調味で、猪特有の味、風味、クセをいかした料理が出来ると私は確信。
 ですが、猪を素材にした料理に、香港の人が関心を持つかどうか。日本の人が広東料理式の調理、味付けによる猪の料理に関心を持つかどうか……。
 ともあれ、大分、日田市産の「梨子鹿」、それに「野猪」は、日本でしか味わえない。しかも、広東料理の手法による調理、調味によるもの。日本でしか味わえない広東料理による「野味宴」に、大いに盛り上がった私でありました。

 画像は「梅菜扣野豬」です。