2008/03/03

復活! ヘイフンテラスの謎と不思議の5

 さて、焼き物の前菜に続いて「豉汁炒中蝦」が登場。
 すかさず、デジカメを手にする私。
 外で食事ってことになると,、所構わずデジカメで料理をびしばし撮影。
 そんなこともあってパブロフの犬よろしく、料理が運ばれてくるとデジカメに手が出て、カメラ小僧よろしく条件反射でデジカメを手に身構えてしまう私です。

 ところが、「あの~、お客様!」の黒服の女史のあの一言。
 「はいはい、申しわけありません!」
 と口にしながら、皿の上、ぶつ切りのえびの身の大きさに、思わず「ン!?」。

 「え?!、こんなにでかいえびのなの?」と、テーブル仲間の友人も驚いた様子。

 「これだけの大きさなら、頭、殻付きで「干煎蝦碌」に出来たのに」 と、思っても口には出しません。
というよりも、ただただ唖然!

 「もしかして、黒服の女史、やはり「干煎蝦碌」をご存知なかった?
 いや、ご存知でも、ヘイフンテラスの料理人には、対処できないって判断だったのかなあ。
 もしかして、「ご用意できませんので!」と口が裂けても言いたくなかったのかも」、
 などと、いささか同情まじりにもなって、頭の中では瞬時に様々な思いが交錯。
 ですが、そこはぐっと我慢。思っても口には出しません。

 それより、ピーマン、赤いパプリカと一緒に「豉汁炒中蝦」に調理されたでっかいぶつ切りのえび大き さに目を丸くしました。
 それにしても、吃驚するぐらいの「大えび」。
 「けど「ヘイフンテラス」では、これが「中えび」なのかも!」
 などと、納得したりして!

 なんでも、築地場内の「亀福」で扱う活きの「車えび」には、全長15センチから20センチぐらいの「大車」と称するのがあるそうで、料理人の人気の的、なんて話を聞いたことがあります。
 ということは、もしかして「大車」?

 ですが、活きの「大車」なら、頭のみそもたっぷりなはず。
 それに、殻付きで調理したほうが、味、風味を増して旨いはず。
 ところが、頭も殻も見当たらない。
 剥き身をぶつ切りにした「中えび」と称する「大えび」です。

 黒服の女史の話では「活きの中えび」。
 しかも、キッチンに白服君をパシらせ、残った「中えび」の数を確かめたもの。
 なら、殻付きの調理による料理を勧めていいはずなのに
 「なんで、剥き身にして調理を薦めたのか?」と、改めて思い、次から次へと疑問がふつふつと湧いてくる。

 ひとり分、取り分けられた「豉汁炒中蝦」。 
 お皿ではなく「碗仔」を一回り大きくした深めのお碗で取り分け、というのがにくいです!

 「碗仔」というのは「小碗」のこと。スープや汁気のある料理を取り分ける時に使います。
 香港のローカルの連中が飲茶の点心を取り分ける際も、お皿ではなく小碗。なんて取り分けのサービスのスタイルは、香港式流儀そのまま、というのが「香港かぶれ」の私には嬉しい。
 それまでの減点ポイント、一気に帳消し……でもないか。

 ちなみにあの福臨門の銀座店でも、黒服氏はともかく、日本の中国料理店で勤務経験を積んで福臨門にトラバーユしたサービスの女性など、料理の中味に関係なく、なんでもかんでも皿に取り分けたりすることがありますから。
 思わず「ね、ね!、それじゃ、料理が冷めちゃうし、食べにくいから。碗仔で取り分けてください。ちりれんげも一緒に持ってきてね!」と、一言余計な小言ぢぢいの私、であります。

 熱い料理は熱い皿ってことだけでなく、汁気があったりする熱い料理は、お皿ではなく小碗で、というのは私が考えるサービスの基本。
 顔なじみになり、名前を覚えられ、メニューにない料理にありつけるといった「特権の享受」が、サービスの基本だと思い込んでる人が世の中には多いようで。

 もちろん、私も「特権の享受」にありつくための努力はいとわない。
 ですが、そんなことより「料理をいかに美味しく食べさせてくれるか」というもてなしこそが、サービスの基本。 それこそが私には一番肝心な問題です。

 それに、中国料理の食事では、手に持つのは小碗だけ。
 お皿はテーブルに置いて食事、というのがマナー、という以前に共通認識だと体験して以来、
 あ、話がずれちゃいましたね、すんません。

 さて、でっかい「中えび」のぶつ切り。
 まさに「想定外」てやつでした。
 しかも、頬張るっていうより、がぶり噛みつくしか口にする術はない。

 「中えび」だけでなく、「えび」っていうのは噛み締めた時の「プリ」っとした触感が、味わいどころのひとつなのは、誰でも承知、納得のはず。
 そんな「プリ」感があって、生な味わいを残し、甘味がほとばしれば、実に申し分なし。

 ところが「豉汁炒中蝦」のでっかいぶつ切りのえび、「プリ」と弾けるしなやかな肉質、ってわけでもなり、「ぶりぶり」でしっかり、がっしりの歯応え、噛み応え。
 「ぶちっ!」と噛み切りました、から。

 「活きのえび」なら、噛み締めればあのえび独特の、特有の、甘味がほとばしるはず。
 なのに、繊維が立っていて、噛み締めるのにまずひと往生、ひと苦労。
 しかも、甘味よりも、水っぽさが、じゅわ~と滲み出たりする。

 「これって、ほんとに「活きえび」?」と、「?」が頭の中を飛び交いました。
 「これって、もしかして、フィリピンとか東南アジア産?」と、頭の中はさらに混乱に陥り、まさにカオス状態。

 香港でも、北風が吹く時期には基圍蝦(って汽水で養殖した囲いのえびですが)育ちが良くない。そのかわり、タイやフィリンピンから飛行機で取り寄せた活きの蝦(「飛蝦」といいます)を使ったりします。
 それを承知している人は、冬場には「基圍蝦」には手を出さない。良識ある店は、客には薦めないし、それ以前に用意もしない。

 ですが、やっぱり「えび」を食べたい、という客はいるもので(たいていは、日本人観光客だったりするんですけど)、 客の要求に応え、店によっては「飛蝦」を出すことがあります。「飛蝦」の正体は明かさずに、「基圍蝦」ってことで提供したり、日本人とわかれば「エビ、エビ?カニ、カニ?」と押し売りをしたりすることもあります。
 それに「飛蝦」でも、一応の店なら、それなりの調理、味付けで対処します。

 「なんてこと、まったく無視してんじゃない? 香港人の料理人なら、それなりの工夫をするはずなのに」と、「ヘイフンテラス」の「豉汁炒中蝦」を恨めしく思いながら、そこはぐっと我慢。

 それより、味付けはしてあっても、素材の香り、料理の風味がない。
 「鑊気」、鍋の気がないから、料理に香り、風味がない。
 日本の中華料理にはよくあることで、日本で超一流って言われるホテルの中国料理店でも、その課題をクリアーしてる店は限られます。

 なんせ、中華料理ならではの味付けが、重要な課題で、料理の風味についてはさほど重視されず、というのが現状ですから。
 といって、日本ならではの中国料理、中華料理を否定してるわけではないので、その点については誤解されたくありませんが、それはまた別の機会に。

 「これならいっそ「油泡(油通し)」、にして、「蝦醬(えびみそ、ですね)」でもつけて食べた方がまし、かも。水っぽくて大味な「中蝦」の剥き身のぶつ切りの料理には、救いの道かも」、なんて思っても「後悔先に立たず」。そこは黙って、我慢の子、ですから。

 素材の持ち味、見極めて、どう調理するか、味付けするか。
 それって料理人だけが考えることじゃなく、サービスの人間も把握しておくべきことじゃないかって、私は思います。

 客への「サービスの基本」なんじゃないかってことなんですが。
 そういうサービスをやってくれる店が香港にはあります。
 ですけど、それって、香港の中国料理店だけのことじゃなく、万国共通、フレンチにしろ、イタリアンにしろ、なんにだってあてはまるはず。

 それにしても「xo醤」がご自慢の「ヘイフンテラス」が、「油泡中蝦」、もしくは「油泡蝦球」を頼んで、はたして「蝦醬」を用意してくれるか、どうか。

 香港では、一応の店なら「油泡蝦仁」、「油泡蝦球」、それに目の玉が飛び出るほど超高価な法螺貝を油通しした「油泡响螺片」には「蝦醬」、「蠔油」が必ず添えられます。

 そうそう、貧乏人の「响螺片」(とは最近は言い難い値段になってしまいましたが)豚の胃袋の尖端の「肚尖」の「油泡肚尖」なども、同様です。
 ところが、日本では「香港の味」、「香港式」を標榜する広東料理店でも、私の知る限りそんなサービスに、お目にかかったことがない。唯一の例外は、、、ってことですが。

 香港のペニンシュラにある「嘉麟樓」では、「蝦醬」、「蠔油」はちゃんと用意されます。が、果たして東京のペニンシュラの「ヘイフンテラス」では、どうなんでしょう?

 あの黒服の女史ならどう対処するか・・・・・・

 画像は、もはやおなじみ「あの、お客様~」と、料理撮影禁止の「ヘイフンテラス」ですから、別の料理店の料理です。
 才巻きえびを大蒜のみじんと醤油で風味付けして蒸した「蒜茸蒸圍蝦」。
 才巻きですのでサイズが小さい。
 その分、殻も食べられて、味、風味は抜群です。