2008/01/16

中国料理におけるメニューの選択、コースの組み立て(その11)

 さて「酢豚」。いやはや「酢豚」と耳にしただけで甘酸っぱい味が口中に広がり、思わず生唾をゴックン!大好きです「酢豚」。なにしろ「ガツンとくる中華を食べたい!」なんて時、まず一番に思い浮かべるのが「酢豚」、ですから。

 初めて「酢豚」に出会い、その存在を知ったのは、遠い昔。大学1年の時。高校時代に世話になった体育の先生に連れられていった神戸、三ノ宮の「珉珉」でのこと。子供の頃から中国料理といえば、馴染みがあったのは宴会料理ばかり。祭事や田舎、地方から親戚の人がくれば、出かけるのは中国料理店、ということでそのお相伴に預かってきたわけですが「珉珉」に連れて行かれるまで「酢豚」はもとより「餃子」の存在も知らなかった。

 そういえば、ラーメンも長い間母親が作ってくれたそれらしきもの(支那そばと母親は申しておりました!)と、当時、流行し始めたばかりの即席ラーメンしか知らず、家以外ではじめてラーメンを食べたのは大学生になってから。それも芦屋の駅前近くに夜な夜な出現して評判を呼んでいた屋台店で食べたのがはじめてのことでした。

 そうだ! 即席ラーメンといえば、当時は日清のチキン・ラーメン。ですがある時、盆と暮れに我家に立て続けに届いた箱入りの「クリームファット」というブランドの即席ラーメンに夢中になったものです。日清のチキン・ラーメンに比べてさっぱり味だった、というのが夢中になった理由で、今だ記憶に残ってます。確か、神戸の灘か東灘で作られた製品だったような。ご存知の方、ご記憶の方はご一報を。

 話戻して「珉珉」の「酢豚」。「餃子」もさることながら「酢豚」は衝撃の一品でした。「鶏の唐揚げ」や「豚肉の唐揚げ」は宴会料理のコースに組み込まれていて、ことに「豚肉の唐揚げ」は好物でした。

 そうです、「豚肉の唐揚げ」は、関西の中国料理店の宴会コースや大衆的な中国料理店、早い話がラーメン中華の店では定番のメニューのひとつでした。その名残りは、神戸や大阪にある昔ながらの中国料理店や大衆的な中国料理店のメニューにもありますから。

 おそらくは「スペアリブの唐揚げの塩、胡椒風味/椒鹽排骨」が元、なんでしょうが当時「排骨」の入手が難しかった、ってことから、まんま豚肉を唐揚げにしたんでしょう。 それが「酢豚」では豚肉の唐揚げに、甘酢あんがからめてある。

 もっとも「珉珉」の「酢豚」、今だに記憶にあるのは甘酢あんの味、風味よりも、噛めばバリッ! と音を立てそうな、豚を包んだ揚げたガッシリの衣の分厚さ、豚肉のボリューム感。その印象が強烈でした。そう、だからこそ、旨かった。

 その「酢豚」、中国語の料理名は「咕嚕肉」。もしくは「咕咾肉」、「古老肉」。それを知って思わず「ン!?」って人も多いでしょう。その料理名、「麻婆豆腐」と同じく昔ながらの言われにちなんだもの。料理名に、素材、調理、調味についての記述はなし。

 言われといのは「咕嚕」というのが(甘酢の香り漂う酢豚を)頬張って、噛み締めるときの「ウゴウゴ」、「モグモグ」の擬態語で、おまけによだれがこぼれちゃう、ってことなんだとか。それに、昔ながらの味、といった意味もあるそうな。

 代表的な広東料理の一品で、その昔、広州に外国人居留地があった時代、お抱えの料理人となった
中国人がそれを作ったところ、欧米人に大いに受け、やがて世界中に紹介されていった、という逸話もある。

 もっとも、甘酢の味付けによるその料理、長江東部周辺や中国の北方にもある。その場合の表記は「糖醋肉」。それも長江周辺では、肉の部位は骨付きの豚のばら肉の「排骨」。というわけで、圧倒的に多いのが「糖醋排骨」。北方では、ヒレ、腿肉など脂身の少ない部位を素材にすることが多いようです。

 そういえば、ここ最近、日本でも人気爆発!なのが、黒醋を使った酢豚。かつて日本ではあまり馴染みがなかった中国の黒醋が一般的に広まったのは、確か90年代、それも半ば過ぎからのことだったはず。その黒醋の本場、鎮江の伝統的な料理のひとつなのが「鎮江排骨」。「排骨」を煮込んで、黒醋を使った甘酢あんでからめたもの。

 その鎮江近くにある無錫にも「排骨」を素材にした「無錫排骨」がある。これまた「糖醋排骨」のひとつ、ってことですが、甘酢味、よりも、たまり醤油の「老抽」が味つけ、調味のポイントで、近隣の鎮江の黒醋を使うものもあれば、使う物ものなし。「酢豚」というよりも甘味の強いたまり醤油味の料理で、ほのかに酸味が、というのが特徴。もっとも、そのたまり醤油をメインにした味、風味こそが、黒醋の酢豚の源流のひとつになった、とは、よく言われる話です。

画像は、、、ってさがしても「酢豚」の画像がないんで、ちょいまちです。あした作って、アップしようかな