お好み焼き。
その作り方、焼き方、具の中味、種類などは千差万別。大阪と神戸では異なり、神戸でも東部、中央部、西部と、地域、場所が違えば内容が異なる、といった按配で、それぞれ地域色が豊か。土地ごとに特有のものがあります。
子供の頃、母親が作ってくれたお好み焼き、基本の生地はメリケン粉(と子供の頃に言ってた小麦の薄力粉)にキャベツのざく切りを加え、だし、卵を加え、塩で味を調える。
具はもちろん牛肉の薄切りでした。
そこにねぎの微塵、天かすがあればそれを乗っける。牛肉の買い置きが無い時には、犬の餌のために煮込んだ牛のすじ肉に味をつけて具にする、という話は、前回にも紹介した通り。
私が火、つまり、ガスのコンロを使うことを許されるようになって、犬の餌作り以外に初めて作ったのもお好み焼き。両親が出かけて留守番なんて時には、せっせとお好み焼きを焼いたものです。
それが、中学、高校ぐらいになってからは、お好み焼きを外で食べる、つまり、お好み焼き屋にも出入りするようになって、具の種類が色々有り、なんてことを知って、母親にリスエスト。自分自身でも具については色々と工夫。お好み焼きの生地、具、焼き方に地域差があるのを認識し始めたのも、その頃からのことです。
そういえば、大阪の一般庶民の家には常備されているという伝説の(?)お好み焼き専用の鉄板とたこ焼き用の鉄板。
我家にたこ焼き用の鉄板こそありませんでしたが、お好み焼き用の鉄板はありました。
お好み焼きの専用の鉄板は、その後、簡易鉄板だけでなく、ガスを火種にした家庭用の簡易お好み焼きテーブルにグレード・アップ。
上の鉄板をグリル板に代えれば、焼肉、バーベキューも楽しめるというもので、使用頻度も高かった。
ちなみに現在の我家、お好み焼き用のテーブルはありませんが、たこ焼き用の鉄板はあります。
なんせかみさん、大阪の生まれ、育ちですから。それも、私はだし入り、卵入りでふっくら、だし味で食べる明石焼きが好み。ところが、かみさんは表面がぱりっと焼け焦げ、中はしっとりの大阪式のたこ焼きが好み。とまあ、たこ焼きについても、地域差歴然。
もっとも、かみさん、明石焼きも好きなもんで、2種のたこ焼き、焼きながら、食べ比べなんてことも。
そして、現在の我家のお好み焼きの生地と中味、具は、私とかみさんのそれぞれの体験に加え、お好み焼き行脚を重ねた結果、色々と変化。
最近では、キャベツの微塵に手芋(大和芋、なければ長芋)を擂り下ろし、卵を割り入れ、粉を加え、だしを足しながら、柔らかすぎず、適度に硬さのある粘りのある生地を作り、塩で味を整える。
そこに、旬の時期なら生、それ以外は干した桜えび、それとも、いか、えびの微塵や、小粒の貝類を加えることもあります。
具は豚のバラ肉。
お好み焼きの基本は「豚玉」と、かみさんに洗脳されてしまったこともありますが、東京ではお好み焼きの具にうってつけな牛肉の入手が難しい、というのも大きな理由。
我家で常時用意している「なんちゃってパンチェッタ」(バラ肉の重量の3・5パーセントの塩を擂りこみ、自然乾燥させたもの)のスライスを使うこともあります。
すじ煮込みも作りますが、東京で入手出来るすじ肉、最近の牛事情を露骨に反映していて「一体、どんな飼料で肥育されたの?」と、思わずにはいられないほど脂の匂いが強く、独特のクセがあり、なんだか変。
牛肉、それに、すじ肉もそうですが、信頼が置けるは、北海道のボーン・フリー・ファームのものぐらい。青い草と土の味がしますから。
そして、お好み焼きをぱりっと香ばしく風味豊かに焼くにはラードが不可欠。
ということで、バラ肉の脂でこしらえた自家製ラードを常備。というも、市販のラードってマーガリンのようにケミカル、つまり化学合成的な製品のようで、無機質で風味にも欠ける。
東京の名のあるとんかつの専門店などでご愛用、とか耳にした外国産のラードを試したこともありますが、なんだかマーガリンに似た味で、風味なし。
ということで、ラードは自家製。
ちなみに、豚肉は川越の「はぎちく」から色んな部位をブロックを取り寄せ、自家製ラードは「はぎちく」吟味のバラ肉の脂を削り取って作ってます。
さて「桃太郎」の「いもすじねぎ玉」。その作り方が面白い。
そもそもお好み焼きは「一銭洋食」がそのルーツ、というのは「桃太郎」の創業者の吉川久子さん。
それに倣うように、作り方は企業秘密で「ナイショ!」という生地を鉄板に敷き、その上に粗微塵のキャベツ、煮込んだすじ肉、青ねぎ、マッシュしたじゃがいもをのっけ、生地を覆いかぶせる。
別途、鉄板に落として焼いた卵の上に先のお好み焼きをのっけ、裏返して焼き上げる、と言う按配。
dancyuのお好み焼きの記事によれば、生地にきゃべつを混ぜたのが大阪式。粉生地を敷いて、キャベツを載せて焼くのが広島式、なんてありましたが、大阪にも粉生地敷いて、キャベツをのっけて焼くお好み焼きがあるんです。たくもう、勝手に決め付けないで欲しいもんです。
「桃太郎」の「いもすじねぎ焼玉」の旨さの秘密はいくつもある。
まず、企業秘密というだし入りの生地。
それから、なんてことない普通のキャベツですが、ざく微塵に切ったキャベツに含まれた水分が、生地や具にはさまれて蒸し煮状になり、しゅわとした触感をもたらす、ってのも大きなポイント。
牛すじ肉の味付けはさっぱりの薄味仕立て。牛すじから出るだしをうまく生かしながらの味付けです。
さらに、茹でて擂り潰したじゃがいもが、きゃべつの甘味、牛すじ肉のだし、ねぎの甘味を吸い込みながら、とろけるような味、風味を醸し出し、焦んがりと焼けていく。
さらに、茹でて擂り潰したじゃがいもが、きゃべつの甘味、牛すじ肉のだし、ねぎの甘味を吸い込みながら、とろけるような味、風味を醸し出し、焦んがりと焼けていく。
そう、擂り潰したじゃがいもを煎り焼きにするスイス料理のフロスティーにも通じますから。
そんな擂り潰したじゃがいもの焦げ味もポイント。
ソースは2種、甘くてこくのあるのと、フルーティーで酸味のあるのが用意されていて、それが、焦んがりのお好み焼きの味、風味を引き立てる。
勝山から新深江に店を移した「桃太郎」の本店で鉄板を仕切るのは、吉川さんのお婿さんの砂田勝美さん。北海道の出身で、大阪の調理師学校で学んでいた際、「桃太郎」でバイトしたのがそもそものきっかけとなって吉川さんの娘さんと結ばれた、という次第。
その娘さんが、「道頓堀極楽商店街」に出店した「桃太郎」の鉄板を仕切ってます。
「いもすじねぎ焼玉」とともに、もう一品、テイクアウトで注文したのが「そばロールミックス」。
実は「桃太郎」で「いもすじねぎ玉」に続く私のお気に入りが、「焼きうどん」。
うどんはもちもち。
鉄板の上で焼かれていく間に、ソースを吸ってますます旨くなる。
「道頓堀極楽商店街」には、残念ながら「焼きうどん」はメニューになし。
ということで「そばロール」。
いわゆる「オムそば」、焼きそばを卵のオムレツで包んだもの。
「そばロール」はシンプルな「豚」、「いか豚」もありますが、やっぱり「ミックス」。いか、豚だけでなく、えび、それにすじ肉入りで、実に具沢山。その具のひとつひとつの味、それぞれに存在を主張。
中でも、すじ肉が美味。一口頬張った「そばロール」、すじ肉の触感に思わず「ン!?」。噛み締めれば、味、旨味、風味が口中に広がりますから。
ということで画像は「桃太郎」の「道頓堀極楽商店街」の支店でテイクアウトした「そばロールミックス」。
表面の白い部分はマヨネーズ。
そうです、「そばロールミックス」も、目の前にした途端、画像撮影を忘れ、箸をつけてしまいましたので、その部分!
我ながら、食い意地の張ったいやしさをつくづく思い知りました。