2009/06/28

新世代の料理人のあれこれ~その4

そんな大阪の食事情、独得の風土、環境、歴史を背景に(ってオーバーですけど)登場した「一碗水」の料理内容、素材の扱い、味付け、調理方法は、従来の中華料理のイメージを覆すものだった、ようです。

 旬の野菜や魚介を素材にした前菜の数々。揚げ物、炒め物なども、素材の組みあわせ、調味、味付けに特徴があったこと。煮物などに加え、蒸し物が充実。スープ類も工夫とバラエティーがある。その料理手法、調味は、ほとんどが中国本土、香港や台湾のそれに倣ったもので、おまけに「咸魚」、「蝦醤」、「腐乳」、「XO醤」など、これまで滅多に表立って使わず、最近になってその存在が一般的になってきた調味料、香辛料がしっかり顔を覗かせ、強い印象を与えたこと。そんな物珍しさもアピールした、ってことじゃないでしょうか。

 おまけに味は淡白で清淡(それこそさっぱり)な料理があり、一方で、中国料理でお馴染みの揚げ物、炒め物などは脂ギトギトのこってり味ではなく、メリハリの利いた明快なものだった、ってことでしょう。毎月「一碗水」の料理を取り上げているらんぶろさんの「L'AMBORISIE+++PLUS」を見れば、それが即座にわかります。

 そんな南さんの料理内容や構成は、かつて東京の吉祥寺で「竹爐山房」の山本豊さんが供し始めた二人から楽しめるコースを思わせます。つまり、小皿盛りの前菜何種かに、乾物や魚介のメインの料理。炒めもの、揚げ物、煮込みものに、蒸し物を組み合わせ、スープと面・飯で締めくくり。あっさりした味とめりはりの利いた味の対比、組み合わせ。

 かつて「竹爐山房」のコースは話題を集め、東京の中国料理に新風を送り込みましたが、「一碗水」も同じように大阪の中華料理に新風を送り込んだ、ということだったのではないでしょうか。先にふれたらんぶろさんの毎月の「一碗水」レポートがそれを如実に物語る。

 南さんの料理を写し出した臨場感のある画像と、らんぶろさんによるシンプルで簡潔なコメントが、素材、その組み合わせ、調味、味わいの意外性、新鮮な驚きを雄弁に物語る。それまでらんぶろさんが体験し、イメージしてきた中国料理、中華料理のイメージを打ち破るものだったことは、想像に難くない。南さんが「竹爐山房」で修行していたことに加え、らんぶろさんのレポートがあってこそ「一碗水」、そして、南さんの料理に、並々ならぬ関心を抱くきっかけになりました。らんぶろさんに感謝!

 もっとも、「竹爐山房」で山本豊さんのもとで修行した南さん、そこで学んだすべて、まんまの料理を提供、ってことではなかったようです。中国本土の各地、香港の郷土料理、その歴史にも関心がある様子で、文献を紐解いてその再現を試みる。そればかりか、一人ぶらり旅を重ねて出会った料理、その味の再現、実践を試みる。意欲的です。先の「腌篤鮮」などはその一例として挙げられるものでしょう。 さらに、独自の工夫、スタイルで完成させたいくつかの料理がある。

 前菜に出てきた「酔鶏/紹興酒付けの鶏」など、その最たるもの。 舌の上でとろりとろけるゼリー状の煮凝りに包まれた鶏肉。滑らかで、しっとりとした触感。噛み締めれば、鶏肉の旨味、漬け込んだ紹興酒の風味が浮かび上がるという按配。

 聞けば、その作り方、従来の一般的なそれとは異なる、独自の調味、料理方法を思いつき、試みを重ねてのもの、だそうで。これまで食べた「酔鶏」では五指に数えられるもの。「でも、まだまだ、工夫の余地、やれる可能性はあると思うんですけど」と、謙虚ながらもその目線は意欲的。

 もう一品、今回、感心したのは「小豆菜の煮浸し」。「小豆菜」というのはユリ科の「雪笹」。茹でると小豆の香りがするから「小豆菜」なんだそうで。そんな「小豆菜」を炒めて、だしで煮浸しにした一品です。

 そんな「小豆菜の煮浸し」、そのだしにねっとり、べったり、舌にまとわるものがある。「小豆菜」とは異なる甘味、旨味。脂の甘味、旨味ですね。しかも、ゼラチン、コラーゲン質な感じ。てことは、「「鶏油」使ってる?」と尋ねたら「いえ、使ってません」。炒め油なら、こんな風にならないはずだし、だったら、だしそのものが濃密で濃厚ってことか。

 「ね、だし、去年と同じ作り方?それとも、変えた?」と私。「いえ、基本的には同じですけど。清湯をとるときには~」なんて話を聞きながら、去年とのだしとの明らかな違い、見逃せませんでした。

 「一碗水」。話題、評判を呼ぶ一方で、批判の声もある。その中に「あっさりしぎて、物足りない」なんてのがあったのに、大いに納得。脂こくって、こってり、ギトギト、味の濃い中華を求める人には、物足りないかも。「過大評価だ!」なんて声もあって、それもそんな意見に関係ありかも。ま、それだけじゃなくって、南さん、まだまだ色々と課題を抱えているのは事実ですから。

 ですが、南さんの目線、料理にかけるひたむきな意欲、努力、その実践に、興味と関心を抱かないではいられない。南さん、頑張って!