テーブルに置かれてなお、土鍋の中で「じゅうじゅう」と音を立てながら煮えたぎる鶏肉や豚のレバー。湯気が立ち昇り、あたり一面に漂う香ばしい匂い。醤油や味噌が熱々の火に焼け焦げていく時のあの香り。その香りからして、味の濃厚さが伝わってきます。
取り分けられた皿から、まずは鶏肉に食らい付くと、まだ熱々のまんま。唇にふれるのは濃厚なミソの味。噛み締めると鶏肉は柔らかくてジューシー。純な鶏肉を包み込むたれの味は、メリハリが利いていて、こってりと濃厚な味つけ。
いつもの袁さんの料理、ほとんどは優しくて上品であっさりした清淡な味付け。ですが、この料理はまるで対照的。がつんとくる、(あ、そか、がっつり、って言うんですよね)パンチの効いたパワフルな味、風味。めちゃくちゃインパクトがあります。白いご飯がほしくなる味!
豚のレバーは鶏肉よりも柔らかくって、ねっとりの触感。ですが、それ以上にめりはりの利いた味付け。レバ炒めを通りこしたインパクトのある味付けで、パンチが効いています。これまた白いご飯が食べたくなる味。
その味、風味、土着的。気取りがなくって、直接的。ほら、関東地方以北で一般的な、里芋を醤油と砂糖で煮付けた「芋の煮っころがし」などにも通じる世界。いや、「芋の煮っころがし」よりも味はいささか複雑。塩味、醤油味に甘味だけじゃなて複雑な旨味、こくがあります。 料理としてビシっと止めを刺してあるのは、それこそ袁さんの技。
こんな風にメリハリの利いたこってり、濃厚な味付けの料理も、広東地方の郷土料理にはあります。惣菜、ご飯のおかずにはうってつけ、ですから。そうだ「家郷菜」を訳せば「田舎料理」ってことになるわけで、それからすると、この料理は、イメージそのまま、ぴったりな一品といえるかも。
この料理「豬肝滑鶏煲」なんてよりも「滑鶏煲」ってことで一般的。冬場の広東料理店の「小菜」のメニューでは「啫啫滑鶏煲」なんてことでメニューに載っています。ちなみに、「啫啫滑鶏煲」の「啫啫」は、熱々の土鍋で煮えたぎる素材が「じゅうじゅう」と焼ける音を形容した表現。
それに、街中にある大衆的な食堂で、各種の「煲仔飯」を看板にする店、たとえば九龍城市の「添樂園」などその代表ですが、そんな店の「小菜」の店で常備されてる一品です。
それより、この「豬肝滑鶏煲」、メリハリの利いた濃厚な味付けの元が気になってしょうがない。これまで食べた「啫啫滑鶏煲」よりも、こくがあって旨味が濃厚。 そういえば「酒」、「醤油」、「油」を同じ分量使って炒め煮込みした「三杯鶏」を思い出す。が、それよりも、旨味は重層的。ヒリリの辛味なんか頭を覗かせる。
わからないことは、袁さんに尋ねるのに限ります。なんてことで大藤さんに頼んで、味付けの調味料、尋ねてもらいました。
「え~、調味料は「柱侯醤」、それに「蠔油」、「オイスター・ソース」、それに「豆板醤」も少々、ってことです。味噌味したて、ってことですので!」、と。
なーるほど、「柱侯醤」。それが複雑な旨味、こくを生んだ鍵のひとつですね。味噌味の効果を発揮。さらに「蠔油」ってことで、甘味、それに旨味とこくをます。旨味が重層的でこくがあるのはそんなわけ、ですか。
ひりりの辛味は「豆板醤」。「啫啫滑鶏煲」で「豆板醤」を使うことがある、なんて知ってましたが……、あ、そか、もしかしてヒネ味の「郫県(ピーシェン)豆板醤」なら、辛味だけじゃなくって、旨味、こくをさらに増す。
うーん、めりはりが利いていて、パンチのあるパワフルな味。それだけじゃなくて、重層的な旨味、こくの秘密はそんなところにありってことでした。
「この料理って、ビールが欲しくなるよね~!」。
「うん、うん、それも言える!!」