2008/01/25

冬の風物、野味宴(2)


 香港で蛇の羹の「蛇羹」は、私の知る限り香港では至極一般的。
 もっとも、蛇の炒め物や各種の料理になると「野味」としての趣が強くなる。一般の料理店でも「蛇羹」はメニューにあっても、炒め物や各種の料理を見かけることは少なくって、その種のものを食べるなら蛇を扱う専門店で、ということになります。そこまで出かけるのは、やはり、蛇好きな好事家ってことになるようで。
 
 一般の料理店のメニューに並ぶ冬の代表的な料理、それも「野味」ってことになると、その最たるものが羊のバラ肉を煮込み、腐乳風味のタレで食べる「羊腩煲」。ポカポカと体が暖まります。
 稀少なことから値段も張り、高級店のメニューでしか見かけないのが、スッポンの一種の山瑞。山間部の湖沼に長年生息した大ぶりのもの、特に梧州産のものが最上とされる。「紅焼山瑞」はその代表的な料理。それから、珠江に生息する大ぶりの河鰻の「花錦鱔」。
 ちなみに「花錦鱔」、部位によって値段が異なります。まずは頭部、それから尻尾。ついで、ヒレのついた部分といった按配。頭も場所によって値段が異なる。身がたっぷりな胴の部分はさほど値打ちなし、というのがなんとも面白い。いずれも秋が深まり始めるとともに、メニューに登場し、冬に入って最盛期を迎えます。
 ところで、香港で「野味」と言えば、「味の濃さ、香りの強烈さが堪らない!」と、誰もが口を揃えてその筆頭に挙げるのが「狗」。もっとも、長く英国の統治下にあった香港では「狗」を食べることはご法度、違法です。
 「ほんと、旨くて堪らない、あの味、香りが堪らない!」と、その味、風味を思い出し、涎をこぼさんばかりに「狗」の美味を讃える人に、「どうやって、どこで食べたの?」と尋ねると「いや、こっそり中国から持ち込んだのを料理してもらって!」と、プライベートでシークレットな「野味宴」だったり、「狗」を食べるだけのために深圳や中山まで出向いた、ってことでした。
 かつての国境、今では、香港特区の境界線を越えれば、野味料理はなんでもあり。野味好きにとっては桃源郷というにふさわしい「野味的天堂」。とはいうものの、SARSの一件以来、取り締まりが厳しくなったようで。とはいえ、そこは中国のことですから、闇のマーケットが存在する、ようで。
 いつだったかネットであれこれ調べていたところ、野味を扱う闇の業者を取材した記事があって、掲載されていた「野味」というのが以下の数々。
 「野豬、箭豬、梅花鹿、黃猄、銀狐、狗狸、白麵狸、果子狸、靈貓、水貂、野兔、芒鼠、鼯鼠、水雞、雪雞、斑鳩、鷓鴣、鸕鶿、青頭鴨、禾花雀、水律蛇、烏砂蛇、大王蛇、過山峰蛇、眼鏡蛇、榕蛇、洞庭湖野生水魚」。
 う~ん、思わず涎がこぼれます!
 あのSARS禍で、香港で食べられなくなった野味がいくつもある。たとえば、秋の実り、稲穂をついばんで南方に飛来する「禾花雀」。それから、SARSのウィルスを撒き散らした根源とされた「果子狸」のハクビシン。果実や木の実を餌にして育ったけがれのない肉の美味が語られる。もっとも、近年はその養殖が盛んに行われるようになった。やがて、その養殖舎で飼育された「果子狸」が、SARSの根源、ウイルスを撒き散らすことになった、なんて話だったはず。
 「果子狸」はもともと冬場の「野味宴」に欠かせない一品、ということで「中国名菜譜~広東編」にも紹介されてます。
 香港でも昔から「野味宴」には登場。それが、80年代を過ぎて香港で一躍脚光を浴びることになった「新派広東」の看板メニューとして登場し、香港でも広く知られるようになった。香港の経済的な発展を背景に、食への関心が高まり、かつては特権階級だけのものだった「野味」が、一般化するようにもなった。
 先にもふれてきたように「果子狸」の養殖化が盛んに行われるようになったのは、80年代から。という背景には、香港での「果子狸」の需要と、密接な関係あり、なんじゃないでしょうか。
 そう、「新派広東」というのは、西洋や日本の素材、料理手法を取り入れるということだけでなく、伝統的な広東料理の今日的再現、つまりはネオ・クラシック的な趣向も重要な要素だったのであります。
 フルーツを使った料理が「新派広東」 てわけじゃないんですよ。広東料理でフルーツを使うの昔から、ですからね!婦人誌、食べ物雑誌のフードライター、編集者諸氏。
 あ、いかん、しつこいか!
 画像は陸羽茶室の冬の小菜のメニュー。「三蛇宴」が紹介されてます。それに、各種の煲仔飯。メニューを裏返すと「羊腩煲」 、「大鱔魚」等の料理ずらり紹介されています