福臨門、赤坂璃宮・銀座店に続いて、また一軒、東京に香港の本場の味を伝え、再現してくれる店が誕生しました。飯田橋のエドモントホテル内に開店した「赤坂璃宮・飯田橋店」がその店です。
なんだ、また「赤坂璃宮」なの?なんてツッコミが入りそう。
「それより「ヘイフンテラス」はどうなの?あそこも香港の料理人でしょ?」とツッコミの追い討ちもありそうで。
「はあ、黒服の女史の呪いが……」と、そこは苦笑してお茶を濁します。
飯田橋のエドモントホテルには「廣州」がありました。新宿の京王プラザホテルの「南園」の料理長だった譚さんが「赤坂璃宮」を開店するまで料理長を担当。譚さん、確か「赤坂璃宮」を開店後も「廣州」のアドヴァイザーを務めていたはず。現在、銀座店の料理長を務める袁さんも「廣州」の料理長を務めていたことがあるなど譚さん、「赤坂璃宮」とは少なからず縁、関わりのあった店。それが、この5月から「赤坂璃宮・飯田橋店」として新装開店。
支配人を務めるのは野坂裕彦さん。かつて福臨門銀座店に務め、その後、赤坂璃宮やら薬膳料理の店やら色々経て、中国で紹興酒の勉強して後、赤坂璃宮に復帰。そんな野坂さんが香港から引き連れてきた料理人が呉百駒総料理長。以前、銀座の福臨門で呉錦洪さんの相方役、つまりは「板」を担当していた優れた料理人。
いずれも私には長年の知り合い。一緒にやってきた点心料理長の范俊強師傳もこれまた知り合い。とりわけ百駒師傳は錦洪さんともども広東地方の本地風味の「大菜」、「家郷菜」、「小菜」、旬の味の数々を色々と頼み込んで作ってもらったことがあります。
ところで、鍋を担当した総料理長の呉錦洪師傳は、徐維金社長とともに九龍の福臨門の料理を管理してきた名料理人の羅安さんの愛弟子です。しかも九龍の福臨門、日本では観光客向けの店、などと紹介されていることが多く、そんな話を鵜呑みにしている方も多い様子です。
九龍の福臨門に観光客が多いのは事実です。が、実際のところその主要な顧客は九龍半島の付け根、深水渉から観塘まで東西に連なる地域や、沙田よりさらに奥の大埔あたりで工場を所有、経営する企業家です。そうした顧客の要求もあって九龍の福臨門は郷土料理が充実。季節素材を使った家郷菜、小菜を紹介したメニューが早くから用意されていたのはそうしたことによるもので、当初、九龍店にしかありませんでした。
ついでながら、後には香港の福臨門でも「家郷菜」、「小菜」のメニューが用意されるようになり、しかも、ここんとこ香港島の福臨門の長年の顧客の新世代の間でもてはやされているのがその種の料理、というから面白い!
さて、呉百駒師傳。香港時代の福臨門は香港島にいたはず。東京にやってきた呉百駒師傳は呉錦洪さんの相方となって、羅安さん直々の料理や九龍福臨門の顧客が好む「家郷菜」、「小菜」の類に出会った様子。というか、私、福臨門の(初期)銀座店でもっぱら楽しんでいたのは、それら九龍の福臨門系の料理の数々です。しかも呉百駒師傳は板を担当氏、呉錦洪さんの休日、不在時には鍋を担当。
そういえば、かつての銀座の福臨門ではたまに香港島の福臨門の料理人がやってきて鍋を振るうなんてことがありました。広州生まれの黄師傳はそのひとり。その料理内容、味、香りの素晴らしさは衝撃的。九龍の福臨門の羅安さんのどっしり重量感のある料理とは実に対照的。繊細で緻密、穏やかで優しい味わい、馥郁とした風味。ウチのかみさん、香港から日本にやってきた料理人の手になる料理で「あの時食べた料理の素晴らしさは、あの時以前もあの時以後もなし!」なんてことで、時に思い出しては遠い目!
話戻って、その後の呉百駒師傳。「2005年から2009年まで豪華客船「亜州之星(ASIASTAR)」の料理長を務め」ていた、とエドモントホテルのサイトの「赤坂璃宮・飯田橋店」の紹介にありました。そんなことからすれば、ここ最近の香港のトレンドを取り入れた料理などもありかも! 呉百駒さんの料理への期待に胸が膨らみます。
開店からしばらく、なんとかして出かけたいと思いながら、その機会は見つけられませんでした。それが、たまたま会談の要ありってことで、急に思い立ってでかけることにしたのは5月の半ば過ぎ。
もっとも、それまでに「何か百駒師傳らしい料理のいくつかを頼めない?」と、事前に野坂さんには打診済。結果、いくつかメニューを教えられてました。
開店して間もなく、体制も充分じゃないという事情はわかっていても、ありきたりな開店記念のコースや「お決まり」、「おまかせ」のコースではつまらない!そんなところに「お好みで!」なんてお願いするのは、無理のゴリ押し、わがままオヤジの性分丸出し!とはわかっていても、百駒師傳ならではの料理が食べたい!という欲望は抑えられません。
野坂さんを通じて届いた百駒師傳のいくつかの料理。海鮮素材主体です。
それもいいですけど、日常素材、旬の素材を使った「例湯」や「広東小菜」、「煲仔」なんかどうですか?と野坂さんに尋ねました。
「「例湯」を「最初、出したんですが、お客様にお薦めしても、なかなか馴染みがないようで……」と、うつむき加減な返事。
旬の素材を使った「小菜」、「煲仔」類、それも香港島ではなく九龍の福臨門スタイルの「家郷菜」を楽しみにしてました。
ですが「素材の調達が……海鮮の魚介でしたらすぐさま調達できますが……」
なんてことで、結局は海鮮の魚介を主体にしたコースになった次第。
とはいえ、野坂さんを通じて届いた呉百駒師傳のお薦め料理の中には福臨門でもおめにかかったことのない料理がいくつかありました!