2009/06/30

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 「蜆介炸魚丸/魚のすり身の揚げもの蜆介醤添え」の「(酥)炸魚丸」の「魚丸」。香港や広東地方では淡水魚で鯉科に属する「鯪魚」を素材にするのが一般的。 広東料理店、小食堂だけじゃなく、粥麵店で揚げた「炸魚丸」を看板にしてる店もあります。中でも有名なのが中環に店を構える「羅富記」の「小欖炸魚球」。

 揚げるんじゃなくて、粥の具にして炊き込んだものもある。 「鯪魚球」を具にした粥は、粥麵店の定番的な一品ですが、中でも評判なのは上環の「生記」のそれ。

 鯪魚をつみれ状にした「鯪魚球」の料理は、中国本土、南方は言うに及ばず北方にだってあります。しかも、調味、料理方法は様々で多岐にわたる。まず、つみれ状の団子をそのまま揚げたのが「(酥)炸鯪魚球」で、英語名クラムソースの「蜆介醤」を添えて食べる。

 それ以外に、茹でるか、煎り焼きにして、土鍋炒め煮込みにした「鯪魚球煲仔」なんてのもある。その場合も「蜆介醤」で味付け、風味付け。香港の福臨門の九龍店の小菜のメニューには、レタス、豆腐と一緒に炒め煮込みにした「生菜鯪魚球豆腐煲」があります。

 すり身を団子状にはせず、豆腐に乗っけ、蒸したり、煎り焼きにすることも一般的。そういえば半分に切ったピーマンに詰めたり、茄子で挟み揚げにしたりする。順徳地方の名物料理の「順徳三寶」の一品だったりすることもありますから。もっとも、その「順徳三寶」、店によって、素材、詰める具は様々ですが。

 さて、日本では「鯪魚」の入手が難しい。「鯉」で代用というのも悪くないかも。でも、まだ試した機会がありません。それに日本の鯉、独得のくせがありますから。そんなことから「鯪魚」を海鮮の魚に置き換えるしかない。ということで思いつくのは「あいなめ」か「すずき」、ですよね。

 それが、今年の初め、袁さんの新年を祝う「圍村大盆菜」の中に「魚丸」が。 これがなんと「すずき」を素材にしたものでした。
 「あ!「すずき」でこんな「魚丸」を作れるんだ。だったら、揚げた「炸魚丸」にして、「蜆介醤」を添えて食べる。もしくは「蜆介醤」風味の炒め土鍋煮込み「蜆介魚丸煲」が出来るんじゃないか!」。

 そんなことで、すずきを素材につみれの団子状にした料理の数々を譚さん、袁さんにリクエスト。その中の一品ががいよいよ、登場と相成ったわけであります。   
 

 からり揚がった「炸魚丸」。香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。その皮、というか表面は「酥」のさくさく感よりも「脆」のぱりぱり感。それをぐっと噛み締めるとジューシーな肉汁がほとばしる。身はやわらかい。
 すずき特有のくせのある味に加えて、香味野菜、香辛料のあれこれがふわっと顔をのぞかるあたりが憎い。いつもの袁さんならではの技と工夫があります。

 ところで、以前、触れたことですが、こうした魚のつみれ類。作るにあたっては、身を叩き潰した後で、香辛料、香味野菜なども加えて練り合わせる。その際、練り合わせる方向は一定のまんま。絶対に、逆に返したりはしない。そうすれば味が落ちる、純な味ではなくなってしまう、というのがその理由。まぜっかえしにはしないのが鉄則です。素材を切り分け、準備する「板」担当の料理人の涙ぐましい努力と執念があってこそ、この美味が生まれるわけです。

 「あのう、エージさん、そういう場合、日本だと擂り鉢と擂り粉木を使うでしょ?中国料理だと、擂り鉢とか擂り粉木、使うんでしょうかね?」
 なんて、鋭い質問に私はたじたじ。
 「粥麵店で、大きなボウルに材料入れて、かき回してるのは目撃したことがあるけど。擂り鉢に擂り粉木、ね~。見たことありません。今度、袁さんに尋ねておきます」
 なんて、その場をしのぎます。

 それにしてもつみれの団子の「魚丸」の味付け、その風味に感心しました。
 今年の初めの「圍村大盆菜」で登場した時に魚丸、茹でてありましたが、それよりも、こうやって揚げる方が、素材、つまりは、すずきの持ち味が引き立つ感じ。しかも、香辛料の加減、按配が見事。

 あまりに美味しいんで、一個、そのまま食べちゃって
「あ' いけない!残るはあと2個じゃないか!」
 残る2個の一個目、添えられた「蜆介醤」を付けて食べます。

 右上の隅っこ写ってるのが「蜆介醤」。
 それが、「炸魚丸」と並んだ「蜆介醤」に興味をそそられたらしい仲間のYさん。
 箸先にちょびっと「蜆介醤」をつけてひと舐め。
 「う~ん、これは良いわ!」と、ひと唸り。

 「この味、奥床しいのね。美味とか、旨いんじゃなくて、奥床しい!」
 なんて話に座が盛り上がる。
 「いや、ほんとにそうですね。これ自体が珍味というか、味わい深い。こうやって揚げたすり身の団子と一緒に食べると、日本にいることを忘れさせますよね」
 そんな感嘆、絶賛の声が上がります。
 揚げたすずきのすり身の団子と「蜆介醤」の絶妙の組み合わせに誰もが感動。

 その「蜆介醤」、以前にもふれましたが、英語名はクラム・ソース。ということなら「はまぐりの塩漬け」ってことになります。烏賊だとか、あみだとか、塩辛の一種、とも言えるわけで、塩漬けにして寝かせてありますから、醗酵味が加味されて、旨味を増している。ヒネた味もする。しっかりくせのある味、だから後引き。

 問題はその正体。英語表記に準じれば「はまぐり」ですが、「はまぐり」にしては小ぶり。むしろ「浅蜊」の感じ。ところが「浅蜊」、どうやら日本だけの表記、通称のようで、香港や中国あたりでは「はまぐり」の一種ってことになるらしい。私は小ぶりの「はまぐり」というよりも「浅蜊」じゃないかと思うんですが。その謎の解明、どなたかにご教示願いたい!

 ともあれ「蜆」、「浅蜊」、「蛤」話で盛り上がりながら「蜆介醤」の「奥床しい美味」、それをつければ味がひきしまり、なおかつ素材の美味が浮かび上がる「炸魚丸」の話題でもちきりとなったのでありました。

 すずきはこれからが旬。板担当の料理人には面倒をかけますけど、絶対一方向オンリーですずきのすり身を練り合わせてもらって、つみれの団子状にした「(鱸)魚丸」の料理の数々、そのバリエーションの登場、楽しみにしたい。

 なんて思ってたら「赤坂璃宮」銀座店の「今月のおすすめ」の「家郷菜コース」の一品に「椒塩攘豆腐/豆腐と魚すり身の香り揚げ」なんてのがある。おまけに「豉汁醸三宝/ 海老のすり身詰め三種豆豉煮込み」って、先の「順徳三寶」のバリエーションだ。リクエストしたい料理が早々と登場なんてあたり、これまた憎い。

「赤坂璃宮」銀座店の郷土料理の数々のチェック、怠れません!